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じゅん

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二章 引きこもりの鬼

二章 5

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「あの人が、噂の鬼なんだ」
 毬瑠子はつぶやいた。
 聞いていたイメージと全く違った。
 一歩踏み出すと鬼は近づいてくる毬瑠子たちに気がつき、素早い動きで立ち上がった。
「来るな!」
 鬼は身長ほどもある長い金砕棒を両手で構えた。裾から見えるのは細腕で、これほど大きな棒を持つ膂力があるようには見えない。
「わたしたちは話を聞きに来たのです。争うつもりはありません」
 マルセルが両手の平を見せて、敵愾心がないことを示す。
「話すことなどない。去れ」
 鬼は警戒を解かない。
「毬瑠子はここにいてください」
 マルセルはそう言って、一人でゆっくり鬼に近づいていく。
「武器を置いてください」
「それ以上近づけば、その頭をかち割るぞ」
 鬼は身を低くする。着流しからスラリとした細く白い足がのぞいた。
「やれるものなら、やってみたらどうですか」
 マルセルは挑発するように言い放って歩調を緩めない。二人の距離はもう十メートルも離れていなかった。
「その言葉、地に這ってから後悔するといい」
 鬼は金砕棒を振りかぶりながらマルセルに向かって踏み込んだ。目に見えない速さで棒が動く。風切り音が毬瑠子まで届いた。
「マルセルさん!」
 次の瞬間、金属がぶつかる鋭い音が響いた。
 薙ぎ払うようにマルセルの胴を狙った鬼の金砕棒を、マルセルは片手で持った剣でやすやすと受け止めていた。
 マルセルが帯剣しているのは、マントに隠れて毬瑠子は見えていなかった。それは鬼も同じだったのだろう、瞠目している。
「おや、胴では頭をかち割れませんよ」
 マルセルは赤い瞳を細めて好戦的に笑った。
「くそっ」
 鬼はいったん距離を取り、再び金砕棒を構えた。
「やめて! 私たちはあなたと話がしたいだけなの!」
 毬瑠子が駆け寄った。
「毬瑠子、来てはいけません、危険ですよ」
 マルセルは肩越しに毬瑠子に声をかけながら、鬼の金砕棒を薙ぎ払う。耳を塞ぎたくなるような金属をんが響いた。
 どうしよう、これじゃあどちらかが大怪我をしちゃうよ。
 毬瑠子は周囲を見回して、大きな岩に駆け寄った。手袋を外して両手を添える。岩がミシミシと音を立てながら地面から抜け始めた。湿った黒い土のついた岩肌の面積が大きくなっていく。
「やめてって言ってるでしょ!」
 毬瑠子は岩を二人の間に投げつけた。思わぬ場所から岩が飛んできて、鬼は驚いたように足をとめる。
 隙を見せた好機をマルセルは見逃さなかった。まるで生き物のように動くマントを鬼にぐるぐると巻きつける。
「くっ、なんだこれは」
 鬼はもがくが、マントはびくともしない。
「挑発して鬼の隙を作ろうとしていたのですが……、毬瑠子、お手柄ですね」
 マルセルはホッと表情を緩ませ、乱れた金色の前髪を整えた。いままでの強気な態度は鬼を捕まえるための演技だったようだ。
 怪力が役に立った。
 毬瑠子も全身の緊張を解きながらレースの手袋をはめた。
「乱暴なことをしてすみません。こうしないと話を聞いてもらえそうもなかったので」
「来るな!」
 近づく毬瑠子とマルセルに向かって鬼は叫けぶ。
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