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本編
01 初めての夜
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Vega Entertainment所属、アイドルグループ〈Star Nova〉のマネージャー兼プロデューサー・本郷ルカは、酔うとキス魔になる。
Star Novaのメンバーは一通りキスされていて、その様子をテレビなどでネタにすることも多い。ファンの間でもよく知られた話となっていた。
本郷ルカは愛に飢えていた。
いつもは胸の奥に押し込めている「愛されたい」という感情が、酒の力を借りることで、ふいに抑えきれなくなるのだ。信頼している人間が隣にいると、抱きつきたくなり、キスをしたくなる。
Star Novaのメンバーは、本郷の計らいで事務所に入り、今や大人気アイドルグループになった。それまでの苦労や努力は全て本郷と共に歩んできたもので、その信頼は厚い。
いつもは頼ってこない本郷だからこそ、みんな「仕方ないなぁ」と構ってやることができるのだ。
だが、それはあくまで、みんなでいる時の話。
宴が終わり、部屋に戻れば、本郷はいつも一人だった。
誰かに愛されることのないまま、静かなベッドで眠りにつく。
本郷ルカが担当しているタレントたちは、寮制だ。
まだ売れる前、彼らの生活の面倒を見るために本郷が用意した場所だった。ここに住むことは強制ではないが、今でもひとつ屋根の下で、同じ食卓を囲み、笑って、騒いで過ごしている。
繰り返し言うが、本郷ルカはキス魔である。そして、同居人は皆、ハグもキスも酒の勢いで相手してくれた。
けれど、それはあくまでみんなで居る中での触れ合いだった。本郷が本当に欲しかったのは、そういうものじゃない。
夜になり、明かりを落とした部屋で、名前を呼ばれ、安心するまで隣にいてもらいたい。眠るまで、そっと寄り添ってもらいたい──。
そんな願いを、口に出すことはない。代わりに酒を飲み、代わりに笑って、代わりに唇を重ねる。
そして結局、ひとりで朝を迎えるのだ。
先月、ライバル事務所である千早芸能に所属していたLuminousが、Star Novaと同じVega Entertainmentに移籍してきた。
Luminousのリーダーである櫻井来夢が、本郷ルカを頼ってきたのが始まりだった。
移籍の発表直後は、正直なところ、不安の方が大きかった。事務所が変わるというだけで、憶測や悪意は簡単に広がる。裏切りだとか、引き抜きだとか、好き勝手言われる覚悟もしていた。
だが、蓋を開けてみれば、ファンの声は思ったよりも温かかった。
『これからも応援する』
『Luminousが笑っていられる場所なら嬉しい』
画面に流れる言葉ひとつひとつが、胸の奥にゆっくりと沁みていく。様々な対応に追われていた本郷は、ようやく、安堵の息をついた。背負っていたものが、少しだけ軽くなった気がした。
ファンたちの反応に一安心した男たちは、ようやく、Luminousの歓迎会を開くことにした。と言っても、寮の共有スペースで鍋をつつくだけだが。
櫻井たちLuminousも、これからは同じ屋根の下で暮らすことになるのだ。酒にご馳走、ケーキを用意し、みんなで机を囲んだ。
最初は浩誠の隣に座っていた本郷だったが、場が温まるにつれて席順は自然と崩れていった。グラスが重なり、笑い声が増え、本郷の中でアルコールがゆっくりと回り始める。
心の奥がひどく静かになって、心寂しくなってきた頃だった。
「本郷さん。目、とろんとしてますよ。酔っちゃいました?」
覗き込んできた櫻井と視線が合い、本郷は息を呑んだ。
「……さくらい、らいむ」
本郷の意識は、一気に目の前の瞳に囚われる。
いつもは誰にも頼らない。弱音も吐かない。愛情を欲しがる自分を、ずっと胸の奥に押し込めている。
だからこそ、酒と、信頼できる誰かが隣にいる──その条件が揃うと、理性より先に「触れたい」という衝動が溢れ出した。
手を伸ばした時、Star Novaのメンバーたちは、決まって優しい目を向けてくれた。静かに額に口付ける彼らは、もうすっかり慣れていて、まるで家族のようだった。
だが、今目の前にいる櫻井来夢の瞳は、違った。熱を帯びた瞳が、本郷を真っ直ぐに捉えて離さない。隠す気のない欲とともに、ゆっくりと本郷を絡め取る。
その視線は、はっきりと告げている。
──あなたが欲しい、と。
見つめ合ったまま、本郷はごくりと唾を飲み込んだ。近すぎる距離に、櫻井の香水の匂いが微かに鼻腔をくすぐる。
(……欲しい)
その感情は、考えるよりも早く胸の奥から溢れ出した。止める理由も、言葉も見つからないまま、本郷は前に身を乗り出す。
交わされたのは、言葉ではなく、静かな口付けだった。深く、長いそれに、ここがどこかさえ分からなくなる。
やがて唇が離れると、櫻井は何も言わずに本郷の頭を数回撫でた。まるで落ち着かせるように、安心させるように。
そのまま、櫻井に体重を預けたまま、本郷が立ち上がる。
櫻井は周囲に一瞬だけ視線を向け、「計画通り」と言わんばかりに悪戯っぽく笑う。本郷が〝お持ち帰り〟されることを、そこにいる全員が察していた。
部屋までの間、二人はほとんど言葉を交わさなかった。
だが、櫻井の部屋に足を踏み入れた瞬間、噛みつくようなキスが、どちらからともなく降りかかる。
しかし、それだけだった。
布団に潜り込み、櫻井の体温を確かめるように抱き寄せた本郷は、安心したように、そのまま眠りに落ちてしまう。
幸せそうな寝顔を前に、櫻井はそれ以上、何もできなかった。
目を覚ました時、本郷は自分を包む温もりに驚いた。
隣に誰かがいる──その事実が、胸の奥をじんわりと満たしていく。
「本郷さん、おはようございます……早いですね」
寝ぼけた声が隣から聞こえ、本郷ははっと我に返った。急に恥ずかしくなり、慌ててベッドから降りる。
「悪い。世話かけたな」
「いえ。……嬉しかったです」
その言葉から逃げるように部屋を出た本郷は、廊下で立ち止まり、両手で自分の頬を包んだ。
真っ赤な顔で、しばらくそのまま、動けずにいた。
本郷ルカが櫻井来夢を意識し始めたのは、この時からだった。
Star Novaのメンバーは一通りキスされていて、その様子をテレビなどでネタにすることも多い。ファンの間でもよく知られた話となっていた。
本郷ルカは愛に飢えていた。
いつもは胸の奥に押し込めている「愛されたい」という感情が、酒の力を借りることで、ふいに抑えきれなくなるのだ。信頼している人間が隣にいると、抱きつきたくなり、キスをしたくなる。
Star Novaのメンバーは、本郷の計らいで事務所に入り、今や大人気アイドルグループになった。それまでの苦労や努力は全て本郷と共に歩んできたもので、その信頼は厚い。
いつもは頼ってこない本郷だからこそ、みんな「仕方ないなぁ」と構ってやることができるのだ。
だが、それはあくまで、みんなでいる時の話。
宴が終わり、部屋に戻れば、本郷はいつも一人だった。
誰かに愛されることのないまま、静かなベッドで眠りにつく。
本郷ルカが担当しているタレントたちは、寮制だ。
まだ売れる前、彼らの生活の面倒を見るために本郷が用意した場所だった。ここに住むことは強制ではないが、今でもひとつ屋根の下で、同じ食卓を囲み、笑って、騒いで過ごしている。
繰り返し言うが、本郷ルカはキス魔である。そして、同居人は皆、ハグもキスも酒の勢いで相手してくれた。
けれど、それはあくまでみんなで居る中での触れ合いだった。本郷が本当に欲しかったのは、そういうものじゃない。
夜になり、明かりを落とした部屋で、名前を呼ばれ、安心するまで隣にいてもらいたい。眠るまで、そっと寄り添ってもらいたい──。
そんな願いを、口に出すことはない。代わりに酒を飲み、代わりに笑って、代わりに唇を重ねる。
そして結局、ひとりで朝を迎えるのだ。
先月、ライバル事務所である千早芸能に所属していたLuminousが、Star Novaと同じVega Entertainmentに移籍してきた。
Luminousのリーダーである櫻井来夢が、本郷ルカを頼ってきたのが始まりだった。
移籍の発表直後は、正直なところ、不安の方が大きかった。事務所が変わるというだけで、憶測や悪意は簡単に広がる。裏切りだとか、引き抜きだとか、好き勝手言われる覚悟もしていた。
だが、蓋を開けてみれば、ファンの声は思ったよりも温かかった。
『これからも応援する』
『Luminousが笑っていられる場所なら嬉しい』
画面に流れる言葉ひとつひとつが、胸の奥にゆっくりと沁みていく。様々な対応に追われていた本郷は、ようやく、安堵の息をついた。背負っていたものが、少しだけ軽くなった気がした。
ファンたちの反応に一安心した男たちは、ようやく、Luminousの歓迎会を開くことにした。と言っても、寮の共有スペースで鍋をつつくだけだが。
櫻井たちLuminousも、これからは同じ屋根の下で暮らすことになるのだ。酒にご馳走、ケーキを用意し、みんなで机を囲んだ。
最初は浩誠の隣に座っていた本郷だったが、場が温まるにつれて席順は自然と崩れていった。グラスが重なり、笑い声が増え、本郷の中でアルコールがゆっくりと回り始める。
心の奥がひどく静かになって、心寂しくなってきた頃だった。
「本郷さん。目、とろんとしてますよ。酔っちゃいました?」
覗き込んできた櫻井と視線が合い、本郷は息を呑んだ。
「……さくらい、らいむ」
本郷の意識は、一気に目の前の瞳に囚われる。
いつもは誰にも頼らない。弱音も吐かない。愛情を欲しがる自分を、ずっと胸の奥に押し込めている。
だからこそ、酒と、信頼できる誰かが隣にいる──その条件が揃うと、理性より先に「触れたい」という衝動が溢れ出した。
手を伸ばした時、Star Novaのメンバーたちは、決まって優しい目を向けてくれた。静かに額に口付ける彼らは、もうすっかり慣れていて、まるで家族のようだった。
だが、今目の前にいる櫻井来夢の瞳は、違った。熱を帯びた瞳が、本郷を真っ直ぐに捉えて離さない。隠す気のない欲とともに、ゆっくりと本郷を絡め取る。
その視線は、はっきりと告げている。
──あなたが欲しい、と。
見つめ合ったまま、本郷はごくりと唾を飲み込んだ。近すぎる距離に、櫻井の香水の匂いが微かに鼻腔をくすぐる。
(……欲しい)
その感情は、考えるよりも早く胸の奥から溢れ出した。止める理由も、言葉も見つからないまま、本郷は前に身を乗り出す。
交わされたのは、言葉ではなく、静かな口付けだった。深く、長いそれに、ここがどこかさえ分からなくなる。
やがて唇が離れると、櫻井は何も言わずに本郷の頭を数回撫でた。まるで落ち着かせるように、安心させるように。
そのまま、櫻井に体重を預けたまま、本郷が立ち上がる。
櫻井は周囲に一瞬だけ視線を向け、「計画通り」と言わんばかりに悪戯っぽく笑う。本郷が〝お持ち帰り〟されることを、そこにいる全員が察していた。
部屋までの間、二人はほとんど言葉を交わさなかった。
だが、櫻井の部屋に足を踏み入れた瞬間、噛みつくようなキスが、どちらからともなく降りかかる。
しかし、それだけだった。
布団に潜り込み、櫻井の体温を確かめるように抱き寄せた本郷は、安心したように、そのまま眠りに落ちてしまう。
幸せそうな寝顔を前に、櫻井はそれ以上、何もできなかった。
目を覚ました時、本郷は自分を包む温もりに驚いた。
隣に誰かがいる──その事実が、胸の奥をじんわりと満たしていく。
「本郷さん、おはようございます……早いですね」
寝ぼけた声が隣から聞こえ、本郷ははっと我に返った。急に恥ずかしくなり、慌ててベッドから降りる。
「悪い。世話かけたな」
「いえ。……嬉しかったです」
その言葉から逃げるように部屋を出た本郷は、廊下で立ち止まり、両手で自分の頬を包んだ。
真っ赤な顔で、しばらくそのまま、動けずにいた。
本郷ルカが櫻井来夢を意識し始めたのは、この時からだった。
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