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本編
遠い記憶 side Khoki 1
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8歳の春の3日間。
あの子との出会ったあの日。
それは、大切な約束。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「何してるの?」
声をかけられ振り返ると着物を着た子がいた。
女の子だろうか、クリクリとした目が興味津々に俺を覗き込んだ。
「別に何も」
実際、何もしてない。
春休みに父親に初めて連れられて来た田舎は大人しかいなくて、俺と遊んでくれる子供なんていなかった。
初めて来た義父の家に1人で居るのが嫌で、「遊びに行く」と祖母に声を掛けて外に出た。
何となしに近所の林道をブラブラ歩いて見つけた小さな溜池で、何をするでもなくただぼうっと眺めていただけだ。
「ふぅん」
その子はそう言うと俺の隣に座った。
「………」
「ボクはねぇ、逃げてきたの」
「……えっ⁉︎」
僕?
女の子なのに自分こと「僕」って呼ぶのか?
逃げたって何?
どこから突っ込んでいいか分からず混乱した。
「驚いた?」
「…まあ」
ふふっと笑うと、勝手に話し出した。
「お祖父様や親戚の人たちみんなボクを変な目で見るんだ。ボク、その目が怖くてココに逃げてきたの……。ここはね、ボクのお気に入りの場所だから」
溜池を眺める目はどこか寂しそうだった。
「オレ、邪魔だよな……」
「そんなことないよ!それにボクが後から来たんだから、ボクの方が……ボク、君の邪魔してるね…」
膝を抱えて座る着物の裾をぎゅっと握り俯いた。
肩が震え泣いてるように見えて、俺は思わず口を開いた。
「あのさ…、オレこの村はじめて来て父さん以外の知り合い居ないんだ」
「……っ」
顔を上げ俺を見るその子の目は薄ら滲んでいるように見えた。
「オレと…遊んでくれない?」
「……うん!」
俺のお願いに涙は引っ込み、満面の笑みで返事をした。
その笑顔に何故だか一瞬胸が苦しくなった。
「……あ…オレの名前、皇貴っていうんだ」
「こうき……じゃあ、『こうくん』だね」
「こうくん…?」
「わっ、こうくんのお目め、お星さまみたいにキラキラになってる。すっごくキレイ!」
お星さま?
キラキラ?
この子の言うことがよく分からず首を傾げる。
それよりも。
「あ、お前の名前は?」
「ボクはねぇーー」
「ーー」
何処からか声が聞こえて俺たちは振り返る。
「ゆうー」
「あっ、お母さんだ」
すくっとその子は立ち上がって、声のする方にかけて行った。
「ゆう」
「お母さん!」
ゆうと呼ばれたその子は、少し先で母親らしき人に抱きついた。
「もう、ゆう。お外に出るならお父さんかお母さんに声を掛けないとダメでしょ」
「ごめんない…」
ゆうと呼ばれたその子は叱られてシュンとする。
そんなやり取りをじっと見ていた俺にゆうのお母さんが気付いた。
「あら…お友達?」
「うん、こうくん」
「良かったわね。でも暗くなってきたからもう帰りましょ」
「はーい……あっ、こうくん!また明日遊ぼーねー」
ゆうは母親に手を引かれながら、見えなくなるまでブンブンと手を振って帰って行った。
家に帰ると、祖母が俺を見て眉を顰めた。
程なくして帰ってきた義父は俺を見て酷く驚いた顔をしたが特に嫌悪感を出すことはなく「その目はどうしたんだ?」と訊いてきた。
その意味がわからず首を傾げると、鏡を見せられる。
そこには母親と同じ焦茶色だった瞳が金色に変わった俺がいた。
俺は夕方に女の子と会ったことを話したけど、名前は教えなかった。
義父は俺が布団に入った後、母親に電話を入れた。
__________________
話が長くなりましたので、2つに分けました。
皇貴が話す時だけ「オレ」になってますが、まだ子供なのでカタカナしました。
あの子との出会ったあの日。
それは、大切な約束。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「何してるの?」
声をかけられ振り返ると着物を着た子がいた。
女の子だろうか、クリクリとした目が興味津々に俺を覗き込んだ。
「別に何も」
実際、何もしてない。
春休みに父親に初めて連れられて来た田舎は大人しかいなくて、俺と遊んでくれる子供なんていなかった。
初めて来た義父の家に1人で居るのが嫌で、「遊びに行く」と祖母に声を掛けて外に出た。
何となしに近所の林道をブラブラ歩いて見つけた小さな溜池で、何をするでもなくただぼうっと眺めていただけだ。
「ふぅん」
その子はそう言うと俺の隣に座った。
「………」
「ボクはねぇ、逃げてきたの」
「……えっ⁉︎」
僕?
女の子なのに自分こと「僕」って呼ぶのか?
逃げたって何?
どこから突っ込んでいいか分からず混乱した。
「驚いた?」
「…まあ」
ふふっと笑うと、勝手に話し出した。
「お祖父様や親戚の人たちみんなボクを変な目で見るんだ。ボク、その目が怖くてココに逃げてきたの……。ここはね、ボクのお気に入りの場所だから」
溜池を眺める目はどこか寂しそうだった。
「オレ、邪魔だよな……」
「そんなことないよ!それにボクが後から来たんだから、ボクの方が……ボク、君の邪魔してるね…」
膝を抱えて座る着物の裾をぎゅっと握り俯いた。
肩が震え泣いてるように見えて、俺は思わず口を開いた。
「あのさ…、オレこの村はじめて来て父さん以外の知り合い居ないんだ」
「……っ」
顔を上げ俺を見るその子の目は薄ら滲んでいるように見えた。
「オレと…遊んでくれない?」
「……うん!」
俺のお願いに涙は引っ込み、満面の笑みで返事をした。
その笑顔に何故だか一瞬胸が苦しくなった。
「……あ…オレの名前、皇貴っていうんだ」
「こうき……じゃあ、『こうくん』だね」
「こうくん…?」
「わっ、こうくんのお目め、お星さまみたいにキラキラになってる。すっごくキレイ!」
お星さま?
キラキラ?
この子の言うことがよく分からず首を傾げる。
それよりも。
「あ、お前の名前は?」
「ボクはねぇーー」
「ーー」
何処からか声が聞こえて俺たちは振り返る。
「ゆうー」
「あっ、お母さんだ」
すくっとその子は立ち上がって、声のする方にかけて行った。
「ゆう」
「お母さん!」
ゆうと呼ばれたその子は、少し先で母親らしき人に抱きついた。
「もう、ゆう。お外に出るならお父さんかお母さんに声を掛けないとダメでしょ」
「ごめんない…」
ゆうと呼ばれたその子は叱られてシュンとする。
そんなやり取りをじっと見ていた俺にゆうのお母さんが気付いた。
「あら…お友達?」
「うん、こうくん」
「良かったわね。でも暗くなってきたからもう帰りましょ」
「はーい……あっ、こうくん!また明日遊ぼーねー」
ゆうは母親に手を引かれながら、見えなくなるまでブンブンと手を振って帰って行った。
家に帰ると、祖母が俺を見て眉を顰めた。
程なくして帰ってきた義父は俺を見て酷く驚いた顔をしたが特に嫌悪感を出すことはなく「その目はどうしたんだ?」と訊いてきた。
その意味がわからず首を傾げると、鏡を見せられる。
そこには母親と同じ焦茶色だった瞳が金色に変わった俺がいた。
俺は夕方に女の子と会ったことを話したけど、名前は教えなかった。
義父は俺が布団に入った後、母親に電話を入れた。
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話が長くなりましたので、2つに分けました。
皇貴が話す時だけ「オレ」になってますが、まだ子供なのでカタカナしました。
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