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本編
4月 ①
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小さな灯り取りの窓から日が差し込むことで1日の始まりを知り、差し込む灯りがなくなることで1日の終わりを知る。
一昨日、3月が終わった。
たぶん。
脱出するためには牢屋を開ける必要がある。
だが、格子は何処を押しても引いても揺すってもびくともせず頑丈だった。
小さな窓は高すぎて届かず、トイレや風呂場の窓も高く、更に外から鉄柵で塞がれていた。
今のところ、脱出の手立てが全く見出せなかった。
今日は身体が少し火照る感じがする。
発情期が近いのかも知れない。
ここに来てから抑制剤を飲んでいないからいつもより発情期が早く来そうだ。
清暙兄さんに気付かれないようにしないと。
そう思っていたけど、あっさり気付かれた。
「フェロモンが強くなってきたな。あと2日ということろか」
「っ…」
「明後日、儀式の前に新しい布団をここに入れる。念入りに身体を清めておけ」
それだけ言うと清暙兄さんは戻っていった。
発情期が始まったら、抑えきれない身体の疼きに抵抗なんてほとんどできないだろう。
逃げるなら今日しかない。
もう一度、格子を押してみるがやはりビクリともしない。
「ここまできたらもう逃げられないか…」
もう外の世界に出ることはできない。
死ぬまでここで身体を開き続ける。
考えただけで震えが襲う。
『おまじないた、してやる』
頭の中に声がした。
子供の声だ。
『ゆうがオメガにならないおまじない』
誰の声だ?
霞掛かった記憶の片隅にいる幼いオレは、「おまじない」だと男の子に項を噛まれた。
その記憶を頼りに項に触れると、そこには消えそうなくらい小さな窪みが幾つかあった。
『これで、ゆうはオメガにならないよ』
あの男の子はそう言った。
星のようなキラキラした瞳を持つ男の子。
「こう…くん…」
幼いオレはその子をそう呼んでいた。
記憶の中のこうくんは、オレが一番逢いたい人によく似ていた。
なんで忘れてたんだろう。
こんな大切な記憶を……。
「ふっ……ふっく……」
オレは格子に手をかけたまま蹲って、込み上げる涙を堪えるけど止まらない。
「助けて……こうくん…」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
2日後。
発情期の熱と人の気配で目を覚ますと、格子の奥から4人の使用人が入ってきた。
その内の2人に担がれ風呂場に連れて行かれ、身体を隅々まで洗われた。
白の襦袢を着させられ戻ると、それまであった布団の3倍の大きさの真新しい布団が敷かれていた。
布団の脇には香炉が置かれて、甘ったるい香りが漂っていた。
「間も無くご当主様と清暙様が参りますので、お待ちください」
深々とお辞儀をした4人の使用人はオレと目を合わすことなく出入り口の格子に鍵をかけ出ていった。
「久しぶりだな、結季」
隅で膝を抱えて座るオレを皺がれた声が呼ぶ。
頭を少し上げ見る。
「お祖父様…」
格子の向こうに祖父がいた。
そして隣りには、オレと同じ白の襦袢を着た清暙兄さんがいた。
祖父は格子の鍵を開け、清暙兄さんが入るのを確認すると鍵をかけた。
「わしが生きているうちにまたオメガが生まれるとはなんて幸運なことだ」
下衆な笑みを浮かべオレを見る祖父に吐き気がする。
その姿を視界から隠すように笑みを浮かべる清暙兄さんが目の前に迫ってきた。
「あ…嫌、だ…来るな…」
壁伝いに逃げるがいとも簡単に捕まり、布団に運ばれた。
発情期の熱と充満する甘ったるい香りに身体に力が入らずグッタリとするオレの上に清暙兄さんが跨る。
「人に見られながらする趣味は僕にはないんだけどね…。結季は?」
「さわ、んな……ふぁ」
首筋をなぞられ、全身に電気が走るような衝撃が走る。
清暙兄さんは、発情期の熱で火照り息が上がるオレを見下ろし舌舐めずりをする。
「とてもいいフェロモンの匂いだ。神凪のオメガは特別だと俄に信じがたい話と思っていたが……」
「神凪のオメガはそのフェロモンで人を惑わすのだ。そして番に従順な雌になる」
首筋をなぞっていた手は下へ移動して腰紐をゆっくりと解く。
オレに見せつけるようにスルリと紐を引き抜き、頭の横に落とした。
「やっ、やだ、やだ、やめて…」
両腕に必死に突っ張って抵抗するが、力の入らない腕は何の抵抗にもならない。
太腿に硬いものが当たり、ビクンと身体が跳ねる。
「ふふっ、もう待てないのか?」
「ちがっ」
太腿に押し付けられる感触に身体が熱くなるけど、頭はすぅっと冷えていく。
襦袢の合わせに手を掛けられる。
もう限界だ。
「こ…き、せん…」
助けて。
声は出なかった。
唇に触れる感触に涙が出た。
遠くてオレを呼ぶ声が聞こえた気がした。
一昨日、3月が終わった。
たぶん。
脱出するためには牢屋を開ける必要がある。
だが、格子は何処を押しても引いても揺すってもびくともせず頑丈だった。
小さな窓は高すぎて届かず、トイレや風呂場の窓も高く、更に外から鉄柵で塞がれていた。
今のところ、脱出の手立てが全く見出せなかった。
今日は身体が少し火照る感じがする。
発情期が近いのかも知れない。
ここに来てから抑制剤を飲んでいないからいつもより発情期が早く来そうだ。
清暙兄さんに気付かれないようにしないと。
そう思っていたけど、あっさり気付かれた。
「フェロモンが強くなってきたな。あと2日ということろか」
「っ…」
「明後日、儀式の前に新しい布団をここに入れる。念入りに身体を清めておけ」
それだけ言うと清暙兄さんは戻っていった。
発情期が始まったら、抑えきれない身体の疼きに抵抗なんてほとんどできないだろう。
逃げるなら今日しかない。
もう一度、格子を押してみるがやはりビクリともしない。
「ここまできたらもう逃げられないか…」
もう外の世界に出ることはできない。
死ぬまでここで身体を開き続ける。
考えただけで震えが襲う。
『おまじないた、してやる』
頭の中に声がした。
子供の声だ。
『ゆうがオメガにならないおまじない』
誰の声だ?
霞掛かった記憶の片隅にいる幼いオレは、「おまじない」だと男の子に項を噛まれた。
その記憶を頼りに項に触れると、そこには消えそうなくらい小さな窪みが幾つかあった。
『これで、ゆうはオメガにならないよ』
あの男の子はそう言った。
星のようなキラキラした瞳を持つ男の子。
「こう…くん…」
幼いオレはその子をそう呼んでいた。
記憶の中のこうくんは、オレが一番逢いたい人によく似ていた。
なんで忘れてたんだろう。
こんな大切な記憶を……。
「ふっ……ふっく……」
オレは格子に手をかけたまま蹲って、込み上げる涙を堪えるけど止まらない。
「助けて……こうくん…」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
2日後。
発情期の熱と人の気配で目を覚ますと、格子の奥から4人の使用人が入ってきた。
その内の2人に担がれ風呂場に連れて行かれ、身体を隅々まで洗われた。
白の襦袢を着させられ戻ると、それまであった布団の3倍の大きさの真新しい布団が敷かれていた。
布団の脇には香炉が置かれて、甘ったるい香りが漂っていた。
「間も無くご当主様と清暙様が参りますので、お待ちください」
深々とお辞儀をした4人の使用人はオレと目を合わすことなく出入り口の格子に鍵をかけ出ていった。
「久しぶりだな、結季」
隅で膝を抱えて座るオレを皺がれた声が呼ぶ。
頭を少し上げ見る。
「お祖父様…」
格子の向こうに祖父がいた。
そして隣りには、オレと同じ白の襦袢を着た清暙兄さんがいた。
祖父は格子の鍵を開け、清暙兄さんが入るのを確認すると鍵をかけた。
「わしが生きているうちにまたオメガが生まれるとはなんて幸運なことだ」
下衆な笑みを浮かべオレを見る祖父に吐き気がする。
その姿を視界から隠すように笑みを浮かべる清暙兄さんが目の前に迫ってきた。
「あ…嫌、だ…来るな…」
壁伝いに逃げるがいとも簡単に捕まり、布団に運ばれた。
発情期の熱と充満する甘ったるい香りに身体に力が入らずグッタリとするオレの上に清暙兄さんが跨る。
「人に見られながらする趣味は僕にはないんだけどね…。結季は?」
「さわ、んな……ふぁ」
首筋をなぞられ、全身に電気が走るような衝撃が走る。
清暙兄さんは、発情期の熱で火照り息が上がるオレを見下ろし舌舐めずりをする。
「とてもいいフェロモンの匂いだ。神凪のオメガは特別だと俄に信じがたい話と思っていたが……」
「神凪のオメガはそのフェロモンで人を惑わすのだ。そして番に従順な雌になる」
首筋をなぞっていた手は下へ移動して腰紐をゆっくりと解く。
オレに見せつけるようにスルリと紐を引き抜き、頭の横に落とした。
「やっ、やだ、やだ、やめて…」
両腕に必死に突っ張って抵抗するが、力の入らない腕は何の抵抗にもならない。
太腿に硬いものが当たり、ビクンと身体が跳ねる。
「ふふっ、もう待てないのか?」
「ちがっ」
太腿に押し付けられる感触に身体が熱くなるけど、頭はすぅっと冷えていく。
襦袢の合わせに手を掛けられる。
もう限界だ。
「こ…き、せん…」
助けて。
声は出なかった。
唇に触れる感触に涙が出た。
遠くてオレを呼ぶ声が聞こえた気がした。
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