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本編
4月 ② side …
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やっと準備が整った。
この日が来るまで、気が遠くなるほど長く感じた。
「いま行く」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
あれから1週間を過ぎた頃、やっと動いた。
「協力者から連絡が来ました」
如月家を拠点に計画を練っているところに、その連絡は佳都の父親からもたらされた。
「彼は地下牢に居るそうです。額の傷が思いの外酷かったため、まだ番にはされておらず、話では次の発情期まで待つと」
「あと2週間しかない…」
「それは違います。あと2週間は無事だと言うことです」
佳都の父親の言葉はとても力強かった。
彼の瞳に宿る色がそう思わせているように感じた。
残りの2週間で、呪われた宿命から解放する手立てを実行する準備をするのだ。
先代の時にそれを実行しようとしたのはたった1人だったが、今はこんなにたくさんいる。
そして、その呪われた一族の中にも俺たちと同じ想いを抱く協力者もいる。
「チャンスは一度です。それまでに彼方でも協力者を増やすため動いています」
「わかってる。どうすればいい?」
2週間で完璧な計画を立てる。
失敗は許されない。
今度こそこの呪縛を解く。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
決行日。
遅咲きの桜舞う神社の裏手に移動した。
正面には如月夫妻が参拝客として様子を伺っている。
ここに居るのは、佳都と結季の兄の楓と俺だけだ。
そこに1人の少女が現れた。
俺たちを見つけるとゆっくりとこちらに向かってきた。
家の裏に向かって歩く少女を距離を置きつつ追う。
外で少女を監視していた使用人が俺たちに向かってきたが、更に後ろに控えていた佳都の父が音を立てずに気絶させて物陰に隠すと駆け寄ってきた。
「ここはもう大丈夫です。急ぎましょう」
俺たちに指示を出すと少女に駆け寄る。
少女は頷くと「こっち」と俺たちを誘導した。
家の裏の一番奥にある蔵の前には2人の使用人が門番のように立っていた。
2人は協力者のようで、俺たちの姿を認めると慌てる様子もなく静かに蔵の扉を開け、深々とお辞儀をした。
中央にある祭壇を少女が後ろに動かすと、ポッカリ穴が現れ、覗き込むとそこには階下へと続く木製の階段があった。
階段の小さな明かりを頼りに、音を立てないように壁伝いに降りる。
階段の折り返しで、終着地点の扉が見えた。
扉は少し開いていて明かりが漏れていて、むせ返るようなフェロモンの香りが漂ってきた。
「やっ、やだ、やだ、やめて…」
あと数段のところで声が聞こえてきた。
か細いが必死に抵抗する声の後、楽しそうな声が続いた。
「ふふっ、もう待てないのか?」
「ちがっ」
そっと覗いた先。
格子の奥に男に跨がれて横になっている結季がいた。
襦袢の合わせに手を掛けられ震えながら口を開く。
「皇貴先輩」
呼ばれた気がした。
だが、言葉は跨っていた男に塞がれた。
「結季」
その光景に思わず飛び出してしまい、格子のこちら側にいる老人に気づかれてしまった。
「なんだお前たち、は……」
目の前で老人はあっという間に倒れた。
佳都の父親が先程の使用人のように気絶させたようだ。
「クソッ、鍵が掛かってる」
楓が牢を叩くが、その入り口は固く閉ざされていてびくともしない。
「やはり来たんだね。残念ながら鍵はここだよ」
結季に跨る男はゆっくり頭を起こすと、口の端に残る唾液を手の甲で拭い、手の中にある鍵を見せた。
神凪清暙は楽しそうに笑い、俺たちに見せつけるように襦袢を捲りその肌を露わにすると結季はヒュッと息を呑んだ。
「おい、やめーー」
「ギャラリーが増えてしまったが、そこで見てるといいよ。神凪家の儀式を」
「あっ……やぁ……」
露わになった肌を清暙が鍵でなぞると、結季の身体はビクンと跳ねた。
「ふふ、オメガにしか効かない特別な香のおかげで感度は最高に良さそうだね」
「ふっ…ぅん……はぁっ、んっ……ゃああ…」
唇を食まれながら胸の尖をつまみ上げられる結季は、たまらず声が漏れる。
結季の口から溢れる唾液を舐め取った清暙は、鍵を隅に投げた。
「ここの鍵は特殊でね、この一つしかない。君たちは決して入ることは出来ないよ。ああ、九条くんは結季のことを気に入ってたんだよね。そうだ、僕の番になった結季を後で君に抱かせてあげるよ。それが神凪のオメガの仕事だからね、ふふふ」
そう言う清暙は胸の周辺に舌を這わせた。
身体をなぞる様に手を動かし、太腿を持ち上げ膝を立てさせると、その奥へ手を伸ばした。
「や、ぃやぁ…」
「やめっ」
「鍵がないのならば、壊せばいいだけです」
ブルンっというエンジン音に振り返るといつの間にか佳都の足元にはチェーンソーが置かれていた。
「えっ、佳都、それは…?」
「父が用意しました」
「佳都、使用方法は問題ないか?」
「念のため説明書は三度読みました。動画も確認済みです。皆さん、危険ですので離れてください」
ヘルメットに保護メガネ、軍手を装備した佳都は淡々と答えながら全ての準備を終えると、チェーンソーを持ち上げた。
俺たちが離れたことを確認した佳都は、高速で回転するチェーンソーの歯を迷うことなく木の継ぎ目に当てた。
「なっ…」
目を見開きこちらを見る清暙を他所に、鍵の周辺の木を切断すると、牢屋の入り口は簡単に開いた。
それを待って、俺と楓が中に飛び込む。
先に入った楓が結季の上から清暙を引き剥がし殴りつけた。
俺は結季に駆け寄り抱き上げた。
「結季!」
俺の呼びかけに涙に濡れた目を薄く開ける。
「こ…き先輩?……あれ……ほん、もの?」
「ああ、お前を助けに来た」
「夢じゃ…なぃ?」
「夢じゃない」
俺の頬に触れて夢じゃないと確認した結季はくしゃりと笑った。
「また会えたね、こう…くん…」
安心したのかそのまま俺の腕の中で意識を失った。
グッタリと力なく眠る結季の身体を俺は強く抱きしめた。
「俺も会いたかった…ゆう」
side khoki
この日が来るまで、気が遠くなるほど長く感じた。
「いま行く」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
あれから1週間を過ぎた頃、やっと動いた。
「協力者から連絡が来ました」
如月家を拠点に計画を練っているところに、その連絡は佳都の父親からもたらされた。
「彼は地下牢に居るそうです。額の傷が思いの外酷かったため、まだ番にはされておらず、話では次の発情期まで待つと」
「あと2週間しかない…」
「それは違います。あと2週間は無事だと言うことです」
佳都の父親の言葉はとても力強かった。
彼の瞳に宿る色がそう思わせているように感じた。
残りの2週間で、呪われた宿命から解放する手立てを実行する準備をするのだ。
先代の時にそれを実行しようとしたのはたった1人だったが、今はこんなにたくさんいる。
そして、その呪われた一族の中にも俺たちと同じ想いを抱く協力者もいる。
「チャンスは一度です。それまでに彼方でも協力者を増やすため動いています」
「わかってる。どうすればいい?」
2週間で完璧な計画を立てる。
失敗は許されない。
今度こそこの呪縛を解く。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
決行日。
遅咲きの桜舞う神社の裏手に移動した。
正面には如月夫妻が参拝客として様子を伺っている。
ここに居るのは、佳都と結季の兄の楓と俺だけだ。
そこに1人の少女が現れた。
俺たちを見つけるとゆっくりとこちらに向かってきた。
家の裏に向かって歩く少女を距離を置きつつ追う。
外で少女を監視していた使用人が俺たちに向かってきたが、更に後ろに控えていた佳都の父が音を立てずに気絶させて物陰に隠すと駆け寄ってきた。
「ここはもう大丈夫です。急ぎましょう」
俺たちに指示を出すと少女に駆け寄る。
少女は頷くと「こっち」と俺たちを誘導した。
家の裏の一番奥にある蔵の前には2人の使用人が門番のように立っていた。
2人は協力者のようで、俺たちの姿を認めると慌てる様子もなく静かに蔵の扉を開け、深々とお辞儀をした。
中央にある祭壇を少女が後ろに動かすと、ポッカリ穴が現れ、覗き込むとそこには階下へと続く木製の階段があった。
階段の小さな明かりを頼りに、音を立てないように壁伝いに降りる。
階段の折り返しで、終着地点の扉が見えた。
扉は少し開いていて明かりが漏れていて、むせ返るようなフェロモンの香りが漂ってきた。
「やっ、やだ、やだ、やめて…」
あと数段のところで声が聞こえてきた。
か細いが必死に抵抗する声の後、楽しそうな声が続いた。
「ふふっ、もう待てないのか?」
「ちがっ」
そっと覗いた先。
格子の奥に男に跨がれて横になっている結季がいた。
襦袢の合わせに手を掛けられ震えながら口を開く。
「皇貴先輩」
呼ばれた気がした。
だが、言葉は跨っていた男に塞がれた。
「結季」
その光景に思わず飛び出してしまい、格子のこちら側にいる老人に気づかれてしまった。
「なんだお前たち、は……」
目の前で老人はあっという間に倒れた。
佳都の父親が先程の使用人のように気絶させたようだ。
「クソッ、鍵が掛かってる」
楓が牢を叩くが、その入り口は固く閉ざされていてびくともしない。
「やはり来たんだね。残念ながら鍵はここだよ」
結季に跨る男はゆっくり頭を起こすと、口の端に残る唾液を手の甲で拭い、手の中にある鍵を見せた。
神凪清暙は楽しそうに笑い、俺たちに見せつけるように襦袢を捲りその肌を露わにすると結季はヒュッと息を呑んだ。
「おい、やめーー」
「ギャラリーが増えてしまったが、そこで見てるといいよ。神凪家の儀式を」
「あっ……やぁ……」
露わになった肌を清暙が鍵でなぞると、結季の身体はビクンと跳ねた。
「ふふ、オメガにしか効かない特別な香のおかげで感度は最高に良さそうだね」
「ふっ…ぅん……はぁっ、んっ……ゃああ…」
唇を食まれながら胸の尖をつまみ上げられる結季は、たまらず声が漏れる。
結季の口から溢れる唾液を舐め取った清暙は、鍵を隅に投げた。
「ここの鍵は特殊でね、この一つしかない。君たちは決して入ることは出来ないよ。ああ、九条くんは結季のことを気に入ってたんだよね。そうだ、僕の番になった結季を後で君に抱かせてあげるよ。それが神凪のオメガの仕事だからね、ふふふ」
そう言う清暙は胸の周辺に舌を這わせた。
身体をなぞる様に手を動かし、太腿を持ち上げ膝を立てさせると、その奥へ手を伸ばした。
「や、ぃやぁ…」
「やめっ」
「鍵がないのならば、壊せばいいだけです」
ブルンっというエンジン音に振り返るといつの間にか佳都の足元にはチェーンソーが置かれていた。
「えっ、佳都、それは…?」
「父が用意しました」
「佳都、使用方法は問題ないか?」
「念のため説明書は三度読みました。動画も確認済みです。皆さん、危険ですので離れてください」
ヘルメットに保護メガネ、軍手を装備した佳都は淡々と答えながら全ての準備を終えると、チェーンソーを持ち上げた。
俺たちが離れたことを確認した佳都は、高速で回転するチェーンソーの歯を迷うことなく木の継ぎ目に当てた。
「なっ…」
目を見開きこちらを見る清暙を他所に、鍵の周辺の木を切断すると、牢屋の入り口は簡単に開いた。
それを待って、俺と楓が中に飛び込む。
先に入った楓が結季の上から清暙を引き剥がし殴りつけた。
俺は結季に駆け寄り抱き上げた。
「結季!」
俺の呼びかけに涙に濡れた目を薄く開ける。
「こ…き先輩?……あれ……ほん、もの?」
「ああ、お前を助けに来た」
「夢じゃ…なぃ?」
「夢じゃない」
俺の頬に触れて夢じゃないと確認した結季はくしゃりと笑った。
「また会えたね、こう…くん…」
安心したのかそのまま俺の腕の中で意識を失った。
グッタリと力なく眠る結季の身体を俺は強く抱きしめた。
「俺も会いたかった…ゆう」
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