至高のオメガとガラスの靴

むー

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至高のオメガとガラスの靴

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この一週間、眠れない日々を過ごしていたから、終わった後からの記憶がなかった。

所謂"寝落ち"

でも、ぐっすり眠れた。


「わあああっー!」

僕の安眠はその悲鳴で終わった。

「ふあっ?」

頭を起こす。
右の二の腕が少しジンジンしている。
さっきまでそこに温もりがあったのか、シーツがほんのり温かい。

「って、アカリちゃん?」

起き上がり手をついてベットから降りようとしたら、右腕が痺れて力が入らずゴトンとベットから盛大に落ちた。

「イタタタ……はっ、それどころじゃない!」

痺れていない左腕で身体を支えて立ち上がって、声のしたバスルームに駆け込む。

「アカリちゃん!」

「あ、ヒロ。おはよー」

そこには、片手にスマホ、片手に手鏡を持ったアカリちゃんがいた。

「お風呂入ろー」

そのまま、お風呂に連れ込まれた。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

ベタベタが残る身体を洗い流して湯船に浸かる。

「ふわああぁー。朝風呂気持ちいいねー」
「うん、そうだね」

広い湯船に向かい合わせになる。
お花のいい香りがする乳白色の入浴剤を入れたので、お互いの身体が見えず、僕はホッとする。

「そ、そういえば、さっき大きな声が聞こえたんだけど、どうしたの?」
「ああ、アレはねぇーーそうだ!」
「わわっ、あ、アカリちゃん⁈」

ザバッと湯船から立ち上がるアカリちゃんに、思わず両手で自分の顔を押さえる。
指の隙間からなんて、み、見てないよ。

ちょっとしか。

バタバタと出て行ったと思ったら、すぐ戻ってきてザバンッと湯船が波打った。
腕に何かが触れた気がして顔から手を外すと、目の前にアカリちゃんの背中があった。

「ヒロ、写真撮って」

アカリちゃんは振り返ってスマホを僕に渡すと、両手で後ろ髪をかき分け項を露わにした。
少し赤黒くなってはいたけど、そこには昨日僕が付けた歯型だけがあった。

「あ、あれ…?」
「ヒーロ、早くー」
「あ、うん」

説明できない違和感を感じつつ、アカリちゃんの項にピントを合わせて写真を撮る。
スマホを返すとアカリちゃんは写真を確認する。

「あーやっぱり!」
「何が?」
「ほら見て」

僕が撮った写真を見せられる。
違和感は感じるけど、やっぱりわからなくて首を傾げる。

「んもぉー」

スマホを操作して別の写真を見せられる。
昔僕が付けた三角形の小さな窪みのある項の写真。
その写真の項と目の前の項を見比べる。

「あ、あれっ?あれっ?あの痕は?」
「やっと気付いた?そうなの、あの痕なくなったの」
「ええーっ!」
「うっそー」
「えっ、嘘⁈」

僕は混乱した。
アカリちゃんの項に一城先輩の噛み跡がなかったことはすぐに気付いた。
それは番契約が成立しなかったことを意味する。
でも、ずっとあったはずの赤ちゃんの時の僕の痕がないのは何でだ?
アカリちゃんを見てもニコニコしているだけでわからない。

「その前にいっこメール送らせて」

ポチポチと素早くタップして「そーしん」と言いながらメールを送ると、僕にもたれかかってきた。

「さっきの写真はね、8月のボクの誕生日にお母さんに撮ってもらったものなんだ。毎年、誕生日の朝にこの写真を撮ってもらってるの」

そう言い、8月5日フォルダの写真を見せてくれた。
一番古いのは噛まれてすぐのものだった。
少しふっくらした首にクッキリと赤く残る3つの窪み。
1ヶ月後の写真には傷が塞がり、窪みだけが残っていた。
それから後は、誕生日に撮った写真だけだった。

「で、この3つの痕の当たり触ってみて」

スマホを僕に預けて、髪をかき分ける。
瘡蓋になりつつあるそこをそっと触ると、アカリちゃんの身体がブルっと震え肩をすくませた。

写真を見ながら3つの窪みがあったところを触れると、僕の犬歯と奥歯の2本とピッタリ重なっていた。

「えっ、僕が噛んじゃったの?」
「そうなの!スゴイよね!ボク、感動しちゃった!」

ガバリと振り返り、そのまま正面を向いて僕の膝の上に座り直した。

「赤ちゃんのヒロが噛んだ痕が見えなくなっちゃったのは寂しいけど……それは、あの時からこうなるって………なんか…運命みたいで……嬉しかった…」
「アカリちゃん……」
「すごく嬉しい…」

項をさすりながら薄ら涙を浮かべたアカリちゃんは僕の肩にコツンと頭を乗せた。

「アカリちゃーー」
「でさぁ」

スマホを持っていない手をアカリちゃんの背中に回しかけた瞬間、アカリちゃんは頭を上げた。

「えっ?」
「なんか、シンデレラみたいじゃない、これ」
「しんでれら…?」
「そう、舞踏会で落としたガラスの靴で王子様とハッピーエンドになるアレ!」

さっきの潤んだ瞳は幻だったかのように目の前のアカリちゃんは目をキラキラさせながら話す。

「ガラスの靴って….……あれ?………それって……?」
「嗚呼、あなたこそ、ボクが探し求めていた人だ」

僕の顔に両手を添えると王子様のセリフと共にチュッと触れるだけのキスをした。
王子様役も様になっていてカッコいい。
うっかり見惚れてしまった僕にニヤリと笑うアカリちゃん。
数秒後、その意味にようやく気付く。

「えっ?あれっ?えっ?……僕がシンデレラなの?」
「あははー」

アカリちゃんは僕の首に腕を回し、強く抱きしめた。
拍子にアカリちゃんのフェロモンが強く香ってきてクラッとする僕の耳元に甘い囁きが届く。

「も一回……シよ」

❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


幼なじみのアカリちゃんは男の子だけどオメガ。
誰よりも綺麗で勉強も運動も出来る。
そして、アカリちゃんから漂うフェロモンは誰もが惹きつけらる。

正に"至高のオメガ"


でも、その項には噛み跡があった。

一歳の僕が付けた噛み跡が……。


今は、17歳の僕の噛み跡がある。

昔の僕の噛み跡にピッタリ重なった……。


今も昔も僕だけの噛み跡が……


おしまい

__________________

ちょっと無理矢理感ありますが、タイトルの『ガラスの靴』が何を指していたのか分かりましたでしょうか?

ヒロとアカリのお話はこれで終了ですが、この後、後日談などをアップします。
ヒロ視点での展開だったため、「?」となったところがあったと思います。
ヒロの左目の秘密など諸々のことは、この後の『後日談』で判明する予定ですので、もう少しだけお付き合い頂けますと幸いです。
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