姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第二十九話 副兵長

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 『ベルタ』による前代未聞の飛行船による城内襲撃より数刻。その衝撃は、王都の市街地戦の戦況に変化をもたらしていた。王都に雪崩れ込み続けていた兵士の波がおさまったのである。
 
 とはいえ、王都における兵力差は既に埋められないものになっており、王都全体を巻き込んだ市街地戦から、反乱軍の地下通路を有効活用したゲリラ戦へとその戦いが変容した。

 反乱軍の基地がある地下通路では、傷ついた兵士が治療を受けに右往左往し、戦いに外へ出る兵士とごった返しになっていた。

「急げ!重症だ!止血を急げ!」

「次の戦場は、三番通りだ!戦えるものは集え!」

 一方で、戦いの総指揮を取るレオンハートは、王都の地図を睨みながら、効果的に戦いを行える策を、苦渋の表情を浮かべながら練っていた。

 時間が経つにつれて、怪我人の数が増えていく。その分、敵の数が減っていれば……と怪我人が運ばれるたびにレオンハートは願っていた。
 というのも度重なる敵側の増援により、敵の数を減らせているのかが分からず、無限に湧き続ける敵兵が、反乱軍の士気に影響を見せ始めていたからである。

「一番通りの戦いはどうなった?」

「……苦戦しております」

「そうか」
 部下の返事は変わらないものであった。聞く前から返ってくる答えが変わらないものであると知っていたが、それでもレオンハートは戦果を信じて部下に聞いていた。

 報告を終えた部下が部屋を去り、また別の部下が部屋に入ってくる。

「三番通りの戦況について報告があります」

「三番通りは、戦いに向かったばかりではないか?」
 レオンハートは、王都の地図を広げ作戦を練りながら部下の話に耳を貸す。

「はい、しかし思わぬ人物が現れてしまい戦況が一気に……」

「誰が現れた?」

「スタークス元副兵長です」

「何だと?」
 レオンハートはその人物の名に耳を疑った。

 ◆◇◆◇

 王都を区切る三つの大通り。潮風のあたる海側に位置した三番通りは、スタークスを名乗る男の出現により、反乱軍が蹂躙されていた。

「スタークス副兵長!国の誇りを忘れたのですか!」
 血の滴る腕を押さえる反乱軍の一人が、黒い鎧を身に纏った赤髪の男――スタークス・バレットに必死に呼びかける。

「国の誇りを忘れた?何を言う、今私が属しているのは国の正規兵だ。国逆の者よ」
 スタークスの言葉に反乱軍の兵士は肩を落として俯いた。

「ものわかりが良くて素晴らしい」

 スタークスの剣が俯く兵士の首元に迫った時、彼を呼び止める声が耳に届いた。

「待て!スタークス」

 スタークスはその呼び声に手を止めると、目の前の兵士を蹴り飛ばした。
 スタークスの目線の先、三番通りの中心で剣を手に握るレオンハートが一人、立っていた。

「聞き覚えのある声が聞こえたと思えば、お前か……レオンハート」

 敵となった、かつての仲間を見たレオンハートは心を痛めた。

「正義を重んじていたお前がなぜ、クラリオにつく」

「なぜ?それは正義を重んじているからだ」
 スタークスは淡々と答えると、隙を見て魔法を放とうとした味方の魔法使いを手で制止する。

「何を言っている?」

「国という組織体を壊さず、カルファス王国があり続けること……それが私の正義である。レオンハート、お前が仕掛けたこの戦争は国を壊しかねない正義なきものである」

「馬鹿なことを抜かすな、スタークス。クラリオがやっている支配こそが、カルファス王国を壊すものであろう!」

「視野が狭いぞ……周りの国をよく見ろ。他国に比べたら、平和ボケしたカルファス王国など、取るに足らない小国に過ぎない!クラリオ様の交易による軍備増強のおかげで、この国は他国に攻め込まれず、今存在しているのだと知れ」

「民を焼き払うことに正義を見い出せと?」

「国の存続に比べれば、多少の犠牲など目を瞑るべきだ」

「それがお前の答えか……スタークス」

「まだ剣を向けるか……レオンハート」

 スタークスとレオンハートの二人は同時に地面を蹴った。

 ギィィィン!!!!

 二人の衝突による凄まじい衝撃波が大気を震わせる。剣がぶつかり合う度に、その剣圧で風が舞う。
 レオンハートは剣を通じて、スタークスの迷いのなさに気づくと、剣に乗せる力を増した。

「剣の腕が鈍ったようだな、レオンハート」

「私の剣は生憎、民に振るう剣ではなくてな。お前の言うとおり平和を噛み締めていたようだ」

 レオンハートは力強く踏み込むと、剣を上から叩きつける。その力任せな剣に押されたスタークスは後ろに下がった。

「馬鹿力は顕在か、脳筋兵長よ」

「背負うものが大きくてな、前へ前へ脳筋でいかせてもらおうか!」

 激しく撃ち合う二人の剣は、次第に刃こぼれしていく。

「お互い長くは持たなそうだな」

「軽口を叩けるのも今のうちだぞ、レオンハート!」

 ギィィィン!!!

 戦争が始まってから、王都に存在する全ての建物は、カーテンや戸がしっかりと閉められ、戦火に巻き込まれまいとしていた。
 三番通りの建物、カーテンの隙間から二人の戦いをそっと見守る子供が親が老人が、兵長の勝利を願って神に祈りを捧げていた。
 

 
 

 

 

 
 
 

 
 
 
 

 
 

 
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