身勝手な我儘を尽くす妹が、今度は辺境伯である私の夫を奪おうとした結果――。

銀灰

文字の大きさ
3 / 3

【下】

しおりを挟む
「もう我慢の限界です! 信じられない、貴方方は間違っているッ!」

 妹の、いつもの傲慢な我儘が起こした此度《こたび》の騒動。
 その結末に幕引きを降ろしたのは、妹の、あの人を惑わし続けてきた誘惑を向けられていた、その張本人――堪忍袋の緒が切れたロイ自身でした。

 驚くべきことに彼は、私のお父様お母様の元へ直談判を行ったのです。
 そんなことをすれば、私のお家とロイのお家の関係は拗れてしまう。もしそんなことになれば、辺境伯であるロイは――。

 しかし、私のお家に向かおうとする彼を、私は止め切れませんでした。
 あれだけ怒りを露わにしているあの人は初めて見ました。とても、止め切れませんでした……。
 そしてお父様お母様の元へ参上した彼が何を言ったかと言えば――。

「貴方方はヘリオトに想いやりを向けていないのか!? ヘリオトが、いったいどのような思いでこの一月余りを過ごしてきたと思っているのか!? ――ここまで我慢してきましたが、限界です。私が我慢するのはいいが、これ以上ヘリオトが鬱屈に沈み、辛い日々を送ることには耐えられない。言わせてもらいます――なぜあの子のあのような態度を放っておくのか? 私には、貴方方が信じられません」

 ――正直、涙の出る思いでした。
 分かって、くれていた。それが何よりも嬉しかった……。
 しかし同時に、終わってしまった、という冷たい予感も感じていました。
 ここで私のお家との関係が切れれば、ロイは――。


 しかし、此度の騒動は。
 想像もしていなかった種の、意外な形での幕が降ろされました。


 ロイが険しい表情で宣告を口にすると、長い沈黙が訪れました。
 破滅を予感し、それでも私はロイの傍に在り続けようと、静かに覚悟を胸に秘めた、そのとき――。
 お父様が、疲れた声色で口にしました。

「――まったく、その通りだ。貴殿の言うことには何一つとして間違いはない。……すまなかった」

 ――思わず、私とロイは顔を見合わせてしまいました。

 お父様は語り続けました。私たちも、ずっと前からそう思っていた――けれど正す機を逃してしまった。
 私たちの失敗。
 どうか、許してくれ、と。

 ――きっとお父様も、疲れ果ててしまったのでしょう。
 心からの謝り。ロイに対して、そしてきっと――……。

 いいんです。
 私には、ロイがいましたから。

 私たちは儀礼と共にそれを受け入れ――お家を後にしました。





 その後。
 居場所を失った妹のマゼンタは、新たな嫁ぎ先へと出向かってしまいました。
 噂に聞くところによると、色々と厳しいお家のようですが、心を入れ替え頑張ってほしいです。

 私の日常に変わりはありません。
 マゼンタが来る前の、いつもの日々です。

 私がいて。
 ――そして、隣には、ロイがいる。

「ロイ、紅茶が入りました。一緒にいかがです?」
「おお、ありがとう。ぜひ頂こう」

 ――辺境の地での、優しさに満ち溢れた一時。
 素敵でしょう? あの子に、この幸せが理解できるかしら……?
 私の幸せは――ここにあるの。

 紅茶の美味しさに「嗚呼」と思わず声を漏らすと、ロイが日の光にも負けぬ柔らかさで微笑みました――。



 了
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

さくらニャンコ

『所謂、辺境伯』
辺境伯は、場合や立地条件などで公爵と位が同じになります。
所謂、では無いと思います。
妹が辺境に居たのが1ヶ月と、ロイのセリフで分かりました。
もう少し、時間や状況の描写がないと、読みづらいです。
もう、婚姻もしているので、そこまで実家との関係を気にしなくても…。

解除
相打
2025.06.15 相打

あらすじに姉の夫=ロイって説明があるけど、本編だけ見るとそんな描写がないんですが・・・・
 ヘリオトのモノ=ロイってことなんでしょうが、それだと恋人でも当てはまりますよ。

解除

あなたにおすすめの小説

双子の妹は私から全てを奪う予定でいたらしい

佐倉ミズキ
恋愛
双子の妹リリアナは小さい頃から私のものを奪っていった。 お人形に靴、ドレスにアクセサリー、そして婚約者の侯爵家のエリオットまで…。 しかし、私がやっと結婚を決めたとき、リリアナは激怒した。 「どういうことなのこれは!」 そう、私の新しい婚約者は……。

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

自慢の可愛い妹と私を比べ、馬鹿にしてくる婚約者…もう婚約破棄してくれて構いません!

coco
恋愛
婚約者には、自慢の可愛い妹が居る。 そんな妹と比較し馬鹿にしてくる彼に、嫌気が差した私は…?

天使のように愛らしい妹に婚約者を奪われましたが…彼女の悪行を、神様は見ていました。

coco
恋愛
我儘だけど、皆に愛される天使の様に愛らしい妹。 そんな彼女に、ついに婚約者まで奪われてしまった私は、神に祈りを捧げた─。

自信過剰なワガママ娘には、現実を教えるのが効果的だったようです

麻宮デコ@SS短編
恋愛
伯爵令嬢のアンジェリカには歳の離れた妹のエリカがいる。 母が早くに亡くなったため、その妹は叔父夫婦に預けられたのだが、彼らはエリカを猫可愛がるばかりだったため、彼女は礼儀知らずで世間知らずのワガママ娘に育ってしまった。 「王子妃にだってなれるわよ!」となぜか根拠のない自信まである。 このままでは自分の顔にも泥を塗られるだろうし、妹の未来もどうなるかわからない。 弱り果てていたアンジェリカに、婚約者のルパートは考えがある、と言い出した―― 全3話

〖完結〗親友だと思っていた彼女が、私の婚約者を奪おうとしたのですが……

藍川みいな
恋愛
大好きな親友のマギーは、私のことを親友だなんて思っていなかった。私は引き立て役だと言い、私の婚約者を奪ったと告げた。 婚約者と親友をいっぺんに失い、失意のどん底だった私に、婚約者の彼から贈り物と共に手紙が届く。 その手紙を読んだ私は、婚約発表が行われる会場へと急ぐ。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 前編後編の、二話で完結になります。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】王女の婚約者をヒロインが狙ったので、ざまぁが始まりました

miniko
恋愛
ヒロイン気取りの令嬢が、王女の婚約者である他国の王太子を籠絡した。 婚約破棄の宣言に、王女は嬉々として応戦する。 お花畑馬鹿ップルに正論ぶちかます系王女のお話。 ※タイトルに「ヒロイン」とありますが、ヒロインポジの令嬢が登場するだけで、転生物ではありません。 ※恋愛カテゴリーですが、ざまぁ中心なので、恋愛要素は最後に少しだけです。

【完結】可愛くない、私ですので。

たまこ
恋愛
 華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。