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【下】
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「もう我慢の限界です! 信じられない、貴方方は間違っているッ!」
妹の、いつもの傲慢な我儘が起こした此度《こたび》の騒動。
その結末に幕引きを降ろしたのは、妹の、あの人を惑わし続けてきた誘惑を向けられていた、その張本人――堪忍袋の緒が切れたロイ自身でした。
驚くべきことに彼は、私のお父様お母様の元へ直談判を行ったのです。
そんなことをすれば、私のお家とロイのお家の関係は拗れてしまう。もしそんなことになれば、辺境伯であるロイは――。
しかし、私のお家に向かおうとする彼を、私は止め切れませんでした。
あれだけ怒りを露わにしているあの人は初めて見ました。とても、止め切れませんでした……。
そしてお父様お母様の元へ参上した彼が何を言ったかと言えば――。
「貴方方はヘリオトに想いやりを向けていないのか!? ヘリオトが、いったいどのような思いでこの一月余りを過ごしてきたと思っているのか!? ――ここまで我慢してきましたが、限界です。私が我慢するのはいいが、これ以上ヘリオトが鬱屈に沈み、辛い日々を送ることには耐えられない。言わせてもらいます――なぜあの子のあのような態度を放っておくのか? 私には、貴方方が信じられません」
――正直、涙の出る思いでした。
分かって、くれていた。それが何よりも嬉しかった……。
しかし同時に、終わってしまった、という冷たい予感も感じていました。
ここで私のお家との関係が切れれば、ロイは――。
しかし、此度の騒動は。
想像もしていなかった種の、意外な形での幕が降ろされました。
ロイが険しい表情で宣告を口にすると、長い沈黙が訪れました。
破滅を予感し、それでも私はロイの傍に在り続けようと、静かに覚悟を胸に秘めた、そのとき――。
お父様が、疲れた声色で口にしました。
「――まったく、その通りだ。貴殿の言うことには何一つとして間違いはない。……すまなかった」
――思わず、私とロイは顔を見合わせてしまいました。
お父様は語り続けました。私たちも、ずっと前からそう思っていた――けれど正す機を逃してしまった。
私たちの失敗。
どうか、許してくれ、と。
――きっとお父様も、疲れ果ててしまったのでしょう。
心からの謝り。ロイに対して、そしてきっと――……。
いいんです。
私には、ロイがいましたから。
私たちは儀礼と共にそれを受け入れ――お家を後にしました。
□
その後。
居場所を失った妹のマゼンタは、新たな嫁ぎ先へと出向かってしまいました。
噂に聞くところによると、色々と厳しいお家のようですが、心を入れ替え頑張ってほしいです。
私の日常に変わりはありません。
マゼンタが来る前の、いつもの日々です。
私がいて。
――そして、隣には、ロイがいる。
「ロイ、紅茶が入りました。一緒にいかがです?」
「おお、ありがとう。ぜひ頂こう」
――辺境の地での、優しさに満ち溢れた一時。
素敵でしょう? あの子に、この幸せが理解できるかしら……?
私の幸せは――ここにあるの。
紅茶の美味しさに「嗚呼」と思わず声を漏らすと、ロイが日の光にも負けぬ柔らかさで微笑みました――。
了
妹の、いつもの傲慢な我儘が起こした此度《こたび》の騒動。
その結末に幕引きを降ろしたのは、妹の、あの人を惑わし続けてきた誘惑を向けられていた、その張本人――堪忍袋の緒が切れたロイ自身でした。
驚くべきことに彼は、私のお父様お母様の元へ直談判を行ったのです。
そんなことをすれば、私のお家とロイのお家の関係は拗れてしまう。もしそんなことになれば、辺境伯であるロイは――。
しかし、私のお家に向かおうとする彼を、私は止め切れませんでした。
あれだけ怒りを露わにしているあの人は初めて見ました。とても、止め切れませんでした……。
そしてお父様お母様の元へ参上した彼が何を言ったかと言えば――。
「貴方方はヘリオトに想いやりを向けていないのか!? ヘリオトが、いったいどのような思いでこの一月余りを過ごしてきたと思っているのか!? ――ここまで我慢してきましたが、限界です。私が我慢するのはいいが、これ以上ヘリオトが鬱屈に沈み、辛い日々を送ることには耐えられない。言わせてもらいます――なぜあの子のあのような態度を放っておくのか? 私には、貴方方が信じられません」
――正直、涙の出る思いでした。
分かって、くれていた。それが何よりも嬉しかった……。
しかし同時に、終わってしまった、という冷たい予感も感じていました。
ここで私のお家との関係が切れれば、ロイは――。
しかし、此度の騒動は。
想像もしていなかった種の、意外な形での幕が降ろされました。
ロイが険しい表情で宣告を口にすると、長い沈黙が訪れました。
破滅を予感し、それでも私はロイの傍に在り続けようと、静かに覚悟を胸に秘めた、そのとき――。
お父様が、疲れた声色で口にしました。
「――まったく、その通りだ。貴殿の言うことには何一つとして間違いはない。……すまなかった」
――思わず、私とロイは顔を見合わせてしまいました。
お父様は語り続けました。私たちも、ずっと前からそう思っていた――けれど正す機を逃してしまった。
私たちの失敗。
どうか、許してくれ、と。
――きっとお父様も、疲れ果ててしまったのでしょう。
心からの謝り。ロイに対して、そしてきっと――……。
いいんです。
私には、ロイがいましたから。
私たちは儀礼と共にそれを受け入れ――お家を後にしました。
□
その後。
居場所を失った妹のマゼンタは、新たな嫁ぎ先へと出向かってしまいました。
噂に聞くところによると、色々と厳しいお家のようですが、心を入れ替え頑張ってほしいです。
私の日常に変わりはありません。
マゼンタが来る前の、いつもの日々です。
私がいて。
――そして、隣には、ロイがいる。
「ロイ、紅茶が入りました。一緒にいかがです?」
「おお、ありがとう。ぜひ頂こう」
――辺境の地での、優しさに満ち溢れた一時。
素敵でしょう? あの子に、この幸せが理解できるかしら……?
私の幸せは――ここにあるの。
紅茶の美味しさに「嗚呼」と思わず声を漏らすと、ロイが日の光にも負けぬ柔らかさで微笑みました――。
了
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