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36話
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「はぁ~! 疲れたー!」
衣装をすでに着替えていたこともあり、オレは勢いよくベッドにダイブした。ふかふかのマットレスがオレの体重を受け止め、柔らかい感触が体全体を包み込む。
あー、やっぱりベッドは最高だ。今日一日、ずっと緊張しっぱなしだったからな。
「セリル……」
背後からレオンの苦笑いが聞こえた。振り返ると、彼は呆れたような、でもどこか愛おしそうな表情でオレを見ている。
慌てて体を起こすオレを見て、レオンは珍しく声を立てて笑った。彼も豪華な衣装からカジュアルな部屋着に着替えていたが、ラフな装いでも立ち姿はぴしっとしている。オレと似たような服装なのに、彼の方がずっと品良く見えるから不思議だ。
「構わない。……気兼ねなく体を休めてくれ。今日は特に疲れただろう?」
レオンの優しい言葉に甘えて、オレは再び背中をベッドに投げ出した。確かに今日は朝から晩まで、一生に一度の結婚式——それも王族の——をぶっつけ本番でこなしてきたのだ。体力にはそれなりに自信があるオレでも、緊張からくる疲れでさすがにクタクタだった。
王族の結婚の儀式は、オレの想像を遥かに超える大がかりなものだった。アドリアンから事前に軽く説明は受けていたものの、それだけで儀式の流れをすべて把握できるはずもない。実際、誓いの言葉を読み上げる場面では緊張で声が震えて途中で噛んでしまったし、指輪の交換では左右を間違えて慌ててしまった。王族としての正式な挨拶をする場面に至っては、どこに向かってお辞儀をすればいいのか分からず、隣にいたレオンに小声で指示してもらう始末だった。
お世辞にも完璧な儀式だったとは言えない。それでも、きっといい思い出になるだろう——オレはそう思うことにした。
「……セリル、本当にすまなかった。こんなに急な式になってしまって」
レオンからの突然の謝罪に、オレは首を横に振った。レオンはオレがよっぽど疲れているように見えたのかもしれない。
「いいですって。理由はアドリアンから聞きました。オレは一度婚約を破棄しちゃったから、もう婚約はできないって。だからいきなり結婚式ってことになっちゃったんでしょ? 仕方ないですよ」
「ああ、それも理由の一つだ。しかし……」
レオンの声が低くなった。彼はゆっくりとオレに近づいてくる。
「実は式を急いだのは、私の我儘でもある」
「我儘?」
首を傾げるオレの頬に、レオンは自身の手を軽く添えた。
「私はお前を早く繋ぎ止めたかった。目を離していたら、その隙にお前が誰かに奪われるのではないかと……気が気ではなかったんだ」
「え、えええ!?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
オレは目を丸くした。まさか、あのレオンがそんな風に焦っていたなんて。冷静沈着で、ここぞという時以外は滅多に感情を表に出さない彼が、オレを奪われることを恐れていたとは。
「それって……オレのこと買いかぶりすぎじゃないですか? オレみたいな男のオメガなんて、よっぽどの物好きじゃなきゃ興味を持たれることすらないですよ」
そう言って笑ったけれど、レオンは真剣な表情のままだった。
「では、私はよほどの物好きということになるな」
彼の言葉に、オレは思わず吹き出してしまった。この堅物王子がこんな冗談を言うなんて。
オレが笑っているうちに、いつの間にかレオンの腕が腰に回されていた。ベッドの上で少しずつ距離が縮まっていくことに、心臓が早鐘を打ち始める。
「待って、レオン!」
「どうした?」
「……さっきの話、本気? オレのこと、本気で誰かに取られるって心配してたの?」
「当然だろう」
レオンは迷いなく頷いた。
「お前は自分の魅力に気づいていない」
彼の言葉は静かだったが、その奥に秘められた感情の深さが伝わってくる。
「お前はお前が思っている以上に魅力的な人間だ。お前はまっすぐで、明るくて、誰に対しても分け隔てなく接する。……そんなお前だから、私は好きになったんだ。だからこそ、お前をもう二度と手放したくなかった」
レオンの声には、普段の威厳ある王子としての仮面の下に隠された、人間らしい弱さと愛情が滲んでいた。騎士時代には決して見せることのなかった彼の直情的な感情表現は、オレの心にすとんと染み込んでいく。
「……レオン」
もう言葉はいらない。オレたちの唇は自然と重なり合った。
レオンの唇は柔らかく、その感触にオレの全身が熱を持ち始める。彼の手がオレの髪に触れ、もう一方の手は背中を優しく撫でていく。オレもレオンの肩に手を回して、彼のキスに応えていた。
唇が離れ、再び重なる。一度、二度、三度と回数を重ねるごとに、キスは深くなっていく。レオンの舌がオレの唇の隙間に滑り込み、熱い息が交わる。
「はぁ……」
キスが終わり、息を整えようと少し身体を離すけど、レオンの手は決してオレを手放さなかった。見上げると、彼の瞳に違う色が宿っていた。冷静さを装ってはいるけど、その奥には明らかな情欲の炎が灯っている。
それを見たとたん、ようやくオレは状況に気づいた。
今日はオレたちの結婚式の日。そして今は、新婚初夜なのだ。
「……あ、あの! 明日もまだ披露宴や色々な行事が控えてるんでしょ? あんまり夜更かししないほうが……」
慌てて言葉を重ねる。ここまできて腹が決まっていなかったなんて言うわけじゃないけど、いざこの瞬間になると、やっぱり緊張する。
「怖いか?」
レオンが優しく問いかける。その声に込められた気遣いが、かえってオレの胸を締め付けた。
「怖くない。ただ……」
ただ、不安なのだ。これから大きく自分の人生が変わっていくことが。
「私はお前が欲しい。お前を確かな私のものにしたい」
その言葉を聞いただけで、オレの体が自然と反応する。オメガの本能だろうか。彼のアルファの匂いが強くなった気がして、それに呼応するようにオレの中からも熱が湧き上がってくる。
心臓の鼓動が早くなって、頭がクラクラしてきた。だけど、それは嫌な感覚じゃない。むしろ、レオンに求められることが素直に嬉しかった。彼に支配されたいという気持ちが、体の奥から込み上げてくる。
「……レオン」
オレは深く息を吸い込み、意を決した。
「オレも、レオンのものになりたい」
自分の声が震えているのが分かる。それでも、真っ直ぐに彼の目を見て続けた。
「貴方だけのオメガにしてくれ」
その言葉を聞いた瞬間、レオンの表情が一変した。瞳孔が開き、獲物を狙う肉食獣のような表情になる。彼の力強い腕がオレを引き寄せ、そのままベッドに押し倒した。
彼の体がオレの上に覆いかぶさり、逃げられないようにがっちりと腕で固められる。そして彼はそのままオレのうなじに顔を埋め、強く噛みついた。
「っ……!」
まるで肌を貫かれるような痛みで、思わず声が漏れる。だが、すぐにその痛みは消え、代わりに全身を駆け巡る奇妙な痺れが襲ってきた。
うなじから始まった痺れが、血管を伝って全身へと広がっていく。自分の体が作り替えられていくような、不思議な感覚。体の芯から変化していくような、でも心地よい衝動。
鈍い痛みと喜びが入り混じり、オレの意識は次第にぼんやりとしていく。レオンの歯がオレの首筋から離れると、彼はその噛み跡を舌で丁寧に舐めた。
「…これで、お前は完全に私のものだ」
彼の声には満足感と誇らしさが混じっている。
「これで……オレたち、つがいになったんだよな?」
オレも嬉しさを隠せずに尋ねる。大きく変わったとは感じないけど、どこか心の中に、レオンとの強い繋がりを感じる気がした。
「そうだ」
レオンは微笑み、オレを抱きしめた。その腕の中で、不思議と安心感を覚える。
「これでお前は私の……私だけのつがいだ」
彼の声には深い感慨が込められていた。その目はオレしか映していなくて、そこには優しさと、強い愛情が溢れている。
レオンはオレに再び顔を近づけ、今度は唇を重ねた。優しく、だけど情熱的なキス。それは今までとは少し違う、互いが確かにつがいになったことを確かめ合うような深いキスだった。
衣装をすでに着替えていたこともあり、オレは勢いよくベッドにダイブした。ふかふかのマットレスがオレの体重を受け止め、柔らかい感触が体全体を包み込む。
あー、やっぱりベッドは最高だ。今日一日、ずっと緊張しっぱなしだったからな。
「セリル……」
背後からレオンの苦笑いが聞こえた。振り返ると、彼は呆れたような、でもどこか愛おしそうな表情でオレを見ている。
慌てて体を起こすオレを見て、レオンは珍しく声を立てて笑った。彼も豪華な衣装からカジュアルな部屋着に着替えていたが、ラフな装いでも立ち姿はぴしっとしている。オレと似たような服装なのに、彼の方がずっと品良く見えるから不思議だ。
「構わない。……気兼ねなく体を休めてくれ。今日は特に疲れただろう?」
レオンの優しい言葉に甘えて、オレは再び背中をベッドに投げ出した。確かに今日は朝から晩まで、一生に一度の結婚式——それも王族の——をぶっつけ本番でこなしてきたのだ。体力にはそれなりに自信があるオレでも、緊張からくる疲れでさすがにクタクタだった。
王族の結婚の儀式は、オレの想像を遥かに超える大がかりなものだった。アドリアンから事前に軽く説明は受けていたものの、それだけで儀式の流れをすべて把握できるはずもない。実際、誓いの言葉を読み上げる場面では緊張で声が震えて途中で噛んでしまったし、指輪の交換では左右を間違えて慌ててしまった。王族としての正式な挨拶をする場面に至っては、どこに向かってお辞儀をすればいいのか分からず、隣にいたレオンに小声で指示してもらう始末だった。
お世辞にも完璧な儀式だったとは言えない。それでも、きっといい思い出になるだろう——オレはそう思うことにした。
「……セリル、本当にすまなかった。こんなに急な式になってしまって」
レオンからの突然の謝罪に、オレは首を横に振った。レオンはオレがよっぽど疲れているように見えたのかもしれない。
「いいですって。理由はアドリアンから聞きました。オレは一度婚約を破棄しちゃったから、もう婚約はできないって。だからいきなり結婚式ってことになっちゃったんでしょ? 仕方ないですよ」
「ああ、それも理由の一つだ。しかし……」
レオンの声が低くなった。彼はゆっくりとオレに近づいてくる。
「実は式を急いだのは、私の我儘でもある」
「我儘?」
首を傾げるオレの頬に、レオンは自身の手を軽く添えた。
「私はお前を早く繋ぎ止めたかった。目を離していたら、その隙にお前が誰かに奪われるのではないかと……気が気ではなかったんだ」
「え、えええ!?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
オレは目を丸くした。まさか、あのレオンがそんな風に焦っていたなんて。冷静沈着で、ここぞという時以外は滅多に感情を表に出さない彼が、オレを奪われることを恐れていたとは。
「それって……オレのこと買いかぶりすぎじゃないですか? オレみたいな男のオメガなんて、よっぽどの物好きじゃなきゃ興味を持たれることすらないですよ」
そう言って笑ったけれど、レオンは真剣な表情のままだった。
「では、私はよほどの物好きということになるな」
彼の言葉に、オレは思わず吹き出してしまった。この堅物王子がこんな冗談を言うなんて。
オレが笑っているうちに、いつの間にかレオンの腕が腰に回されていた。ベッドの上で少しずつ距離が縮まっていくことに、心臓が早鐘を打ち始める。
「待って、レオン!」
「どうした?」
「……さっきの話、本気? オレのこと、本気で誰かに取られるって心配してたの?」
「当然だろう」
レオンは迷いなく頷いた。
「お前は自分の魅力に気づいていない」
彼の言葉は静かだったが、その奥に秘められた感情の深さが伝わってくる。
「お前はお前が思っている以上に魅力的な人間だ。お前はまっすぐで、明るくて、誰に対しても分け隔てなく接する。……そんなお前だから、私は好きになったんだ。だからこそ、お前をもう二度と手放したくなかった」
レオンの声には、普段の威厳ある王子としての仮面の下に隠された、人間らしい弱さと愛情が滲んでいた。騎士時代には決して見せることのなかった彼の直情的な感情表現は、オレの心にすとんと染み込んでいく。
「……レオン」
もう言葉はいらない。オレたちの唇は自然と重なり合った。
レオンの唇は柔らかく、その感触にオレの全身が熱を持ち始める。彼の手がオレの髪に触れ、もう一方の手は背中を優しく撫でていく。オレもレオンの肩に手を回して、彼のキスに応えていた。
唇が離れ、再び重なる。一度、二度、三度と回数を重ねるごとに、キスは深くなっていく。レオンの舌がオレの唇の隙間に滑り込み、熱い息が交わる。
「はぁ……」
キスが終わり、息を整えようと少し身体を離すけど、レオンの手は決してオレを手放さなかった。見上げると、彼の瞳に違う色が宿っていた。冷静さを装ってはいるけど、その奥には明らかな情欲の炎が灯っている。
それを見たとたん、ようやくオレは状況に気づいた。
今日はオレたちの結婚式の日。そして今は、新婚初夜なのだ。
「……あ、あの! 明日もまだ披露宴や色々な行事が控えてるんでしょ? あんまり夜更かししないほうが……」
慌てて言葉を重ねる。ここまできて腹が決まっていなかったなんて言うわけじゃないけど、いざこの瞬間になると、やっぱり緊張する。
「怖いか?」
レオンが優しく問いかける。その声に込められた気遣いが、かえってオレの胸を締め付けた。
「怖くない。ただ……」
ただ、不安なのだ。これから大きく自分の人生が変わっていくことが。
「私はお前が欲しい。お前を確かな私のものにしたい」
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心臓の鼓動が早くなって、頭がクラクラしてきた。だけど、それは嫌な感覚じゃない。むしろ、レオンに求められることが素直に嬉しかった。彼に支配されたいという気持ちが、体の奥から込み上げてくる。
「……レオン」
オレは深く息を吸い込み、意を決した。
「オレも、レオンのものになりたい」
自分の声が震えているのが分かる。それでも、真っ直ぐに彼の目を見て続けた。
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その言葉を聞いた瞬間、レオンの表情が一変した。瞳孔が開き、獲物を狙う肉食獣のような表情になる。彼の力強い腕がオレを引き寄せ、そのままベッドに押し倒した。
彼の体がオレの上に覆いかぶさり、逃げられないようにがっちりと腕で固められる。そして彼はそのままオレのうなじに顔を埋め、強く噛みついた。
「っ……!」
まるで肌を貫かれるような痛みで、思わず声が漏れる。だが、すぐにその痛みは消え、代わりに全身を駆け巡る奇妙な痺れが襲ってきた。
うなじから始まった痺れが、血管を伝って全身へと広がっていく。自分の体が作り替えられていくような、不思議な感覚。体の芯から変化していくような、でも心地よい衝動。
鈍い痛みと喜びが入り混じり、オレの意識は次第にぼんやりとしていく。レオンの歯がオレの首筋から離れると、彼はその噛み跡を舌で丁寧に舐めた。
「…これで、お前は完全に私のものだ」
彼の声には満足感と誇らしさが混じっている。
「これで……オレたち、つがいになったんだよな?」
オレも嬉しさを隠せずに尋ねる。大きく変わったとは感じないけど、どこか心の中に、レオンとの強い繋がりを感じる気がした。
「そうだ」
レオンは微笑み、オレを抱きしめた。その腕の中で、不思議と安心感を覚える。
「これでお前は私の……私だけのつがいだ」
彼の声には深い感慨が込められていた。その目はオレしか映していなくて、そこには優しさと、強い愛情が溢れている。
レオンはオレに再び顔を近づけ、今度は唇を重ねた。優しく、だけど情熱的なキス。それは今までとは少し違う、互いが確かにつがいになったことを確かめ合うような深いキスだった。
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