『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

文字の大きさ
4 / 40

第3話 対等でありたい

しおりを挟む
すぅ……。

 俺は不良達の手前、大きく息を吸い込んだ。頬をパンパンに膨らませる俺に対して、アイツらは首をかしげる。

──悪く思うなよ。

 俺の名前は雨宮優。住所は……。電話番号は……。趣味はパソコンゲームで、毎晩遅くまでログインして……。

スラスラと滑らかに個人情報を言い尽くした。

「あん? お前、何言って──」ガタイのいい不良が、俺の胸ぐらを掴む。

しかし、もはや手遅れである。

「ゴホッ……。おい、ゴホッゴホッ!!」
「ゴホッ!! なんだ? なにがおきて、ゴホッゴホッ!!」
「へっ、クション!」

不良達はまともに話せない。

 そりゃあそう。だって、俺の両親も知らないようなことも言ったからね。お前らは今、俺アレルギーの重症者なんだよ。

 正直、コイツらをこのまま放置すれば殺すこともできる。咳とくしゃみを連続して行いすぎて、呼吸すらできないからだ。

「まぁ、さすがに殺さねえけどな……」

 俺は制服の胸ポケットから薬を取り出す。それはもちろん、俺アレルギーを弱める薬。

 ちなみに効果は絶大。どんな重症者でも、数分間は症状が出なくなる。……その後は知らない。おそらく、俺のことを忘れるまで症状が付き纏うのだろう。

「ゴホッ、ゴホッゴホッ!!」ガタイのいい男は俺の薬に手を伸ばす。

「ただし!」俺は薬をヒョイと上にあげる。「お前らの話、聞かせてくれよ」俺はそう言って、不良達が首を縦に振るまで薬を渡さなかった。






「まぁ、俺たち不良の世界なんてこんなもんさ。付き合う女はシャブやってるか、前科があるか……」そう語るガタイのいい不良。

 彼の眉毛には切り傷があり、一目で普通の人間でないことがわかる。ただ、こいつの目は真っ直ぐだった。他の不良とは何かが違うと、そう思わせるような。

「まぁ、そりゃあお前にしたら、四葉が可愛く見えるんだろうな……」俺が空を見上げると、飛行機が飛んでいた。

 『四葉のクローバー』とか、彼女はよく言われている。あとは『学園のアイドル四天王』とか。どの呼び名も男子がつけたものだ。

「マジで可愛いよなぁ」
「あーあ、お前がいなかったらアタックしてたわー」

 どうやら残りの二人も四葉を諦めたようだった。遠い空を仰ぎ見る彼らの瞳に、四葉の姿が映っていない。


──私の好きな人は、私と対等に話してくれる人


やはり、四葉のあの発言が不良達の心に刺さったらしい。

「……その子と対等に話せるのは、お前しかいないと俺は思っている」ガタイのいい不良、いや、『漢』は飛行機を眺めて語った。

「俺はそんなこと、できて当然だと思うんだけどな。なぁよつ、ば?」俺が四葉の方を見ると、頬から涙が滴っているのが見えた。

「そんなことね、そんなことがね……。あなたしか、してくれないんだよ?」四葉はさらに語る。

それは、心の内を全て吐き出すように。

「皆んな、私が困ってると、すごく優しくしてくれるの。……私が『何もしなくていいように』って。……それっていいことかな?」

「いいわけないだろ? 四葉のこと、赤ちゃんみたいに扱うのか?」

 そんなの間違ってる。そんなの、四葉の気持ちを無視してるだけじゃないか。そんな優しさ、四葉をバカにしているとしか思えない。

「はぁ……。雨宮、お前のそういうところが彼女を救ってるんだ」ガタイのいい漢は立ち上がる。腰に両手を当てて、俺たちを見下ろす。

「……ったく、覚えとけよ」
「お前らのこと、俺たちは忘れねえぜ……」他の二人も立ち上がった。

 3人の漢は去ってゆく。俺は彼らの背中を見送りながら、心の中で呟いた。

──俺は四葉に、対等な関係を求めているだけなんだがな。

「なぁ四葉、普通に話してくれる人ってどれくらいいるんだ?」

「優くんしか知らない」四葉は即答した。

 やっぱりか。どおりでコイツの口から、友だちの話を聞かなかったんだな。

 その言葉を聞き、俺は立ち上がる。そんな俺を四葉は上目遣いで見つめる。クルリとした目が甘える猫のようだった。

「じゃあ、これから一緒に探そうぜ? 今日から新しい学年が始まるんだし、ちょうどいい機会だろ?」ポンポンと四葉の頭を撫でる。

すると四葉はコクリとうなづいて、涙を手で拭った。「うん!」

「ほら、ブレーキ解除して。もう遅刻確定だからな、アレはやらねえぞ?」

「優くん! いつものやっちゃって!」

 四葉は右手を前に突き出して、人差し指を前に突き出す。左手は口元にあり、笛を吹くジェスチャーをしている。

四葉の姿は完全に車掌だ。ないはずの帽子さえ、幻覚で見えてきた。

 何かが吹っ切れたようにキラキラと笑う四葉を見て、俺は不覚にも『可愛い』と思ってしまう。

「ったく、怪我しても責任取らねぇからな?」車椅子のハンドルを強く握る。

「出発しんこーう!」四葉の掛け声と共に、俺は地面を思いっきり蹴り出す。

 コンビニ前から学校まで、雨宮トレインは貸切で快速運転。安全第一に走行中だ。疲れるけど、その疲れすら楽しさに変わってゆく。

「イェーイ!」

「バンザイすんなって!前見えねえだろ!」

 車椅子の車輪が回る音。景色が後ろに吹っ飛ばされて、追い越した風が俺たちを包む。嫌なことを全部跳ね除けて、









「やっばー! ウチが寝坊するとか人生初なんですけどー!」

ウチ、お母さんが出張でいないってゆーの忘れてたし。でもだからって全力疾走はないわー、ギャルの辞書にないっつーの。

「うわぁヤバいって、松永激おこじゃん」

 松永が二人の生徒を叱ってる激ヤバな時に鉢合わせちゃった。松永の機嫌が悪いと、説教が長くなるから嫌なのにー。

「……あれ? あの車椅子って」ウチの知ってる子かも? 

 話したことないけど、あれって『四天王』の子じゃない? 車椅子だから『四葉のクローバー』って呼ばれてる子かな?

 一緒に怒られてる男子は……

「なにあれ!? めっちゃオモロ状態じゃん!」ヤバっ、でっけー声出た! 

「おい! そこに誰かいるな! お前もここに来なさい!」

 さすがに近づきすぎたかー。ウチの癖も忘れてたし、今日は朝からツイてないなー。

「やぁー、バレちゃったかー。まっつん、短めにお願いねー」

「おい、ふざけてるのか?」まっつんはもっと激おこじゃん。

「あっ、えへへ、またやっちゃったー」

 うわぁ、ウチなんでこんなに心の中の声言っちゃうのー? いっつも気をつけてんのにな、えへへ。

「二人ともごめんねー、ウチ、思ったことすぐ口に出ちゃってさー」

「……いいことだと思うけどなぁ」男子が小さい声でそう言った。

「え??」ウチの聞き間違い? 

そうだよね。ウチの癖が、いいことなわけ無いもんね。

 でもそれから、まっつんの話は全然聞こえなかった。その代わり、ウチの心臓がずうっとドクドクってなってた。

もし、聞き間違いじゃなかったら──

「……ウチ、そんなこと初めて言われたかも」

よかったぁ。今の独り言は、だれにも聞こえなかったみたい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

処理中です...