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第3話 対等でありたい
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すぅ……。
俺は不良達の手前、大きく息を吸い込んだ。頬をパンパンに膨らませる俺に対して、アイツらは首をかしげる。
──悪く思うなよ。
俺の名前は雨宮優。住所は……。電話番号は……。趣味はパソコンゲームで、毎晩遅くまでログインして……。
スラスラと滑らかに個人情報を言い尽くした。
「あん? お前、何言って──」ガタイのいい不良が、俺の胸ぐらを掴む。
しかし、もはや手遅れである。
「ゴホッ……。おい、ゴホッゴホッ!!」
「ゴホッ!! なんだ? なにがおきて、ゴホッゴホッ!!」
「へっ、クション!」
不良達はまともに話せない。
そりゃあそう。だって、俺の両親も知らないようなことも言ったからね。お前らは今、俺アレルギーの重症者なんだよ。
正直、コイツらをこのまま放置すれば殺すこともできる。咳とくしゃみを連続して行いすぎて、呼吸すらできないからだ。
「まぁ、さすがに殺さねえけどな……」
俺は制服の胸ポケットから薬を取り出す。それはもちろん、俺アレルギーを弱める薬。
ちなみに効果は絶大。どんな重症者でも、数分間は症状が出なくなる。……その後は知らない。おそらく、俺のことを忘れるまで症状が付き纏うのだろう。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ!!」ガタイのいい男は俺の薬に手を伸ばす。
「ただし!」俺は薬をヒョイと上にあげる。「お前らの話、聞かせてくれよ」俺はそう言って、不良達が首を縦に振るまで薬を渡さなかった。
「まぁ、俺たち不良の世界なんてこんなもんさ。付き合う女はシャブやってるか、前科があるか……」そう語るガタイのいい不良。
彼の眉毛には切り傷があり、一目で普通の人間でないことがわかる。ただ、こいつの目は真っ直ぐだった。他の不良とは何かが違うと、そう思わせるような。
「まぁ、そりゃあお前にしたら、四葉が可愛く見えるんだろうな……」俺が空を見上げると、飛行機が飛んでいた。
『四葉のクローバー』とか、彼女はよく言われている。あとは『学園のアイドル四天王』とか。どの呼び名も男子がつけたものだ。
「マジで可愛いよなぁ」
「あーあ、お前がいなかったらアタックしてたわー」
どうやら残りの二人も四葉を諦めたようだった。遠い空を仰ぎ見る彼らの瞳に、四葉の姿が映っていない。
──私の好きな人は、私と対等に話してくれる人
やはり、四葉のあの発言が不良達の心に刺さったらしい。
「……その子と対等に話せるのは、お前しかいないと俺は思っている」ガタイのいい不良、いや、『漢』は飛行機を眺めて語った。
「俺はそんなこと、できて当然だと思うんだけどな。なぁよつ、ば?」俺が四葉の方を見ると、頬から涙が滴っているのが見えた。
「そんなことね、そんなことがね……。あなたしか、してくれないんだよ?」四葉はさらに語る。
それは、心の内を全て吐き出すように。
「皆んな、私が困ってると、すごく優しくしてくれるの。……私が『何もしなくていいように』って。……それっていいことかな?」
「いいわけないだろ? 四葉のこと、赤ちゃんみたいに扱うのか?」
そんなの間違ってる。そんなの、四葉の気持ちを無視してるだけじゃないか。そんな優しさ、四葉をバカにしているとしか思えない。
「はぁ……。雨宮、お前のそういうところが彼女を救ってるんだ」ガタイのいい漢は立ち上がる。腰に両手を当てて、俺たちを見下ろす。
「……ったく、覚えとけよ」
「お前らのこと、俺たちは忘れねえぜ……」他の二人も立ち上がった。
3人の漢は去ってゆく。俺は彼らの背中を見送りながら、心の中で呟いた。
──俺は四葉に、対等な関係を求めているだけなんだがな。
「なぁ四葉、普通に話してくれる人ってどれくらいいるんだ?」
「優くんしか知らない」四葉は即答した。
やっぱりか。どおりでコイツの口から、友だちの話を聞かなかったんだな。
その言葉を聞き、俺は立ち上がる。そんな俺を四葉は上目遣いで見つめる。クルリとした目が甘える猫のようだった。
「じゃあ、これから一緒に探そうぜ? 今日から新しい学年が始まるんだし、ちょうどいい機会だろ?」ポンポンと四葉の頭を撫でる。
すると四葉はコクリとうなづいて、涙を手で拭った。「うん!」
「ほら、ブレーキ解除して。もう遅刻確定だからな、アレはやらねえぞ?」
「優くん! いつものやっちゃって!」
四葉は右手を前に突き出して、人差し指を前に突き出す。左手は口元にあり、笛を吹くジェスチャーをしている。
四葉の姿は完全に車掌だ。ないはずの帽子さえ、幻覚で見えてきた。
何かが吹っ切れたようにキラキラと笑う四葉を見て、俺は不覚にも『可愛い』と思ってしまう。
「ったく、怪我しても責任取らねぇからな?」車椅子のハンドルを強く握る。
「出発しんこーう!」四葉の掛け声と共に、俺は地面を思いっきり蹴り出す。
コンビニ前から学校まで、雨宮トレインは貸切で快速運転。安全第一に走行中だ。疲れるけど、その疲れすら楽しさに変わってゆく。
「イェーイ!」
「バンザイすんなって!前見えねえだろ!」
車椅子の車輪が回る音。景色が後ろに吹っ飛ばされて、追い越した風が俺たちを包む。嫌なことを全部跳ね除けて、
「やっばー! ウチが寝坊するとか人生初なんですけどー!」
ウチ、お母さんが出張でいないってゆーの忘れてたし。でもだからって全力疾走はないわー、ギャルの辞書にないっつーの。
「うわぁヤバいって、松永激おこじゃん」
松永が二人の生徒を叱ってる激ヤバな時に鉢合わせちゃった。松永の機嫌が悪いと、説教が長くなるから嫌なのにー。
「……あれ? あの車椅子って」ウチの知ってる子かも?
話したことないけど、あれって『四天王』の子じゃない? 車椅子だから『四葉のクローバー』って呼ばれてる子かな?
一緒に怒られてる男子は……
「なにあれ!? めっちゃオモロ状態じゃん!」ヤバっ、でっけー声出た!
「おい! そこに誰かいるな! お前もここに来なさい!」
さすがに近づきすぎたかー。ウチの癖も忘れてたし、今日は朝からツイてないなー。
「やぁー、バレちゃったかー。まっつん、短めにお願いねー」
「おい、ふざけてるのか?」まっつんはもっと激おこじゃん。
「あっ、えへへ、またやっちゃったー」
うわぁ、ウチなんでこんなに心の中の声言っちゃうのー? いっつも気をつけてんのにな、えへへ。
「二人ともごめんねー、ウチ、思ったことすぐ口に出ちゃってさー」
「……いいことだと思うけどなぁ」男子が小さい声でそう言った。
「え??」ウチの聞き間違い?
そうだよね。ウチの癖が、いいことなわけ無いもんね。
でもそれから、まっつんの話は全然聞こえなかった。その代わり、ウチの心臓がずうっとドクドクってなってた。
もし、聞き間違いじゃなかったら──
「……ウチ、そんなこと初めて言われたかも」
よかったぁ。今の独り言は、だれにも聞こえなかったみたい。
俺は不良達の手前、大きく息を吸い込んだ。頬をパンパンに膨らませる俺に対して、アイツらは首をかしげる。
──悪く思うなよ。
俺の名前は雨宮優。住所は……。電話番号は……。趣味はパソコンゲームで、毎晩遅くまでログインして……。
スラスラと滑らかに個人情報を言い尽くした。
「あん? お前、何言って──」ガタイのいい不良が、俺の胸ぐらを掴む。
しかし、もはや手遅れである。
「ゴホッ……。おい、ゴホッゴホッ!!」
「ゴホッ!! なんだ? なにがおきて、ゴホッゴホッ!!」
「へっ、クション!」
不良達はまともに話せない。
そりゃあそう。だって、俺の両親も知らないようなことも言ったからね。お前らは今、俺アレルギーの重症者なんだよ。
正直、コイツらをこのまま放置すれば殺すこともできる。咳とくしゃみを連続して行いすぎて、呼吸すらできないからだ。
「まぁ、さすがに殺さねえけどな……」
俺は制服の胸ポケットから薬を取り出す。それはもちろん、俺アレルギーを弱める薬。
ちなみに効果は絶大。どんな重症者でも、数分間は症状が出なくなる。……その後は知らない。おそらく、俺のことを忘れるまで症状が付き纏うのだろう。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ!!」ガタイのいい男は俺の薬に手を伸ばす。
「ただし!」俺は薬をヒョイと上にあげる。「お前らの話、聞かせてくれよ」俺はそう言って、不良達が首を縦に振るまで薬を渡さなかった。
「まぁ、俺たち不良の世界なんてこんなもんさ。付き合う女はシャブやってるか、前科があるか……」そう語るガタイのいい不良。
彼の眉毛には切り傷があり、一目で普通の人間でないことがわかる。ただ、こいつの目は真っ直ぐだった。他の不良とは何かが違うと、そう思わせるような。
「まぁ、そりゃあお前にしたら、四葉が可愛く見えるんだろうな……」俺が空を見上げると、飛行機が飛んでいた。
『四葉のクローバー』とか、彼女はよく言われている。あとは『学園のアイドル四天王』とか。どの呼び名も男子がつけたものだ。
「マジで可愛いよなぁ」
「あーあ、お前がいなかったらアタックしてたわー」
どうやら残りの二人も四葉を諦めたようだった。遠い空を仰ぎ見る彼らの瞳に、四葉の姿が映っていない。
──私の好きな人は、私と対等に話してくれる人
やはり、四葉のあの発言が不良達の心に刺さったらしい。
「……その子と対等に話せるのは、お前しかいないと俺は思っている」ガタイのいい不良、いや、『漢』は飛行機を眺めて語った。
「俺はそんなこと、できて当然だと思うんだけどな。なぁよつ、ば?」俺が四葉の方を見ると、頬から涙が滴っているのが見えた。
「そんなことね、そんなことがね……。あなたしか、してくれないんだよ?」四葉はさらに語る。
それは、心の内を全て吐き出すように。
「皆んな、私が困ってると、すごく優しくしてくれるの。……私が『何もしなくていいように』って。……それっていいことかな?」
「いいわけないだろ? 四葉のこと、赤ちゃんみたいに扱うのか?」
そんなの間違ってる。そんなの、四葉の気持ちを無視してるだけじゃないか。そんな優しさ、四葉をバカにしているとしか思えない。
「はぁ……。雨宮、お前のそういうところが彼女を救ってるんだ」ガタイのいい漢は立ち上がる。腰に両手を当てて、俺たちを見下ろす。
「……ったく、覚えとけよ」
「お前らのこと、俺たちは忘れねえぜ……」他の二人も立ち上がった。
3人の漢は去ってゆく。俺は彼らの背中を見送りながら、心の中で呟いた。
──俺は四葉に、対等な関係を求めているだけなんだがな。
「なぁ四葉、普通に話してくれる人ってどれくらいいるんだ?」
「優くんしか知らない」四葉は即答した。
やっぱりか。どおりでコイツの口から、友だちの話を聞かなかったんだな。
その言葉を聞き、俺は立ち上がる。そんな俺を四葉は上目遣いで見つめる。クルリとした目が甘える猫のようだった。
「じゃあ、これから一緒に探そうぜ? 今日から新しい学年が始まるんだし、ちょうどいい機会だろ?」ポンポンと四葉の頭を撫でる。
すると四葉はコクリとうなづいて、涙を手で拭った。「うん!」
「ほら、ブレーキ解除して。もう遅刻確定だからな、アレはやらねえぞ?」
「優くん! いつものやっちゃって!」
四葉は右手を前に突き出して、人差し指を前に突き出す。左手は口元にあり、笛を吹くジェスチャーをしている。
四葉の姿は完全に車掌だ。ないはずの帽子さえ、幻覚で見えてきた。
何かが吹っ切れたようにキラキラと笑う四葉を見て、俺は不覚にも『可愛い』と思ってしまう。
「ったく、怪我しても責任取らねぇからな?」車椅子のハンドルを強く握る。
「出発しんこーう!」四葉の掛け声と共に、俺は地面を思いっきり蹴り出す。
コンビニ前から学校まで、雨宮トレインは貸切で快速運転。安全第一に走行中だ。疲れるけど、その疲れすら楽しさに変わってゆく。
「イェーイ!」
「バンザイすんなって!前見えねえだろ!」
車椅子の車輪が回る音。景色が後ろに吹っ飛ばされて、追い越した風が俺たちを包む。嫌なことを全部跳ね除けて、
「やっばー! ウチが寝坊するとか人生初なんですけどー!」
ウチ、お母さんが出張でいないってゆーの忘れてたし。でもだからって全力疾走はないわー、ギャルの辞書にないっつーの。
「うわぁヤバいって、松永激おこじゃん」
松永が二人の生徒を叱ってる激ヤバな時に鉢合わせちゃった。松永の機嫌が悪いと、説教が長くなるから嫌なのにー。
「……あれ? あの車椅子って」ウチの知ってる子かも?
話したことないけど、あれって『四天王』の子じゃない? 車椅子だから『四葉のクローバー』って呼ばれてる子かな?
一緒に怒られてる男子は……
「なにあれ!? めっちゃオモロ状態じゃん!」ヤバっ、でっけー声出た!
「おい! そこに誰かいるな! お前もここに来なさい!」
さすがに近づきすぎたかー。ウチの癖も忘れてたし、今日は朝からツイてないなー。
「やぁー、バレちゃったかー。まっつん、短めにお願いねー」
「おい、ふざけてるのか?」まっつんはもっと激おこじゃん。
「あっ、えへへ、またやっちゃったー」
うわぁ、ウチなんでこんなに心の中の声言っちゃうのー? いっつも気をつけてんのにな、えへへ。
「二人ともごめんねー、ウチ、思ったことすぐ口に出ちゃってさー」
「……いいことだと思うけどなぁ」男子が小さい声でそう言った。
「え??」ウチの聞き間違い?
そうだよね。ウチの癖が、いいことなわけ無いもんね。
でもそれから、まっつんの話は全然聞こえなかった。その代わり、ウチの心臓がずうっとドクドクってなってた。
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