『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

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第12話 話したい

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 朝日が眩しくて起床。俺はパソコンの前で突っ伏していた。目を擦ってカレンダーを見る。赤丸の日から数日が経過おり、今日は土曜日だった。

「……んー」

 寝ぼけ眼でパソコンを開き、いつものゲームにログインする。あぁそうだった、昨日は徹夜で周回してて、そのまま寝たんだっけ……?

「……」パソコンをシャットダウンする。

朝日が差し込むこの部屋で、俺は少しだけ考える。

 黒咲の自殺未遂を装った事件は成功に終わった。がしかし、あの取り調べが茶番ではない世界線もあったわけだ。

紙一重で黒咲を救った俺は、はたして正しい行いをしたのであろうか? 

勇気と無謀を天秤にかけて、結果論だけのヒーローじゃないのか?

──ピロン

 机の上に置いたスマホが鳴る。通知を確認すると、海野がラーインに画像を添付したようだった。


『部活動中!』


 という文字と共に、田んぼの写真が付いていた。朝日の田んぼを海野が撮っているらしく、奥に黒咲の姿が見えた。

 海野は園芸部に入部したらしい。ここ数日、俺を入部させようと思っているのか、頻繁に田んぼや畑の画像を送ってくるようになった。

楽しんでいる海野の画像がラーインに溜まってゆく。


──ピロン


『問題!四葉ちゃんはどこだ!?』


四葉? 四葉は知らんけど、アイツの足じゃあ部活動なんて──


──ピロン


『正解はここです!』


「……何やってんだよ」ポツリと静かな部屋に零した。

 四葉が幸せそうに、どこかの家の縁側でおにぎりを食べている。『朝ご飯!』と追加で送られてきた文章に口角が上がる。

 時計を確認すると8時00分。朝っぱらから、同い年の女子が農作業をするというシチュエーションに、現実感がなくて笑ってしまう。

さっきまでしていた心配がバカらしく思えて、俺はスマホを数回タップする。

新しい一歩に盛大な期待を込めて、俺は送信ボタンを押した。


『今から行く』


 そんな返信だけを残して、四葉の位置情報を頼りに自転車を漕ぐ。その後に返ってきた『えー!?無茶だよ!』という返信は見ないフリをした。

 登って、下って、潮風を浴びて、何度も車とすれ違って。信号機をじっと見つめて、青に変わった瞬間漕ぎ出して。

 一心不乱ということもなく、いたって冷静に自転車で進む。4月後半になってくると、暑さも鬱陶しくなってきて、自販機で買った水はすぐに無くなる。

はあっ、はあっ……

 肩で息をしながら、スマホを確認する。現在時刻は午前10時16分ざっと2時間ほどかけてここまで来たわけだが、寿命が縮んだのは確かだ。

「デカい家に、畑と田んぼ? どんな大富豪だよ……」

 家は築10数年と言ったところか。白くて大きな外壁にぐるりと囲まれており、門を探すのに苦労した。

 門の左手には田んぼが広がっている。今は海野も四葉も、黒咲もいないらしい。そして右手にはアーチ状にビニルで温室が作られている。おそらくはその中に畑が広がっているのであろう。

 そんな具合で周りの様子を眺めていたところ、門がゆっくりと開いた。門の取手部分に着物を着た女性が立っている。

「アダム様でよろしい?」

「はい? そうですけど……」

「中で皆さんお待ちです。足元に気をつけてくださいな」

 化粧が濃い、30代後半の女性。言葉のイントネーションが独特で奥ゆかしさもあった。

そんな女性の後を追う。

 日本古来の家という印象だ。庭には池があったり、玄関まで飛び石があったり。こんな所に女子高生が3人もいるのは違和感でしかない。

 着物の女性は、カーンとししおどしが響く縁側を歩いて、何度目かの障子の前でピタリと止まる。

「こちらでございます」

 相変わらずのイントネーションでスッと障子を開ける。中に入ると、黒咲しかいなかった。

 畳の敷かれた部屋の真ん中。座布団を敷いて、座卓の前に座っている。上座の位置に彼女がいて、下座の座布団が空いている。

「わたくしはこれで。あとは若いもんでごゆっくり……」

ピシャリと障子が閉められた。

 暫しの沈黙が続いて、仕方なく座布団にあぐらをかいて座る。黒咲と目があった。正座に座り直す。

 彼女は前の姿とは異なり、長い髪を全て下ろして眼鏡もつけていない。背筋はピンと伸びているし、初対面と錯覚するほどに別人だった。

「さて、自殺騒動からお会いしていませんでしたね? あなたの個人情報も皆無でしたので、半ば諦めていたのですが……」黒咲の口調は丁寧だった。

さらに彼女は続けて座卓の下から何かを取り出す。

「コチラをお渡しします」

 スッと目の前に滑り出てきたのは1枚の紙。A4サイズの紙面に『入部届』と厳かな字で書いてある。

「……これ、いいの?」

 あんな騒動を起こした俺に入部する資格があったのか。最悪、土下座も覚悟してたんですけど……。

「あなたを説得するには、こうでもしないといけません」

 園芸部に入れと無言の圧をかける黒咲。別人かと思っていたが、こういう本質的な部分は変わっていない。あくまで表面だけが違うのだ。

「説得って……なにが言いたいの?」

 変なワードに肝が冷える。というよりかは、頭を捻ってもそういう思考に至る合理的なプロセスが見つからない。

「これは、脅しと受け取っていただかないでほしいのですが……」

 有無を言わさないつもりだ。黒咲はそう言って、座卓の下からもう一枚紙を取り出す。そこには数字が記載されていた。

「いち、じゅう、ひゃく……せんまん? 1000万円?」

 人差し指で桁を確認する。1000万で間違いなかった。どんな数字かは、だいたい予想がついた。

黒咲(アイドルバージョン)には、巨額の市場価値がついている。

「損害賠償です。スポンサーや、テレビ番組からの」

 背筋が凍る。待て待て待て、まさかこれを支払えって話じゃないよな? 1000万の借金なんて洒落にならんぞ?

「払うのは私です。私、結構稼いだので、よゆーで払えます」

「ああ、流石にね……」

「ですが、お見合いの話を持ちかけられました。忌々しきお見合いです、何としてでも断りたい」

「そうか、頑張れよ」

 この話に食いつくと、ロクなことにならない。全神経がそう言っている。俺は立ち上がり、出口の方へ、障子に手をかける。

「そこで、入部する代わりに、お見合いを断る理由になっていただきたい」

 どれだけ力を込めても障子は開かない。黒咲の言葉がするすると俺の中に入ってゆき、否が応でもお願いを聞かされる。

「別に、恋人のフリをしろなんて言いません。ただ、なんかいい感じの男女を装っていただければ結構です」

「……そのほうが難しくない?」

 まずい、反応をしてしまった。振り返ったらダメだ。本当に、なんかいい感じの男女をやらされる。

 それはダメだ。なんかいい感じの男女は、もっとこう、長い時間をかけて創り上げていくもんだろ?

素人の俺がやったら、すぐバレて殺される。お見合いなんてそういう世界だ。

「ダメですか? なんかいい感じの男女?」

「ダメと言うか、違う設定にしない?」

黒咲は俺の発言に少し黙り込む。あの表情、本気で他のを考えているようだ。

 ちなみに、その間に逃げ出そうとも考えたが、障子はしっかりと開かない。この家に、どうやら隙はないらしい。

「それなら、使用人と主人という立場でありながらも、心を通わせているイケナイ2人というのはどうですか? これならお見合い相手も察してくれますよ?」

 この子、なんかズレてる。今のセリフを一息で言い切ったあたり、オタク特有の早口を所持している可能性が高い。

 ならば、話を逸らしつつ、それとなく人の本質を暴けるこの質問をしようではないか。

「……最近の面白いアニメとか教えて」

「最近だったら! 私的ラブコメの第一位が塗り替えられて──」

はい、水を得た魚のよう。

──この人オタクだよ
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