『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯

文字の大きさ
22 / 40

第21話 昔懐かし、私の世界

しおりを挟む
朝日が眩しくて目覚める。
見慣れない牢獄で驚いたが、すぐに昨日の出来事を思い出して納得する。

「どう? よく眠れた?」

檻の向こう側で、四葉が微笑んでいた。
車椅子に座っている姿が非現実的に見えてしまう。

「……お前は、四葉なのか?」
「なに言ってるの? 私は私だよ?」

人形のように首を傾げる四葉。
俺が勝手に作り出した感覚だが、そういう風に見えてしまう。

だって、天使の言葉が本当なら、コイツは四葉じゃない。
あの日たまたま同じ事故に遭った、被害者の1人。

交差点、炎上するワゴン車。
俺が助けたのは、近くにいた少女。
四葉は轢かれて重症。

「いや、お前は四葉じゃない」

指を刺す。
まるで、探偵が犯人を追い詰めるように。
ただ、それ以上に失うものだってあるんだ。

「……私が、、私が四葉じゃなかったとして、優くんはどうするの?」

「どうしようもない。けど、少しだけ前に進める気がする」

「知らない方が幸せだよ? 私とアイツの関係も、私と優くんとの関係も。
……知ってしまったら、思い出が消える」

「消えない。
俺とお前が生きてるから、思い出は絶対に消えない。
ただ、少しだけ塗り替えられるだけだ」

四葉は震える。
怯えてる。きっと今のままでいたいんだ。
俺とコイツの綺麗な関係を、ずっとこのままで過ごしたいんだ。

「今の俺には時間がない。今日で、あの日から抜け出さないといけないんだ。
だからここから出せ、出してくれ。……四葉」

「……いやだ」

ふりふり、葛藤を振り払うように、嫌なことを忘れるように。
そうやって首を振る四葉。

「いやだ、いやだ……」


────────

私が目を覚ました日、最初は困惑した。
足が動かない。周りに知らない人が沢山いて、優くんはいなかった。
でも私は、狼狽える様子を表面に出さなかった。

あの空間に溶け込みたかった。

幸い私は頭が良かった。
知らない人との会話は、少し疲れるけど可能だった。
それにあの空間、前の地獄なんかと比べたらずっっと楽しい空間だった。

優くんは決まって1人でやってくる。
後で知ったけど、俺アレルギーっていう病気らしい。

「お前、明日退院なんだってな?」

優くんはリンゴを齧っている。
私の手元にも、ウサギさんの形に切られたリンゴ。
彼は意外と器用なことを知った。

「うん、みんなのおかげ……」
「ははっ、お前も変わったな。みんなのおかげ、か、いいセリフだ」

ドキッ

最近、『変わった』という言葉に敏感な気がする。

それもそう。

もし入れ替わりが何らかの拍子でバレてしまったら、また地獄へ引き摺り下ろされてしまう。

そんなのはイヤだ。

「……たしかに変わったかも。でもね、私は私だよ?」
「なんだそれ? やっぱり、お前らしくねぇな?」
「うん」

ちょうどその時、桜が満開だった。

だからかな?

やけにその言葉を覚えてる気がする。

高校に入ってから、ようやく入れ替わった先を視界に入れた。
『四天王』というポジションに私と彼女が加わっていたからだ。

彼女の二つ名は『氷の魔女』

聞いたところによると、全ての人間を拒絶するらしい。
そして学校には、進級できるギリギリの出席日数で通っているだとか。

そんな彼女を視界に入れた。
そう、会って話すことはなかった。

私は本能的に察した。

──彼女に出会った時、入れ替わりの魔法は解けてしまう

────────

私が目を覚ました時、病室はものすごく静かだった。

だれもいない代わりに

隅に置いてある机の上には、過剰なまでにフルーツが置いてあった。
けど、全部腐っていた。

病室に鏡はない。
私が私じゃなくなったことに気づく原因は、雨宮に無視されてからだった。

トイレに向かっている途中、雨宮はリンゴの入ったポリ袋を持っていた。
私の横をすり抜け、知らない病室に入ってゆく。
トイレの手洗い場でようやく気づいた。

私は、私じゃない。

目を覚まして、少しリハビリをした。
検査の結果に異常がないと分かると、病院にリムジンが止まって、私をどこかに連れていった。

「お嬢様お願いです。この世界から足を洗ってください」

タワーマンションの最上階。
生活感のない、ハリボテみたいな広い部屋。
そういう意味では、ホテルのようにも思えた。

そんな場所で、執事と思われる人物が頭を下げる。

この世界とやらも、お嬢様であることも知らない。
だけど、逆に好都合かもしれないと、本心ではほくそ笑んでいた。

過保護な雨宮から解放され、変な演技をする必要もない。
そういう世界が手に入りそうだった。

「分かりました。少し不甲斐ないけど、貴方が言うなら仕方ないわ」

できるだけ、お嬢様らしい振る舞いと語彙を使った。

「あぁ、遂に折れてくださりますか。本当にありがとうございます」
「ええ、流石の私も完敗よ」

六十代くらいの男が、若い女に頭を下げる。
私の入れ替わり先の人物は、よほど稀有な人生をおくってきたのだろう。

「ではお約束通り、3億円の振込みと新居、学校の手配を……」
「そう、よね……約束通り」

耳を疑った。
私の抱えていた『これから』の不安を全て吹き飛ばす約束だった。
至れり尽くせりと言うか、人生イージーセットみたいなものだ。

桜が蕾をつけ始めた頃だった。
だからだろうか、異様にこの高揚感を覚えている。



雨宮のいない生活、それは私が待ち望んでいたものだ。

朝、彼を起こしに早起きしなくてもいい。
昼、彼がボッチ飯を食べているところを助けなくていい。
夜、彼のために食料を買い出さなくていい。

このルーティンがなくなるだけで、私の自由時間がかなり確保できた。
彼のために費やした時間は、私のことに当てよう、そう決心した。



……ある日の夜

寂しさは突然襲ってきた。
どうしようもない、ただ、誰かと一緒に寝たい。
安心感が欲しい、暖かさが欲しい、彼に……雨宮に頭を撫でて欲しい。

すると、ダムが決壊したように、他の欲求も流れ込んできた。

朝、雨宮を起こすついでに、彼の布団で二度寝したい。
昼、雨宮と昼食をとるついでに、笑い合いたい。
夜、食料を手渡すついでに、彼と漫画を読みたい。

自覚した。
私はいつの間にか、大きな物を失っていた。

思い出した。
本当の私は、彼との生活で幸せを感じていた。

後悔した。
私は私の幸せを、今まで手放していた。

決心した。

──木之下四葉を返してもらおう、と


────────

私の入れ替わり先が、優くんに近づいていることに勘づいた。

最初は小さな違和感からだった。
それが今では確信に変わっている。

初めはクマのぬいぐるみ。

────────

クマのぬいぐるみは失敗だった。
雨宮の成分をより補給できるように、カメラまで搭載してしまったからだ。

ただ、ストーカーという悪趣味なことはしていない。
私はただ、雨宮の生活を覗きたかっただけだ。

────────

私はクマのぬいぐるみ手にとって察した。
異様に重かったのだ。

すぐにぬいぐるみは燃やした。

案の定、中からカメラが出てきた。
車椅子で踏んづけておいた。

きっとアイツだ、私の優くんのナニを覗こうとしたのか……。

────────

次は、家に忍び込むことにした。
雨宮の母親が、鍵を茂みに隠していることは知っている。
ここにきて、幼馴染という立場のありがたさを自覚した。

彼の家には、盗聴器だけ設置した。
今回は欲張らず、成分を少しだけでも受け取ることに尽力した。
この盗聴器は今も残っている。

────────

変な女から脅された。
買い出しからの帰りだった。

「キミの中身は知ってるよ。優にバラされたくなかったら──」
「何言ってるんですか? 私は私ですよ?」
「あーあ、変な茶番癖ができちゃってる。これだからガキは……」

女はスマホをいじる。
道路を駆ける車のヘッドライトに照らされていた。

「……九条涼音、いいところのお嬢様でしょ?」

全身に血液が回る。
今すぐに逃げ出したいけど、手に力が入らない。

女は近づいてくる。
後ろに回り込んで、ハンドルを握った。
心臓を掴まれている感覚だった。

「私は海野雫。雨宮優を監視するプロジェクトの主任なんだ」
「……」

同い年に自己紹介をするみたいに言われても、警戒心は無くならない。
むしろ得体の知れなさで強固になった。

キュルキュル

車椅子は押される。
向かっている方向は、優くんの家じゃない。
反対方向……私の家。

「待って! やだ! 戻りたくない!」
「暴れても仕方ないよ? 協力するならする。
しないならしないで、私にも次の一手がある」
「分かった! 手伝う! 何でもするから!」

ピタッ、車椅子が停止する。
気がついたら、私の呼吸が荒くなっていた。

「なら、コレを優の家に置いて。できるだけ隠して、バレないようにね?」

手渡されたのは小さな機械。
レンズのようなものがあった。

「これ、小型カメラ。優の生活を差し出せば、キミは助かる」
「優くんの……生活? そんなの──」
「これは研究のためだよ? ……もしかして、エッチなこと考えてる?」
「そっ、そんなわけ!」

正直、あの人と出会ってよかったと思う。
あの人の役に立ち続ければ、私の生活は限りなく安全だったから。

────────

四葉の視線が、牢屋の錠を捉えた。
彼女の右手には鍵が握られている。

「……今までありがとう。優くんとの日常、楽しかったよ」
「よせよ、死ぬわけじゃねぇんだから」
「うん、そうだよね、えへへ。じゃあ鍵、開けるね?」
「ああ、頼む」

ガチャン

その音は、優しく響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...