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第2章 クラン結成
第25話 スタンピード
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「ワシはギルドマスター、ブロン・レジスターじゃ。皆の者、よくぞ集まってくれた。」
ギルドに突如として集められたフリーダムにいた全冒険者、総勢500名。ランク・種族ともにバラバラで考え方や行動理念なども様々。なぜ、この場に集められたのかよく分かっていない者が多数を占めており、声を発したギルドマスターを不安げな顔で見つめる。彼を頼る以外、他に方法がなかったのだ。なぜなら、異様な緊張感に包まれたこの場において、全員に耳を傾けさせ、話を進めることができる者は責任者であるギルドマスター、ただ一人だけだからだ。しかし、久しぶりにこれだけの冒険者が一堂に会することと揃っている面子の厚みに次第にざわつきがそこかしこから出てきて、ギルド内はすぐに騒々しくなってしまった。
「お、おい。あの一帯にいるのって………」
「ああ、間違いない。Bランククランが3つとAランククランが1つ………どいつもこいつも化け物揃いだ」
「人猟役者、サンバード、フォートレス、そして守護団…………あれ?Bランククランって、もう一つなかったっけ?」
「お前、知らないのか?Bランククラン愚狼隊はつい1週間程前にたった一夜で壊滅させられたんだよ」
「え、そうだったのか!?………いや、俺、その時はちょうど遠征しててよ……にしてもあのBランククランがね………あまり大したことなかったってことか?」
「馬鹿か、お前は!大した実力もなくて、そこまで登り詰められる訳ないだろうが!」
「そ、そうか」
「まぁ、お前の言いたいことも分かる。俺も初めて聞いた時は耳を疑ったさ。だが、事実だ。それによって、Bランククランなんて大したことはないと思い始めている者も少なくない。だが、良く考えてみろ。本当に大したことなかったら、何故、今まで倒されなかったのかを。あいつらに恨みがある奴なんて、ごまんといる。報復があってもおかしくないだろ?」
「確かにな」
「それがないってことはやっぱり、あいつらは只者じゃなかったってことの証明にもなる。……………まぁ、それを壊滅させた奴はもっとヤバいってことにもなるが」
「奴?複数じゃないのか?」
「あの日の夜、愚狼隊のクランハウスから出てくる人物を見た奴がいるんだと。そいつらの証言によるとどうやら、ドワーフの小娘がハンマーを担ぎながら、一人で出てきたらしい。それを不審に思ったそいつらがクランハウスを見にいくと隊員は皆死亡し、建物は跡形もなかったように破壊され尽くしていたらしい」
「おい、なんだその話」
「いや、俺だって、サッパリさ。だが、そのドワーフの小娘が最近この街を拠点に冒険者を始めたシンヤとかいう奴のパーティーメンバーなんだと」
「それで?」
「で、そのシンヤを痛い目に遭わせてやろうと画策したのが"行燈"のグスタフ………ちなみにこいつは後日、亡くなった」
「お、おい、それって」
「ああ。あいつらの間で何かしらのやり取りがあり、それが対立にまで発展したのは事実だろう………だが、一番恐ろしいのは壊滅させたのがリーダーであるシンヤですらなく、その小娘ってところだな………その時はFランクだったみたいだし」
「………なんか、御伽噺でも聞いている気分だ」
「残念ながら、これは現実だ」
――――――――――――――――――――
「皆の者、静粛に!」
ギルドマスターの一喝。これより、重いものは他にない。騒々しかったギルド内は一転して、水を打ったように静まり返った。その後、まるで児童を相手にするかのように丁寧にゆっくりと話をしていった。
「お主らを全員、呼び寄せるこの状況を異常だとは思わんかの?くだらない噂話なら、今でなくても良かろう。そんなことに無駄な時間を使って、街が滅びたら、どう責任を取るんじゃい」
「ほ、滅びる………?」
「単刀直入に言おう。今、まさにこの街に危機が迫っておる。ここから、さらに15キロほど北の街ホスベルが魔物の軍勢約1万によって、今し方、滅びた。そして、その勢いはここフリーダムにまで迫ろうとしておる。よって、ここで緊急依頼を出す。Cランク以上は強制参加、それ以外は好きにせい。ただ、一つ言っておく。ここを守れなかったら、何もかもお終いじゃ。次はどこを標的にするか分からん。今から逃げてもおそらく、追いつかれてしまうじゃろう」
「つ、つまり、この状況は…………」
「スタンピードじゃ」
――――――――――――――――――――
せっかく初めて、通常依頼を受けようと思ったのに。魔物の軍勢だって?どのタイミングで来てんだよ。これじゃあ、初めてが緊急依頼ってことになるじゃねぇか…………まぁ、それはそれでアリか。
「よし、ちゃっちゃと片付けるか」
「そうしましょう」
「通常の依頼がなければ、緊急の依頼を受ければいいですわ」
「腕が鳴るぜ」
「カグヤ、それ、ばっかり」
「イヴちゃん、大丈夫?」
「妾を子供扱いするでないわ!これでもお主より、歳上じゃぞ!」
「あいつら、何であんなに緊張感がないんだ」
「恐怖で頭がおかしくなったんじゃないか?」
しかし、彼らの予想が大きく覆されるのはこのわずか30分後であった。
――――――――――――――――――――
「皆の者、用意はいいな?」
門の前に並んだ冒険者達。皆、いずれ来たるその時を今か今かと待っていた。遠くまで様子を見にいった伝令が戻ってくるまでの間、逸る気持ちを抑え、必死に恐怖と戦いながら、自身や仲間を鼓舞する。とにかく、何かに意識を割いていないと頭がおかしくなってしまうのではないか、それほど日常とはかけ離れた緊急の事態。中には遺言を書いている者や神に祈りを捧げ自らの無事を願う者、どこから湧いてくるのか自信に満ち溢れている者などもいた。静寂が場を支配し、緊張感で包まれたこの状況を誰もが早く脱したいと思っているとギルドマスターに声を掛ける者がいた。
「時間が勿体ないから、俺達は先に行くわ」
「………は?お主、今、なんと」
「さて………お前ら!1人1000匹は最低ライン。誰が一番多く狩れるか勝負だ。ちなみに勝負中、あることに気が付いた奴にはボーナスポイントを進呈しよう。そして、1位の奴には何でも一つだけ、俺のできる範囲で願いを叶えてやる」
「何でも………」
「そ、そんな………あんなことやこんなことも」
「勝負とあっちゃ負けてらんないな!」
「シンヤの、ナデナデ、もらう」
「本当に大丈夫ですか、イヴちゃん」
「だから、大丈夫と言うておろうが!お主、しつこいぞ」
突然のシンヤの奇行に呆気に取られた冒険者達を残して、彼らは魔物達がやって来るであろう方向へと走りだした。
――――――――――――――――――――
「ここが俺の担当場所か」
俺達はそれぞれ別々の場所で狩りを行うことになった。じゃないと効率が悪いし、勝負がかかっている状態で共闘などはできないだろう。
「来やがったな…………居合い!」
俺は向かってくる魔物共に抜刀して斬りかかった。
「鎌鼬!」
返す刀で無数の剣閃が煌めき、一斉に魔物を襲う。
「漣!」
振り下ろし終えた刀を左から右へと横に薙ぎ、横一文字の血線を作る。
「風来!」
手首のスナップをきかせ、左斜め上へ斬り上げる。
「龍道!」
最後に手首を返し、真正面へと斬り下ろす。
「………こんなもんか」
これで俺に向かって来ている魔物の半分近くを狩れた。
「あとは魔法でいこう」
――――――――――――――――――――
「今回こそは誰にも譲りません!」
私、ティアは鼻息も荒く、魔物を見据える。それに対して、一瞬、動きが止まりそうになったのは私に恐怖心を抱いてのことか、はたまた全く別の理由からか………でも、そんなことはどうでもいいんです!今回だけはどうしても勝たないといけないんです!なぜなら、
「最近、私の影が薄いからです!私が一番古株なのに!…………紫電一閃!」
怒りに任せて、剣を振るう。そこには雷光を纏った剣の切れ味の恐ろしさが体現されており、餌食となった魔物の気の毒さと剣士としての技量の高さが浮き彫りとなっていた。
「さらに限界突破!そして、紫電一葬!」
全力の突きが魔物達に直撃し、半径10メートルに渡って被害を及ぼす。正面で受けた魔物・余波を浴びた魔物、ともに絶命し、後には焼け焦げた無数の屍が転がっているだけだった。しかし、
「これからが本番です………さぁ、殺りますよ」
奥からはまだ魔物が止まることなく、こちら目掛けて一直線に突き進んできていた。
――――――――――――――――――――
「メテオレイン!」
私は魔法を撃ちながら、考えますわ。1位になったら、どんなお願いをしようかと。ティアはよく「古株なのに!」とか言っていますが、あなたはまだマシでしてよ。一番キャラが薄くて、スルーされがちなのは私ですわ。ですから、今回こそは勝って、私の存在を強くアピールしなければなりませんわ。だから、
「絶対に負ける訳にはいかなくてよ!ウインドクラッシャー!」
おそらく、優勝候補筆頭はティアですわね。シンヤさんを除いて、一番強いのは勿論、シンヤさんが絡んだ時の異常なパワーは目を見張りますわ。
「これはウカウカしていられませんわ!ウォーターランページ!」
でも、油断は大敵。後輩達も奥の手を隠し持っているかもしれませんわ。というか絶対持ってますわね。全く………キャラも濃くて、潜在能力もとんでもないなんて、ずるいですわ。ただ、
「私にもありましてよ………奥の手が」
――――――――――――――――――――
「二刀流……二兎追者」
2本の太刀から放たれた太く大きな斬撃がそれぞれ魔物を襲う。そこかしこから、悲鳴が上がり、薙ぎ倒された木々の下敷きとなった魔物は声の代わりに顔で最期の瞬間を表現していた。
「サンダーロック!」
触れた側から感電する大きな岩を頭上から、落としていく。見たことのない魔法に無警戒で突っ込んでくる魔物は格好の餌だ。
「風化!」
魔物達の進む地盤が緩み、陥没していく。それはシンヤ達と初めて会った時に見た魔法だった。今度は使う側になっていることに少し嬉しさはある。しかし、
「あの時から、少しは成長したのかな」
同時に不安にもなる。奴隷商の店主は前向きになったと言ってくれたが、シンヤのパーティーメンバーは強者揃い。そんな中で果たして、自分はこの先もやっていけるのだろうか。
「深く考えても仕方ない!今後も楽しくやっていく為にまずは今回の勝負でいい結果を残さないとな」
アタシは2本の刀を構え、まだまだ向かってくる魔物に備えた。
――――――――――――――――――――
「一振爆砕!」
ノエがハンマーを振るうと魔物達がドミノ倒しのように倒れていく。他のところはどうか分からないけど、ここは結構酷いことになってる。木々が根元から折れ、地面には穴が開き、あちこちに魔物の亡骸が散らばっている。
「アースクエイク!」
ノエは焦っていた。ついこの間、Bランククランを1つ潰したばっかりだが、それで満足はできない。なぜならば、ノエが強くなればなるほど、先輩達の偉大さがはっきりと分かるから。
「駒割り!」
ほんの少しでも気は抜かない。いくら、経験に差があってもそれが勝ち負けに直結しているとは限らない。後輩にもきっと勝機はある。
「ノエの、とこに、いっぱい、来い」
あとはちゃんと運にも頼ろう。
――――――――――――――――――――
「無限転刃!」
薙刀をあらゆる動き・角度・速さで回転させ、魔物達を切り裂いていく。私が通り過ぎたところにはうず高く積まれた骸があります。
「塔獲り!」
魔物の頭を刎ねる効率的な技も使い、標的を次々に変えながら、私は縦横無尽に駆け回ります。そもそも本来の私はこんなに好戦的な性格ではないんです。今回が特別なだけなんです。
「一心突き!」
私は生まれのせいにする訳ではありませんが、比較的平和と思われる国に住んでいました。その時点で皆さんに慣れという点においてはリードを許してしまっています。
「飛葬薙ひそうてい!」
なので、ここでもさらに遅れをとる訳にはいかないのです!あと、シンヤさんのご褒美、欲しいです!
「さぁ、頑張りますよー!」
――――――――――――――――――――
「主ら……一体」
愛しの鎌を撫でながら、妾は魔物達に近付いた。先程から魔物達の挙動がどこかおかしかったのじゃ。具体的に言うと、魔物達の動きは己が意志で行っているものとは到底思えず、不自然だった。案の定、近寄って確認してみると眼が真っ赤に充血し、意識がなかった。
「なるほど………もしや、何者かに操られておるな?」
こんなことを裏でしでかす奴など碌なもんではない。この時点で今回のスタンピードが自然発生ではなく、人為的なものの可能性が出てきたのじゃが…………
「だから、どうしたというんじゃ………血の降りしきる雨!」
妾にとって重要なのはそんなことではない。いかにして、より多くのポイントを稼ぐかなのじゃ。血液操作により、触れた者を問答無用であの世へと送る血の雨が降り続ける中、次の策を考えながら、
「死の大鎌!」
愛鎌を横に大きく振るった。
ギルドに突如として集められたフリーダムにいた全冒険者、総勢500名。ランク・種族ともにバラバラで考え方や行動理念なども様々。なぜ、この場に集められたのかよく分かっていない者が多数を占めており、声を発したギルドマスターを不安げな顔で見つめる。彼を頼る以外、他に方法がなかったのだ。なぜなら、異様な緊張感に包まれたこの場において、全員に耳を傾けさせ、話を進めることができる者は責任者であるギルドマスター、ただ一人だけだからだ。しかし、久しぶりにこれだけの冒険者が一堂に会することと揃っている面子の厚みに次第にざわつきがそこかしこから出てきて、ギルド内はすぐに騒々しくなってしまった。
「お、おい。あの一帯にいるのって………」
「ああ、間違いない。Bランククランが3つとAランククランが1つ………どいつもこいつも化け物揃いだ」
「人猟役者、サンバード、フォートレス、そして守護団…………あれ?Bランククランって、もう一つなかったっけ?」
「お前、知らないのか?Bランククラン愚狼隊はつい1週間程前にたった一夜で壊滅させられたんだよ」
「え、そうだったのか!?………いや、俺、その時はちょうど遠征しててよ……にしてもあのBランククランがね………あまり大したことなかったってことか?」
「馬鹿か、お前は!大した実力もなくて、そこまで登り詰められる訳ないだろうが!」
「そ、そうか」
「まぁ、お前の言いたいことも分かる。俺も初めて聞いた時は耳を疑ったさ。だが、事実だ。それによって、Bランククランなんて大したことはないと思い始めている者も少なくない。だが、良く考えてみろ。本当に大したことなかったら、何故、今まで倒されなかったのかを。あいつらに恨みがある奴なんて、ごまんといる。報復があってもおかしくないだろ?」
「確かにな」
「それがないってことはやっぱり、あいつらは只者じゃなかったってことの証明にもなる。……………まぁ、それを壊滅させた奴はもっとヤバいってことにもなるが」
「奴?複数じゃないのか?」
「あの日の夜、愚狼隊のクランハウスから出てくる人物を見た奴がいるんだと。そいつらの証言によるとどうやら、ドワーフの小娘がハンマーを担ぎながら、一人で出てきたらしい。それを不審に思ったそいつらがクランハウスを見にいくと隊員は皆死亡し、建物は跡形もなかったように破壊され尽くしていたらしい」
「おい、なんだその話」
「いや、俺だって、サッパリさ。だが、そのドワーフの小娘が最近この街を拠点に冒険者を始めたシンヤとかいう奴のパーティーメンバーなんだと」
「それで?」
「で、そのシンヤを痛い目に遭わせてやろうと画策したのが"行燈"のグスタフ………ちなみにこいつは後日、亡くなった」
「お、おい、それって」
「ああ。あいつらの間で何かしらのやり取りがあり、それが対立にまで発展したのは事実だろう………だが、一番恐ろしいのは壊滅させたのがリーダーであるシンヤですらなく、その小娘ってところだな………その時はFランクだったみたいだし」
「………なんか、御伽噺でも聞いている気分だ」
「残念ながら、これは現実だ」
――――――――――――――――――――
「皆の者、静粛に!」
ギルドマスターの一喝。これより、重いものは他にない。騒々しかったギルド内は一転して、水を打ったように静まり返った。その後、まるで児童を相手にするかのように丁寧にゆっくりと話をしていった。
「お主らを全員、呼び寄せるこの状況を異常だとは思わんかの?くだらない噂話なら、今でなくても良かろう。そんなことに無駄な時間を使って、街が滅びたら、どう責任を取るんじゃい」
「ほ、滅びる………?」
「単刀直入に言おう。今、まさにこの街に危機が迫っておる。ここから、さらに15キロほど北の街ホスベルが魔物の軍勢約1万によって、今し方、滅びた。そして、その勢いはここフリーダムにまで迫ろうとしておる。よって、ここで緊急依頼を出す。Cランク以上は強制参加、それ以外は好きにせい。ただ、一つ言っておく。ここを守れなかったら、何もかもお終いじゃ。次はどこを標的にするか分からん。今から逃げてもおそらく、追いつかれてしまうじゃろう」
「つ、つまり、この状況は…………」
「スタンピードじゃ」
――――――――――――――――――――
せっかく初めて、通常依頼を受けようと思ったのに。魔物の軍勢だって?どのタイミングで来てんだよ。これじゃあ、初めてが緊急依頼ってことになるじゃねぇか…………まぁ、それはそれでアリか。
「よし、ちゃっちゃと片付けるか」
「そうしましょう」
「通常の依頼がなければ、緊急の依頼を受ければいいですわ」
「腕が鳴るぜ」
「カグヤ、それ、ばっかり」
「イヴちゃん、大丈夫?」
「妾を子供扱いするでないわ!これでもお主より、歳上じゃぞ!」
「あいつら、何であんなに緊張感がないんだ」
「恐怖で頭がおかしくなったんじゃないか?」
しかし、彼らの予想が大きく覆されるのはこのわずか30分後であった。
――――――――――――――――――――
「皆の者、用意はいいな?」
門の前に並んだ冒険者達。皆、いずれ来たるその時を今か今かと待っていた。遠くまで様子を見にいった伝令が戻ってくるまでの間、逸る気持ちを抑え、必死に恐怖と戦いながら、自身や仲間を鼓舞する。とにかく、何かに意識を割いていないと頭がおかしくなってしまうのではないか、それほど日常とはかけ離れた緊急の事態。中には遺言を書いている者や神に祈りを捧げ自らの無事を願う者、どこから湧いてくるのか自信に満ち溢れている者などもいた。静寂が場を支配し、緊張感で包まれたこの状況を誰もが早く脱したいと思っているとギルドマスターに声を掛ける者がいた。
「時間が勿体ないから、俺達は先に行くわ」
「………は?お主、今、なんと」
「さて………お前ら!1人1000匹は最低ライン。誰が一番多く狩れるか勝負だ。ちなみに勝負中、あることに気が付いた奴にはボーナスポイントを進呈しよう。そして、1位の奴には何でも一つだけ、俺のできる範囲で願いを叶えてやる」
「何でも………」
「そ、そんな………あんなことやこんなことも」
「勝負とあっちゃ負けてらんないな!」
「シンヤの、ナデナデ、もらう」
「本当に大丈夫ですか、イヴちゃん」
「だから、大丈夫と言うておろうが!お主、しつこいぞ」
突然のシンヤの奇行に呆気に取られた冒険者達を残して、彼らは魔物達がやって来るであろう方向へと走りだした。
――――――――――――――――――――
「ここが俺の担当場所か」
俺達はそれぞれ別々の場所で狩りを行うことになった。じゃないと効率が悪いし、勝負がかかっている状態で共闘などはできないだろう。
「来やがったな…………居合い!」
俺は向かってくる魔物共に抜刀して斬りかかった。
「鎌鼬!」
返す刀で無数の剣閃が煌めき、一斉に魔物を襲う。
「漣!」
振り下ろし終えた刀を左から右へと横に薙ぎ、横一文字の血線を作る。
「風来!」
手首のスナップをきかせ、左斜め上へ斬り上げる。
「龍道!」
最後に手首を返し、真正面へと斬り下ろす。
「………こんなもんか」
これで俺に向かって来ている魔物の半分近くを狩れた。
「あとは魔法でいこう」
――――――――――――――――――――
「今回こそは誰にも譲りません!」
私、ティアは鼻息も荒く、魔物を見据える。それに対して、一瞬、動きが止まりそうになったのは私に恐怖心を抱いてのことか、はたまた全く別の理由からか………でも、そんなことはどうでもいいんです!今回だけはどうしても勝たないといけないんです!なぜなら、
「最近、私の影が薄いからです!私が一番古株なのに!…………紫電一閃!」
怒りに任せて、剣を振るう。そこには雷光を纏った剣の切れ味の恐ろしさが体現されており、餌食となった魔物の気の毒さと剣士としての技量の高さが浮き彫りとなっていた。
「さらに限界突破!そして、紫電一葬!」
全力の突きが魔物達に直撃し、半径10メートルに渡って被害を及ぼす。正面で受けた魔物・余波を浴びた魔物、ともに絶命し、後には焼け焦げた無数の屍が転がっているだけだった。しかし、
「これからが本番です………さぁ、殺りますよ」
奥からはまだ魔物が止まることなく、こちら目掛けて一直線に突き進んできていた。
――――――――――――――――――――
「メテオレイン!」
私は魔法を撃ちながら、考えますわ。1位になったら、どんなお願いをしようかと。ティアはよく「古株なのに!」とか言っていますが、あなたはまだマシでしてよ。一番キャラが薄くて、スルーされがちなのは私ですわ。ですから、今回こそは勝って、私の存在を強くアピールしなければなりませんわ。だから、
「絶対に負ける訳にはいかなくてよ!ウインドクラッシャー!」
おそらく、優勝候補筆頭はティアですわね。シンヤさんを除いて、一番強いのは勿論、シンヤさんが絡んだ時の異常なパワーは目を見張りますわ。
「これはウカウカしていられませんわ!ウォーターランページ!」
でも、油断は大敵。後輩達も奥の手を隠し持っているかもしれませんわ。というか絶対持ってますわね。全く………キャラも濃くて、潜在能力もとんでもないなんて、ずるいですわ。ただ、
「私にもありましてよ………奥の手が」
――――――――――――――――――――
「二刀流……二兎追者」
2本の太刀から放たれた太く大きな斬撃がそれぞれ魔物を襲う。そこかしこから、悲鳴が上がり、薙ぎ倒された木々の下敷きとなった魔物は声の代わりに顔で最期の瞬間を表現していた。
「サンダーロック!」
触れた側から感電する大きな岩を頭上から、落としていく。見たことのない魔法に無警戒で突っ込んでくる魔物は格好の餌だ。
「風化!」
魔物達の進む地盤が緩み、陥没していく。それはシンヤ達と初めて会った時に見た魔法だった。今度は使う側になっていることに少し嬉しさはある。しかし、
「あの時から、少しは成長したのかな」
同時に不安にもなる。奴隷商の店主は前向きになったと言ってくれたが、シンヤのパーティーメンバーは強者揃い。そんな中で果たして、自分はこの先もやっていけるのだろうか。
「深く考えても仕方ない!今後も楽しくやっていく為にまずは今回の勝負でいい結果を残さないとな」
アタシは2本の刀を構え、まだまだ向かってくる魔物に備えた。
――――――――――――――――――――
「一振爆砕!」
ノエがハンマーを振るうと魔物達がドミノ倒しのように倒れていく。他のところはどうか分からないけど、ここは結構酷いことになってる。木々が根元から折れ、地面には穴が開き、あちこちに魔物の亡骸が散らばっている。
「アースクエイク!」
ノエは焦っていた。ついこの間、Bランククランを1つ潰したばっかりだが、それで満足はできない。なぜならば、ノエが強くなればなるほど、先輩達の偉大さがはっきりと分かるから。
「駒割り!」
ほんの少しでも気は抜かない。いくら、経験に差があってもそれが勝ち負けに直結しているとは限らない。後輩にもきっと勝機はある。
「ノエの、とこに、いっぱい、来い」
あとはちゃんと運にも頼ろう。
――――――――――――――――――――
「無限転刃!」
薙刀をあらゆる動き・角度・速さで回転させ、魔物達を切り裂いていく。私が通り過ぎたところにはうず高く積まれた骸があります。
「塔獲り!」
魔物の頭を刎ねる効率的な技も使い、標的を次々に変えながら、私は縦横無尽に駆け回ります。そもそも本来の私はこんなに好戦的な性格ではないんです。今回が特別なだけなんです。
「一心突き!」
私は生まれのせいにする訳ではありませんが、比較的平和と思われる国に住んでいました。その時点で皆さんに慣れという点においてはリードを許してしまっています。
「飛葬薙ひそうてい!」
なので、ここでもさらに遅れをとる訳にはいかないのです!あと、シンヤさんのご褒美、欲しいです!
「さぁ、頑張りますよー!」
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「主ら……一体」
愛しの鎌を撫でながら、妾は魔物達に近付いた。先程から魔物達の挙動がどこかおかしかったのじゃ。具体的に言うと、魔物達の動きは己が意志で行っているものとは到底思えず、不自然だった。案の定、近寄って確認してみると眼が真っ赤に充血し、意識がなかった。
「なるほど………もしや、何者かに操られておるな?」
こんなことを裏でしでかす奴など碌なもんではない。この時点で今回のスタンピードが自然発生ではなく、人為的なものの可能性が出てきたのじゃが…………
「だから、どうしたというんじゃ………血の降りしきる雨!」
妾にとって重要なのはそんなことではない。いかにして、より多くのポイントを稼ぐかなのじゃ。血液操作により、触れた者を問答無用であの世へと送る血の雨が降り続ける中、次の策を考えながら、
「死の大鎌!」
愛鎌を横に大きく振るった。
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俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
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