俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第121話 服屋

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服屋"CーLスィーエル"。スィーエルが店長を務め、桃組の組員達が店員をしているこの店は例の一角にあった。元々、これは組員達の希望で始まったことだった。どうやら皆、ファッションに興味があり、服自体がとても好きだったようだ。この世界では魔物や不測の事態によって常に死と隣り合わせの暮らしが日常茶飯事。いくら冒険者でない人々であってもそのリスクはある。そんな中、服といえばいつでも緊急事態に備えられるよう動きやすさを重視した特にこたわりのない格好や冒険者達でいうと防具を常に身に着けているといったことがほとんどであった。しかし、彼女達は違った。美しく綺麗な格好や可愛いくて癒される格好を自分達がしてみたり、はたまた他人がそういう格好をしているのを見るのが好きだったみたいだ。そして、俺が何かやりたいことはないのかとスィーエルに訊いた時、その場では特に思い付かず後日、彼女達にそれとなく話を振ってみたら、服屋をやりたいという答えが返ってきたらしい。ちなみにスィーエルは服自体にそもそも関心を向けたことがなかったが組員達から服について学んでいくうちにどんどん興味が芽生え、今では店長として堂々と胸を張れるほど知識も関心も最もあるくらいにまで成長した。だが、問題は客が来るのかどうかである。結果を求めず、ただの自己満足で終わってしまえば、それは商売ではない。もちろん、本人達が楽しいと思えることが大前提なのは確かなのだが、それだけではいけない。商品を製造し、それを仕入れて店内に並べ、販売する。そこには様々なコストがかかり、黒字を見据えてやっていかなくてはならないのだ。加えて客に提供するのだから、価格と品質もちゃんと考える必要がある。ちなみに"C-L"は低価格・高品質であり、気軽に立ち寄れる外観と落ち着いた内装でもって展開している。そして、服なのだがこれはクランハウスの敷地内に異空間を設置し、その中で自分達の手によって直接製造しているのだ。イメージとしてはその異空間に服を製造する工場のようなものがあり、魔法や魔道具を用いて、組員達が交代で製造しているのだ。どんな服を製造するかだが、来店した客にそれとなくどんな服があったら嬉しいかを訊いてその答えを参考にしたり、スィーエルと組員達で会議を行って、アイデアを出し合うといった形で決めている。ところで大量に売れてしまった場合は製造が間に合わないのではないかと思う者もいるかもしれない。しかし、その心配は杞憂である。何故なら、工場のある異空間の中は時間の流れが特殊で通常の10分の1のスピードでしか進まない為、どれだけ売れようがよっぽどのことがない限り、間に合うようになっているのだ。それに酒屋と同じ手法を使って人数制限を設け、1日200人までにしているし、営業中も店内で働いている店員以外の組員達は工場で製造している。間に合わない訳がなかった。で、肝心の売り上げだが………………とてつもなく好調であった。邪神の件が終わり、復興でバタバタしているとはいえ少しでも落ち着いたり癒されたいと思った服好きの客が来店し、そこで気に入った服を買ってストレスを発散する。または何気なく立ち寄って、自分の欲しいものが手に入ったから、もう一度来たといったような感じで新規もリピーターも上手いこと獲得できているような状態であった。それは今、まさに店内にいる俺も同じで………………

「うんっ!これがいいデス!とってもお似合いデス!」

「そうか。選んでくれて、ありがとな」

スィーエルに全身コーディネートをしてもらっていた。視察でふらっと立ち寄っただけだったんだが、そういえば持っている服のバリエーションが少なかったと思い、そのことをスィーエルに告げると張り切って用意してくれたのだ。

「やっぱり、見た目がいいとさらに映えるデス!」

「それはお前もだろ?お前があまりにも可愛いから、服も喜んでるぞ」

「ふあっ!?な、な、何デスと!?よく聞こえなかったので、も、もう一度」

「言わない言わない」

俺はどこかデジャヴを感じながら、服を買って、その場を後にした。店を出る直前、どこか物欲しそうな目をしていた店員達がやけに印象的だった。
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