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第9章 フォレスト国
第151話 巣立ち
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「本当に行くのか?」
「うん。もう決めたことだから」
戴冠式の後、城の中で新王誕生を祝して盛大なパーティーが開かれたのが昨日。それに伴い、希望者はたとえ貴族でなかったとしても招き入れ、無礼講という形で飲食が行われた。そして、その千載一遇のチャンスを使い、城を探索する者や貴族と横の繋がりを作る為に奔走する者、また王子達に色目を使う者など実に様々な目的を持った参加者達で部屋が溢れ返っていた。そんな中、やはりというべきかリースの元にも複数の男達が群がっていたのは遠目でも分かった。しかし、そんな状態もすぐに解かれた。いい加減鬱陶しくなったリースがこう宣言したからだ。
「もう!いくら言い寄られても応えられないって!だって、僕には既に心に決めた人がいるんだから!……………え?誰か教えてもらわなきゃ諦めきれないって?そ、それは…………わ、分かったよ!言うから!そしたら、もうこんなことしないでよ?いい?僕の想い人は……………シンヤなんだ」
直後、その場全体が静寂に包まれ、そこにいた全ての者達に知れ渡ることとなった。仮にその場にいなかったとしても口伝えでいずれは全国民に知れ渡ることとなるだろう。とまぁ、そんなことがあり、パーティーがお開きになった後は前フォレスト王アースの私室に呼ばれ、フォレスト家全員が揃っている前でリースとのこれまでを話した。流石に内容が濃すぎたのか、王の間ではおっとりとしていた女王ですら、驚きで顔が七変化していた。そして、一通り話が終わった頃を見計らったアースは最後にこう訊いてきた。
「それでリース、お前はこれからどうするんだ?」
それに対しリースは一言、
「この国を出て、シンヤと共に生きていきたい」
と即答した。そこから日が明けた今日、フォレスト国での用事を全て済ませた俺達はフリーダムへ帰還しようとしていた。現在、あと一歩で城の敷地外という場所で駆けつけたアース達に見送りを受けていたのだ。
「お前はワシのたった1人の娘だ。たとえ、どこにいようともワシは常にお前の無事と幸せを願い続けている」
「お父様……………」
「…………疲れたらいつでも帰ってきなさい」
「お父ざ~~~ん!うわああぁぁ~~ん!」
「こらこら…………相変わらず、泣き虫だな」
父と娘はお互いを想い抱き合った。娘は大きな声で泣いた。涙が枯れ果てるほど泣いた。父は娘の涙や鼻水で服が汚れるのも構わず、背中を摩っていた。ステータス値がえらいことになっている娘の怪力に必死に耐えながら、まるで赤子を相手するようにあやした。それでも力が加減されることはなかった。見かねた俺は声をかける。
「リース、俺にも挨拶させてくれ」
「うぅ…………ぐすんっ。いいよ」
助かったと目で合図を送ってきたアース。俺は頭を下げるとこう言った。
「あなたの娘は今後、俺が責任を持って守らせて頂く。この世のありとあらゆる脅威から、悪意から、理不尽から、そして彼女を脅かす全てから」
「リースの人生に責任を持つと?」
「ああ。彼女が常に笑顔でいられることを誓おう」
「そうか」
「約束する。リースが幸せに笑い合える環境を作ってみせると」
「分かった。リースのこと、よろしく頼む。それから、この度は大変世話になった。色々とありがとう」
「気にするな。俺がしたくてしたことだ。それと報酬はきちんともらっている」
「英雄殿にとっては微々たる金だと思うが」
「茶化すな。あれにはお前達の想いも込められているんだ。安くはない。それにもっといいものをもらってる」
そう言って、とある方をチラッと見るシンヤ。つられてアースも見てみるとそこにはカグヤ達と楽しそうに話すリースがいた。
「…………既に約束は果たしてもらっているようだな」
「まだまだこれからだ。リースにはもっと色々な景色を見せてやりたい」
「そこまで考えていてくれているのはありがたい。リースめ。どうやら、とんでもなく良い男と出会ったようだな。フォッフォッフォッ」
「突然、笑い出すな。気持ち悪い」
「辛辣だな。仮にも一国の王に向かって」
「元だろ…………新しい王なら、そこにいる」
シンヤが目を向けたからか、ようやくといった感じで新王達が声をかけてきた。
「やっと話せるな」
「待ちくたびれたぞ」
「悪いな」
「いや、それを言うのはこちらの方だ。今回は本当に助かった。ありがとう」
「ありがとう。シンヤがいなかったら、どうなっていたことか」
「礼なら昨日、何度も言ってもらったからいい。それと俺はキッカケに過ぎない。今回、一番の立役者はリースで間違いないぞ」
「……………シンヤがそう言うなら」
「だが、勝手に感謝させてもらう分にはいいだろ?」
「強引だな」
「お前に言われたくはない」
「ああ、全くだ」
「とにかく、俺は俺にできることをやったまでだ。これからのフォレスト国はお前らに懸かってるんだぞ」
「ああ、分かっている。こちらのことは心配するな。それよりもリースのことをよろしく頼む。色々と面倒をかけると思うが」
「あいつはとても良い奴だ。他人の為に動くことができる。それに一緒にいるとこっちまで元気になるぞ」
「まぁ、でも一番最初に出会った時と今とでは別人かってぐらい違うから、多少驚かされたがな」
「昨日、聞かせてくれた迷宮都市でのことだろ?まぁ、なんだ。あいつにも色々とあるんだと思う。許してやってくれ」
「そもそも気にしてないぞ。リースに再会するまで忘れていたぐらいだからな」
「…………相変わらずだな」
「?何がだ?」
「いや、何でもない。それよりも母上からもご挨拶があるそうなんだがいいか?」
「もちろんだ」
新王達と交代する形でシンヤの前へと進み出たのは女王ムース・フォレストだった。軽く動いただけで気品の良さや美しさが醸し出されるほど洗練されていた。
「昨日に引き続き、ご挨拶させて頂きます。フォレスト国女王ムース・フォレストでございます。この度は重ね重ね、ご支援賜りまして誠に有難うございます」
「おい、からかっているだろ」
昨日、話をしたシンヤには女王の性格が分かっていた。気遣いができ、優しく、上品。一方でとてもお茶目な性格をしていた。
「あれ?バレちゃったかしら~?フフフッ」
「俺がそういう堅苦しいのが得意ではないってこと知ってるだろ。あと笑い方も上品だな」
「フフフッ。面白い方。私にこんな口の利き方をするのはそうそういなくてよ?」
「人妻なのがもったいないほど綺麗で愛嬌もあるな。結婚していなければ、リースと共にここから連れ出していたところだ」
「まぁ」
「おいおい、シンヤ!ワシの妻じゃぞ!分かっておるのか!?」
「落ち着け。半分、冗談だ」
「半分は本気なんだな!?」
「娘をよろしくお願い致します」
「いや、どのタイミングで頼んでんじゃい!」
「ああ、任せろ」
「ってワシを無視するな~!」
新たな旅立ちは明るく楽しく騒がしく……………一行はフォレスト国を出立し、目的地であるフリーダムを目指す。"元気で"という言葉を背で聞きながら、試しに視界に入れると見えなくなるギリギリまで新たな門出を祝し、見送りを続けてくれているのが分かった。そこから国を出る直前までリースは俯きながら歩いていたが、誰もそれに触れることはなかった。そして、とうとう門を越え国を出たところでリースは一度だけ後ろへ振り返るとスッキリとした顔で一言、呟いた。
「行ってきます」
「うん。もう決めたことだから」
戴冠式の後、城の中で新王誕生を祝して盛大なパーティーが開かれたのが昨日。それに伴い、希望者はたとえ貴族でなかったとしても招き入れ、無礼講という形で飲食が行われた。そして、その千載一遇のチャンスを使い、城を探索する者や貴族と横の繋がりを作る為に奔走する者、また王子達に色目を使う者など実に様々な目的を持った参加者達で部屋が溢れ返っていた。そんな中、やはりというべきかリースの元にも複数の男達が群がっていたのは遠目でも分かった。しかし、そんな状態もすぐに解かれた。いい加減鬱陶しくなったリースがこう宣言したからだ。
「もう!いくら言い寄られても応えられないって!だって、僕には既に心に決めた人がいるんだから!……………え?誰か教えてもらわなきゃ諦めきれないって?そ、それは…………わ、分かったよ!言うから!そしたら、もうこんなことしないでよ?いい?僕の想い人は……………シンヤなんだ」
直後、その場全体が静寂に包まれ、そこにいた全ての者達に知れ渡ることとなった。仮にその場にいなかったとしても口伝えでいずれは全国民に知れ渡ることとなるだろう。とまぁ、そんなことがあり、パーティーがお開きになった後は前フォレスト王アースの私室に呼ばれ、フォレスト家全員が揃っている前でリースとのこれまでを話した。流石に内容が濃すぎたのか、王の間ではおっとりとしていた女王ですら、驚きで顔が七変化していた。そして、一通り話が終わった頃を見計らったアースは最後にこう訊いてきた。
「それでリース、お前はこれからどうするんだ?」
それに対しリースは一言、
「この国を出て、シンヤと共に生きていきたい」
と即答した。そこから日が明けた今日、フォレスト国での用事を全て済ませた俺達はフリーダムへ帰還しようとしていた。現在、あと一歩で城の敷地外という場所で駆けつけたアース達に見送りを受けていたのだ。
「お前はワシのたった1人の娘だ。たとえ、どこにいようともワシは常にお前の無事と幸せを願い続けている」
「お父様……………」
「…………疲れたらいつでも帰ってきなさい」
「お父ざ~~~ん!うわああぁぁ~~ん!」
「こらこら…………相変わらず、泣き虫だな」
父と娘はお互いを想い抱き合った。娘は大きな声で泣いた。涙が枯れ果てるほど泣いた。父は娘の涙や鼻水で服が汚れるのも構わず、背中を摩っていた。ステータス値がえらいことになっている娘の怪力に必死に耐えながら、まるで赤子を相手するようにあやした。それでも力が加減されることはなかった。見かねた俺は声をかける。
「リース、俺にも挨拶させてくれ」
「うぅ…………ぐすんっ。いいよ」
助かったと目で合図を送ってきたアース。俺は頭を下げるとこう言った。
「あなたの娘は今後、俺が責任を持って守らせて頂く。この世のありとあらゆる脅威から、悪意から、理不尽から、そして彼女を脅かす全てから」
「リースの人生に責任を持つと?」
「ああ。彼女が常に笑顔でいられることを誓おう」
「そうか」
「約束する。リースが幸せに笑い合える環境を作ってみせると」
「分かった。リースのこと、よろしく頼む。それから、この度は大変世話になった。色々とありがとう」
「気にするな。俺がしたくてしたことだ。それと報酬はきちんともらっている」
「英雄殿にとっては微々たる金だと思うが」
「茶化すな。あれにはお前達の想いも込められているんだ。安くはない。それにもっといいものをもらってる」
そう言って、とある方をチラッと見るシンヤ。つられてアースも見てみるとそこにはカグヤ達と楽しそうに話すリースがいた。
「…………既に約束は果たしてもらっているようだな」
「まだまだこれからだ。リースにはもっと色々な景色を見せてやりたい」
「そこまで考えていてくれているのはありがたい。リースめ。どうやら、とんでもなく良い男と出会ったようだな。フォッフォッフォッ」
「突然、笑い出すな。気持ち悪い」
「辛辣だな。仮にも一国の王に向かって」
「元だろ…………新しい王なら、そこにいる」
シンヤが目を向けたからか、ようやくといった感じで新王達が声をかけてきた。
「やっと話せるな」
「待ちくたびれたぞ」
「悪いな」
「いや、それを言うのはこちらの方だ。今回は本当に助かった。ありがとう」
「ありがとう。シンヤがいなかったら、どうなっていたことか」
「礼なら昨日、何度も言ってもらったからいい。それと俺はキッカケに過ぎない。今回、一番の立役者はリースで間違いないぞ」
「……………シンヤがそう言うなら」
「だが、勝手に感謝させてもらう分にはいいだろ?」
「強引だな」
「お前に言われたくはない」
「ああ、全くだ」
「とにかく、俺は俺にできることをやったまでだ。これからのフォレスト国はお前らに懸かってるんだぞ」
「ああ、分かっている。こちらのことは心配するな。それよりもリースのことをよろしく頼む。色々と面倒をかけると思うが」
「あいつはとても良い奴だ。他人の為に動くことができる。それに一緒にいるとこっちまで元気になるぞ」
「まぁ、でも一番最初に出会った時と今とでは別人かってぐらい違うから、多少驚かされたがな」
「昨日、聞かせてくれた迷宮都市でのことだろ?まぁ、なんだ。あいつにも色々とあるんだと思う。許してやってくれ」
「そもそも気にしてないぞ。リースに再会するまで忘れていたぐらいだからな」
「…………相変わらずだな」
「?何がだ?」
「いや、何でもない。それよりも母上からもご挨拶があるそうなんだがいいか?」
「もちろんだ」
新王達と交代する形でシンヤの前へと進み出たのは女王ムース・フォレストだった。軽く動いただけで気品の良さや美しさが醸し出されるほど洗練されていた。
「昨日に引き続き、ご挨拶させて頂きます。フォレスト国女王ムース・フォレストでございます。この度は重ね重ね、ご支援賜りまして誠に有難うございます」
「おい、からかっているだろ」
昨日、話をしたシンヤには女王の性格が分かっていた。気遣いができ、優しく、上品。一方でとてもお茶目な性格をしていた。
「あれ?バレちゃったかしら~?フフフッ」
「俺がそういう堅苦しいのが得意ではないってこと知ってるだろ。あと笑い方も上品だな」
「フフフッ。面白い方。私にこんな口の利き方をするのはそうそういなくてよ?」
「人妻なのがもったいないほど綺麗で愛嬌もあるな。結婚していなければ、リースと共にここから連れ出していたところだ」
「まぁ」
「おいおい、シンヤ!ワシの妻じゃぞ!分かっておるのか!?」
「落ち着け。半分、冗談だ」
「半分は本気なんだな!?」
「娘をよろしくお願い致します」
「いや、どのタイミングで頼んでんじゃい!」
「ああ、任せろ」
「ってワシを無視するな~!」
新たな旅立ちは明るく楽しく騒がしく……………一行はフォレスト国を出立し、目的地であるフリーダムを目指す。"元気で"という言葉を背で聞きながら、試しに視界に入れると見えなくなるギリギリまで新たな門出を祝し、見送りを続けてくれているのが分かった。そこから国を出る直前までリースは俯きながら歩いていたが、誰もそれに触れることはなかった。そして、とうとう門を越え国を出たところでリースは一度だけ後ろへ振り返るとスッキリとした顔で一言、呟いた。
「行ってきます」
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