286 / 416
第13章 魔族領
第286話 親子
しおりを挟む
「お、お前、本当にシャウなのか?」
「う、嘘……………こんなことって」
牢屋の中から揃って驚愕の表情を浮かべ
る夫婦。彼らは今、自分達の見ている光
景が余程信じられないのか思わず立ち上
がり、扉まで近付いてよく目を凝らし
た。するとどうだろうか。そこにいたの
はどこからどう見ても1ヶ月程前に離れ
離れになったはずの彼らの愛する息子だ
った。
「僕は正真正銘、本物のシャウロフスキ
ー。お父さんとお母さんの子だよ!」
「な、なんという……………」
「ううっ……………間違いないわ。この子
は私達の大切な子供、シャウロフスキー
よ」
2人はその場に崩れ落ち、まるで堪えて
いたものが決壊したかのように涙が次々
と溢れては止まらなかった。ところが息
子であるシャウロフスキーの方はという
としきりに隣をチラチラと見ては落ち着
かない様子をしており、彼の目には涙の
欠片もなかった。
「し、師匠!お願いします。早く解放し
てあげたいんで」
すると突然、何もない横の空間に向かっ
て頭を下げ始めるシャウロフスキー。感
動の再会だというのにシャウロフスキー
にそれを味わう気がないのか、それとも
単純に後回しにしているだけなのか、そ
こには情緒もへったくれもなかった。こ
の温度差には流石に感極まって泣いてい
た両親も不思議に思うと同時に涙が若干
引っ込み、そのタイミングで改めてシャ
ウロフスキーの視線の先を見てみた。
「ああ。すぐに解放してやる」
と、そんな言葉が聞こえてくるのとほぼ
同時にシャウロフスキーの隣の空間にい
きなり人族の青年が現れた。まるで今ま
で見えていなかっただけでそこに初めか
ら存在していたかのようにごく自然にで
ある。
「っ!?」
「シ、シャウ!?そ、そちらの方は一
体………………」
「紹介するよ。この方はシンヤ・モリタ
ニ。邪神を倒した英雄にして、世界初の
EXランク冒険者。そして、何よ
り………………僕の師匠なんだ」
「「シャウロフスキー!!」」
「お父さん!お母さん!」
牢屋の外で力強く抱き合う親子。それは
1ヶ月という空白の時間を必死に埋める
ような抱擁だった。先程1ミリも泣く様
子のなかったシャウロフスキーだが内心
では非常に辛い気持ちを押し殺して、た
だ堪えていただけだったのだろう。今で
は大量の涙を流し、わんわんと泣き叫ん
でいた。
「親子か……………いいな」
そんな様子を温かく見守りながらもどこ
か寂しい表情をするシンヤ。だが、それ
も僅か数秒であり、幸いにも感動の再会
の真っ最中であるシャウロフスキー達に
気付かれることはなかった。
「……………お見苦しいところを見せて、
失礼した」
しばらくすると一通り泣いて気持ちもス
ッキリしたのか、シャウロフスキーの父
親がシンヤへと向き直って言った。それ
に続いて、母親も彼の隣に並んだ。
「いや、こういうのは大切だ」
「そう言って頂けるとありがたい。それ
から自己紹介が遅れてしまって、すまな
いな。私はシャウロフスキーの父、ピョ
ルドーだ。この度は助けて頂いて本当に
ありがとう」
「同じくシャウロフスキーの母、イリーです。助けてくれて本当にありがとう」
「俺の名はシンヤ。冒険者をしている。勘違いをしてもらっては困るが今回は成り行き上、助けただけだ。もし、次に捕まっても俺は知らないからな」
「ああ、分かっている。今度はシャウや
妻を悲しませはしないさ………………とこ
ろでシンヤさんは先程、息子から師匠と
呼ばれていたみたいなんだが、どういう
経緯でそうなったんだ?」
「どういう経緯も何も俺はまだシャウの
師匠じゃない。こいつが勝手にそう呼ん
でいるだけだ」
「なんと!?」
「まぁ!?」
「ち、ちょっと師匠!そこは空気を読ん
でくれてもいいじゃないですか!」
「うるさい。本当のことだろう?俺はた
だラクゾでお前を拾って、ここまで届け
ただけの冒険者だ。それ以上でもそれ以
下でもない」
「その様子だと随分息子がお世話になっ
たみたいだな。本当にありがとう。私達
の為にここまでシャウを送り届けてくれ
て」
「ごめんなさいね。シャウは少しわがま
まなところがあるから大変だったでしょ
う?」
「少しどころじゃない。痛いだの、寒い
だの、苦しいだの、許して下さいだの
散々喚き散らしていたな」
「そ、それは壮絶ね………………一体どん
な道中だったのかしら」
「だって、あれは師匠達のせいでしょ
う!修行と称して魔物の集団の中に僕を
放り込んだり、魔族領の過酷な気候に素
っ裸で立ち向かわせたり、そして、それ
らが可愛く見えるくらい地獄のシゴキ
が………………ああっ、思い出したくない
っ!!」
「「…………………」」
「お前が早く強くなりたいとか言うから
だろ。並の方法じゃそんなすぐには強く
なれない。だから、そうしたんだ。全て
はお前を想うが故だ」
「えっ!?じゃ、じゃあ師匠は僕の為を
想ってやってくれたんですか!?」
「当たり前だろ。それ以外に何があ
る?」
「そうだったんですか!ありがとうござ
います!それから、すみませんでした!
そんなこととは知らず、文句を言ってし
まって」
「謝るな。別に年相応でいいじゃない
か。お前の良いところは無邪気で明るい
ところだからな」
「師匠!ありがとうございます!大好き
です!僕、一生師匠に着いていきま
す!」
「おい、抱きつくな。まだお前の両親と
の話が終わってないんだ」
「いや、話は終わりだ。これ以上私達が
シンヤさんの時間を奪う訳にはいかな
い。あなた程の方が私達の為だけにギム
ラまでやってくるとは到底思えないから
な」
ピョルドーは刀によって真っ二つにされ
た牢屋を横目でチラリと見ながら、そう
言った。それは若い頃、Aランク冒険者
として活動していた彼であってもまずで
きない芸当であり、当然斬撃の軌道を見
ることなど不可能だった。そして、理解
の及ばぬシンヤの実力に支配された頭が
ようやくクリアになったのは牢屋が真っ
二つにされてから、約10秒が経った時
であり、気が付くとイリーも信じられな
いといった顔でシンヤを見ていた。その
後、夫婦揃って斬られた箇所とシンヤの
持つ武器を見ることで一体何が起こった
のかを遅ればせながらも把握することが
できたという訳である。
「いいのか?」
「ああ。後でシャウと話をさせてくれれ
ば、それで構わない」
「時間ならいくらでもあるわ」
「そうか………………分かった。じゃあ、
行くぞ」
「はいっ!!」
「シャウ。シンヤさんのご迷惑にならな
いようにするんだぞ」
「そうよ。ちゃんと落ち着いて行動しなさいね」
「分かってるよ!お父さんもお母さんも
また後でね」
「ここからは俺の仲間に従って逃げてく
れ。今、この国は混乱の真っ最中だから
大チャンスだ」
「何から何まで済まない………………それ
にしても混乱?確かに上が少し騒がしい
とは感じていたが」
「一体何があったの?」
この後、シンヤの告げた事実によって2
人が驚いたのは言うまでもない。
――――――――――――――――――
「おい!早く準備を整えろ!逃げ遅れた
ら、どうするんだ!」
「そうだ。さっさとしろ!」
「…………………チッ、うるせぇな。だっ
たら、自分でやれよ。こっちは全部お前
らの為に動いてやってるんだろうが」
「なんだその口の利き方は!」
「おい、貴様!今、何と言った!こちら
はギムラの王、アドム・クリプト様であ
らせられるぞ!」
「元な!」
「「は?」」
「この国は魔王によって、もうまもなく
滅びるんだ。だから、王なんていなくな
る。そんな時に何で未だにお前らみたい
なのに従わなきゃいけない?国民のこと
を放って逃げ延びようとしている最低な
王族の為なんかに!」
「なんだと!」
「き、貴様っ!無礼であるぞ!」
「んなの知るか!ってか、この期に及ん
でまだ権力があると思っているのか?言
っておくがお前らみたいな権力馬鹿は魔
王という圧倒的な力の前には何もでき
ん」
「な、なんだとっ!」
「き、貴様っ!ぶ、無礼で…………」
「さっきから同じ言葉しか喋ってない
ぞ。極度の緊張と恐怖の中で遂に語彙力
までなくしたか。でも、それでいい。ど
うせ、俺達もお前らもここでみんな死ぬ
んだ。諦めて楽になろうぜ」
「お、おい大臣!こんなのに構ってた
ら、頭がおかしくなる!」
「えぇ、そうですね。さっさと私達も逃
げましょう!!」
言葉の最後の方で兵士の目が虚ろになっ
ているのを確認したアドムと大臣は急い
でその場から離脱し、出口を目指して走
っていった。残された兵士はというと1
人でブツブツと何事かを呟きながら、そ
の場に座り込んでピクリとも動くことは
なかった。
「母上!」
「イヤーシィ様!」
「アドム!イヘタン大臣!」
廊下を走っていた2人がイヤーシィと合
流したのは兵士との会話から30分が経
とうとしている頃だった。3人とも大量
の汗を流しており、今まで外に出ようと
必死に走っていたのだが、何故か一向に
出口が見えないことに苛立ちを覚えてい
た。全く行ったことのない土地ならば、
いざ知らず、ここは勝手知ったるホーム
である。それなのに進んでも進んでも引
き戻される、もしくは別の部屋に辿り着
くといった始末でまるで何者かによって
何かの魔法をかけられているようだった
のだ。そんな中で同じ境遇の者が増えた
ことはお互いにとって、不幸中の幸いで
あった。
「おかしいのよ。かなり走っているのに
城から出られないの」
「俺もそうなんだ。一体どうなっている
んだ?」
「全くその通りでございます。これ以上
続くと頭がおかしくなりそうで」
3人は一旦立ち止まって、それぞれの鬱
憤を吐き出す。こうしている間にも魔王
が刻一刻と目前まで迫ってきているは
ず………………なのだが、どういう訳か城
の中はやけに静かであり、3人以外の姿
が一切見当たらなかった。まるでこの中
に3人だけが取り残されたようである。
「気味が悪いわ。早くここを抜け出しま
しょう」
「まさか魔王の前にこんな関門があると
はな」
「こんなことをしでかした奴には極刑を
与えねば」
立ち止まっていたのは僅か5分程であ
り、そこから、3人はすぐに動き出そう
とした。ちなみに全員の意見は一致して
おり、それは"とにかく闇雲に走り回っ
て、出口を見つけてここから抜け出す"
という何とも曖昧で計画性のないものだ
った。しかし、そんな当たって砕けろ精
神での行動であってもこのまま何もしな
いよりはマシなのかもしれない。特にこ
ういった今まで体験したことのない状況
に置かれている場合は考えても良い案が
出ないことは多い。外には魔王、中は迷
路。しかも残された時間がない中でじっ
と立ち止まって考え事をすることは3人
にとっては非常に難しいことだったの
だ。であれば、必死に出口を探して走り
回っている方がまだいい………………3人
はそんな風に結論を出していた。
「まずはあそこへ向かいましょう」
遠くに見えた部屋を指差してイヤーシィ
はそう言った。
「ああ」
「かしこまりました」
彼女の意見に同調する2人。そして、身
体に力を入れて再び動き出そうと足を目
の前に出した時だった。
「久しぶりじゃな。大臣、兄
上………………そして母上よ」
その声は静かな空間に突然響き渡った。
と同時に3人から数メートル離れた先の
空間に突如、魔族の女が現れた。まるで
今まで見えていなかっただけでそこに初
めから存在していたかのようにごく自然
にである。
「っ!?あ、あなた様は!?」
「お、お前もしかして……………」
大臣とアドムがひどく狼狽える中、イヤ
ーシィだけはどこか冷たい表情で女の魔
族を見つめて、こう言った。
「イヴ……………やはり生きていたのね」
それは決して感動と呼べるものではな
く、険悪で冷たくて苦しくなるほど負の
感情が漂う親子の再会だった。
「う、嘘……………こんなことって」
牢屋の中から揃って驚愕の表情を浮かべ
る夫婦。彼らは今、自分達の見ている光
景が余程信じられないのか思わず立ち上
がり、扉まで近付いてよく目を凝らし
た。するとどうだろうか。そこにいたの
はどこからどう見ても1ヶ月程前に離れ
離れになったはずの彼らの愛する息子だ
った。
「僕は正真正銘、本物のシャウロフスキ
ー。お父さんとお母さんの子だよ!」
「な、なんという……………」
「ううっ……………間違いないわ。この子
は私達の大切な子供、シャウロフスキー
よ」
2人はその場に崩れ落ち、まるで堪えて
いたものが決壊したかのように涙が次々
と溢れては止まらなかった。ところが息
子であるシャウロフスキーの方はという
としきりに隣をチラチラと見ては落ち着
かない様子をしており、彼の目には涙の
欠片もなかった。
「し、師匠!お願いします。早く解放し
てあげたいんで」
すると突然、何もない横の空間に向かっ
て頭を下げ始めるシャウロフスキー。感
動の再会だというのにシャウロフスキー
にそれを味わう気がないのか、それとも
単純に後回しにしているだけなのか、そ
こには情緒もへったくれもなかった。こ
の温度差には流石に感極まって泣いてい
た両親も不思議に思うと同時に涙が若干
引っ込み、そのタイミングで改めてシャ
ウロフスキーの視線の先を見てみた。
「ああ。すぐに解放してやる」
と、そんな言葉が聞こえてくるのとほぼ
同時にシャウロフスキーの隣の空間にい
きなり人族の青年が現れた。まるで今ま
で見えていなかっただけでそこに初めか
ら存在していたかのようにごく自然にで
ある。
「っ!?」
「シ、シャウ!?そ、そちらの方は一
体………………」
「紹介するよ。この方はシンヤ・モリタ
ニ。邪神を倒した英雄にして、世界初の
EXランク冒険者。そして、何よ
り………………僕の師匠なんだ」
「「シャウロフスキー!!」」
「お父さん!お母さん!」
牢屋の外で力強く抱き合う親子。それは
1ヶ月という空白の時間を必死に埋める
ような抱擁だった。先程1ミリも泣く様
子のなかったシャウロフスキーだが内心
では非常に辛い気持ちを押し殺して、た
だ堪えていただけだったのだろう。今で
は大量の涙を流し、わんわんと泣き叫ん
でいた。
「親子か……………いいな」
そんな様子を温かく見守りながらもどこ
か寂しい表情をするシンヤ。だが、それ
も僅か数秒であり、幸いにも感動の再会
の真っ最中であるシャウロフスキー達に
気付かれることはなかった。
「……………お見苦しいところを見せて、
失礼した」
しばらくすると一通り泣いて気持ちもス
ッキリしたのか、シャウロフスキーの父
親がシンヤへと向き直って言った。それ
に続いて、母親も彼の隣に並んだ。
「いや、こういうのは大切だ」
「そう言って頂けるとありがたい。それ
から自己紹介が遅れてしまって、すまな
いな。私はシャウロフスキーの父、ピョ
ルドーだ。この度は助けて頂いて本当に
ありがとう」
「同じくシャウロフスキーの母、イリーです。助けてくれて本当にありがとう」
「俺の名はシンヤ。冒険者をしている。勘違いをしてもらっては困るが今回は成り行き上、助けただけだ。もし、次に捕まっても俺は知らないからな」
「ああ、分かっている。今度はシャウや
妻を悲しませはしないさ………………とこ
ろでシンヤさんは先程、息子から師匠と
呼ばれていたみたいなんだが、どういう
経緯でそうなったんだ?」
「どういう経緯も何も俺はまだシャウの
師匠じゃない。こいつが勝手にそう呼ん
でいるだけだ」
「なんと!?」
「まぁ!?」
「ち、ちょっと師匠!そこは空気を読ん
でくれてもいいじゃないですか!」
「うるさい。本当のことだろう?俺はた
だラクゾでお前を拾って、ここまで届け
ただけの冒険者だ。それ以上でもそれ以
下でもない」
「その様子だと随分息子がお世話になっ
たみたいだな。本当にありがとう。私達
の為にここまでシャウを送り届けてくれ
て」
「ごめんなさいね。シャウは少しわがま
まなところがあるから大変だったでしょ
う?」
「少しどころじゃない。痛いだの、寒い
だの、苦しいだの、許して下さいだの
散々喚き散らしていたな」
「そ、それは壮絶ね………………一体どん
な道中だったのかしら」
「だって、あれは師匠達のせいでしょ
う!修行と称して魔物の集団の中に僕を
放り込んだり、魔族領の過酷な気候に素
っ裸で立ち向かわせたり、そして、それ
らが可愛く見えるくらい地獄のシゴキ
が………………ああっ、思い出したくない
っ!!」
「「…………………」」
「お前が早く強くなりたいとか言うから
だろ。並の方法じゃそんなすぐには強く
なれない。だから、そうしたんだ。全て
はお前を想うが故だ」
「えっ!?じゃ、じゃあ師匠は僕の為を
想ってやってくれたんですか!?」
「当たり前だろ。それ以外に何があ
る?」
「そうだったんですか!ありがとうござ
います!それから、すみませんでした!
そんなこととは知らず、文句を言ってし
まって」
「謝るな。別に年相応でいいじゃない
か。お前の良いところは無邪気で明るい
ところだからな」
「師匠!ありがとうございます!大好き
です!僕、一生師匠に着いていきま
す!」
「おい、抱きつくな。まだお前の両親と
の話が終わってないんだ」
「いや、話は終わりだ。これ以上私達が
シンヤさんの時間を奪う訳にはいかな
い。あなた程の方が私達の為だけにギム
ラまでやってくるとは到底思えないから
な」
ピョルドーは刀によって真っ二つにされ
た牢屋を横目でチラリと見ながら、そう
言った。それは若い頃、Aランク冒険者
として活動していた彼であってもまずで
きない芸当であり、当然斬撃の軌道を見
ることなど不可能だった。そして、理解
の及ばぬシンヤの実力に支配された頭が
ようやくクリアになったのは牢屋が真っ
二つにされてから、約10秒が経った時
であり、気が付くとイリーも信じられな
いといった顔でシンヤを見ていた。その
後、夫婦揃って斬られた箇所とシンヤの
持つ武器を見ることで一体何が起こった
のかを遅ればせながらも把握することが
できたという訳である。
「いいのか?」
「ああ。後でシャウと話をさせてくれれ
ば、それで構わない」
「時間ならいくらでもあるわ」
「そうか………………分かった。じゃあ、
行くぞ」
「はいっ!!」
「シャウ。シンヤさんのご迷惑にならな
いようにするんだぞ」
「そうよ。ちゃんと落ち着いて行動しなさいね」
「分かってるよ!お父さんもお母さんも
また後でね」
「ここからは俺の仲間に従って逃げてく
れ。今、この国は混乱の真っ最中だから
大チャンスだ」
「何から何まで済まない………………それ
にしても混乱?確かに上が少し騒がしい
とは感じていたが」
「一体何があったの?」
この後、シンヤの告げた事実によって2
人が驚いたのは言うまでもない。
――――――――――――――――――
「おい!早く準備を整えろ!逃げ遅れた
ら、どうするんだ!」
「そうだ。さっさとしろ!」
「…………………チッ、うるせぇな。だっ
たら、自分でやれよ。こっちは全部お前
らの為に動いてやってるんだろうが」
「なんだその口の利き方は!」
「おい、貴様!今、何と言った!こちら
はギムラの王、アドム・クリプト様であ
らせられるぞ!」
「元な!」
「「は?」」
「この国は魔王によって、もうまもなく
滅びるんだ。だから、王なんていなくな
る。そんな時に何で未だにお前らみたい
なのに従わなきゃいけない?国民のこと
を放って逃げ延びようとしている最低な
王族の為なんかに!」
「なんだと!」
「き、貴様っ!無礼であるぞ!」
「んなの知るか!ってか、この期に及ん
でまだ権力があると思っているのか?言
っておくがお前らみたいな権力馬鹿は魔
王という圧倒的な力の前には何もでき
ん」
「な、なんだとっ!」
「き、貴様っ!ぶ、無礼で…………」
「さっきから同じ言葉しか喋ってない
ぞ。極度の緊張と恐怖の中で遂に語彙力
までなくしたか。でも、それでいい。ど
うせ、俺達もお前らもここでみんな死ぬ
んだ。諦めて楽になろうぜ」
「お、おい大臣!こんなのに構ってた
ら、頭がおかしくなる!」
「えぇ、そうですね。さっさと私達も逃
げましょう!!」
言葉の最後の方で兵士の目が虚ろになっ
ているのを確認したアドムと大臣は急い
でその場から離脱し、出口を目指して走
っていった。残された兵士はというと1
人でブツブツと何事かを呟きながら、そ
の場に座り込んでピクリとも動くことは
なかった。
「母上!」
「イヤーシィ様!」
「アドム!イヘタン大臣!」
廊下を走っていた2人がイヤーシィと合
流したのは兵士との会話から30分が経
とうとしている頃だった。3人とも大量
の汗を流しており、今まで外に出ようと
必死に走っていたのだが、何故か一向に
出口が見えないことに苛立ちを覚えてい
た。全く行ったことのない土地ならば、
いざ知らず、ここは勝手知ったるホーム
である。それなのに進んでも進んでも引
き戻される、もしくは別の部屋に辿り着
くといった始末でまるで何者かによって
何かの魔法をかけられているようだった
のだ。そんな中で同じ境遇の者が増えた
ことはお互いにとって、不幸中の幸いで
あった。
「おかしいのよ。かなり走っているのに
城から出られないの」
「俺もそうなんだ。一体どうなっている
んだ?」
「全くその通りでございます。これ以上
続くと頭がおかしくなりそうで」
3人は一旦立ち止まって、それぞれの鬱
憤を吐き出す。こうしている間にも魔王
が刻一刻と目前まで迫ってきているは
ず………………なのだが、どういう訳か城
の中はやけに静かであり、3人以外の姿
が一切見当たらなかった。まるでこの中
に3人だけが取り残されたようである。
「気味が悪いわ。早くここを抜け出しま
しょう」
「まさか魔王の前にこんな関門があると
はな」
「こんなことをしでかした奴には極刑を
与えねば」
立ち止まっていたのは僅か5分程であ
り、そこから、3人はすぐに動き出そう
とした。ちなみに全員の意見は一致して
おり、それは"とにかく闇雲に走り回っ
て、出口を見つけてここから抜け出す"
という何とも曖昧で計画性のないものだ
った。しかし、そんな当たって砕けろ精
神での行動であってもこのまま何もしな
いよりはマシなのかもしれない。特にこ
ういった今まで体験したことのない状況
に置かれている場合は考えても良い案が
出ないことは多い。外には魔王、中は迷
路。しかも残された時間がない中でじっ
と立ち止まって考え事をすることは3人
にとっては非常に難しいことだったの
だ。であれば、必死に出口を探して走り
回っている方がまだいい………………3人
はそんな風に結論を出していた。
「まずはあそこへ向かいましょう」
遠くに見えた部屋を指差してイヤーシィ
はそう言った。
「ああ」
「かしこまりました」
彼女の意見に同調する2人。そして、身
体に力を入れて再び動き出そうと足を目
の前に出した時だった。
「久しぶりじゃな。大臣、兄
上………………そして母上よ」
その声は静かな空間に突然響き渡った。
と同時に3人から数メートル離れた先の
空間に突如、魔族の女が現れた。まるで
今まで見えていなかっただけでそこに初
めから存在していたかのようにごく自然
にである。
「っ!?あ、あなた様は!?」
「お、お前もしかして……………」
大臣とアドムがひどく狼狽える中、イヤ
ーシィだけはどこか冷たい表情で女の魔
族を見つめて、こう言った。
「イヴ……………やはり生きていたのね」
それは決して感動と呼べるものではな
く、険悪で冷たくて苦しくなるほど負の
感情が漂う親子の再会だった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる