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第5話 幼馴染爆誕
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村の朝は、いつだって早い。
まだ陽が昇りきる前から、あちこちの家の扉が開く音が響き始める。薪を割る音、動物たちの鳴き声、子供たちの笑い声――それら全部が重なって、今日もまた村の一日が始まる。
その中で、ユーリはといえば、布団の中でゴロゴロしていた。正確には、“勝手に動くこともできずに転がっていただけ”なのだが。
(……んん、やっぱり赤ん坊の体って、不便すぎる)
手足をばたばたと動かしてみても、ほとんど思い通りにならない。抱き上げてもらわない限り、世界は「天井」と「壁」と「たまに見えるマーシャの顔」だけの超狭小世界だ。
(転生特典とか、どこで受け取ればいいんですかね……? いまだに“寝返り未遂マン”なんですが)
そんな内心の嘆きとは裏腹に、今日は朝から機嫌がいい。なぜなら――
「ユーリ、今日はね、お隣のリノアちゃんのところに行くのよ」
マーシャが笑顔でそう言ったからだ。
その“お隣”というのが、徒歩数分の距離にある農家の家だ。ルドルフと親しい一家で、歳の近い子供がいるという話は聞いていた。
「リノアちゃんも、まだ小さいけど、もう歩けるのよ。すごいわよねぇ」
マーシャはそう言いながら、ユーリをおくるみにくるみ、しっかりと抱えて玄関を出る。
(“ちょっと年上”って言ってたな……まあ、子供の頃の歳の差なんて誤差だろ)
少しだけ、好奇心が勝った。
だがすぐに思い直す。
(いや、俺はまだ“寝返りチャレンジ中”なんだが? あっちは普通に会話して歩いてるって、ステージ違いすぎるだろ)
そうツッコミながらも、どこかワクワクしてしまうのは、“この世界での初めての友達”になりそうな気配を感じたからかもしれない。
「こんにちはー、ミーナさーん」
マーシャが門の前から声をかけると、家の中から朗らかな女性が顔を出した。丸顔に柔らかそうな栗色の髪。エプロン姿が板についているその人――ミーナさんは、優しげに笑って手を振った。
「あら、マーシャ。いらっしゃい。まぁまぁ、ユーリちゃんも一緒なのね。いらっしゃい、可愛い坊や」
(え、今“坊や”って言った? “さん”つけてくれてもいいんだけど)
赤ん坊の尊厳は今日も守られない。
そのまま室内に通され、ミーナさんがユーリを見てほほえむ。
「ほんとにきれいな目……リノアも目がぱっちりしてるのよ。あの子、将来は絶対美人さんになるわ」
(美人さん……? ちょっと、それは見逃せない情報)
とたんに興味が湧いてくる。美少女と幼馴染……それは異世界転生ラノベ的に超王道イベントでは?
ミーナさんが奥の部屋に声をかけた。
「リノアー、お友達が来たわよー」
すると、小さな足音がぴょこぴょこ、とこちらへ近づいてきた。
現れたのは、小さな女の子。
ふわふわの栗色の髪に、明るくて大きな瞳。まだ幼児体型ではあるものの、はっきりとした顔立ちと人懐っこい雰囲気に、“将来性”がありすぎる。
「あ、あかちゃんだー!」
リノアはつかつかと近寄ってくると、マーシャの腕の中のユーリをのぞき込んだ。
「ちいさいー。ねえ、この子、おしゃべりする?」
「まだできないのよ。でもね、よく笑うのよ。ね? ユーリ」
(……やめてくれ、営業スマイルみたいに言わないで)
しかし、リノアがにこにこと顔を近づけてきたとき、ユーリはなんだか笑ってしまった。
「わー! にこにこした! かわいいー!」
リノアは嬉しそうに手を叩き、そして次の瞬間、まさかの行動に出た。
ユーリの頬に、ちゅっ。
「おともだち、だもん!」
(え、ちょ、はやくない?)
赤ん坊としての肉体がどれだけ無防備か、改めて実感する。
マーシャとミーナがくすくすと笑う中、ユーリはといえば、脳内で“赤ちゃん版フリーズ”をしていた。
(なにこれ……これが……異世界……!)
その後、マーシャとミーナは台所でお茶を飲みながら談笑を始めた。
リノアは、ユーリの揺りかごの近くにぺたんと座って、おもちゃの木のスプーンを見せてきた。
「これね、おままごとのスプーンなの。おいしいごはん、あげるね!」
彼女はごはんも何もない空気をすくい、ユーリの口元に差し出す。
(いや、それは……空だ……)
しかし口が勝手に開いてしまった。
「ぱくっ、ってした! たべたの? おいしい?」
(くっ……くそっ……体が勝手に……!)
気づけば、リノアの“おままごとスキル”に翻弄されていた。だが嫌ではない。むしろ――
(なんか……楽しいかもしれない)
日が傾きかけた頃、マーシャが声をかけた。
「そろそろ帰りましょうか。リノアちゃん、今日はありがとうね」
「また来てね! ユーリ、つぎはおにんぎょうもあるからね!」
手をぶんぶん振るリノアに見送られながら、ユーリは再びマーシャの腕の中に戻った。
(……これが、友達ってやつか)
言葉は交わせなかったけれど、リノアの優しい声と笑顔に包まれているうちに、不思議と心がぽかぽかしていた。
(うん。悪くない)
きっと、これから何度も、彼女と会うことになるだろう。
未来はわからない。でも、今はそれでいい。
その夜。ルドルフが帰宅すると、マーシャが嬉しそうに話しかけた。
「ねえ、リノアちゃんがすごくユーリに懐いててね。可愛くて、見ててほんとに幸せだったわ」
「そりゃいいな。幼馴染ってやつだな」
ルドルフがそう言った瞬間――
(ちょっと待て、“幼馴染”って、フラグじゃないか!?)
ユーリの脳内では、前世のラブコメ脳がフル稼働を始めていた。
(これは……年上の幼馴染って、ギャップで好きになるやつじゃん!)
しかしその直後、マーシャの言葉が追い打ちをかける。
「でもリノアちゃん、とってもお転婆なのよ。昨日は木登りして、スカート破いちゃったってミーナさんが言ってたわ」
(……やばい、フラグじゃなくて爆弾かもしれない)
そんな妄想をしながら、ユーリは静かに眠りについた。
赤ん坊としての毎日は続いていく。でも、少しずつ“日常”が色づき始めていた。
まだ陽が昇りきる前から、あちこちの家の扉が開く音が響き始める。薪を割る音、動物たちの鳴き声、子供たちの笑い声――それら全部が重なって、今日もまた村の一日が始まる。
その中で、ユーリはといえば、布団の中でゴロゴロしていた。正確には、“勝手に動くこともできずに転がっていただけ”なのだが。
(……んん、やっぱり赤ん坊の体って、不便すぎる)
手足をばたばたと動かしてみても、ほとんど思い通りにならない。抱き上げてもらわない限り、世界は「天井」と「壁」と「たまに見えるマーシャの顔」だけの超狭小世界だ。
(転生特典とか、どこで受け取ればいいんですかね……? いまだに“寝返り未遂マン”なんですが)
そんな内心の嘆きとは裏腹に、今日は朝から機嫌がいい。なぜなら――
「ユーリ、今日はね、お隣のリノアちゃんのところに行くのよ」
マーシャが笑顔でそう言ったからだ。
その“お隣”というのが、徒歩数分の距離にある農家の家だ。ルドルフと親しい一家で、歳の近い子供がいるという話は聞いていた。
「リノアちゃんも、まだ小さいけど、もう歩けるのよ。すごいわよねぇ」
マーシャはそう言いながら、ユーリをおくるみにくるみ、しっかりと抱えて玄関を出る。
(“ちょっと年上”って言ってたな……まあ、子供の頃の歳の差なんて誤差だろ)
少しだけ、好奇心が勝った。
だがすぐに思い直す。
(いや、俺はまだ“寝返りチャレンジ中”なんだが? あっちは普通に会話して歩いてるって、ステージ違いすぎるだろ)
そうツッコミながらも、どこかワクワクしてしまうのは、“この世界での初めての友達”になりそうな気配を感じたからかもしれない。
「こんにちはー、ミーナさーん」
マーシャが門の前から声をかけると、家の中から朗らかな女性が顔を出した。丸顔に柔らかそうな栗色の髪。エプロン姿が板についているその人――ミーナさんは、優しげに笑って手を振った。
「あら、マーシャ。いらっしゃい。まぁまぁ、ユーリちゃんも一緒なのね。いらっしゃい、可愛い坊や」
(え、今“坊や”って言った? “さん”つけてくれてもいいんだけど)
赤ん坊の尊厳は今日も守られない。
そのまま室内に通され、ミーナさんがユーリを見てほほえむ。
「ほんとにきれいな目……リノアも目がぱっちりしてるのよ。あの子、将来は絶対美人さんになるわ」
(美人さん……? ちょっと、それは見逃せない情報)
とたんに興味が湧いてくる。美少女と幼馴染……それは異世界転生ラノベ的に超王道イベントでは?
ミーナさんが奥の部屋に声をかけた。
「リノアー、お友達が来たわよー」
すると、小さな足音がぴょこぴょこ、とこちらへ近づいてきた。
現れたのは、小さな女の子。
ふわふわの栗色の髪に、明るくて大きな瞳。まだ幼児体型ではあるものの、はっきりとした顔立ちと人懐っこい雰囲気に、“将来性”がありすぎる。
「あ、あかちゃんだー!」
リノアはつかつかと近寄ってくると、マーシャの腕の中のユーリをのぞき込んだ。
「ちいさいー。ねえ、この子、おしゃべりする?」
「まだできないのよ。でもね、よく笑うのよ。ね? ユーリ」
(……やめてくれ、営業スマイルみたいに言わないで)
しかし、リノアがにこにこと顔を近づけてきたとき、ユーリはなんだか笑ってしまった。
「わー! にこにこした! かわいいー!」
リノアは嬉しそうに手を叩き、そして次の瞬間、まさかの行動に出た。
ユーリの頬に、ちゅっ。
「おともだち、だもん!」
(え、ちょ、はやくない?)
赤ん坊としての肉体がどれだけ無防備か、改めて実感する。
マーシャとミーナがくすくすと笑う中、ユーリはといえば、脳内で“赤ちゃん版フリーズ”をしていた。
(なにこれ……これが……異世界……!)
その後、マーシャとミーナは台所でお茶を飲みながら談笑を始めた。
リノアは、ユーリの揺りかごの近くにぺたんと座って、おもちゃの木のスプーンを見せてきた。
「これね、おままごとのスプーンなの。おいしいごはん、あげるね!」
彼女はごはんも何もない空気をすくい、ユーリの口元に差し出す。
(いや、それは……空だ……)
しかし口が勝手に開いてしまった。
「ぱくっ、ってした! たべたの? おいしい?」
(くっ……くそっ……体が勝手に……!)
気づけば、リノアの“おままごとスキル”に翻弄されていた。だが嫌ではない。むしろ――
(なんか……楽しいかもしれない)
日が傾きかけた頃、マーシャが声をかけた。
「そろそろ帰りましょうか。リノアちゃん、今日はありがとうね」
「また来てね! ユーリ、つぎはおにんぎょうもあるからね!」
手をぶんぶん振るリノアに見送られながら、ユーリは再びマーシャの腕の中に戻った。
(……これが、友達ってやつか)
言葉は交わせなかったけれど、リノアの優しい声と笑顔に包まれているうちに、不思議と心がぽかぽかしていた。
(うん。悪くない)
きっと、これから何度も、彼女と会うことになるだろう。
未来はわからない。でも、今はそれでいい。
その夜。ルドルフが帰宅すると、マーシャが嬉しそうに話しかけた。
「ねえ、リノアちゃんがすごくユーリに懐いててね。可愛くて、見ててほんとに幸せだったわ」
「そりゃいいな。幼馴染ってやつだな」
ルドルフがそう言った瞬間――
(ちょっと待て、“幼馴染”って、フラグじゃないか!?)
ユーリの脳内では、前世のラブコメ脳がフル稼働を始めていた。
(これは……年上の幼馴染って、ギャップで好きになるやつじゃん!)
しかしその直後、マーシャの言葉が追い打ちをかける。
「でもリノアちゃん、とってもお転婆なのよ。昨日は木登りして、スカート破いちゃったってミーナさんが言ってたわ」
(……やばい、フラグじゃなくて爆弾かもしれない)
そんな妄想をしながら、ユーリは静かに眠りについた。
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