社畜の異世界再出発

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第12話 五大剣術

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次の日も、その次の日も、ユーリは朝になると村の裏手にある広場へ足を運んだ。自警団の訓練を見学し、時には簡単な動きに加わりながら、体を動かす習慣を少しずつ身につけていく。

その日も広場で体操を終えたあと、ボリスが声をかけてきた。

「おっ、今日も来たな、ユーリ坊。やる気が続いてるってのは、すばらしいぞ」

「うん! 昨日の足踏みのやつ、家でも練習したよ!」

「お、マジか。じゃあ今日は次のステップだな」

そんなふうにして、ユーリの訓練の日々は、和やかに、しかし着実に進んでいた。

そんなある日の昼前――

「団長たちが帰ってきたってよ」

広場にいた誰かの声に、ユーリの耳がぴくっと反応した。

「ほんと!?」

「おう、さっき門のあたりで見た。副団長がにこにこしてて、団長が無言で手振ってたぞ」

(帰ってきたんだ!)

ユーリは思わず駆け出しそうになる足を抑えて、ぐっと我慢した。会えるなら広場に来てくれるかもしれない。今焦って探しても、逆にすれ違うだけだ。

昼の訓練が終わったあと、期待半分で座って待っていると――

「お、これはこれは。少し見ないうちに成長したな、ユーリ坊」

聞き覚えのある、低くて落ち着いた声がした。

振り返ると、がっしりとした体に無骨な鎧姿の男が、腕を組んで立っていた。ひと目でわかる、頼れる団長――ガルドだった。

「団長! 帰ってきたんだ!」

「うむ。村のことが気になって、予定より早めに戻った。……ああ、こいつもいるぞ」

「おーっ、ユーリ坊! 俺を忘れてないだろうな!」

明るい声とともに、後ろから現れたのは、にこにこと笑顔を浮かべるロイ副団長。いつも通りの陽気な雰囲気に、思わずこちらも笑顔になる。

「おかえりなさい!」

「おう、ただいま!」

「おっ、元気にしてたか? ちょっと見ない間に、顔つきがグッと男の子っぽくなったな!」

がしっと肩を掴まれて、ユーリはちょっと照れ笑いを浮かべた。

「最近は、ボリスさんや他の人にも、体の動かし方とか教えてもらってるんだ」

「おお、それはいい心がけだ! お前、覚えもいいし、何よりちゃんと話を聞いて動ける。それが一番大事だ」

そう言ってロイは、ボリスに向かって親指を立てた。

「ユーリ坊、筋いいだろ?」

「うん、いい動きしてる。まだ小さいけど、感覚が素直だ」

(感覚が素直……? うん、たぶんいい意味だよな)

ちょっと照れながらも、「はいはい」みたいに肩をすくめてごまかした。

「ガルド団長。あの、前にボリスさんに聞いた“五大剣術”って、もっと詳しく知りたいんです」

「おお、剣術に興味が出てきたか」

ガルドは頷き、近くの丸太に腰を下ろした。

「五大剣術は、いずれも古い歴史と実績を持つ、世界的に認められた剣術流派だ。各地に道場や指南役がいて、国家規模でもその技を取り入れている」

「ええ、そんなにすごいんだ……!」

「ふふ、名前だけなら聞いたことがあるやつも多いはずだぞ。“蒼雷流”は、雷のように速く、鋭い斬撃が特徴。“紅蓮流”は、炎のごとき力強い連撃で圧倒する。“翠風流”は、風のような身のこなしと回避を重視する。“白嶽流”は、防御と反撃の構えに優れ、“黒月流”は、闇に紛れて急所を突く、一撃重視の流派だ」

「どれも……かっこいい……!」

(何だよそれ、厨二病ここに極まれりじゃん……! でも、最高……!)

「お前が気に入った流派があれば、それを目標にするのもいいだろう。学ぶのはまだ先になるがな」

「うん、目標があるほうががんばれる!」

「よし、じゃあ今日の訓練は、各流派の型の真似っこでもしてみるか?」

「えっ、いいの!?」

「もちろん。動きを真似るだけなら問題ない。力を抜いて、まずは型の“形”を体で覚えるんだ」

そうして、その日から“剣術ごっこ”と称した新たなステップが始まった。ロイが“蒼雷流”の素振りを披露し、ボリスが“紅蓮流”の構えを見せ、他の団員たちも「こんなのあったな」と言いながら、自分の知っている技の断片を見せてくれる。

(……って、え? みんな意外とちゃんと五大剣術に触れてたのか? なんか“我流組”だと思ってたけど、案外経験者だったりするのか……)

そんな驚きを抱きつつ、俺は一つひとつの動きを真似ていった。ぎこちなくても、みんな笑って教えてくれる。

「おっ、意外と様になってるじゃん、ユーリ坊!」

「さすがにまだ剣は重いけど、動きは悪くないぞ」

「見てて面白いな。こういうの、昔の自分を思い出すよ」

みんなが笑いながら教えてくれる。まるで家族みたいに温かい雰囲気の中、ユーリは何度も木剣を振った。汗が頬をつたう。でも、それが嬉しかった。


夕方。広場から帰る途中、リノアの姿を見つけた。

「ユーリーっ! ひさしぶり! 最近あんまり遊んでくれないじゃん!」

「ご、ごめん……ちょっと、自警団で体動かしてて」

「えっ、じゃあ剣とかやってるの?」

「ちょっとだけ、型の真似とか」

「ずるいーっ! 今度見せてよ!」

「う、うん……じゃあ、今度ね」

リノアはふくれっ面をしつつも、最後にはにかんだ笑顔を浮かべた。

「でも……なんか、かっこよくなってきたかも。ユーリ、またちょっと大きくなった?」

「そ、そう?」

(それって、褒められてる……のか?)

顔が熱くなるのをごまかすように、ユーリは急いで家に向かって歩き出した。


その夜の食卓。

「団長たち、帰ってきたのね」

「うん、いろんな話を聞けたよ。五大剣術のこととか、剣術の型も教えてもらった!」

「へえ、よかったわねえ。明日は洗濯の日だから、筋肉痛にならないように気をつけてね」

「うっ……がんばる……!」

母さんが笑って、父さんも「頼もしいな」と肩をたたいてくれる。

当たり前のような夜ごはん。けれど、ユーリの胸には、ちょっとした達成感。

(剣術の名前、全部覚えた。どれもかっこよかったな。俺は、どの流派が合ってるんだろう……)

目を閉じると、木剣を振った感覚が腕に残っていた。

明日も、また広場に行こう。
もっと強くなるために。
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