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第14話 ちびっこ組
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あの日、剣を披露してから、広場の空気がちょっとだけ騒がしくなった。
「ユーリくん、今日も剣やるの!?」
「見に来たよー!」
「こないだの動き、すごかった! なんか剣が“すぱっ”ってなってて!」
どうやら、前に行った“剣術模範披露”が思った以上に子どもたちの心を掴んだらしい。広場の周囲には、ちびっこたちが集まって、おしゃべりしながらこっちをちらちら見ていた。
(いやいや、そんな大層なもんじゃなかったって……でも、ちょっと誇らしい)
「お、人気者だな、ユーリ坊」
ロイ副団長がひょいと肩を叩いてきた。
「ほら、こういう時はどや顔しとけ。俺の背中を見ろってな」
「ど、どうやるのそれ……」
「こうだ!」
ロイは腰に手を当てて斜め上を見つめ、ドヤ顔の見本を披露してきた。
「……それ、たぶん笑われるやつ」
「そういうツッコミ、ズルいぞ~」
朝から自警団は元気だった。
そしてそれ以上に、子どもたちが元気だった。
なんだかんだで、その日から広場の一角に“見学席”みたいなエリアができて、毎朝数人の子どもたちがやってくるようになった。リノアもそのひとりで、他にも年下の子たちが何人か加わっている。
「今日も来たのね、ちびっこギャラリーたち」
やや離れたところから、澄んだ声が届いた。
ミレイナだ。弓を背にした長身の女性で、冷静沈着。自警団の斥候役で、訓練の指導にもよく顔を出す。
その隣には、ぽてっとした体格の女の子が腕をぶんぶん振っている。
「みんなー! 今日は筋トレだよー! いっぱい動こうねー!」
こちらはエマ。おっとりした雰囲気のくせに、筋力は団内最強。大盾を軽々と振り回す猛者だ。
「うえっ、筋トレ……?」
「聞いてないんだけどー!」
ちびっこギャラリーの一部から悲鳴が上がる。
「安心しろ。見てるだけなら腹筋は痛くならない」
「ロイ、それ慰めになってないぞ」
ボリスの突っ込みに、ロイがにかっと笑った。
「でも実際、ちょっと体を動かしてみたいって子もいるみたいよ?」
ミレイナがそう言って、見学していた子どもたちを見やる。
たしかに、何人かがそわそわと地面に足をこすりながらこっちを見ていた。目は真剣そのもの。
「やってみたい子は、こっちにおいでー」
エマが手を広げると、意を決したように三人の子が前に出てきた。
「ぼく、やってみたい!」
「わ、私も!」
「ゆ、ユーリくんの真似したいです!」
最後の子は耳まで真っ赤だったけど、その声に思わず俺も背筋を伸ばした。
「おおー! 小剣士たちの誕生だ!」
ロイが拍手をして、大げさに歓声を上げる。
「では、最初のメニューは足踏み三分間!」
「うえぇぇ!」
「でも、やる!」
新入りちびっこたちは、最初こそヨタヨタしていたが、意外と粘り強く足を動かしていた。
「よしよし、その調子。そのまま腕を振ってー」
「ぐぬぬ……これ、見てるよりキツい……!」
「エマさん、なんで笑ってるのぉ……!」
「うふふ、かわいいなって思って♪」
(いや、かわいさで済まされないキツさだぞこれ……)
広場の空気は、なんだかいつも以上ににぎやかだった。
それから数日、広場はちびっこ見学隊と、ちょっとやる気を出した見習い候補たちで賑わうようになった。誰が名付けたのか「子ども組」と呼ばれるようになり、ロイを筆頭にした“ゆる指導”が展開される。
俺もその中に混じって、型を見せたり、一緒に足踏みしたりしていた。
誰かに教えようとすると、自分でも気づいてなかった細かい動きに気づける気がする。
なんだか、頭の中の解像度がちょっと上がったような感じだ。
「ユーリくんの動き、わかりやすい!」
「せんせー! 次の型はー?」
「せ、先生!? ちょ、待って、僕そんな偉そうな立場じゃ――」
「せんせー、ここの手の角度が難しいー!」
(うわー、なんかすごいことになってる……!)
先生扱いされるとは思ってなかったけど、頼られるのは嬉しかった。
その日の帰り道、リノアが隣でにこにこしながら言った。
「ユーリ、ほんとにかっこよかったよ」
「そ、そう?」
「うん。なんか、先生してる男の子って、それだけで五割増し!」
「そんな換算方式ある!?」
「ある!」
どこでそんな数え方覚えたんだ……と思いつつ、嬉しくて顔がニヤけてしまったのはごまかせなかった。
ある日、いつものように広場に行くと、ロイが手を振って呼び寄せてきた。
「ユーリ坊、ちょっとこっち来い」
「なに?」
「今日から“ちょい本気コース”ってのをやってみようと思ってな。もちろん、やる気のある子限定だが……」
「……面白そう!」
「だろう? ってことで、ミレイナとエマにお願いして、軽めの実戦っぽい動きを教えてもらおうと思ってるんだ」
ミレイナは無言で小さくうなずき、エマは「よろしくねー!」と全力の笑顔を振りまいていた。
(実戦って……なんか本格的っぽい!)
俺はわくわくしながら、木剣を握りしめた。
「よし、まずはミレイナ先生による動きながら狙いを定める練習だ」
「先生……」
「ユーリ、ちょっとそこに立って。……動かないでね」
言われるがままに棒立ちになると、ミレイナが弓を手に、すっと構えをとった。
(え、ちょ、待って、これ本気じゃ――)
――ビュン!
風を裂いて、矢が俺の脇をすり抜け、背後の丸太に突き刺さった。
「…………」
「…………」
「動いてなかったね。合格」
「いやちょっと待って!? 今の試験だったの!?」
「ふふ。びびらなかったのはえらいよ?」
「どこがだよおおおお!」
広場が笑いに包まれる中、ミレイナだけが涼しい顔で矢を回収していた。
「次はエマの力で押し返す訓練だよー!」
「なんで!? 今度は逆方向から来るの!?」
笑いと悲鳴と汗が混ざり合う訓練が始まった。
そして思った。
(俺……けっこう毎日たくましくなってる気がする……)
「ユーリくん、今日も剣やるの!?」
「見に来たよー!」
「こないだの動き、すごかった! なんか剣が“すぱっ”ってなってて!」
どうやら、前に行った“剣術模範披露”が思った以上に子どもたちの心を掴んだらしい。広場の周囲には、ちびっこたちが集まって、おしゃべりしながらこっちをちらちら見ていた。
(いやいや、そんな大層なもんじゃなかったって……でも、ちょっと誇らしい)
「お、人気者だな、ユーリ坊」
ロイ副団長がひょいと肩を叩いてきた。
「ほら、こういう時はどや顔しとけ。俺の背中を見ろってな」
「ど、どうやるのそれ……」
「こうだ!」
ロイは腰に手を当てて斜め上を見つめ、ドヤ顔の見本を披露してきた。
「……それ、たぶん笑われるやつ」
「そういうツッコミ、ズルいぞ~」
朝から自警団は元気だった。
そしてそれ以上に、子どもたちが元気だった。
なんだかんだで、その日から広場の一角に“見学席”みたいなエリアができて、毎朝数人の子どもたちがやってくるようになった。リノアもそのひとりで、他にも年下の子たちが何人か加わっている。
「今日も来たのね、ちびっこギャラリーたち」
やや離れたところから、澄んだ声が届いた。
ミレイナだ。弓を背にした長身の女性で、冷静沈着。自警団の斥候役で、訓練の指導にもよく顔を出す。
その隣には、ぽてっとした体格の女の子が腕をぶんぶん振っている。
「みんなー! 今日は筋トレだよー! いっぱい動こうねー!」
こちらはエマ。おっとりした雰囲気のくせに、筋力は団内最強。大盾を軽々と振り回す猛者だ。
「うえっ、筋トレ……?」
「聞いてないんだけどー!」
ちびっこギャラリーの一部から悲鳴が上がる。
「安心しろ。見てるだけなら腹筋は痛くならない」
「ロイ、それ慰めになってないぞ」
ボリスの突っ込みに、ロイがにかっと笑った。
「でも実際、ちょっと体を動かしてみたいって子もいるみたいよ?」
ミレイナがそう言って、見学していた子どもたちを見やる。
たしかに、何人かがそわそわと地面に足をこすりながらこっちを見ていた。目は真剣そのもの。
「やってみたい子は、こっちにおいでー」
エマが手を広げると、意を決したように三人の子が前に出てきた。
「ぼく、やってみたい!」
「わ、私も!」
「ゆ、ユーリくんの真似したいです!」
最後の子は耳まで真っ赤だったけど、その声に思わず俺も背筋を伸ばした。
「おおー! 小剣士たちの誕生だ!」
ロイが拍手をして、大げさに歓声を上げる。
「では、最初のメニューは足踏み三分間!」
「うえぇぇ!」
「でも、やる!」
新入りちびっこたちは、最初こそヨタヨタしていたが、意外と粘り強く足を動かしていた。
「よしよし、その調子。そのまま腕を振ってー」
「ぐぬぬ……これ、見てるよりキツい……!」
「エマさん、なんで笑ってるのぉ……!」
「うふふ、かわいいなって思って♪」
(いや、かわいさで済まされないキツさだぞこれ……)
広場の空気は、なんだかいつも以上ににぎやかだった。
それから数日、広場はちびっこ見学隊と、ちょっとやる気を出した見習い候補たちで賑わうようになった。誰が名付けたのか「子ども組」と呼ばれるようになり、ロイを筆頭にした“ゆる指導”が展開される。
俺もその中に混じって、型を見せたり、一緒に足踏みしたりしていた。
誰かに教えようとすると、自分でも気づいてなかった細かい動きに気づける気がする。
なんだか、頭の中の解像度がちょっと上がったような感じだ。
「ユーリくんの動き、わかりやすい!」
「せんせー! 次の型はー?」
「せ、先生!? ちょ、待って、僕そんな偉そうな立場じゃ――」
「せんせー、ここの手の角度が難しいー!」
(うわー、なんかすごいことになってる……!)
先生扱いされるとは思ってなかったけど、頼られるのは嬉しかった。
その日の帰り道、リノアが隣でにこにこしながら言った。
「ユーリ、ほんとにかっこよかったよ」
「そ、そう?」
「うん。なんか、先生してる男の子って、それだけで五割増し!」
「そんな換算方式ある!?」
「ある!」
どこでそんな数え方覚えたんだ……と思いつつ、嬉しくて顔がニヤけてしまったのはごまかせなかった。
ある日、いつものように広場に行くと、ロイが手を振って呼び寄せてきた。
「ユーリ坊、ちょっとこっち来い」
「なに?」
「今日から“ちょい本気コース”ってのをやってみようと思ってな。もちろん、やる気のある子限定だが……」
「……面白そう!」
「だろう? ってことで、ミレイナとエマにお願いして、軽めの実戦っぽい動きを教えてもらおうと思ってるんだ」
ミレイナは無言で小さくうなずき、エマは「よろしくねー!」と全力の笑顔を振りまいていた。
(実戦って……なんか本格的っぽい!)
俺はわくわくしながら、木剣を握りしめた。
「よし、まずはミレイナ先生による動きながら狙いを定める練習だ」
「先生……」
「ユーリ、ちょっとそこに立って。……動かないでね」
言われるがままに棒立ちになると、ミレイナが弓を手に、すっと構えをとった。
(え、ちょ、待って、これ本気じゃ――)
――ビュン!
風を裂いて、矢が俺の脇をすり抜け、背後の丸太に突き刺さった。
「…………」
「…………」
「動いてなかったね。合格」
「いやちょっと待って!? 今の試験だったの!?」
「ふふ。びびらなかったのはえらいよ?」
「どこがだよおおおお!」
広場が笑いに包まれる中、ミレイナだけが涼しい顔で矢を回収していた。
「次はエマの力で押し返す訓練だよー!」
「なんで!? 今度は逆方向から来るの!?」
笑いと悲鳴と汗が混ざり合う訓練が始まった。
そして思った。
(俺……けっこう毎日たくましくなってる気がする……)
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