社畜の異世界再出発

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第17話 間話 その歩み

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村の門をくぐったとき、懐かしい土の匂いが鼻をかすめた。

ベルス村での数日間の滞在を終え、俺たちはようやくエルデン村へと帰ってきた。季節はすっかり変わり、吹く風も秋めいてきている。畑には実りの兆しが見え、木々の葉も少し色を帯び始めていた。

「やっぱり帰ってくると、ほっとしますね」

ロイがそう言いながら、馬から降りて足を伸ばす。

「確かに。やっぱり、俺たちの居場所はここだ」

詰所に戻る前に、少しだけ広場の様子を見に寄ることにした。まだ日が高い時間帯だ。誰かが訓練をしているかもしれないと思っていたが――案の定、いた。

広場の端で、小さな子どもが足を上げたり下ろしたりしている。見れば、あの銀髪の少年――ユーリ坊だ。

「……おや?」

ちょうどボリスが近くにいたので、声をかける。

「訓練中か?」

「団長、おかえりなさい。はい、ユーリ坊が最近よく来るようになりまして。今は足踏みの練習中です」

「ふうん。始めたばかりか?」

「ええ。最初は見学だけだったんですが、少しずつ一緒に体を動かしたくなってきたようで。無理のない範囲で教えてますよ」

そのとき、ユーリがこちらに気づき、小走りに駆け寄ってきた。

「ガルドさん、おかえりなさい!」

元気な声とともに、ぱっと笑顔が咲く。その表情に、旅の疲れがふっと緩むような気がした。

「おう、ただいま。……それにしても、足踏みの練習か。訓練、始めたんだな?」

「うん! ボリスさんに教えてもらってるんだ。まだ、動き方とか、よくわかんないけど……がんばって覚えるよ!」

その言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれる。

「おお、それはいい心がけだ! お前、覚えもいいし、何よりちゃんと話を聞いて動ける。それが一番大事だ」

「ありがとう!」

ユーリは照れたように笑いながら、また広場へと駆け戻っていった。その小さな背中が、なんとも頼もしく見える。

ボリスが横で、ゆったりとした口調で付け加える。

「教えたこと、ちゃんとそのままやろうとするんですよ。ごまかさないというか、変に自己流にしない。これって、簡単なようで難しいんです」

「素直ってことだな。いい性質だ」

隣ではロイが「あの子、ほんと可愛いっすよね」と口にし、エマは「いつも一番に挨拶してくれるんですよ」と頷いた。


詰所に戻ると、カイが書類をまとめながら出迎えてくれた。留守中の報告も、ほとんどが「問題なし」。村の見回りは平常どおり、トラブルも特になかったとのことだった。

それよりも話題になったのは、やはり――

「ユーリくん、ちゃんと毎朝来てましたよ」

エマが報告の合間に言う。

「最初は体操するだけだったんですけど、今は号令に合わせて動けるようになってます。まあ、時々リズムずれるけど、それもご愛嬌ですね」

「ロープにぶら下がるのも、ちょっとやるようになってますよ」

「ていうか、あの腕力どこから来るんでしょう。細い腕してるのに」

「筋力ってより、動かし方がうまいのかもしれませんね」

「そういや、誰かに言われた動きも、ちゃんと理解しようとするよな。単なる真似じゃなくて、なにをする動きなのか、考えながら動いてる気がする」

「わかるー!」とエマが同意し、皆の間に自然と笑いが広がる。

俺は腕を組んだまま、静かにその様子を見ていた。

――たかが足踏み、されど足踏み。

地に足をつけて立つこと。体を思い通りに動かすこと。話を聞いて、それをきちんと実行できること。

そのどれもが、強くなるための土台だ。

「今は、焦らせる必要はないな。あの子のペースで、じっくり見ていけばいい」

そう言うと、団員たちは一様にうなずいた。


その日の夕方、広場を通ると、まだユーリが軽い体操を続けていた。日が傾き、影が伸びるなかでも、まっすぐ前を見て足を上げ下げしている。

声をかけるかどうか迷ったが、やめた。今はそのままにしておこうと思ったのだ。

少し離れた場所で見守りながら、俺は心の中でつぶやいた。

今日はほんの触りだけ、剣術の基礎を教えてみたが、構え方、足の運び、力の抜き方。どれもまだ形だけだが……あいつ、説明しただけで一度で動きを真似てみせた。年齢を考えれば、信じられないほどの吸収力だ。

(……とんでもない素質を持ってるかもしれん)

あの時の動きが、今も脳裏に焼きついている。
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