24 / 55
第23話 手がかり
しおりを挟む
夜の森は、ただ暗いだけじゃなかった。
風の音も、木のざわめきも、どこか不自然に思える。昼間の森が生きているなら、今の森は息を潜めているようだった。誰かがどこかで見ているような気配。だけど、気のせいだと決めつけるには、あまりにも空気が重すぎた。
俺は魔獣を倒した場所を一度振り返り、再び前へ進む。
木々の隙間から月明かりが差し込んでいる道を選びながら、一歩ずつ慎重に進んだ。
足音を抑え、草を踏まないように。耳を澄ませて、どんな物音も聞き逃さないように。
もし誰かの助けを呼ぶ声があれば、すぐに駆けつけられるように。
(……このまま、もっと奥へ行ってたら)
リノアが言っていた足跡は、確かに森の中に続いていた。普通の子なら、そんな場所には入らない。でも、ハルトたちは違う。誰かが困っているなら手を差し伸べる――そんなふうに育てられた子たちだ。この村では、それが当たり前のこととして教えられてきた。助け合うのが当然だって。
だから、俺も迷わない。
森の中を進むほど、風が肌に触れる感覚が変わってくる。
木々の密度が高くなり、空の光が届きにくくなってきた。音も減った。虫の声すら聞こえない。魔獣が現れる森では、よくある現象らしい。
俺は呼吸を浅くし、地面を観察する。
ふと、足元に目をやると、小さな靴の跡がいくつか――その中に、土を擦ったような不自然な跡が混ざっていた。
(……ここ、誰かが滑ったか?)
しゃがんで確認する。少し小さいサイズの足跡。それも複数だ。
(やっぱり……!)
土の上にうっすらと残った靴底の痕。それは、村の子どもたちが履いている靴の形に見覚えがあった。
ルッカか、ハルトか、ティオか、それともミアちゃんか――はっきりとはわからない。でも、間違いなく“子ども”の足跡だ。
その横には、何かを引きずったような細い線も残っていた。転んだ拍子に手をついたのか、それとも――
(急いで走ってた……?)
森の中を、こんな奥まで。そんな場所に、魔獣がいないはずがない。
汗がまた背中を伝う。でも、もう立ち止まるつもりはない。
(急がないと……!)
更に進むと、地面に何かが落ちていた。
草の隙間に、小さな木の人形。首にひもがついていて、かすかに泥がついている。
(これ……ミアちゃんの……!)
思い出す。昼間、訓練のあとの休憩時間。ミアちゃんが「これ、お守りなんだよ!」って誇らしげに首から下げていたのを。
胸がぎゅっと締めつけられる。これを落としていったってことは、きっと必死だったんだ。
(待ってろよ……必ず迎えに行くから)
握りしめた木の人形をポケットにしまい、さらに奥へ足を運ぶ。
木剣の感触が、手のひらにまだ残っていた。たった一度の実戦だったけど、体は動いた。
だから――次に何が出てきても、覚悟はもう決めている。
森の道は、だんだんとぬかるんできた。湿気の多い場所に入ったらしく、足元がやたらと重い。
でも、その泥の上にはっきりと足跡があった。しかも、さっきよりも数が増えている。
(四人分……全員か?)
ルッカ、ハルト、ティオ、ミアちゃん――その誰もがこの森の中を通った。ここまで来ている。
それが分かった瞬間、鼓動が跳ね上がった。
でも同時に、今まで以上に気配を研ぎ澄ませる。
ただでさえ森の奥は危険だ。魔獣も多い。いつ襲われたっておかしくない。
地面には、足跡のほかに何かが擦れたような跡もあった。
(……誰かが、引きずられてる?)
手をついて踏ん張ったような跡。深く食い込んだ足跡。少しずつ、空気が変わってくる。
まるで、見えない何かが「これ以上は来るな」と言ってるような、そんな感じ。
(大丈夫。絶対、無事でいる……そう信じてる)
こんなところで引き返せるわけがなかった。
誰もが怖がる場所。誰もが避ける森の奥。
でも俺は、剣を学んだ。訓練してきた。
あの訓練は、全部ここに繋がってた。
あの子たちを守るために。
――突然、空気が変わった。
息が詰まりそうなほどの重さ。目に見えない何かが、背後から這い寄ってくるような感覚。
体が反応した。直後、低く唸るような音が森の奥から聞こえた。
「……またかよ」
木剣を抜く。森の闇の中、また一体、魔獣の影が現れる。
さっきよりも、少し大きい。中型――いや、ギリギリ大型に近いサイズかもしれない。
だが、迷いはない。
(……やれる)
すうっと息を吸い込む。思考が加速する。
動きの予測。相手との距離。踏み込みの角度――すべてが頭の中で繋がっていく。
魔獣が突っ込んできた瞬間、地を蹴った。
「雷閃――ッ!」
すれ違いざま、ほんの一瞬の隙を見極めて剣閃を放つ。木剣が唸りを上げて喉元を裂き、魔獣は呻き声も残さず、そのまま地面へ崩れ落ちた。
手のひらに力を込め直す。少し汗ばんでいたが、呼吸は落ち着いていた。
不思議と頭は静かで、焦りもなかった――さっきの一戦で、実戦というやつを越えたからかもしれない。
俺は、真っすぐ立ってる。
(これでビビってたら、笑われるな)
(まだ先がある。止まるつもりはない)
息を整え、あたりを見回す。
――そして、そこに落ちていたのを見つけた。
草むらの中、木の根元。うっすらと泥にまみれた、小さな布きれ。
赤と緑のチェック柄。見覚えがある。
それは――
(……ルッカのシャツ……!?)
胸の奥が、ぎゅっとつかまれる。
手を伸ばして、そっと拾い上げた。
確かに、これはルッカの服の一部だった。
風の音も、木のざわめきも、どこか不自然に思える。昼間の森が生きているなら、今の森は息を潜めているようだった。誰かがどこかで見ているような気配。だけど、気のせいだと決めつけるには、あまりにも空気が重すぎた。
俺は魔獣を倒した場所を一度振り返り、再び前へ進む。
木々の隙間から月明かりが差し込んでいる道を選びながら、一歩ずつ慎重に進んだ。
足音を抑え、草を踏まないように。耳を澄ませて、どんな物音も聞き逃さないように。
もし誰かの助けを呼ぶ声があれば、すぐに駆けつけられるように。
(……このまま、もっと奥へ行ってたら)
リノアが言っていた足跡は、確かに森の中に続いていた。普通の子なら、そんな場所には入らない。でも、ハルトたちは違う。誰かが困っているなら手を差し伸べる――そんなふうに育てられた子たちだ。この村では、それが当たり前のこととして教えられてきた。助け合うのが当然だって。
だから、俺も迷わない。
森の中を進むほど、風が肌に触れる感覚が変わってくる。
木々の密度が高くなり、空の光が届きにくくなってきた。音も減った。虫の声すら聞こえない。魔獣が現れる森では、よくある現象らしい。
俺は呼吸を浅くし、地面を観察する。
ふと、足元に目をやると、小さな靴の跡がいくつか――その中に、土を擦ったような不自然な跡が混ざっていた。
(……ここ、誰かが滑ったか?)
しゃがんで確認する。少し小さいサイズの足跡。それも複数だ。
(やっぱり……!)
土の上にうっすらと残った靴底の痕。それは、村の子どもたちが履いている靴の形に見覚えがあった。
ルッカか、ハルトか、ティオか、それともミアちゃんか――はっきりとはわからない。でも、間違いなく“子ども”の足跡だ。
その横には、何かを引きずったような細い線も残っていた。転んだ拍子に手をついたのか、それとも――
(急いで走ってた……?)
森の中を、こんな奥まで。そんな場所に、魔獣がいないはずがない。
汗がまた背中を伝う。でも、もう立ち止まるつもりはない。
(急がないと……!)
更に進むと、地面に何かが落ちていた。
草の隙間に、小さな木の人形。首にひもがついていて、かすかに泥がついている。
(これ……ミアちゃんの……!)
思い出す。昼間、訓練のあとの休憩時間。ミアちゃんが「これ、お守りなんだよ!」って誇らしげに首から下げていたのを。
胸がぎゅっと締めつけられる。これを落としていったってことは、きっと必死だったんだ。
(待ってろよ……必ず迎えに行くから)
握りしめた木の人形をポケットにしまい、さらに奥へ足を運ぶ。
木剣の感触が、手のひらにまだ残っていた。たった一度の実戦だったけど、体は動いた。
だから――次に何が出てきても、覚悟はもう決めている。
森の道は、だんだんとぬかるんできた。湿気の多い場所に入ったらしく、足元がやたらと重い。
でも、その泥の上にはっきりと足跡があった。しかも、さっきよりも数が増えている。
(四人分……全員か?)
ルッカ、ハルト、ティオ、ミアちゃん――その誰もがこの森の中を通った。ここまで来ている。
それが分かった瞬間、鼓動が跳ね上がった。
でも同時に、今まで以上に気配を研ぎ澄ませる。
ただでさえ森の奥は危険だ。魔獣も多い。いつ襲われたっておかしくない。
地面には、足跡のほかに何かが擦れたような跡もあった。
(……誰かが、引きずられてる?)
手をついて踏ん張ったような跡。深く食い込んだ足跡。少しずつ、空気が変わってくる。
まるで、見えない何かが「これ以上は来るな」と言ってるような、そんな感じ。
(大丈夫。絶対、無事でいる……そう信じてる)
こんなところで引き返せるわけがなかった。
誰もが怖がる場所。誰もが避ける森の奥。
でも俺は、剣を学んだ。訓練してきた。
あの訓練は、全部ここに繋がってた。
あの子たちを守るために。
――突然、空気が変わった。
息が詰まりそうなほどの重さ。目に見えない何かが、背後から這い寄ってくるような感覚。
体が反応した。直後、低く唸るような音が森の奥から聞こえた。
「……またかよ」
木剣を抜く。森の闇の中、また一体、魔獣の影が現れる。
さっきよりも、少し大きい。中型――いや、ギリギリ大型に近いサイズかもしれない。
だが、迷いはない。
(……やれる)
すうっと息を吸い込む。思考が加速する。
動きの予測。相手との距離。踏み込みの角度――すべてが頭の中で繋がっていく。
魔獣が突っ込んできた瞬間、地を蹴った。
「雷閃――ッ!」
すれ違いざま、ほんの一瞬の隙を見極めて剣閃を放つ。木剣が唸りを上げて喉元を裂き、魔獣は呻き声も残さず、そのまま地面へ崩れ落ちた。
手のひらに力を込め直す。少し汗ばんでいたが、呼吸は落ち着いていた。
不思議と頭は静かで、焦りもなかった――さっきの一戦で、実戦というやつを越えたからかもしれない。
俺は、真っすぐ立ってる。
(これでビビってたら、笑われるな)
(まだ先がある。止まるつもりはない)
息を整え、あたりを見回す。
――そして、そこに落ちていたのを見つけた。
草むらの中、木の根元。うっすらと泥にまみれた、小さな布きれ。
赤と緑のチェック柄。見覚えがある。
それは――
(……ルッカのシャツ……!?)
胸の奥が、ぎゅっとつかまれる。
手を伸ばして、そっと拾い上げた。
確かに、これはルッカの服の一部だった。
210
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる