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第24話 譲れない戦い
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ルッカのシャツの切れ端を、そっと握りしめる。
布の端には、どこかで引き裂かれたような跡があった。泥と、少しだけ乾いた血の色がにじんでいる。
心臓が高鳴る。
嫌な予感が、じわじわと胸の内側を侵してくる。
(……この奥にいるのか!)
考えるより先に、足が動いた。
木剣を握りしめ、森のさらに奥へと踏み込んでいく。
進むごとに、空気の質が変わっていくのがわかった。風の匂いに混じる、鉄のようなにおい。どこか湿った、粘つくような気配。
そして――かすかに、声が聞こえた。
「……っけて……」
誰かの、かすれるような声。
俺は息を飲んだ。
(……ミアちゃん!?)
瞬間、全身に力が走る。
草をかき分けて駆けると、そこには――
「……ルッカ!? ハルト!! ティオ!! ミアちゃん!!」
木の根の隙間に身を寄せ合うようにして、四人の子どもたちがうずくまっていた。
どの顔にも、泥と涙と、怯えの色が刻まれている。
ミアちゃんが俺の顔を見て、はっと目を見開いた。
「ユーリ……くん……?」
「よかった、無事で……!」
その言葉が喉をついて出ると、体の力が一気に抜けた。
ルッカは目を真っ赤にして目をこすっていた。ティオは腕にかすり傷があって、ハルトは肩で息をしている。
「ど、どうして……ここに……!?」
「うそ……ユーリくん……なんで……」
ハルトの戸惑い混じりの叫びも、ミアちゃんの震える声も――全部、俺には何よりの答えだった。
生きていてくれた。それだけで、十分だった。
だけど、俺は一歩前に出て、胸を張って言った。
「――助けに来たんだよ。もちろん!」
言い切った声が、森の中に響いた。
迷いはなかった。怖くても、震えてても、それでも俺は来たんだ。あの夜、そう決めたから。
「もう大丈夫!ここからは、俺が絶対に守る!」
そう言って、四人の前に立つ。
その背に夜風が吹くのを感じながら、俺はまっすぐ立った。
小さな体でも――守るためなら、大きく見せられる。
強く、堂々と。今だけは、誰よりも前に。
ハルトが驚いたように目を見開き、ティオが震える声で「……ほんとに?」と聞いた。
ミアちゃんが涙をこらえるように口元をぎゅっと結び、ルッカはぽかんと口を開けたまま、言葉を失っていた。
いい。それでいい。驚いて、安心して――少しでも、怖さが薄れればそれでいい。
だから俺は、もう一度木剣を握り直す。
その先に、もう一つの気配が近づいていることに気づいていた。
「……来るっ!」
俺が声を低くして言った瞬間、周囲の木々がざわめいた。
あの“重さ”が、再び空気を圧迫する。
視界の先、闇の奥から、獣のうなり声が聞こえた。
ルッカは涙目で俺を見つめ、ミアちゃんは不安そうに体を震わせていた。
ティオも顔を強ばらせ、ハルトは歯を食いしばったまま立ち尽くしている。
子どもたちの前に立つ。木剣を握る手に、自然と力がこもる。
現れたのは、先ほどの個体と同じ種類の魔獣。黒い体毛に、鋭い牙。肩ほどの高さだが、動きは俊敏で、十分に危険な相手だ。
「下がって!」
叫ぶと同時に、魔獣が飛びかかってくる。
体が動いた。剣を腰に構え、踏み込みとともに剣閃を放つ。
「雷閃ッ!」
雷光のごとき一撃が、魔獣の側頭部を一閃する。木剣の感触が、肉と骨を裂いた感触として伝わってくる。
そのまま、魔獣は崩れ落ちた。
息が上がる。でも、それだけだ。
「すご……ユーリくん……!」
ミアちゃんが呟いた。
「ふふっ、すごいのは知ってたよ!」
ルッカが強がるように笑い、ティオは目を大きく見開いていた。
ハルトは唖然とした表情のまま、じっと俺を見つめていた
――けど。
俺は、一歩前に出る。
「まだいる。気を抜くな」
言い終えた瞬間だった。
背後の木々が、音を立てて揺れた。
ズン――という、重い足音。
現れたのは、さきほどの個体とは比べ物にならない、巨躯。
――大型種。
背丈は大人の肩を優に超える。脚は太く、爪は鋼鉄のように光っている。
黒い体毛には傷跡が刻まれ、片目は潰れていたが、その分、異様な殺気を漂わせている。
肩から背にかけて、灰のような色に変質した装甲が浮かび上がっていた。それは、まるで幾度もの戦いを生き延びてきた証のように、圧倒的な存在感を放っている。
魔獣には個体差がある――それを、今、目の前で突きつけられている。
(……ただの魔獣じゃない。空気が、重い)
視線を交わしただけで、全身の感覚が警鐘を鳴らす。
本能が告げていた――こいつは、危険だ。
それが、今目の前にいる。
俺は子どもたちの前に立ち、左手を後ろへ伸ばして言った。
「みんな、絶対に――俺の後ろから離れるな」
声は静かに、けれどはっきりと。
必要なのは、大きな声じゃない。安心させることだ。
魔獣の気配を捉えながら、更に一歩前へ出る。肩越しに、4人の気配を確認する。
震えていてもいい。怖くて当然だ。だからこそ、俺が立つ。
「大丈夫。俺がいるから」
そう言って構えを取る。木剣の重みが、冷静さを保たせてくれる。
目の前の“それ”は確かに強敵だ。でも、やるべきことは変わらない。
――守る。それだけだ。
魔獣が地を踏みしめた。一歩ごとに地面が鳴る。
距離はおよそ十歩。
その巨体で一気に飛び込んでくる――それを予測して、俺は呼吸を整えた。
踏み込みのタイミング。重心の移動。
相手の動き。森の地形。
魔獣が動いた。前脚を大地に打ちつけ、跳ねるようにして突っ込んでくる。
(くっ……速い!! でも――全部、見えてる……!)
息を吐く。
「――雷閃っ!!」
木剣を一閃する。狙いは首元――だが、予想以上の加速に届かない。
魔獣の前脚が、鋭く俺の肩を掠めた。
「ぐっ……!!」
横に吹き飛ばされる。
地面を転がり、木の根に背中を打ちつけた。
肺から空気が抜ける。
でも、すぐに起き上がる。痛みはあるが、骨は折れてない。
(動ける……まだ、やれるっ!)
魔獣は俺を仕留め損ねたことに気づき、ゆっくりと振り返る。
魔獣が低くうなり、足を一歩踏み出した。その重さに、地面がわずかに揺れる。
俺は冷静に息を整え、腰を落とした。
どう動く――どうすれば、あの魔獣を倒せる。
相手は速い。重い。まともにぶつかれば、こっちが潰される。
剣の角度、足の位置、間合い――すべてを頭の中で組み立てながら、最適解を探す。
(正面からぶつかれば押し負ける……でも、あいつは力任せだ。今まで、ただの腕力だけでねじ伏せてきたんだろ)
(だからこそ、細かい動きが雑だ。――隙は、ある)
勝ち筋を、一つでも見逃さないように。
研ぎ澄ました視線が、魔獣の動きを追う。
魔獣の目が細められ、次の瞬間――地を蹴った。
「……来る!」
魔獣の動きは速い。空気が裂けるほどの突進。だが、その一歩ごとの軌道、踏み込みの速さ――
(くっ! 早い……! でも、見えてる!)
全身の感覚が研ぎ澄まされる。足元の土の跳ね方すら読めるほど、視界が広がっていく。
すれ違いざま、体をひねって剣閃を走らせる。
「――雷閃!!」
木剣がうなりを上げ、魔獣の肩口を斜めに裂いた。
だが、倒れない。鋭い叫び声とともに、魔獣が振り向きざまに爪を振るう!
「ッ!」
剣を逆手に構え、防ぐ。衝撃が腕に走る。木剣の軋む音。滑る足場。
――だが、踏みとどまった。
(止まるな……! こっちが止まったら、全部終わる!)
反撃に転じる。わずかな隙を縫って、腰を落として突き出す。
魔獣が避ける。そのたびに土が舞い、風が鳴る。
一撃ごとに、距離が詰まり、削り合いになる。
だが、俺は一歩も退かない。
(後ろで震えてる……ルッカも、ティオも、ミアちゃんも……ハルトだって、声を殺して必死に耐えてる)
(だから――俺がやるんだ。俺が、絶対に勝つっ!!)
次の瞬間、魔獣が跳躍する。飛びかかる動き。頭上からの襲撃。
俺は地面を転がりながら体勢を立て直し、すれ違いざまに渾身の一撃を叩き込んだ。
剣閃が魔獣の胸を裂く。
魔獣が地面に叩きつけられ、低く唸った。立ち上がりかける――が、その足元がぐらつく。
(……効いてるっ!)
だが、まだ終わっていない。相手は踏みとどまっている。
(こっちだって、何度でも立つさ!)
俺は再び構える。呼吸は荒く、額から汗が流れる。でも――気持ちは揺るがない。
背後には、守りたい命がある。
そして目の前には――絶対に倒さなきゃいけない、壁がある。
布の端には、どこかで引き裂かれたような跡があった。泥と、少しだけ乾いた血の色がにじんでいる。
心臓が高鳴る。
嫌な予感が、じわじわと胸の内側を侵してくる。
(……この奥にいるのか!)
考えるより先に、足が動いた。
木剣を握りしめ、森のさらに奥へと踏み込んでいく。
進むごとに、空気の質が変わっていくのがわかった。風の匂いに混じる、鉄のようなにおい。どこか湿った、粘つくような気配。
そして――かすかに、声が聞こえた。
「……っけて……」
誰かの、かすれるような声。
俺は息を飲んだ。
(……ミアちゃん!?)
瞬間、全身に力が走る。
草をかき分けて駆けると、そこには――
「……ルッカ!? ハルト!! ティオ!! ミアちゃん!!」
木の根の隙間に身を寄せ合うようにして、四人の子どもたちがうずくまっていた。
どの顔にも、泥と涙と、怯えの色が刻まれている。
ミアちゃんが俺の顔を見て、はっと目を見開いた。
「ユーリ……くん……?」
「よかった、無事で……!」
その言葉が喉をついて出ると、体の力が一気に抜けた。
ルッカは目を真っ赤にして目をこすっていた。ティオは腕にかすり傷があって、ハルトは肩で息をしている。
「ど、どうして……ここに……!?」
「うそ……ユーリくん……なんで……」
ハルトの戸惑い混じりの叫びも、ミアちゃんの震える声も――全部、俺には何よりの答えだった。
生きていてくれた。それだけで、十分だった。
だけど、俺は一歩前に出て、胸を張って言った。
「――助けに来たんだよ。もちろん!」
言い切った声が、森の中に響いた。
迷いはなかった。怖くても、震えてても、それでも俺は来たんだ。あの夜、そう決めたから。
「もう大丈夫!ここからは、俺が絶対に守る!」
そう言って、四人の前に立つ。
その背に夜風が吹くのを感じながら、俺はまっすぐ立った。
小さな体でも――守るためなら、大きく見せられる。
強く、堂々と。今だけは、誰よりも前に。
ハルトが驚いたように目を見開き、ティオが震える声で「……ほんとに?」と聞いた。
ミアちゃんが涙をこらえるように口元をぎゅっと結び、ルッカはぽかんと口を開けたまま、言葉を失っていた。
いい。それでいい。驚いて、安心して――少しでも、怖さが薄れればそれでいい。
だから俺は、もう一度木剣を握り直す。
その先に、もう一つの気配が近づいていることに気づいていた。
「……来るっ!」
俺が声を低くして言った瞬間、周囲の木々がざわめいた。
あの“重さ”が、再び空気を圧迫する。
視界の先、闇の奥から、獣のうなり声が聞こえた。
ルッカは涙目で俺を見つめ、ミアちゃんは不安そうに体を震わせていた。
ティオも顔を強ばらせ、ハルトは歯を食いしばったまま立ち尽くしている。
子どもたちの前に立つ。木剣を握る手に、自然と力がこもる。
現れたのは、先ほどの個体と同じ種類の魔獣。黒い体毛に、鋭い牙。肩ほどの高さだが、動きは俊敏で、十分に危険な相手だ。
「下がって!」
叫ぶと同時に、魔獣が飛びかかってくる。
体が動いた。剣を腰に構え、踏み込みとともに剣閃を放つ。
「雷閃ッ!」
雷光のごとき一撃が、魔獣の側頭部を一閃する。木剣の感触が、肉と骨を裂いた感触として伝わってくる。
そのまま、魔獣は崩れ落ちた。
息が上がる。でも、それだけだ。
「すご……ユーリくん……!」
ミアちゃんが呟いた。
「ふふっ、すごいのは知ってたよ!」
ルッカが強がるように笑い、ティオは目を大きく見開いていた。
ハルトは唖然とした表情のまま、じっと俺を見つめていた
――けど。
俺は、一歩前に出る。
「まだいる。気を抜くな」
言い終えた瞬間だった。
背後の木々が、音を立てて揺れた。
ズン――という、重い足音。
現れたのは、さきほどの個体とは比べ物にならない、巨躯。
――大型種。
背丈は大人の肩を優に超える。脚は太く、爪は鋼鉄のように光っている。
黒い体毛には傷跡が刻まれ、片目は潰れていたが、その分、異様な殺気を漂わせている。
肩から背にかけて、灰のような色に変質した装甲が浮かび上がっていた。それは、まるで幾度もの戦いを生き延びてきた証のように、圧倒的な存在感を放っている。
魔獣には個体差がある――それを、今、目の前で突きつけられている。
(……ただの魔獣じゃない。空気が、重い)
視線を交わしただけで、全身の感覚が警鐘を鳴らす。
本能が告げていた――こいつは、危険だ。
それが、今目の前にいる。
俺は子どもたちの前に立ち、左手を後ろへ伸ばして言った。
「みんな、絶対に――俺の後ろから離れるな」
声は静かに、けれどはっきりと。
必要なのは、大きな声じゃない。安心させることだ。
魔獣の気配を捉えながら、更に一歩前へ出る。肩越しに、4人の気配を確認する。
震えていてもいい。怖くて当然だ。だからこそ、俺が立つ。
「大丈夫。俺がいるから」
そう言って構えを取る。木剣の重みが、冷静さを保たせてくれる。
目の前の“それ”は確かに強敵だ。でも、やるべきことは変わらない。
――守る。それだけだ。
魔獣が地を踏みしめた。一歩ごとに地面が鳴る。
距離はおよそ十歩。
その巨体で一気に飛び込んでくる――それを予測して、俺は呼吸を整えた。
踏み込みのタイミング。重心の移動。
相手の動き。森の地形。
魔獣が動いた。前脚を大地に打ちつけ、跳ねるようにして突っ込んでくる。
(くっ……速い!! でも――全部、見えてる……!)
息を吐く。
「――雷閃っ!!」
木剣を一閃する。狙いは首元――だが、予想以上の加速に届かない。
魔獣の前脚が、鋭く俺の肩を掠めた。
「ぐっ……!!」
横に吹き飛ばされる。
地面を転がり、木の根に背中を打ちつけた。
肺から空気が抜ける。
でも、すぐに起き上がる。痛みはあるが、骨は折れてない。
(動ける……まだ、やれるっ!)
魔獣は俺を仕留め損ねたことに気づき、ゆっくりと振り返る。
魔獣が低くうなり、足を一歩踏み出した。その重さに、地面がわずかに揺れる。
俺は冷静に息を整え、腰を落とした。
どう動く――どうすれば、あの魔獣を倒せる。
相手は速い。重い。まともにぶつかれば、こっちが潰される。
剣の角度、足の位置、間合い――すべてを頭の中で組み立てながら、最適解を探す。
(正面からぶつかれば押し負ける……でも、あいつは力任せだ。今まで、ただの腕力だけでねじ伏せてきたんだろ)
(だからこそ、細かい動きが雑だ。――隙は、ある)
勝ち筋を、一つでも見逃さないように。
研ぎ澄ました視線が、魔獣の動きを追う。
魔獣の目が細められ、次の瞬間――地を蹴った。
「……来る!」
魔獣の動きは速い。空気が裂けるほどの突進。だが、その一歩ごとの軌道、踏み込みの速さ――
(くっ! 早い……! でも、見えてる!)
全身の感覚が研ぎ澄まされる。足元の土の跳ね方すら読めるほど、視界が広がっていく。
すれ違いざま、体をひねって剣閃を走らせる。
「――雷閃!!」
木剣がうなりを上げ、魔獣の肩口を斜めに裂いた。
だが、倒れない。鋭い叫び声とともに、魔獣が振り向きざまに爪を振るう!
「ッ!」
剣を逆手に構え、防ぐ。衝撃が腕に走る。木剣の軋む音。滑る足場。
――だが、踏みとどまった。
(止まるな……! こっちが止まったら、全部終わる!)
反撃に転じる。わずかな隙を縫って、腰を落として突き出す。
魔獣が避ける。そのたびに土が舞い、風が鳴る。
一撃ごとに、距離が詰まり、削り合いになる。
だが、俺は一歩も退かない。
(後ろで震えてる……ルッカも、ティオも、ミアちゃんも……ハルトだって、声を殺して必死に耐えてる)
(だから――俺がやるんだ。俺が、絶対に勝つっ!!)
次の瞬間、魔獣が跳躍する。飛びかかる動き。頭上からの襲撃。
俺は地面を転がりながら体勢を立て直し、すれ違いざまに渾身の一撃を叩き込んだ。
剣閃が魔獣の胸を裂く。
魔獣が地面に叩きつけられ、低く唸った。立ち上がりかける――が、その足元がぐらつく。
(……効いてるっ!)
だが、まだ終わっていない。相手は踏みとどまっている。
(こっちだって、何度でも立つさ!)
俺は再び構える。呼吸は荒く、額から汗が流れる。でも――気持ちは揺るがない。
背後には、守りたい命がある。
そして目の前には――絶対に倒さなきゃいけない、壁がある。
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