社畜の異世界再出発

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第25話 一歩も退かず

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木剣を構え、俺は魔獣と対峙していた。

相手は、大型の魔獣。全身に戦いの痕を刻んだ獣。肩から背にかけての装甲じみた体毛が灰のように変質し、まるで鋼のように硬質な気配を放っている。まともに食らえば、俺の木剣なんか木端微塵だろう。

でも、怖気づいてる暇なんてない。

(あいつは速くて重い。剣を弾く力もある。――真正面からじゃ勝てない)

目を凝らす。呼吸を整える。空気の動き、草の揺れ、魔獣の足の向き。すべてが情報だ。

(あの爪も牙も、致命的だ。でも――動きに無駄はある)

 魔獣がうなり声をあげた。唸るような低音が地面を震わせる。

――来る!

一瞬、筋肉が跳ねたのが見えた。

地を蹴る音。空気が裂ける。突進!

「っ!」

反射的に体を逸らし、踏み込む足の外側を取る。そのまま、喉元を狙って木剣を振り抜く!

「雷閃――ッ!!」

閃光のような一撃がナイトウルフの首元をかすめる。皮膚が裂け、血が飛び散る――が、止まらない!

「くっ!」

振り向きざまの爪が迫る。咄嗟に剣を構え直して受け止めるも、重い衝撃が体を襲い、数歩、後退。

――それでも、踏みとどまった。

(呼吸は荒い、体も軋む――でも、意識ははっきりしてる。まだ、俺は倒れない!)

魔獣は体を低く構え、ぐるりと回り込むように間合いを取る。賢い――ただの魔獣じゃない。

俺もまた、構えを解かず距離を保つ。

(まずい……息つく暇もない……! 次は、上から来る! 避け損ねたら一撃で終わる――でも、見えてる。やれる……!)

読みどおりだった。

魔獣が木を蹴って跳んだ。巨体が宙を舞い、影が覆いかぶさる!

「うおぉおおっ!!」

全力で横に飛ぶ。同時に地面を蹴って回転。体勢を整え、すれ違いざまに一閃!

だが、魔獣も動きを変え、攻撃を避けた。

着地と同時に、後ろ脚で蹴るような反撃――!

木剣で受ける!

「ぐっ……!!」

衝撃で足が滑る。腰まで痺れる。

痛みはある。息も切れている。けど、倒れるわけにはいかない。あの子たちを守るために――

(……簡単にはいかない。これが、本物の“脅威”か)

それでも、攻撃を重ねるしかない。削って、削って――やつが油断したその一瞬、迷わず全力の雷閃を叩き込む。それしか、勝つ道はない。


戦いは、すでに数分続いていた。

木剣の一撃は、数発は傷を与えた。だけど深手には至らない。相手の装甲のような体毛が、衝撃を吸収しているのかもしれない。

俺の肩は痛み、膝もじんじんと痺れていた。何度も転がり、受け止めて、跳ね返された。

それでも、集中は途切れない。

魔獣は確実に、攻撃のリズムに癖がある。

例えば――跳躍の後は、右脚で着地する。反撃は、左前脚からが多い。そして、一度ダメージを受けると、次の攻撃は踏み込みが甘くなる。

(見えてきた……!)

魔獣がまた跳んだ! 今度はフェイント――!

下からくる!

「――っ!」

地を滑るように後ろへ飛ぶ。魔獣の爪が目前をかすめる。

俺は地を蹴って、踏み込んだ。

「……雷閃っ!!」

狙いは肩口! 正確に、鋭く――!

だが!

「ッ!?」

魔獣の首が、予想外の角度で旋回する。避けた――!

カウンターの牙が、目の前に!

咄嗟に木剣をかざした!

ガリッ――!

木が裂ける音。木剣の一部が砕けた。

魔獣の爪が、俺の左腕をかすめ、鮮血が飛び散る。

「……ッ!」

痛みが走る。でも、耐えられる。

――そう思い込もうとしても、現実は容赦がなかった。

左腕に走った激痛は、ただの擦り傷なんかじゃない。皮膚の奥――筋まで裂けたような鈍い痛みが、左腕を動かすたびにじわじわと響いてくる。息を吸うだけで、胸の奥が軋む。

(ッ……まだ動く。痛いけど、まだ……!)

膝が笑いそうになる。けど、踏みとどまった。

ここで倒れたら、全部終わる。
あの子たちの怯えた目が、俺の背中にある。

だから――この程度、耐えてみせる。

だけど、魔獣も傷を負っている。肩から血を流し、呼吸も荒い。

(限界なんて関係ない……今だけは、俺がやるしかない!)

魔獣が距離を取る。次の一撃に、力を溜めている。

(仕留めにくる……なら、こっちも……!)

痛みを押し殺し、立ち上がる。
左腕からは、まだじわじわと血が滴っていた。動かすたびに、皮膚の奥を引き裂かれるような鈍い痛みが走る。もう、まともには使えない。

それでも――右手は、まだ握っていた。
木剣には、深いヒビが走っている。 次の一撃で折れるかもしれない。それでも、握る手に力を込める。

「まだだ……」

息を整え、視線を前に向ける。

――ここからが、本当の勝負だ。
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