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第37話 町の門をくぐるとき
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朝は、やっぱりお腹が鳴る。
「ほら、ユーリ。しっかり食べときなさい。今日も長い一日になるんだから」
「うん、いただきまーす!」
焼きたてのパンに、母さんが作ってくれたベリーのジャム。それに、畑で採れたトマトとチーズのスープ。
いつもと同じ朝ごはんだけど――今日は、ちょっと特別な日。
だって、今日は父さんの荷馬車について、町へ行くんだから!
(……って言っても、町に行くのはこれで二回目なんだけどさ)
一回目は、ナイトウルフとの戦いで負傷して、ぐったりのまま病院送りになった時。
あの時は念のため休息も多く取ってたけど、それでも散歩の時間はあって、町の人ともけっこう喋れた。
でも今日は、そのときみたいな患者扱いじゃなくて、ちゃんと元気に町を歩く初めての一日……なんかちょっと、ワクワクする。
期待で胸がふくらむ一方で、不安もちょっとある。
(前に来た時は、結構人の多さにびっくりしたっけ。でも今回は、ちゃんと元気に歩けるし、大丈夫……なはず!)
「ユーリ、準備できたか?」
「うん! ばっちり!」
荷台の後ろに飛び乗りながら、元気よく答える。
今日は作物をたくさん積んでるから、歩くのは父さんと俺だけ。荷馬車を引くのは、うちの大黒柱――じゃなくて、馬のモコ。すごくおっとりしてるけど、やるときはやる働き者だ。
父さんの掛け声に、俺は元気よく返事をして、荷車の横に並んで歩き出す。まだ朝の空気が少し肌寒いけど、それもなんだか心地いい。町へ行く道のりが、なんだか特別な冒険みたいに感じて、自然と足取りが弾む。
そういえば――
「ずるいっ! なんでユーリだけ町に行くのよ!」
朝、家を出るとき、リノアがプクーッと頬をふくらませて抗議してきたんだった。
「遊びに行くんじゃないんだよ、荷物運びの手伝いだし」
そう言ったら、「それでも行きたい!」って食い下がってきたけど、母さんに「今日は剣の訓練があるでしょ」と言われて、しぶしぶ引き下がってくれた。
「……はぁ、つまんない……」
最後にはそんなふうにぼやきながらも、「行ってらっしゃい」と手を振ってくれたから、ちょっとだけ嬉しかった。
(今度は、一緒に来れるといいね)
心の中でそう呟きながら、俺は父さんの後ろを追って、町への道を歩き出した。
道中、馬車はガタゴトと心地よく揺れながら進んでいく。
「……ふあぁ」
最初は、道のりの景色が新鮮で、胸が躍っていた。見慣れない草花や遠くに見える山の稜線、ふいに飛び立つ鳥の群れ。全部がなんだかワクワクした。
……けど。
馬車の揺れがあまりにも心地よくて、気づけばまぶたが重くなってくる。
(やばい……! このまま寝ちゃったら、町に着いたとき何も覚えてないってなるパターンじゃん!)
せっかくの町行きなんだ。あんまり見慣れない景色だって、ちゃんと目に焼きつけておきたい。
――そう思って背筋をしゃんと伸ばした、その時。
「そういえば、町ではユーリに任せたい仕事がある」
「えっ、任せたい仕事……?」
「品物を届ける先で、お釣りのやりとりをしてもらいたい」
「……え、僕が?」
「練習だ。外の人と話す経験ってのは、大事だぞ」
(うわあ、なんか、いきなりハードル高いの来た!?)
……って思ったけど、まあ、別に大変ってほどでもないんだよな。
前世でもこういうの、よくあったし。急に頼まれて「えっ俺がやるの!?」ってなったけど、意外とやれちゃうやつ。
あの頃は内心でぶつぶつ文句言いながらこなしてたけど、今はちょっと違う。
ちゃんと「任せられてる」って感じがするし……うん、なんか、ちょっと嬉しいかも。
(俺、信頼されてるんだ……!)
「……わかった。がんばる」
「よし、その意気だ!」
父さんが軽く俺の背中をぽんっと叩いてくれる。こういうの、地味に嬉しいんだよな。
そうして馬車を走らせること数時間。
ついに、町が見えてきた。
「おおお……!」
今こうして外から町の中を見てると、初めてみたいな感覚になる。
広がる石畳の道、色とりどりの看板、甘くて香ばしい、小麦とバターの香りが街角からふんわりと漂ってくる。どこを見ても、絵本みたいで、ちょっとファンタジーって感じで――
(いいな、こういうの。やっぱり、ワクワクする……!)
門のところには衛兵さんがいて、行き交う馬車や旅人が行列を作っている。屋根の高い建物や、人々の話し声、遠くに見える鐘楼。
(……うん、これは確かに世界が広がるって感じかもしれない)
門の前まで来ると、衛兵さんが声をかけてきた。
「おや、ルドルフさんじゃないか。今日はたっぷり積んでるな」
「今年は出来がいいんでね。こいつは息子のユーリ。今日は手伝いでな」
「ほう、そいつは心強いな。……お、いい目してる。そのツラも将来有望だな、将来、女泣かせになるな」
「あ、ありがとうございます……!」
(……なんだその爽やかスマイル。営業トークじゃなくて本気だったら余計に照れるんだけど!?)
でも父さんはにやにやしてるし、衛兵さんも笑ってるし、なんかもう流れに乗るしかない空気。
(うん……これが、大人のコミュニケーション……!)
門を通って、町の中へ。
足を踏み入れたその瞬間――
(おおお……やっぱり活気がある!)
絵本の中に飛び込んだみたいで、どこを見ても飽きない。
「ユーリ、口開いてるぞ」
「はっ!?」
慌てて口を閉じた。けど、もう遅い。父さんは笑いながら先に進んでいく。
「まずは金の月で荷を降ろすぞ」
父さんが馬車をゆっくりと進めながら、そう言った。
「……金の月って?」
俺が首をかしげると、父さんが軽く顎で前方を示した。
「あそこだ。ほら、角の広場の手前にある、大きな建物。町でもわりと評判のいい宿屋らしいぞ」
言われて目を凝らすと、確かに少し奥まった場所に立派な建物が見える。木造だけど、二階建てで屋根の縁も装飾されてて、他の店より明らかにちゃんとしてる。
「へぇー、立派な建物……」
(宿屋? なんか高そうな雰囲気だけど……)
「旅人や商人がよく泊まる場所でな。領主様の使いの者が来た時も、よくここを使ってるって話だ。料理もうまいらしいぞ」
「へぇぇ……そうなんだ。そんなとこに、うちの野菜を?」
「そういうこった。前に市場で味見してもらった時にな、味がいいって気に入ってくれてな。それから何度か頼まれてるんだ」
(す、すご……思ってたより、うちの野菜ってちゃんと活躍してたんだ……!)
ちょっと緊張しながらも、俺は父さんの横をしっかり歩いた。
「いらっしゃいませー! あっ、ルドルフさん! いらっしゃい!」
「よお、今日はうちの坊主も連れてきたんでね。納品、よろしく頼むよ」
「おー、可愛い顔してるね! 噂は聞いてるよ、君がユーリくんだね?」
宿屋の看板娘さんが、笑顔で挨拶してくれる。歳は……たぶん、10代後半? すごく元気で明るい感じ。
ん? 噂って……もしかして
「よ、よろしくお願いします……! えっと、その……噂って、もしかして僕のこと……ですか?」
(やばい、声が裏返った)
すると看板娘さんは、ぱっと笑顔を弾けさせて言った。
「そうだよ! ちっちゃな英雄とか雷の王子とかって噂、聞いたことあるもん!」
「……うぐっ」
思わず項垂れる。まだその噂、残ってたのか……
(いや、もうだいぶ経ったと思ってたのに……!)
その後、受け渡しもスムーズに進んだ。お釣りのやりとりもなんとか無事にこなして、心にちょっとしたダメージは負ったけど、最後まできちんとやりきって、当然のようにお礼も伝えた。それが最低限のマナーだしね。
「……ふぅ」
外に出て、大きく息を吐いた。
「お疲れさん、上出来だったぞ」
「ほんと……なんとか、乗り切った」
緊張感もあったけど、そんなのも含めて楽しむ余裕はあったと思う。
その後もいくつかの店をまわって歩いたけど、前に来たときに少し覚えてたおかげで、特に迷うこともなかった。
パン屋さんでは余ったパンをもらったり、
八百屋のおじさんに「おっ、英雄くんじゃないか!元気そうだな!」と声をかけられ、ついでに頭をくしゃっと撫でられた。前に来たときもこう呼ばれてたけど――まさか、まだ覚えられてたとは……。
薬草屋では、店の奥から出てきたおじいさんが「おお、ユーリくんか。久しぶりじゃのう。元気そうで安心したわい」と、にこにこと話しかけてきた。
最後の納品が終わると、父さんが言った。
「よし、昼飯にするか。今日は特別に、屋台で食べるぞ」
「やったー!!」
ふわっと漂ってくる肉とタレのにおい……!
「焼き串三本! あと、おにぎりも!」
「おう、よく食うなぁ!」
荷馬車の横に腰を下ろして、父さんと並んで食べる昼ごはん。
「……おいしっ」
しみじみ呟くと、父さんが笑った。
「そりゃよかった。町も、悪くないだろ?」
「うん!」
午後は、市場を少しだけ見てまわった。珍しい魔道具とか、手品の大道芸とか、子どもたちが遊べる場所とか――見るもの全部が面白くて、時間が足りないくらいだった。
「おーい、坊主! ちょっとこっち見ていきな!」
「えっ? なになに?」
「おめぇ、剣の素振りやってんだろ? ちょっとこいつ、握ってみな」
「あ、これは……!?」
(な、なんかやたら格好いい剣渡されたんですけど!? これって……試し切りとか!? いやいや、俺、今日町来たばっかりだよ!? いきなりそんな展開ある!?)
――さすがに慌てた父さんが止めに入り、剣屋のおじさんも「あー、やっぱやめとくか~」と笑いながら下げた。
なんでだろ。あの剣、なんか妙に気になる。
視界の端に入るたびに、なぜか意識が引っ張られるような感覚がある。
まるで、ずっと前から知っていたかのような……懐かしいような、不思議な感じ。
(うーん、気のせいかな。でも……変だな、なんか、すごく印象に残る)
そうして、楽しかった町での時間も、夕方には終わりを迎える。
帰り道、馬車の揺れがまた心地よくなってきて、俺はうとうとしながら父さんに聞いた。
「ねえ、また町に来れる?」
「もちろん。お前がまた手伝ってくれるならな」
「……じゃあ、また来たい」
「よし、約束だな」
揺れる馬車の上。空は、夕焼け色に染まっていた。
(……また、来よう。この町のこと、もっとたくさんのことも知りたいし、見てみたい)
――そういえば、明日は近隣の村……たしか、ベルス村から数人の自警団の人と子どもたちが、うちの村の訓練を見学しに来るんだったっけ。
「ほら、ユーリ。しっかり食べときなさい。今日も長い一日になるんだから」
「うん、いただきまーす!」
焼きたてのパンに、母さんが作ってくれたベリーのジャム。それに、畑で採れたトマトとチーズのスープ。
いつもと同じ朝ごはんだけど――今日は、ちょっと特別な日。
だって、今日は父さんの荷馬車について、町へ行くんだから!
(……って言っても、町に行くのはこれで二回目なんだけどさ)
一回目は、ナイトウルフとの戦いで負傷して、ぐったりのまま病院送りになった時。
あの時は念のため休息も多く取ってたけど、それでも散歩の時間はあって、町の人ともけっこう喋れた。
でも今日は、そのときみたいな患者扱いじゃなくて、ちゃんと元気に町を歩く初めての一日……なんかちょっと、ワクワクする。
期待で胸がふくらむ一方で、不安もちょっとある。
(前に来た時は、結構人の多さにびっくりしたっけ。でも今回は、ちゃんと元気に歩けるし、大丈夫……なはず!)
「ユーリ、準備できたか?」
「うん! ばっちり!」
荷台の後ろに飛び乗りながら、元気よく答える。
今日は作物をたくさん積んでるから、歩くのは父さんと俺だけ。荷馬車を引くのは、うちの大黒柱――じゃなくて、馬のモコ。すごくおっとりしてるけど、やるときはやる働き者だ。
父さんの掛け声に、俺は元気よく返事をして、荷車の横に並んで歩き出す。まだ朝の空気が少し肌寒いけど、それもなんだか心地いい。町へ行く道のりが、なんだか特別な冒険みたいに感じて、自然と足取りが弾む。
そういえば――
「ずるいっ! なんでユーリだけ町に行くのよ!」
朝、家を出るとき、リノアがプクーッと頬をふくらませて抗議してきたんだった。
「遊びに行くんじゃないんだよ、荷物運びの手伝いだし」
そう言ったら、「それでも行きたい!」って食い下がってきたけど、母さんに「今日は剣の訓練があるでしょ」と言われて、しぶしぶ引き下がってくれた。
「……はぁ、つまんない……」
最後にはそんなふうにぼやきながらも、「行ってらっしゃい」と手を振ってくれたから、ちょっとだけ嬉しかった。
(今度は、一緒に来れるといいね)
心の中でそう呟きながら、俺は父さんの後ろを追って、町への道を歩き出した。
道中、馬車はガタゴトと心地よく揺れながら進んでいく。
「……ふあぁ」
最初は、道のりの景色が新鮮で、胸が躍っていた。見慣れない草花や遠くに見える山の稜線、ふいに飛び立つ鳥の群れ。全部がなんだかワクワクした。
……けど。
馬車の揺れがあまりにも心地よくて、気づけばまぶたが重くなってくる。
(やばい……! このまま寝ちゃったら、町に着いたとき何も覚えてないってなるパターンじゃん!)
せっかくの町行きなんだ。あんまり見慣れない景色だって、ちゃんと目に焼きつけておきたい。
――そう思って背筋をしゃんと伸ばした、その時。
「そういえば、町ではユーリに任せたい仕事がある」
「えっ、任せたい仕事……?」
「品物を届ける先で、お釣りのやりとりをしてもらいたい」
「……え、僕が?」
「練習だ。外の人と話す経験ってのは、大事だぞ」
(うわあ、なんか、いきなりハードル高いの来た!?)
……って思ったけど、まあ、別に大変ってほどでもないんだよな。
前世でもこういうの、よくあったし。急に頼まれて「えっ俺がやるの!?」ってなったけど、意外とやれちゃうやつ。
あの頃は内心でぶつぶつ文句言いながらこなしてたけど、今はちょっと違う。
ちゃんと「任せられてる」って感じがするし……うん、なんか、ちょっと嬉しいかも。
(俺、信頼されてるんだ……!)
「……わかった。がんばる」
「よし、その意気だ!」
父さんが軽く俺の背中をぽんっと叩いてくれる。こういうの、地味に嬉しいんだよな。
そうして馬車を走らせること数時間。
ついに、町が見えてきた。
「おおお……!」
今こうして外から町の中を見てると、初めてみたいな感覚になる。
広がる石畳の道、色とりどりの看板、甘くて香ばしい、小麦とバターの香りが街角からふんわりと漂ってくる。どこを見ても、絵本みたいで、ちょっとファンタジーって感じで――
(いいな、こういうの。やっぱり、ワクワクする……!)
門のところには衛兵さんがいて、行き交う馬車や旅人が行列を作っている。屋根の高い建物や、人々の話し声、遠くに見える鐘楼。
(……うん、これは確かに世界が広がるって感じかもしれない)
門の前まで来ると、衛兵さんが声をかけてきた。
「おや、ルドルフさんじゃないか。今日はたっぷり積んでるな」
「今年は出来がいいんでね。こいつは息子のユーリ。今日は手伝いでな」
「ほう、そいつは心強いな。……お、いい目してる。そのツラも将来有望だな、将来、女泣かせになるな」
「あ、ありがとうございます……!」
(……なんだその爽やかスマイル。営業トークじゃなくて本気だったら余計に照れるんだけど!?)
でも父さんはにやにやしてるし、衛兵さんも笑ってるし、なんかもう流れに乗るしかない空気。
(うん……これが、大人のコミュニケーション……!)
門を通って、町の中へ。
足を踏み入れたその瞬間――
(おおお……やっぱり活気がある!)
絵本の中に飛び込んだみたいで、どこを見ても飽きない。
「ユーリ、口開いてるぞ」
「はっ!?」
慌てて口を閉じた。けど、もう遅い。父さんは笑いながら先に進んでいく。
「まずは金の月で荷を降ろすぞ」
父さんが馬車をゆっくりと進めながら、そう言った。
「……金の月って?」
俺が首をかしげると、父さんが軽く顎で前方を示した。
「あそこだ。ほら、角の広場の手前にある、大きな建物。町でもわりと評判のいい宿屋らしいぞ」
言われて目を凝らすと、確かに少し奥まった場所に立派な建物が見える。木造だけど、二階建てで屋根の縁も装飾されてて、他の店より明らかにちゃんとしてる。
「へぇー、立派な建物……」
(宿屋? なんか高そうな雰囲気だけど……)
「旅人や商人がよく泊まる場所でな。領主様の使いの者が来た時も、よくここを使ってるって話だ。料理もうまいらしいぞ」
「へぇぇ……そうなんだ。そんなとこに、うちの野菜を?」
「そういうこった。前に市場で味見してもらった時にな、味がいいって気に入ってくれてな。それから何度か頼まれてるんだ」
(す、すご……思ってたより、うちの野菜ってちゃんと活躍してたんだ……!)
ちょっと緊張しながらも、俺は父さんの横をしっかり歩いた。
「いらっしゃいませー! あっ、ルドルフさん! いらっしゃい!」
「よお、今日はうちの坊主も連れてきたんでね。納品、よろしく頼むよ」
「おー、可愛い顔してるね! 噂は聞いてるよ、君がユーリくんだね?」
宿屋の看板娘さんが、笑顔で挨拶してくれる。歳は……たぶん、10代後半? すごく元気で明るい感じ。
ん? 噂って……もしかして
「よ、よろしくお願いします……! えっと、その……噂って、もしかして僕のこと……ですか?」
(やばい、声が裏返った)
すると看板娘さんは、ぱっと笑顔を弾けさせて言った。
「そうだよ! ちっちゃな英雄とか雷の王子とかって噂、聞いたことあるもん!」
「……うぐっ」
思わず項垂れる。まだその噂、残ってたのか……
(いや、もうだいぶ経ったと思ってたのに……!)
その後、受け渡しもスムーズに進んだ。お釣りのやりとりもなんとか無事にこなして、心にちょっとしたダメージは負ったけど、最後まできちんとやりきって、当然のようにお礼も伝えた。それが最低限のマナーだしね。
「……ふぅ」
外に出て、大きく息を吐いた。
「お疲れさん、上出来だったぞ」
「ほんと……なんとか、乗り切った」
緊張感もあったけど、そんなのも含めて楽しむ余裕はあったと思う。
その後もいくつかの店をまわって歩いたけど、前に来たときに少し覚えてたおかげで、特に迷うこともなかった。
パン屋さんでは余ったパンをもらったり、
八百屋のおじさんに「おっ、英雄くんじゃないか!元気そうだな!」と声をかけられ、ついでに頭をくしゃっと撫でられた。前に来たときもこう呼ばれてたけど――まさか、まだ覚えられてたとは……。
薬草屋では、店の奥から出てきたおじいさんが「おお、ユーリくんか。久しぶりじゃのう。元気そうで安心したわい」と、にこにこと話しかけてきた。
最後の納品が終わると、父さんが言った。
「よし、昼飯にするか。今日は特別に、屋台で食べるぞ」
「やったー!!」
ふわっと漂ってくる肉とタレのにおい……!
「焼き串三本! あと、おにぎりも!」
「おう、よく食うなぁ!」
荷馬車の横に腰を下ろして、父さんと並んで食べる昼ごはん。
「……おいしっ」
しみじみ呟くと、父さんが笑った。
「そりゃよかった。町も、悪くないだろ?」
「うん!」
午後は、市場を少しだけ見てまわった。珍しい魔道具とか、手品の大道芸とか、子どもたちが遊べる場所とか――見るもの全部が面白くて、時間が足りないくらいだった。
「おーい、坊主! ちょっとこっち見ていきな!」
「えっ? なになに?」
「おめぇ、剣の素振りやってんだろ? ちょっとこいつ、握ってみな」
「あ、これは……!?」
(な、なんかやたら格好いい剣渡されたんですけど!? これって……試し切りとか!? いやいや、俺、今日町来たばっかりだよ!? いきなりそんな展開ある!?)
――さすがに慌てた父さんが止めに入り、剣屋のおじさんも「あー、やっぱやめとくか~」と笑いながら下げた。
なんでだろ。あの剣、なんか妙に気になる。
視界の端に入るたびに、なぜか意識が引っ張られるような感覚がある。
まるで、ずっと前から知っていたかのような……懐かしいような、不思議な感じ。
(うーん、気のせいかな。でも……変だな、なんか、すごく印象に残る)
そうして、楽しかった町での時間も、夕方には終わりを迎える。
帰り道、馬車の揺れがまた心地よくなってきて、俺はうとうとしながら父さんに聞いた。
「ねえ、また町に来れる?」
「もちろん。お前がまた手伝ってくれるならな」
「……じゃあ、また来たい」
「よし、約束だな」
揺れる馬車の上。空は、夕焼け色に染まっていた。
(……また、来よう。この町のこと、もっとたくさんのことも知りたいし、見てみたい)
――そういえば、明日は近隣の村……たしか、ベルス村から数人の自警団の人と子どもたちが、うちの村の訓練を見学しに来るんだったっけ。
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