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第38話 見学
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朝の広場は、いつもよりざわざわとした空気に包まれていた。
「よーし! 準備はいいかー!? 今日はいよいよ他所のお客さんが来るぞー!」
ロイの声が、空気をビシッと締める。俺は訓練着に袖を通しながら、辺りをぐるっと見回した。広場にはすでに見知った仲間たち、いつもの子ども組が勢揃いしている。
ティオ、ハルト、メアリ、そしてリノアもばっちり準備万端な顔で立っていた。
「他の村の人が来るなんて、ちょっと緊張するね」
リノアが隣でぽつりと呟く。
「ふふん、大丈夫。僕たち、ちゃんと毎日訓練してるし、見られて恥ずかしいことなんてないよ」
「……ま、そうだね!」
にこっと笑い返してくれるリノアの表情を見て、俺も自然と気が引き締まる。
「おいおい、緊張してる場合かよ~。今日の訓練、バシッと決めてカッコよく見せつけてやろうぜ?」
隣からハルトがにやりと笑って肩を叩いてくる。いつもどおりちょっとイキった感じだけど、なんだか頼もしい。
「……あまり騒ぎすぎないようにね。礼儀を守ってこその見学会だから」
ティオはいつも通りクールにまとめてくれるけど、表情はほんの少しだけほころんでた。
「わたしもがんばる!」
小さな拳を握りしめて、まっすぐにこちらを見るメアリ。
その瞳には、不安や緊張も混じっているけど――それでも、笑ってる。
(……メアリは、ほんとに健気だな。ちゃんと努力してるの、知ってるよ)
(今日は、俺たちがただ遊んでるわけじゃないってこと、ちゃんと伝えたい)
やがて、門の見張りをしていた団員のひとりが広場へ駆け込んできた。
「来たぞー! ベルス村の一行が到着した!」
わっと歓声が上がり、俺たちは広場の端まで小走りに移動する。ほどなくして、道の向こうからゆっくりと進んでくる一団が見えた。
先頭には、鎧を身にまとった男性――たぶんベルス村の自警団のリーダー。後ろには大人が三人ほど続き、そのさらに後ろに、子どもたちがぞろぞろとついてくる。年齢はバラバラで、小さい子から俺たちと同じくらいの子まで様々だ。
到着すると、ガルドが前に出て笑顔で迎えた。
「ようこそ、エルデン村へ。今日はうちの訓練を見学してもらうが、気楽にしてくれ」
「こちらこそ、ご招待ありがとう。うちのガキどもも、だいぶ楽しみにしてたからな」
どっしりとした声で答えたその人は、アーベルという名前の人だった。肩幅が広く、日に焼けた肌に、風にさらされた髪――いかにも野外仕事の男という雰囲気だ。
「うおっ、ここも広いな! ベルスの訓練場と負けてないかも!」
「同じ訓練場でも、空気がぜんぜん違うな……!」
後ろの子どもたちが、わらわらと声をあげて広場を見渡す。俺はその中に、ちょっと気になる子を見つけた。
大きな目が特徴的な男の子で、くりっとした髪がふわふわと揺れていて、どこか好奇心のかたまりって感じがした。
目が合うと、にかっと笑って手を振ってくる。
「やっほー! 君がユーリくん? 雷の王子って言われてる人?」
「……うっ」
なんでその噂、ベルス村にまで流れてんの!?
「ま、まあ……はじめまして。僕、ユーリ」
「俺はシノ。よろしくね!」
無邪気に笑うその顔が憎めなくて、思わず笑い返してしまう。
(……まあ、噂が広まってるのはともかく、悪いことじゃないよな)
……なんて思ったけど、ふとよぎる別の疑念。
(あれ?雷の王子って……万が一、王族とかの耳にまで入ってたらどうなるんだ……?)
想像した瞬間、背筋に変な汗が流れた。
(……うん、考えるのやめとこ)
見学は午前中いっぱい。
俺たちはいつも通りの訓練をこなしながら、時々ベルス村の子たちに説明したり、簡単な体験をしてもらったりする。
「せーのっ、いち、にー、いち、にー!」
声を合わせての体操では、リノアが先頭に立って指導してくれた。ティオも黙々と動きをこなし、ハルトがなぜかやたら張り切ってかけ声を大きくしてる。
「ははっ、元気いいね君たち」
ベルス村の団員の1人が笑いながら言った。
「よし、じゃあこのへんで少し、武器の動きも見てもらおうか」
ガルドが声をかけると、みんなが静かになった。俺とメアリが木剣を手に取り、型の披露をすることになった。
「よろしくね、メアリ」
「うん。軽くでいいからね」
メアリの動きは、相変わらず無駄がない。黒月流の型がすっと流れるように決まっていく。
どうやらメアリには黒月流の剣術が性に合っていたらしく、まだ初伝には至っていないものの、毎日こつこつと努力を重ねている。
俺は蒼雷流で、雷閃の構えから繋げて動きを見せた。
ぱんっ、と木剣と木剣が打ち合う音に、ベルス村の子どもたちが息を呑む。
「す、すげえ!」「かっこいい!」「はやっ!」
興奮した声が次々と飛んでくる。俺は息を整えながら、ふっと笑った。
(やっぱり、見せるっていうのはちょっと気持ちいいな)
昼ごはんは、広場の端に並べられた簡易テーブルで、みんなで一緒に食べた。
パンとスープ、野菜のグリル。シンプルだけど、どれも母さんたちが用意してくれた手作りだ。
「これ、おいしい!」「このスープ、家でも真似したい!」
ベルス村の子たちが頬をふくらませながら嬉しそうに食べてくれて、こっちまで誇らしい気持ちになる。
俺の隣に座ったシノが、ぱくぱくパンを食べながら言った。
「ユーリくん、剣も強いし、声も通るし、ちょっと憧れちゃうかも」
「えっ、そうかな……いやいや、僕なんてまだまだだよ」
「でも、見ててすごくわくわくしたもん。俺も、ああなりたいって思った!」
そのあと、少しだけ照れたように笑って――続ける。
「それに……前に、大型の魔獣を一人で倒したって噂を聞いたんだ。正直、最初は信じてなかったけど……でも、今日ユーリくんを見て、ちょっとわかった気がする。あの噂、本当だったんだなって。なんていうか――ユーリくんには、そんな雰囲気があるよ」
まっすぐな目で言われて、ちょっと照れた。
(……そっか。俺、誰かになりたいって思われる側になってるんだ。――っていうか、俺にそんな雰囲気、あるのか?)
不思議な感覚。でも、悪くない。
午後は少しだけ自由時間。
村の中を見てみたいという子たちを、俺とリノアが案内することになった。
「これが、村でいちばん古い木なんだって!」
「おおー……なんか、精霊とか出てきそう!」
「えっ、それは出ないよ? ……たぶん」
畑を見て、「野菜がちゃんと並んでるー!」と驚かれたり、井戸で「これ、ほんとに水出るの!?」と大騒ぎされたり。どうやら、ベルス村の子たちは初めて違う村に来たみたいで、みんなテンションが上がりっぱなし。リノアも最初は呆れたようにしていたけど、だんだん楽しそうな顔になっていた。
村の子たちも出てきて、ちょっとした鬼ごっこが始まったりして――まるで小さな祭りみたいな賑やかさだった。
日が傾き始めた頃、見学も一段落を迎える。
最後に、ガルドがみんなを前に立ち、穏やかに口を開いた。
「今日は、わざわざ来てくれてありがとう。うちの訓練が少しでも参考になったなら嬉しい。何より、こうして他の村と交流できたのが一番の成果だと思ってる」
「本当によかった。子どもたちも、いい刺激をもらえたはずだ。明日まで滞在することになってるから、今夜はよろしく頼むよ」
アーベルがにこりと笑いながら応じ、ガルドとがっしりと握手を交わす。
「空き家のひとつを用意してある。今夜はそこでゆっくりしてくれ」
「それは助かる。……おっと、その前に、歓迎の宴があるんだったな?」
「おう、もちろんさ。せっかくだから、楽しんでいってくれ」
その言葉に、ベルス村の子どもたちが一斉に「え、宴!? ごはん!?」「やったー!」と大はしゃぎし始め、村の大人たちが苦笑しながらなだめていた。
俺も思わず笑ってしまう。賑やかなのは、悪くない。
(……うん、やっぱり宴って聞くだけで、なんかテンション上がるよな)
空を見上げると、夕焼けがほんのりと茜に染まり始めていた。
「よーし! 準備はいいかー!? 今日はいよいよ他所のお客さんが来るぞー!」
ロイの声が、空気をビシッと締める。俺は訓練着に袖を通しながら、辺りをぐるっと見回した。広場にはすでに見知った仲間たち、いつもの子ども組が勢揃いしている。
ティオ、ハルト、メアリ、そしてリノアもばっちり準備万端な顔で立っていた。
「他の村の人が来るなんて、ちょっと緊張するね」
リノアが隣でぽつりと呟く。
「ふふん、大丈夫。僕たち、ちゃんと毎日訓練してるし、見られて恥ずかしいことなんてないよ」
「……ま、そうだね!」
にこっと笑い返してくれるリノアの表情を見て、俺も自然と気が引き締まる。
「おいおい、緊張してる場合かよ~。今日の訓練、バシッと決めてカッコよく見せつけてやろうぜ?」
隣からハルトがにやりと笑って肩を叩いてくる。いつもどおりちょっとイキった感じだけど、なんだか頼もしい。
「……あまり騒ぎすぎないようにね。礼儀を守ってこその見学会だから」
ティオはいつも通りクールにまとめてくれるけど、表情はほんの少しだけほころんでた。
「わたしもがんばる!」
小さな拳を握りしめて、まっすぐにこちらを見るメアリ。
その瞳には、不安や緊張も混じっているけど――それでも、笑ってる。
(……メアリは、ほんとに健気だな。ちゃんと努力してるの、知ってるよ)
(今日は、俺たちがただ遊んでるわけじゃないってこと、ちゃんと伝えたい)
やがて、門の見張りをしていた団員のひとりが広場へ駆け込んできた。
「来たぞー! ベルス村の一行が到着した!」
わっと歓声が上がり、俺たちは広場の端まで小走りに移動する。ほどなくして、道の向こうからゆっくりと進んでくる一団が見えた。
先頭には、鎧を身にまとった男性――たぶんベルス村の自警団のリーダー。後ろには大人が三人ほど続き、そのさらに後ろに、子どもたちがぞろぞろとついてくる。年齢はバラバラで、小さい子から俺たちと同じくらいの子まで様々だ。
到着すると、ガルドが前に出て笑顔で迎えた。
「ようこそ、エルデン村へ。今日はうちの訓練を見学してもらうが、気楽にしてくれ」
「こちらこそ、ご招待ありがとう。うちのガキどもも、だいぶ楽しみにしてたからな」
どっしりとした声で答えたその人は、アーベルという名前の人だった。肩幅が広く、日に焼けた肌に、風にさらされた髪――いかにも野外仕事の男という雰囲気だ。
「うおっ、ここも広いな! ベルスの訓練場と負けてないかも!」
「同じ訓練場でも、空気がぜんぜん違うな……!」
後ろの子どもたちが、わらわらと声をあげて広場を見渡す。俺はその中に、ちょっと気になる子を見つけた。
大きな目が特徴的な男の子で、くりっとした髪がふわふわと揺れていて、どこか好奇心のかたまりって感じがした。
目が合うと、にかっと笑って手を振ってくる。
「やっほー! 君がユーリくん? 雷の王子って言われてる人?」
「……うっ」
なんでその噂、ベルス村にまで流れてんの!?
「ま、まあ……はじめまして。僕、ユーリ」
「俺はシノ。よろしくね!」
無邪気に笑うその顔が憎めなくて、思わず笑い返してしまう。
(……まあ、噂が広まってるのはともかく、悪いことじゃないよな)
……なんて思ったけど、ふとよぎる別の疑念。
(あれ?雷の王子って……万が一、王族とかの耳にまで入ってたらどうなるんだ……?)
想像した瞬間、背筋に変な汗が流れた。
(……うん、考えるのやめとこ)
見学は午前中いっぱい。
俺たちはいつも通りの訓練をこなしながら、時々ベルス村の子たちに説明したり、簡単な体験をしてもらったりする。
「せーのっ、いち、にー、いち、にー!」
声を合わせての体操では、リノアが先頭に立って指導してくれた。ティオも黙々と動きをこなし、ハルトがなぜかやたら張り切ってかけ声を大きくしてる。
「ははっ、元気いいね君たち」
ベルス村の団員の1人が笑いながら言った。
「よし、じゃあこのへんで少し、武器の動きも見てもらおうか」
ガルドが声をかけると、みんなが静かになった。俺とメアリが木剣を手に取り、型の披露をすることになった。
「よろしくね、メアリ」
「うん。軽くでいいからね」
メアリの動きは、相変わらず無駄がない。黒月流の型がすっと流れるように決まっていく。
どうやらメアリには黒月流の剣術が性に合っていたらしく、まだ初伝には至っていないものの、毎日こつこつと努力を重ねている。
俺は蒼雷流で、雷閃の構えから繋げて動きを見せた。
ぱんっ、と木剣と木剣が打ち合う音に、ベルス村の子どもたちが息を呑む。
「す、すげえ!」「かっこいい!」「はやっ!」
興奮した声が次々と飛んでくる。俺は息を整えながら、ふっと笑った。
(やっぱり、見せるっていうのはちょっと気持ちいいな)
昼ごはんは、広場の端に並べられた簡易テーブルで、みんなで一緒に食べた。
パンとスープ、野菜のグリル。シンプルだけど、どれも母さんたちが用意してくれた手作りだ。
「これ、おいしい!」「このスープ、家でも真似したい!」
ベルス村の子たちが頬をふくらませながら嬉しそうに食べてくれて、こっちまで誇らしい気持ちになる。
俺の隣に座ったシノが、ぱくぱくパンを食べながら言った。
「ユーリくん、剣も強いし、声も通るし、ちょっと憧れちゃうかも」
「えっ、そうかな……いやいや、僕なんてまだまだだよ」
「でも、見ててすごくわくわくしたもん。俺も、ああなりたいって思った!」
そのあと、少しだけ照れたように笑って――続ける。
「それに……前に、大型の魔獣を一人で倒したって噂を聞いたんだ。正直、最初は信じてなかったけど……でも、今日ユーリくんを見て、ちょっとわかった気がする。あの噂、本当だったんだなって。なんていうか――ユーリくんには、そんな雰囲気があるよ」
まっすぐな目で言われて、ちょっと照れた。
(……そっか。俺、誰かになりたいって思われる側になってるんだ。――っていうか、俺にそんな雰囲気、あるのか?)
不思議な感覚。でも、悪くない。
午後は少しだけ自由時間。
村の中を見てみたいという子たちを、俺とリノアが案内することになった。
「これが、村でいちばん古い木なんだって!」
「おおー……なんか、精霊とか出てきそう!」
「えっ、それは出ないよ? ……たぶん」
畑を見て、「野菜がちゃんと並んでるー!」と驚かれたり、井戸で「これ、ほんとに水出るの!?」と大騒ぎされたり。どうやら、ベルス村の子たちは初めて違う村に来たみたいで、みんなテンションが上がりっぱなし。リノアも最初は呆れたようにしていたけど、だんだん楽しそうな顔になっていた。
村の子たちも出てきて、ちょっとした鬼ごっこが始まったりして――まるで小さな祭りみたいな賑やかさだった。
日が傾き始めた頃、見学も一段落を迎える。
最後に、ガルドがみんなを前に立ち、穏やかに口を開いた。
「今日は、わざわざ来てくれてありがとう。うちの訓練が少しでも参考になったなら嬉しい。何より、こうして他の村と交流できたのが一番の成果だと思ってる」
「本当によかった。子どもたちも、いい刺激をもらえたはずだ。明日まで滞在することになってるから、今夜はよろしく頼むよ」
アーベルがにこりと笑いながら応じ、ガルドとがっしりと握手を交わす。
「空き家のひとつを用意してある。今夜はそこでゆっくりしてくれ」
「それは助かる。……おっと、その前に、歓迎の宴があるんだったな?」
「おう、もちろんさ。せっかくだから、楽しんでいってくれ」
その言葉に、ベルス村の子どもたちが一斉に「え、宴!? ごはん!?」「やったー!」と大はしゃぎし始め、村の大人たちが苦笑しながらなだめていた。
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(……うん、やっぱり宴って聞くだけで、なんかテンション上がるよな)
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