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第45話 ひと遊び
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「ゆーりくん!はい、これ!」
ミルラが両手いっぱいに抱えたクッションを、ばふっと俺の膝に押し付けてきた。
「えっ、な、なにこれ」
「おうち!ここ、おうちにするの!」
見ると、ソファのクッションやひざ掛けが、何やら建材として大量に集められている。テーブルの下にクッションを並べて、小さな基地を作るつもりらしい。
ミレティアが、すっと優雅に歩み寄りながらも、やや困ったような微笑みを浮かべて言う。
「ミルラ。これはお客様用のクッションなのよ?勝手に使ってはいけません」
「でもおかあさま、今日はおきゃくさまがあそんでくれてるのっ!」
胸を張って反論するミルラに、ミレティアが軽く目を伏せてため息をつく――が、その表情は怒っているというよりも、呆れ半分、微笑ましさ半分といったところ。
「……ふふ、そうね。今日は特別かもしれないわね」
そう言って静かに引き下がったところへ――
「いいんだって、今日は特別だからな!」
レオンがにかっと笑いながら、すでにクッションを悠々と積み上げている。なにこのノリ、まさか公爵家で秘密基地ごっこが始まるとは思わなかった。
「よし!できた!ゆーりくん、こっちきてー!」
「えっ、僕も入るの!?」
「もちろん!」
気づけば、俺は完全に遊び要員としてカウントされていた。
「ねえ、こっちの壁弱いよ!クッションもういっこ!」
「はいはい……って、僕なんでこんな真剣にクッション積んでんだ……?」
テーブルの下に潜り込んで、膝立ちでバランスを取りながらクッションの壁を補強してる俺。なんというか――
(……なんかこの感じ、懐かしいな)
前世で、昼休みに人気のない会議室のすみっこでこっそり休憩してた日々を思い出す。疲れた心と体をちょっとだけ休める、あの即席の安らぎ空間。
(まさか異世界に来てまで、こんな感じの避難所に癒やされるとは……)
「完成ー!!これがミルラハウスですっ!」
「わあ……」
拍手をしながら顔を覗かせたのは、さっきまで静かにお茶を飲んでいたエリナだった。彼女もいつの間にかこの遊びに興味が湧いたらしい。
「ねぇ、おねーちゃんもいっしょにはいろ~?」
「……え?あ、うん。じゃあ……」
少し戸惑いつつも、スカートを押さえながらテーブルの下に身をかがめるエリナ。
「わ、狭っ……って、近っ!」
テーブルの下、ほぼ密室状態。ミルラ、エリナ、そして俺。距離が近すぎて、もう気を抜けない。
「おねーちゃん!わたし、ここベッドにするね!」
「ミルラ、それはちょっと……あっ、でもふわふわ……」
エリナまでなんだかくつろぎ始めてる。おい待て、俺のスペースどんどん狭くなってないか。
冷静に考えて俺いま何してんだ、と思ったそのとき。
「ゆーりくんは、ここ!ここがにんむのばしょなの!」
「任務の場所!?」
「うんっ。ミルラハウスをまもる、せんし!」
「……えええっ」
どうやら俺は、ハウスを守る警備担当らしい。
「……きたっ!あやしいヤツの気配!」
突然ミルラがピタッと動きを止めて、クッションの影にしゃがみこんだ。
「しっ!」
びしっと指を立て、俺とエリナに向かって小声で続ける。
「みつかったら、たいほされちゃうかもなのっ!」
エリナが「えっ……わ、わかった」とこそこそ声で返事して、俺も慌ててミルラの真似をする。
(仮想の敵ってやつか……すごい想像力だな)
そして次の瞬間、ミルラは天井を見上げてこう叫んだ。
「とくしゅぶたいがせまってきてるの! みんな、かくれてーーーっ!」
なんかもう、完全に物語の世界に入り込んでる。見えない敵が押し寄せてる前提で、俺たちは必死にクッションの下に潜り込んだ。
(……俺、いま何してるんだっけ)
その後もしばらく、ミルラによるかくれんぼ指令やハウスまもりゲームが続き、俺とエリナは否応なく巻き込まれ続けた。
「おねーちゃん!ゆーりくん!こっちこっち!」
「……な、なんでこんなに走って……」
「でも、なんか楽しいね」
エリナが髪を押さえながら、ふっと笑う。
(……これ、貴族の屋敷ってこんなに平和でいいの?)
前世では、毎週地獄の進捗報告タイムっていう名の儀式があって、椅子に座ってるだけでHPが削られてたんだけどな……。
ここは、なんか、体力が回復する。
まさか貴族の館で、こんな時間を過ごすなんて思わなかった。
「そろそろ、ティータイムにしようかしら」
ミレティアの穏やかな声が廊下から聞こえ、ようやく作戦が終了となった。
応接室に戻ると、今度はちゃんとしたティーセットと、色とりどりの焼き菓子が並べられていた。
「うわ……すご……!」
「ミルラ、クッキーいっぱい!」
「全部たべるの!」
「だーめ。三枚までよ」
「えーっ!」
母娘のやりとりを聞きながら、俺も小さく笑ってしまう。
「どうだ、ユーリくん。この館の居心地は?」
レオンがマグカップ片手に笑いかけてきた。
「はい、とても……居心地がいいです」
「はっはっは、そうだろう!貴族だからって、堅苦しいのは性に合わんのさ」
「レオン様は昔からそうでしたの。戦場でも、宴の場でも」
ミレティアが涼しげに言って、レオンが照れくさそうに鼻をかいた。
「おねーちゃん、ゆーりくん、もっとあそぼ!」
「ミルラちゃん、もうちょっと休憩しようよ……」
「やーなのっ!」
俺は、焼き菓子を半分しか食べられないまま、再び手を引かれ――
夕暮れ近く。
さすがに疲れたミルラが、エリナの膝の上でうとうとし始めた頃。
「ふぅ……」
ソファに背を預けながら、俺も思わずため息をもらした。
「……疲れた?」
「……いえ、なんか、すごく充実してました」
「ふふ。ミルラがあそこまで懐くの、珍しいのよ」
エリナの声に振り向くと、彼女はミルラの髪を優しく撫でていた。
「……えっと、ありがとう。今日、来てくれて」
「こちらこそ……招いてくれて、ありがとう」
視線が合って、少しだけ間があって――さっきまでより、ずっと自然な笑顔がこぼれる。
お互い、最初はちょっとだけよそよそしかったのに、秘密基地ごっこを通して、なんとなく距離が近づいていた。
目が合っただけで、ふっと笑えるくらいには、もう打ち解けてきたんだと思う。
その様子を、少し離れた席から眺めていたレオンとミレティアが、穏やかな笑みを浮かべていた。
こうして――俺の貴族の館での時間はあっという間に過ぎていった。
今日はこのまま泊まりで、もうすぐお待ちかねの夕餉が始まるらしい。
……どんなごちそうが出てくるのか、ちょっとワクワクしてきた。
ミルラが両手いっぱいに抱えたクッションを、ばふっと俺の膝に押し付けてきた。
「えっ、な、なにこれ」
「おうち!ここ、おうちにするの!」
見ると、ソファのクッションやひざ掛けが、何やら建材として大量に集められている。テーブルの下にクッションを並べて、小さな基地を作るつもりらしい。
ミレティアが、すっと優雅に歩み寄りながらも、やや困ったような微笑みを浮かべて言う。
「ミルラ。これはお客様用のクッションなのよ?勝手に使ってはいけません」
「でもおかあさま、今日はおきゃくさまがあそんでくれてるのっ!」
胸を張って反論するミルラに、ミレティアが軽く目を伏せてため息をつく――が、その表情は怒っているというよりも、呆れ半分、微笑ましさ半分といったところ。
「……ふふ、そうね。今日は特別かもしれないわね」
そう言って静かに引き下がったところへ――
「いいんだって、今日は特別だからな!」
レオンがにかっと笑いながら、すでにクッションを悠々と積み上げている。なにこのノリ、まさか公爵家で秘密基地ごっこが始まるとは思わなかった。
「よし!できた!ゆーりくん、こっちきてー!」
「えっ、僕も入るの!?」
「もちろん!」
気づけば、俺は完全に遊び要員としてカウントされていた。
「ねえ、こっちの壁弱いよ!クッションもういっこ!」
「はいはい……って、僕なんでこんな真剣にクッション積んでんだ……?」
テーブルの下に潜り込んで、膝立ちでバランスを取りながらクッションの壁を補強してる俺。なんというか――
(……なんかこの感じ、懐かしいな)
前世で、昼休みに人気のない会議室のすみっこでこっそり休憩してた日々を思い出す。疲れた心と体をちょっとだけ休める、あの即席の安らぎ空間。
(まさか異世界に来てまで、こんな感じの避難所に癒やされるとは……)
「完成ー!!これがミルラハウスですっ!」
「わあ……」
拍手をしながら顔を覗かせたのは、さっきまで静かにお茶を飲んでいたエリナだった。彼女もいつの間にかこの遊びに興味が湧いたらしい。
「ねぇ、おねーちゃんもいっしょにはいろ~?」
「……え?あ、うん。じゃあ……」
少し戸惑いつつも、スカートを押さえながらテーブルの下に身をかがめるエリナ。
「わ、狭っ……って、近っ!」
テーブルの下、ほぼ密室状態。ミルラ、エリナ、そして俺。距離が近すぎて、もう気を抜けない。
「おねーちゃん!わたし、ここベッドにするね!」
「ミルラ、それはちょっと……あっ、でもふわふわ……」
エリナまでなんだかくつろぎ始めてる。おい待て、俺のスペースどんどん狭くなってないか。
冷静に考えて俺いま何してんだ、と思ったそのとき。
「ゆーりくんは、ここ!ここがにんむのばしょなの!」
「任務の場所!?」
「うんっ。ミルラハウスをまもる、せんし!」
「……えええっ」
どうやら俺は、ハウスを守る警備担当らしい。
「……きたっ!あやしいヤツの気配!」
突然ミルラがピタッと動きを止めて、クッションの影にしゃがみこんだ。
「しっ!」
びしっと指を立て、俺とエリナに向かって小声で続ける。
「みつかったら、たいほされちゃうかもなのっ!」
エリナが「えっ……わ、わかった」とこそこそ声で返事して、俺も慌ててミルラの真似をする。
(仮想の敵ってやつか……すごい想像力だな)
そして次の瞬間、ミルラは天井を見上げてこう叫んだ。
「とくしゅぶたいがせまってきてるの! みんな、かくれてーーーっ!」
なんかもう、完全に物語の世界に入り込んでる。見えない敵が押し寄せてる前提で、俺たちは必死にクッションの下に潜り込んだ。
(……俺、いま何してるんだっけ)
その後もしばらく、ミルラによるかくれんぼ指令やハウスまもりゲームが続き、俺とエリナは否応なく巻き込まれ続けた。
「おねーちゃん!ゆーりくん!こっちこっち!」
「……な、なんでこんなに走って……」
「でも、なんか楽しいね」
エリナが髪を押さえながら、ふっと笑う。
(……これ、貴族の屋敷ってこんなに平和でいいの?)
前世では、毎週地獄の進捗報告タイムっていう名の儀式があって、椅子に座ってるだけでHPが削られてたんだけどな……。
ここは、なんか、体力が回復する。
まさか貴族の館で、こんな時間を過ごすなんて思わなかった。
「そろそろ、ティータイムにしようかしら」
ミレティアの穏やかな声が廊下から聞こえ、ようやく作戦が終了となった。
応接室に戻ると、今度はちゃんとしたティーセットと、色とりどりの焼き菓子が並べられていた。
「うわ……すご……!」
「ミルラ、クッキーいっぱい!」
「全部たべるの!」
「だーめ。三枚までよ」
「えーっ!」
母娘のやりとりを聞きながら、俺も小さく笑ってしまう。
「どうだ、ユーリくん。この館の居心地は?」
レオンがマグカップ片手に笑いかけてきた。
「はい、とても……居心地がいいです」
「はっはっは、そうだろう!貴族だからって、堅苦しいのは性に合わんのさ」
「レオン様は昔からそうでしたの。戦場でも、宴の場でも」
ミレティアが涼しげに言って、レオンが照れくさそうに鼻をかいた。
「おねーちゃん、ゆーりくん、もっとあそぼ!」
「ミルラちゃん、もうちょっと休憩しようよ……」
「やーなのっ!」
俺は、焼き菓子を半分しか食べられないまま、再び手を引かれ――
夕暮れ近く。
さすがに疲れたミルラが、エリナの膝の上でうとうとし始めた頃。
「ふぅ……」
ソファに背を預けながら、俺も思わずため息をもらした。
「……疲れた?」
「……いえ、なんか、すごく充実してました」
「ふふ。ミルラがあそこまで懐くの、珍しいのよ」
エリナの声に振り向くと、彼女はミルラの髪を優しく撫でていた。
「……えっと、ありがとう。今日、来てくれて」
「こちらこそ……招いてくれて、ありがとう」
視線が合って、少しだけ間があって――さっきまでより、ずっと自然な笑顔がこぼれる。
お互い、最初はちょっとだけよそよそしかったのに、秘密基地ごっこを通して、なんとなく距離が近づいていた。
目が合っただけで、ふっと笑えるくらいには、もう打ち解けてきたんだと思う。
その様子を、少し離れた席から眺めていたレオンとミレティアが、穏やかな笑みを浮かべていた。
こうして――俺の貴族の館での時間はあっという間に過ぎていった。
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……どんなごちそうが出てくるのか、ちょっとワクワクしてきた。
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