結婚式の前日に婚約者が「他に愛する人がいる」と言いに来ました

四折 柊

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後日談11(完)

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(フレデリック)



 まさに結婚式の真っただ中、フレデリックは神父の言葉を聞きながら、セリーナは意外と思い込みが激しく突っ走るところがあるなと考えていた。

 何しろ彼女は私がクリスティアナをずっと想っていると誤解していたのだ。確かに初恋ではあったが途中からは手のかかる妹のような存在になった。ティアナは外では完璧な公爵令嬢として振る舞うが、本質は不器用で間が抜けたところがある。
 しょっちゅうスタンリーの相談をされ、のろけを聞かされ、他の令嬢と楽しそうに話をしていたと嫉妬の話を聞かされた。それはもう、うんざりするほどだ。ついでにティアナが私に相談する姿をスタンリーに見られた時には、今度はスタンリーから嫌味を言われる。心の底から迷惑していた。そんな状況でティアナを好きでいられるはずもない。
 セリーナの期待を裏切るようだが私はそんな一途な男ではないので早々に初恋は冷めて終わった。(一応失恋ということになるのか?)
 正直なところ、結婚を機にスタンリーとティアナの相談役から解放される喜びにしみじみと浸ってはいた。 


「――誓いますか?」

 神父の言葉にはっとして、何食わぬ顔で誓いの言葉を返す。せっかくのセリーナとの結婚式に余計なことを思い出してしまった。
 

「――生涯、愛することを誓います」
「――生涯、愛することを誓います」

 フレデリックは今、大聖堂の祭壇で愛する女性に永遠の愛を誓った。もちろん彼女の誓いの言葉も聞くことができた。
 胸の中には得も言われぬ多幸感が広がる。セリーナは結婚式が始まってからずっと、感激に目を潤ませている。可愛すぎて抱きしめたくなるのをひたすら耐えた。

 セリーナとの出会いは私にとって奇跡だ。彼女を意識するようになったきっかけは他人からすればくだらないと思うようなことだろう。
 セリーナに興味を持ったのは私とスタンリーをごく自然に見分けていることに気付いた時からだ。
 今までスタンリーと私を完全に見分けられるのはティアナだけだった。だがそれは彼女にとってスタンリーが特別で、言うなればスタンリーかそれ以外なのだ。ティアナにとって私はそれ以外ということだ。私たちがわざとそっくりに振る舞えば大人になった今でも両親ですら間違える。付き合いの浅い他人が見分けるのは不可能に近い。

 私の根幹にはスタンリーへのコンプレックスがある。私はそこそこ頭も見目もいいが、スタンリーはいつも私の上をいく。見た目は双子なので同じように可愛いとか綺麗だとか褒められてはいた。問題は中身で勉強も運動もそれなりの能力を発揮することは出来るが、どれほど努力してもあと一歩、スタンリーには敵わなかった。

 子供の頃、イタズラ心でスタンリーのふりをしてお茶会に出席すれば令嬢がキラキラと羨望の眼差しを向ける。そのあと実は……と種明かしをすれば「何だ。フレデリックかあ」と落胆された。自業自得とはいえ幼いながらに自尊心が傷ついた。スタンリーは寡黙なせいか孤高の王子様扱いをされることが多かった。同じ顔なのに何故か私は「どこかが残念なの」と言われる。未だに理由は分からない。それ以降、敢えてスタンリーと区別しやすいように髪型を変えた。ガッカリされるくらいなら最初から期待されないように軽いイメージを持たれるように振る舞った。

 セリーナは人の見かけに左右されない。私の軽い振る舞いに最初の頃は戸惑っていたが慣れてくれば気さくに接してくれるようになった。彼女は私とスタンリーを比較したこともない。双子でも別々の個人であることを理解しているようだった。
 セリーナは臆病だが嘘がなく素直で優しい。真面目なくせに時に思いっ切りがよく、時々私を驚かせる。今ではそれを楽しんでしまっている。出会った頃は警戒してピリピリした空気を出していたが、慣れるうちに屈託のない笑顔を見せてくれるようになった。いつのまにかその愛らしい表情に癒された。そんな彼女に惹かれるのは私にとって当たり前のことだった。

 セリーナは一度目の結婚が上手くいっていないので、結婚生活にいいイメージを持っていないかもしれない。ならば私はこれから彼女を幸せにして、死が二人を分かつときに私と結婚してよかったと思わせるべく励めばいいだけだ。

 隣を見ればセリーナが私をうっとりと見ている。この表情を見ると自分の顔も役に立つと思えた。
 ゆっくりとセリーナに誓いの口付けをする。重なり合う唇を離せば彼女が閉じていた瞳を開き頬を染め、私に向かって弾けるように微笑んだ。私もつられて微笑み返す。

 私は彼女の手と自分の手を絡ませて繋ぎ、セリーナを見て囁いた。神ではなくセリーナに愛を誓うために。

「愛しているよ。セリーナ」

「私も愛しています。フレデリック様」

 私は素晴らしい伴侶を得た。この手を守り続け、離すことは決してない。

 祝福の鐘が大聖堂に大きく響きわたる。私はこの日を忘れることはないだろう。







(おわり)



 
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