妖怪奇譚【一話完結短編集】

だんぞう

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もこみち王子

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 隣の奥さまは何かと鼻につく。趣味はブランド自慢。服もアクセサリーも美容室も食べ物も日曜雑貨の何から何まで全部「これね、あんまり知っている人いないんだけど私が好きなブランドなのね」で揃えている。いい加減ウザいんだけど、旦那同士が同じ会社ってことで気軽に「あっそ」とか言えないわけ。ちなみに奥さまのご実家がお金持ちなだけで、旦那の会社の給料がいいわけじゃあない。
 そんな奥さまの一番大事なものは、唯一ブランドモノではない坊や。もうすぐ一歳半。
 まあ坊やには罪はないし……とか思っていたんだけど……。

 私だけかもだけど、その坊やがなんだか気持ち悪い。隣の奥さまの子どもだらかってわけじゃなく。
 前にご飯をお呼ばれしたとき、食事にどこぞのブランドのバターを食べさせていた。「うちの子、オイリーなものが大好きで」とか言っていたけれど、そのバターの舐め方と舐めているときの恍惚気味の目がどうしても生理的に受け付けなくて。その時は私が疲れているんだなって思って無理やり忘れた。

 でも、最近、またお呼ばれっていうか自慢話に付き合う苦行をするためにお隣を訪れたんだけど、坊やが今度ご執心だったのはブランドモノのオリーブオイル。それを舐める舐める舐める。子どもにそんなに油を与えていいのってくらい舐める。ちょっと舐めすぎなくらい。んで、もうその夜から、我が家での隣の坊やのあだ名は「もこみち王子」。

 そんなある日、大学時代の友人が遊びに来た。
 玄関で彼女を出迎えた時、隣の奥さまともこみち王子とかがちょうどお出かけするところで、私は精一杯の笑顔でご挨拶してさしあげましたよコンチクショウ。そしたら奥さまたちが去った直後、友人が一言。

「ははーん。キライなんだ」

 さすが一緒に幾多の戦場(合コン)を乗り切った戦友。私の考えなんてお見通しなのねと彼女の顔を見たら、なんか複雑な顔をしている。

「え、ちょっと待って……まさかその表情、憑いてるの?」

 彼女はちょっとした霊能力みたいなのがあって、例えば合コンとかでもオトコがつけている水子とかすぐに分かっちゃったりするほど。

「あのさ、あの赤ちゃん、前世は妖怪かも」

「よ、妖怪?」

 よりにもよって? まあ霊が居るんだから妖怪が居てもおかしくないけどさ。あまりにも突拍子なさすぎて笑っちゃう。もこみち王子が妖怪とか!
 彼女が言うには、油赤子(あぶらあかご)っていう妖怪が居て、他人の油をしつこく盗んだ泥棒風情が死んだ後になっちゃうんだとか。で、妖怪としてその罪を償ったあとに転生した赤ん坊が油をやたら舐めるんだとかなんとか。彼女には、やつれて火に包まれたオトコがもこみち王子に憑いているのが見えちゃったんだって。
 私はすっかり気持ち悪くなっちゃって、旦那をせっついて引っ越しした。もこみち王子のオイル食べ過ぎなアレはさすがの旦那もちょっと引いてたらしく、案外すんなり引っ越しをOKしてくれた。

 で、それがなんと大正解。私たちが引っ越してしばらくしたらあのアパートで火事があったらしくて。あの奥さまともこみち坊やは軽い怪我で済んだみたいだけど、ご自慢のブランド品は全焼。友人が言うにはこれからも火事が起きるよって。盗みの対価を現世で支払っているんだって。
 頼むから近くに引っ越してこないでね。うちはノンオイルですから!
 
 
 
<終>

油赤子
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