妖怪奇譚【一話完結短編集】

だんぞう

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おままごとの部屋

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「すみません、停めてくださいっ」

「え?」

 突然の制止に慌てたエリ伯母さんが急ブレーキを踏むと、一瞬前のめりになった俺は助手席にバウンドする。

「駅に忘れ物かい?」

「いえ、ちょっとだけ写真を撮りたくて……」

「うーん。ちょっとだけだよ」

 シートベルトを外し、リュックからカメラを取り出してレンズカバーを外す。
 車外へ出るなり空へと向けた……が、田舎の空は広すぎて、撮りたい範囲をフレームに収めきれない。

 リュックから広角レンズを出してきて付け替える。
 さっきよりは画角は広がったが……いや、それよりも今は少しでも多く撮って残そう。
 妖しいまでに美しい夕焼けは刻一刻と変わってゆく。

 特に今日は良い雲が出ていて、この夕焼けを劇的なものへと演出してくれている。
 昼の名残の赤から夜の兆しの紫までのグラデーション、それぞれの色全てが主張し合い絡み合いながら空を覆い尽くしている。
 その隙間に時折、空の青が、蒼が、群青が挟み込まれ、雲を縁取る光の白と陰の黒とが……上空は強風だろうか、形も色同様に留まらない。
 まるで黄昏の万華鏡だ。

 やがて、夕焼けだけの世界に居た俺を、無情なクラクションが現実へと引きずり戻す。
 諦めて車へと戻ると、その三十分後には本家のお屋敷前へと到着した。



 屋敷の前にはお祖母様を始め、大叔母さんに、伯母が三人と叔母が一人。
 母を除く一族の女ボス連中が揃って六人並び、皆で俺を出迎えてくれた。
 こんな異様な事態は経験がない。
 この時点でもう、俺が聞いていたバイトというのは口実で、もっと違う面倒くさい何かが待ち受けていたのだと気付く。
 こぼれる溜息。

「案内するよ。おいで」

 駅まで迎えにきてくれたエリ伯母さんが中へあがるよう手招きする。
 エリ伯母さんは母のすぐ上で、本家の面々の中では唯一まともに喋れる人。
 他の女ボス連中は、命令しかしないから会話にならない。

 靴を脱いで上がると、今まで来たことのない廊下へと案内される。
 不自然に分岐のない廊下を延々と歩き、奥へ奥へと回り込んでゆく。
 薄暗い中を反時計回りに歩いているせいか、幼い頃の記憶が蘇ってくる。
 何度もお呼ばれした本家だけど、そのときは奥まで入ることなんて許されすらしなかった。

 カタツムリの殻の中に迷い込んだんじゃないかって思い始めた頃、急に明るさを覚えた。
 なんだ?
 両開きの扉に嵌められた曇りガラスの向こうはやけに明るくて、外へつながっているような。

 伯母さんが扉を片側だけ開くと、外の光と緑色が飛び込んできた。
 中庭?
 屋敷の中だよな、ここ。

 そのくらい中庭は広かった。
 多分、テニスコートよりも広いんじゃないかな。
 四角く切り取られた空間の中央には小さな池と小さな樹、そして小さくはない小屋……いや、家が在った。

 平屋で縁側もあり、ここからは中も見える……和室かな。立派な座卓もある。

「エリ伯母さん、ここって」

「うん。滞在中はここに住んでもらう。中にはトイレも風呂も冷蔵庫もあるし」

「え、それって外に出られないってこと?」

 冗談で聞いたつもりだった。

「そうだよ。でも大丈夫。家の向こう側には配膳台もあるし、食事は毎食用意される。食べ終わった食器はまた戻しておいてくれたら」

「そうじゃなくて……マジで幽閉?」

 何もないど田舎だけど、自然は豊かで被写体だけには事欠かないかなっていう打算はあった。
 しかし、この四角い空間から出られないとなると話は変わってくる。

「参ったな……ひーこから何も聞いてないの?」

 ひーこってのは、エリ伯母さんがうちの母を呼ぶ時のあだ名。
 くっそ。やりやがったな母ちゃん。

「本家で夏休み期間、住み込みバイトをしたら、なんでも好きなレンズ二本買ってくれるって……それしか聞いてない。聞かなかった俺も俺だけどさ」

「あー……そしたら、私は好きな本体一つ追加したげるよ」

「本体? 本体ってカメラ?」

「引き受けてくれたらね」

 決して安いものではない報酬が簡単に追加される状況。
 いくら俺でも、とにかく断れない仕事なのだということは察しがつく。
 ここはゴネるより、報酬が上乗せされているうちに黙って従っておいた方が良いか。

「わかった。じゃあ、それで」

「そうそう。配膳台、洗濯物も対応するから。乗せてくれたら、翌朝までに洗って乾かして返すから」

 エリ伯母さん、目が笑ってない。

「あと、ルールだけど」

 そういやまだルールを聞いてなかった。
 毎回、来る度に一つだけ課せられるルール。
 幼い頃、従兄弟の一人が、ルールを破ったとかでお祖母様からトラウマレベルに責められていたのを覚えている。

「撮影禁止以外だったら、何でもいいよ」

 エリ伯母さんの頬が一瞬緩む……そしてまた、真顔へと戻る。

「ルールはね、この中庭に入ったら、出るまでどんなことがあっても決して『嫌だ』って言っちゃダメ」

「イヤダって、あの嫌だ? 良いよ・嫌だよの?」

「そう。中庭から出るまで、独り言も寝言も含め、絶対にダメ」

「寝言も……って」

 お祖母様の冷たい目を思い出す。

「……わかったよ。言わないようにする」

「ありがとね。あ、押し入れの中に布団と浴衣が入ってるから」

 旅館だと思おう。
 好きなカメラ一台、あーんどレンズ二本のためだから。

「お靴、お持ちしましたよ」

 キクノ叔母さんが綺麗な風呂敷に包んだ俺の靴を持ってきてくれる。
 つーか、靴を包むのに風呂敷ってなんかもったいない。コンビニ袋とかでいいのに。

「ありがとうございます」

 俺は靴を履き、中庭へと降り立った。
 エリ伯母さんと、キクノ叔母さんは、笑顔で手を振りながら、両開きの扉を閉めた。



 しかし本当に広いな、本家は。
 この中庭、テニスコートまるまる一つ分、いやそれ以上あるよな?
 しかも今気付いたけど、この中庭側の壁、窓が一つも見当たらない。
 今、入ってきた両開きの扉以外には。

 中庭に面した壁は漆喰だろうか、真っ白に塗られていて、そして何よりも高さがある。
 高さはきっと五メートルはある……本家は平屋のはずなのに。
 広さはあるのに物凄い圧迫感。

 いやいや、悪いことばかり考えるのはよくないな。
 ポジティブにならないと、夏休みいっぱいだなんて過ごせないよ。

 まずは中庭中央にある家の周りをぐるりと半周。
 すると、無垢の白壁に一箇所だけ、横スライドの戸がついているのを見つけた。
 出入り口の扉とちょうど反対側。
 開けると、中は四角い空間。
 高さと奥行きが三十センチ、幅が一メートルくらいで、向こう側にも扉が付いている。
 当然、開かない。
 なるほど、これが配膳台ってやつか。

 まったく俺に何をさせる気なのか。
 学校の宿題持ってきてよかったよ……あ、もしかして受験生としてカンヅメにされるってやつか?
 一族からみっともない高校に進む者は出せない、とか、あのお祖母様なら言いかねない。

 気を取り直して、残り半周……あれ?
 この家、玄関ないじゃん。

 もう一周回ってみたが、やっはりない。
 仕方なく、開け放たれた縁側から入ることにする。

 立派な踏石に靴を脱ぎ捨て、縁側へと上がる。
 一応、ドアも雨戸も付いている。
 そして縁側からすぐに廊下があり、目の前には和室……八畳くらいはあるかな。
 部屋の中央には大きくて立派な座卓。
 布団を敷く時には端にどかさなきゃだな。

 和室の奥には押入れと、縁側を背にして右側にも襖……こちらは開けると三畳ほどの台所。
 ただ、こちらにはイスもテーブルもない。
 食事は座卓で食えということか。

 しかしこの台所、冷蔵庫に電子レンジ、コンロはIH……隣の和室の趣深さに比べると、なんとも真新しい。
 冷蔵庫の中を確認すると、お茶にりんごジュース、醤油とか味噌とかの調味料の他にはけっこうがらんとしている。
 冷凍室にはかき氷がいくつかと、冷凍野菜ばっかり……肉の類はない。
 シンク下には鍋やフライパンもあったが、もともと料理なんてしない方だから、まあよいか。

 台所からも廊下につながるドアがあった。
 そこから廊下へ出て、縁側と和室の間を通り抜け、角を曲がると扉が二つ。
 片方がトイレ、もう片方が洗面所。
 洗面所には洗濯機と脱衣カゴ、あとハンディタイプの掃除機があり、さらに奥には浴室もあった。
 しかしどうにも真新しい。

 和室へ戻ってくる。
 この和室以外は全部、新築のような印象を受ける。
 和室だけ移築?
 しかもなんだか懐かしさを感じる。
 中庭に入ること自体、初めてなんだけどな。

 ふと、名前を呼ばれた気がして振り返る。
 中庭の出入り口の扉は閉まったまま。

 自分がリュックを背負いっぱなしだったことに気付き、和室の床へ置く。
 さっき撮った夕焼けを確認して画像を整理するか……おい、待てよ?

 慌てて、家の外へ飛び出した。
 踏石の上のスニーカーを、かかとを潰したまま履き、空を見上げる。
 とっぷりと暮れた空……いまさっきまで明るくなかったか?
 俺がこの中庭に来たとき、明るかったよな?

 四角く切り取られた空は、都会では考えられないほどの星で溢れている。
 明るいと感じるくらいの星の量ではあるが、さっきの明るさは全然そんなのじゃあない。
 確実に昼間の明るさだった。
 月が出てるわけでもないし……そんな俺の疑問を土砂降りのような蝉時雨が蹴散らした。
 天を仰ぎ見る俺めがけて、本当に降り注いでいるようだった。

 まとまらない思考を手放して、和室へと戻る。
 室内はもう暗い。
 天井から垂れ下がるレトロ照明から伸びる紐を引っ張ると、二重丸のような蛍光灯が、チカチカっと二回明滅してから乏しい光量で和室の中央を照らす。
 部屋の端の薄暗さよ。
 そんなとこまでレトロを追求しなくても良いのにな。

 ガコン、と、外から音がして、慌ててさっきの配膳台まで駆けつける。
 引き戸をスライドさせると、中には……んんん?

 朱塗りの脚付き御膳が二つ、置かれている。
 それぞれには蓋付きの漆の椀が三つ、と平皿一つ、箸一膳。
 平皿には野菜の天麩羅……野菜だけかよ。
 椀の蓋を取ると、こっちは白飯……隣の味噌汁はワカメと油揚げ、もう一つの椀には車麩の煮たやつ。
 もう一つの御膳も同様のメニュー構成……そしてノー肉。
 どうして二つあるのかわからないが、この片方だけだとちょっと足りないのは確か。お代わり用か?

 せっかくなので二つとも座卓まで運ぶ。
 座布団を探そうと押入れを開けると、座布団に布団に浴衣、あと扇風機……これまたレトロなのを見つけた。
 おいおいおい。
 和室にコンセントがないだって?

 延長コードとタコ足タップ、持参しておいてよかった。
 ノートパソコンをつなげるために台所から延長コードを引っ張ってくる。
 空いた口に、とりあえず扇風機も付けてみる。
 風量と電源オフが押しボタン式の扇風機は無事に回りだす……動くのを確認したので扇風機を止める。
 というのも、縁側から入り込む風が和室を巡り、台所から廊下へと抜けてゆく、それだけでそこそこ涼しい。
 緑と土が多い場所だからかな。
 襖とドアを全部開けておいたら扇風機つけなくとも眠れるかも。

 おっと、蚊取り線香は必須だな……同じく押入れにあった蚊取り線香セット。
 一巻きだけ外してチャッカマンで火を付けると、使い古された蚊取りブタの中へセットし、縁側へと置く。
 それからようやく夕飯を食べ始めた。



 食器を戻した後は、試しに風呂に入ってみる。
 風呂場だけ見ると、母ちゃんと二人暮らしの自宅アパートより広くて綺麗。
 とは言っても、俺はシャワー派。
 さっと汗を流して浴衣に着替え、和室へと戻ると、旅館に来たみたいな錯覚を覚えた。
 明日、日が昇ったら、この和室も撮ってみようかな。

 食べ終わった食器を重ね、着ていたシャツと下着を入れたビニール袋とを一緒に配膳台へ格納する。
 ジーンズはもう数日履いてからでいいや。
 それにしても……目まぐるしい一日だった。



 ぼんやりと立てた膝が何かにぶつかって目が覚める。
 ああ……座卓か。
 あの後もう勉強する気にはならなくて、布団を敷いてしまったんだよな。
 座卓にくっつけるように敷いた布団を座布団代わりにして、画像の整理をしているうちに寝落ちしていたようだ。

 それにしても……懐かしい夢を見た。
 昔、ここに連れてこられたときの思い出。
 同い年くらいの親戚の子たちがたくさん集まって、お祖母様の小言を抜かせばとても楽しかったんだよな。

 目が覚めてから思い出す。
 あの子は、夢に出てこなかったなって。
 親戚連中はみんな男子だったけど、一人だけ女の子が居たんだ……まだ恋とかそういうのはわからなかった頃だから、初恋とは言えないだろうけど。
 バイトの話を聞いたとき、俺一人じゃないって母さんが言ってたから、あわよくば再会とか2ミリくらいは考えていたけど……なんだ結局一人じゃないか。
 ……まあ、ドキドキして勉強できなくなるよりはマシか。

 その日の朝食は人参ごはんと、なめこ汁、ほうれん草の胡麻和え、味付け海苔に高野豆腐。
 そして、午前中に宿題と問題集……をやろうとして、ネットにつながらない問題が発覚。
 スマホも電波が入らない。
 持ってきたノートの切れ端に、ネットつながらないと受験勉強に差し障りが出ると書き、配膳台へ。

 いくらカメラとレンズもらえても、高校受験失敗とかだと洒落にならないだろ。
 五科目まとめの参考書、一冊しかないが持ってきておいて本当によかった。

 昼食は素麺、キュウリのピリ辛和えとひじき煮、納豆の味噌汁。
 引き続き参考書を見て、休憩時間にカメラのメモリカード内の画像の整理。
 こうして見返すと、空の写真が圧倒的に多い。
 それも夕焼け。
 ここへ来る途中に見た夕焼け、今のところ今年の暫定一位。
 とにかく素晴らしかった。

 休憩を終え、再び参考書に戻り、夕食は白飯に、カボチャのスープと、コロッケ、いんげんの胡麻和えに切り干し大根。
 三食、ガチで精進料理かよ。
 どれも味は美味しいんだけど、なんか物足りないんだよなぁ。
 塊肉の入ったカレーとか食いたいよ。
 中三男子は食べ盛りなんだぞ?

 食器を片付けるが、昨日出した服が返ってきただけ。
 伝言に対しての返事は、特段ない。

 食後はネットに接続しなくともできること……外付けHDDハードディスクをノートパソコンにつなげて、お気に入り画像をバックアップ。
 そのついでに過去画像に見入ってしまう。
 好きで撮った景色だからかな。
 何度見ても飽きない。それどころか一つ一つの写真を撮ったときのことまで思い出してしまう。



 ふと、パソコンの時計を見て、もういい時間だと気付く。
 完全な一人というのは気楽でいいけれど、気をつけないと昼夜逆転しかねないな。
 さっさとシャワーして、今日は寝落ちではなくちゃんと布団で寝よう。



 懐かしい夢を見た。
 小さな頃の俺が、和室に居る。
 この和室、だよな……あれ、これ、俺は今、夢を見ているんだよな?
 明晰夢ってやつか?

「おかえりなさいませ」

 可愛らしい声。
 すぐに思い出す。
 あの女の子の声だって。
 赤い着物を着た、おかっぱ頭の少女。
 人形のように美人だと感じるのは、唇に紅を引いているからだろうか。

 俺は、女の子とおままごとをしている。
 俺が夫で、女の子は妻。
 そのおままごとは、俺が「仕事に行く」とこで終わりを告げる。

「また、帰ってきてくださいね」

 俺は照れながら頷いて、そして和室を出る……和室の外は廊下だけど、廊下の外は縁側ではなく、また別の部屋。
 そこで夢は終わり……本当に夢なのか?
 ふと疑問に思ったのは、夢の中のはずの光景、夢の中で五感の感じたものの妙なリアル感。
 その日は夢のことがなんとなく頭から離れず、何にも集中できなかった。



「おかえりなさいませ」

「ただいま」

 何だ?
 いつの間にかまた夢を見ているのか?

「何を見てらしたの?」

 いつの間にか座卓とノートパソコンがある。

「ああ、これは撮った写真を整理してるんだ」

 じっと俺を見つめる女の子の目が期待に満ちている気がする。

「一緒に見る?」

「嬉しいです」

 それからは、一枚ずつ、撮った場所や状況を解説し、その一枚やそれを撮りにいった前後での思い出なんかを話して聞かせた。

「本当は、この家の周りにだってこんな景色が広がっているのに、出られないから」

 口を滑らせたと思ったときにはもう、女の子は悲しそうな表情になっていた。

「私と一緒にいるのは、お嫌ですか?」

 あ、これ、嫌だって言っちゃいけないやつだ。

「そ、そんなことないよ。楽しいし。一緒にいられて楽しいよ」

 それに、姿こそ当時のままだけど、毎晩夢で出逢うこの女の子こそ、思い出のあの女の子だったから。

「嬉しい……」

 だから、調子に乗った。

「逆にさ、一緒に行きたいくらい。写真は画像しか留められないけど、その場の空気とか匂いとか広さとか……それに美味しいものもあったりするし」

「いいのですか?」

「いいに決まってる」

 すると女の子は俺の手を取り、ぎゅっと握りしめた。

「約束、してくださいますか?」

 その時の女の子の真剣な眼差しに、刃物を向けられているような緊張感を覚えた。
 でも同時に、その顔に、言いようのない魅力をも感じ、ルールだからではなく、自分の気持ちとして、答えた。

「いいよ。きっと一緒に行こうね」



 寝苦しい夜が明けた。
 妙に蒸し暑くて、扇風機が仕事してないというか。
 起きて最初に扇風機のボタンへと手を伸ばし、カチカチと押す。
 回らない。
 コンセント外しちゃったかな、と布団から這い出し、台所の方へ行き、コンセントを確認すると……挿さってる。

 あ、そういえば飲み物あったよな。喉渇いた……と、冷蔵庫を開けると、ん?
 電気来てない?
 縁側から外へ出ると、やけに焦げ臭い。
 それに騒がしいし……ヘリコプターの音?
 ざわざわとした胸騒ぎが鳥肌のように皮膚へと現れる。

 そして、おもむろに、両開きの扉が開いた。

「生存者一名発見!」

 見るからに消防士っぽい人達が中庭になだれ込んできた。
 その後、その人達はキョロキョロしたり、呆然としたり。

 俺もようやく気付いた。
 扉の窓ガラスはもう、溶けてなくなっているし、真っ白かった漆喰の壁は真っ黒になっていることに。



 生存者は俺一人。
 いや、正確には、俺と母ちゃんだけ。
 本家筋の人達は、本家に滞在していなかった人達も含めて何らかの形で亡くなった。

 俺は約束通り撮影の旅に出た。
 彼女はちゃんとそばに居るみたいで、時々写真に映り込む。
 そして夜には夢で逢う。
 現実にはもう朽ちてしまったあの和室で、あの座卓に並んで、俺が昼間食べた物を分け合いつつ、写真を観ながら楽しく語らうのだ。



<終>

座敷童子
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