妖怪奇譚【一話完結短編集】

だんぞう

文字の大きさ
42 / 51

オレたちゃ、ワル

しおりを挟む
 人熱ひといきれを避けながら森の中を進む。
 山狩りに参加した大半はあのクサレ代議士のことも好きではなかったが、俺たちの眼の前にぶら下げられた報奨金のせいで熱が入っている。
 さりげなく周囲の連中から離れ、俺は秘密の場所へと向かう。
 俺とこんが昔よく遊んでいたあの場所へ。



 こんは偶に人に化けることはあるが、悪い狐ではなかった。
 それどころか、こんにいつも野菜やら釣った魚やらを分ける村人には、畑仕事を手伝うこともあった。
 こんが年を重ね、化ける姿が少女から大人の女へと変わると、下衆な妄想に取り憑かれた男に追われることもあったが、いつも見事に逃げおおせて、俺たちに酒の肴となる笑い話を提供した。
 こんに恥をかかされた男の中にはこんを逆恨みする恥の上塗り野郎もいたが、こんの味方をする村人も少なくなく、こんが傷つくことはなかった。

 しばらく見なかったこんの噂が再び出回るようになってすぐだった。あのクサレのバカ息子が死んだのは。
 バカの車にこんがよく化ける女によく似た美女が乗るのを見たという目撃証言や、命と一緒に人の尊厳も失くしたバカの死に様現場に残っていた狐の足跡のせいで、バカの死因はこんのせいにされた。
 で、怒り狂ったクサレが山狩りを依頼した。懸賞金をかけて。

「こん!」

 あの場所の近く、雨のときによく一緒に遊んだ洞穴に、傷ついたこんがいた。
 素人目にも助からない傷だった。
 こんは息も絶え絶えに、事の顛末を語る。
 こんの夫狐がバカに轢き殺されたこと。
 その仇を取ろうとバカを誘い出したこと。
 ただ、バカに恐らくスタンガンを当てられて、何もできなかったこと。
 同じ化け狐である夫の怨念がバカを取り殺したこと。
 バカが尻もちをついたその場所に筍が育ち、結果的に串刺しとなったのは偶然だったこと。
 そしてこんは最期に俺にこう頼んだ。

「こどもたちを、たのみます」

 そんな願いを聞き入れないわけにはいかないじゃないか。初恋の相手だったんだからさ。
 遠いあの日、人と狐はつがえないと、ずっと友達のままでいようと約束した。
 こんに夫ができていたのは軽くショックではあったけど、それでもその子供たちを俺に託してくれたことは純粋に嬉しかった。
 俺はこんを秘密の場所に埋めて丁寧に弔い、こんの子供たちを見守りながら生活する――そんなめでたしめでたしで終わるはずだった。
 俺がもっと賢ければ。

 こんが全く見つからないことに腹を立てたあのクサレが、やり方を変えていたのだ。
 こんと親しくしていた連中がこんを匿っていると決めつけ、こんに恥をかかされた連中に金を握らせ、俺たちのようなこん派の村人を見張らせていたのだ。
 山狩りなんてもうとうに解散し、すっかり油断していた俺はその日もいつも通りにこんの墓参りとこんの子供たちの様子を見に山へと登った。
 自分がつけられているだなどと考えもせず。
 そして、こんの墓の前で手を合わせている所を取り押さえられた。
 金に目がくらんだ連中ってのは人を捨てる。
 俺はそこで動けなくなるほど殴られ、こんの墓を掘り返され、こんの亡骸は持ち去られてしまった。
 意識を取り戻したとき、頬に夜露が落ちたと感じたのは、こんの子供たちが舐めた舌だった。
 不幸中の幸いは、俺が最初に墓参りをしたおかげでこんの子供たちの存在に気づかれず、彼らが無事だったこと。
 俺はこんの子供たちにしばらくは身を隠すようにと、人里にも近づかないようにと伝えた。
 それからなんとか自力で下山し、救急車を呼んで入院した。



 金に目がくらんでこんの墓を暴いた連中全員の面を、俺は決して忘れない。
 退院した俺は体を鍛え、そのスジの知り合いを作り、作戦を練った。
 そしてこんの子供たちを迎えに行く。
 人の武器の使い方と、そして人の急所とを教える。
 それからさらに訓練と準備とを重ねて今夜、俺たちは決行する。

「いいか野郎ども!」
「おうっ!」
「はいっ!」
「あいっ!」
「俺たちゃ悪だ! 繰り返せ!」
「「「オレたちゃ、ワルだ!」」」
「情け容赦かけるんじゃねぇ!」
「「「ナサケ、ヨウシャ、かけるんじゃねぇ!」」」
「絶対仇を取るぞ!」
「「「ゼッタイ、カタキをとるぞ!」」」
「よしっ行くぞ!」
「おうっ!」
「はいっ!」
「あいっ!」

 さあ、今夜はゴミ掃除だ。



<終>
化け狐
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...