イケメン天才画家に溺愛されて、灰色の世界が色づきました

砂原紗藍

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プロローグ

灰色の午後、「君を描かせて」

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大学のカフェテラスは、昼休みの学生たちでにぎやかだった。

僕――七瀬 ユウは、友人たちとランチをつまみながら、他愛ない話をしていた。
文学部2年。夢も目標もなく、なんとなく日々をこなしている普通の大学生…のはずなんだけど。

「ユウ、あっちの人たち、また見てるよ」

友人の声に、ついそちらを向いてしまう。
男女合わせた数人がこちらを見ていて、目が合った瞬間あわててそらされた。

「ほんと、ユウってルックス超良いよな。タレントになれば?」
「だから、そういうのやめてってば」

苦笑いしか出てこない。
可愛いだの美少年だの言われるのは、正直うんざりだった。
だって自分では全然そう思わないし、そういう視線は居心地が悪い。

特に、母親が僕の見た目ばかり褒めて持ち上げるようになってからは、なおさら。

「マジで需要あるって」
「いらないよ、ほんとに」

サンドイッチを齧って話題を変えようとした、その時だった。
ふと、強い視線を感じた。

……見られてる。

ゆっくり辺りを見回すと、少し離れた席に一人の男性が座っていた。
スケッチブックを広げて、ペンを走らせながら――
僕を、真っ直ぐ見ていた。

え、描いてる……?

逃げ場のない、集中した目。
だけど僕にとって彼の全身は、いつも通りの“灰色”。
髪の色も、顔の色も――全部、灰色の濃淡でしか見えない。

それが、一年前から僕が見ている世界だった。

色のない世界は慣れたつもりだったのに、その視線だけはやけに強く胸に残った。

「ユウ? どうしたの」
「なんでもないよ」

極力自然に見えるように視線をそらす。
でも、ずっと見られてるような感覚は抜けなかった。

ちなみに、その日の授業はまったく頭に入ってこなかった。

図書館でレポートの資料を借りて外へ出ると、夕方のキャンパスは薄暗くなっていた。
正門へ向かって歩いていると――また、視線を感じた。

振り返ると、昼間のスケッチの男性が立っていた。

「あ……」

思わず声が漏れる。男性はゆっくりと近づいてきた。
街灯の明かりに照らされて、その整った顔立ちがはっきりと見える。

「驚かせてごめんね」

落ち着いた低い声で、彼は近づいてきた。

「あの、さっき……」
「うん。カフェで君を見てた。気分悪くさせたなら本当に悪い」

柔らかな口調とは裏腹に、目はまっすぐ僕を見ていた。

「いえ、大丈夫です」
「俺、画家なんだ」

そう言って差し出してきた名刺には――

高来 湊 ―Takarai Minato― / 画家

とシンプルに書かれていた。

「率直に言うよ。君、すっごく可愛い。俺に描かせて?」
「え?」
「モデルをお願いできないかなって」
「も、モデル……?」

僕には縁のない言葉。

「時給5000円。週1、数時間だけでいい」
「ご、5000……?」

大学生のバイトとしてはかなり良い条件だ。

「君みたいに透明感がある子、なかなかいないから」

さらっと言うけど、その目は冗談じゃなかった。
まっすぐで、熱があって。少し強引で、でも不思議と怖くない。

「考えてみてほしい。連絡、待ってる」

去っていく彼の背中を見つめながら、名刺を握りしめる。

“高来 湊”。

……また会いたい、と思ってしまった自分に驚いた。

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