イケメン天才画家に溺愛されて、灰色の世界が色づきました

砂原紗藍

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【第一章】イケメン画家に拾われた僕

4.描かれる僕と近づく距離

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一週間なんて、本当にすぐだった。
授業受けてても、友だちとご飯を食べてても、気づけば湊さんの顔が浮かんでくる。

……いや、本当にそんなつもりじゃなかったんだけど。
あのアトリエの空気とか、あの人の声とか、じわじわ残ってて。


そして、ついに約束の日。
僕はまた同じ時間にアトリエへ向かった。

「来てくれたんだ」

ドアを開けた瞬間、前より柔らかい笑顔。
それだけで胸の奥がふわっと温かくなるなんて、予想してなかった。

「お邪魔します」

中にはもうキャンバスがセットされていて、
“待ってた”って空気が、少しだけくすぐったい。

「今日は簡単なポーズから。ソファに座ってくれればいいよ」
「はい」

言われたまま座るけど、どうしていいかわからなくて、妙に落ち着かない。

「どう座ればいいですか?」
「いつも通り。自然でいい」

そんな簡単に“自然で”って言われても。
こっちはすでに十分、不自然なんだけど。

「じゃあ、始めるね」

湊さんはさっそく筆を構えた。
静かな部屋に、筆がキャンバスを擦る音が響く。
見られてる、と思うと変に緊張して、視線の置き場に困る。

「緊張してる?」
「……少し」
「大丈夫。俺はただ君を描いてるだけだから。好きに座ってていいよ」

そう言われると、不思議と呼吸が少し楽になった。

僕は窓の方へ視線をやる。
庭の木が揺れているのが見える。色はわからないけど、風の気配は感じた。

静かで、穏やかで――
なのに、時々感じる湊さんの視線で心臓だけは落ち着かない。

「そのままで。今の表情、すごくいい」

低くて柔らかい声。
その温度に、僕の頬が熱くなった。

三十分ほど経った頃、湊さんが筆を置いた。

「一旦休憩しよう」
「もう休憩なんですか?」
「ああ、長時間同じポーズは疲れるからね。こまめに休憩を入れる」

湊さんは紅茶を淹れに行き、僕はソファの上で少し伸びをした。
色が見えない僕でも、この場所の“やさしさ”みたいなものはちゃんと感じられる。

「はい。紅茶」

差し出されたカップは、前回と同じミルクティーだった。

「ありがとうございます」
「疲れてない?」
「意外と、大丈夫です」
「それは良かった」

湊さんは僕の隣に座った。
ちょっと距離があるのに、その“ちょっと”がやけに気になる。

「ユウは大学で何を勉強してるの?」
「文学部です。でも、将来何したいかはまだ決まってなくて……」
「普通だよ。焦らなくていい。人生は長いんだから」

さらっとした一言。
でも、否定じゃなくて肯定される感じ。

「湊さんは、いつから画家なんですか?」
「大学卒業してからだから……もう六年くらいになるかな」
「大学では美術ですか?」
「うん。でも、本当に描きたいものが見つかったのは卒業してから」

そう言った湊さんは、少し遠くを見る目をしていた。
その目が、なんか切なくて、でもあったかくて。

「描きたいもの……って?」
「技術じゃなくて、“心から描きたい”って思える対象のこと」

“心から描きたい”。

僕はそこまで、誰かに“必要とされる”ような存在じゃなかったし。
だからこそ、湊さんの言葉はまっすぐ刺さる。

……って、また考えすぎてる気がするけど。

よくわからないけど、来る前より少しだけ胸の奥が温かくなっていた。

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