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【第二章】秘密の関係
1.はじめてのデートは、あなたの言葉と一緒に
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それから、僕は毎週のようにアトリエへ通うようになった。
最初はめちゃくちゃ緊張してたのに、不思議と回を重ねるごとに慣れてきて……いや、それどころか、湊の前だと自然に呼吸できるようになってきた。
湊はいつも丁寧で、気遣いも細かい。
寒くないかとか、姿勢つらくないかとか、こっちが恐縮するくらい気を配ってくれる人だ。
で、セッションの後は決まって二人でお茶を飲みながら雑談する。
……正直、あの時間が一番好きだ。
「ユウは文学部だって言ってたけど、俺は美術書ばかり読んでるから、小説はあまり詳しくないんだ」
なんて湊は少し申し訳なさそうに笑ってて。
「じゃあ、今度おすすめの本、持ってきますね」
そう言うと、湊が嬉しそうに目を細めた。
「ユウ、今度の週末、時間ある?」
「週末……ですか?」
「ああ。美術館で面白い展示があって。よかったら、一緒に行かない?」
……美術館。
でも僕、色が見えないのに。
一瞬、返事に詰まって黙ってしまった僕を見て湊はふっと笑った。
「大丈夫。俺が色、説明するから。一緒に見よう」
そんなふうに言われたら……もう、断れない。
「行きます」
そう答えたら、湊の顔がぱっと明るくなって、それがまたすごく綺麗で。
「じゃあ、土曜日の午後。駅で」
帰り道のバスの中、僕はスマホを握りしめたまま。
胸の中がずっとうるさい。
週末に湊と美術館……って、デート?
いや、違うのかな……。わからない。
はぁ……どうしよう。
来週まで、ずっと落ち着けそうにない。
――土曜日。
アラームも鳴ってないのに早く目が覚めた。
……いや、理由はわかってる。
今日、湊と出かけるからだ。
クローゼットを開いたけど、何を着ていけばいいのかわからなくて、しばらく服の前で固まった。
色がわからないって、こういう時ほんと困る。
変な組み合わせで行って笑われたらどうしよう……。
いや、湊は笑わないけど、でも……。
結局、白シャツと黒パンツ。
無難すぎるって自分でも思うけど、失敗しない方が大事だし。
鏡の前で髪をいじってたら、ふと我に返る。
「……なにやってんだ、僕」
こんなに浮かれてるのが、正直ちょっと恥ずかしくなった。
駅には15分前に着いた。
改札付近をウロウロしてたら、ちょうどそのタイミングで湊が来た。
「待った?」
「いえ、今来たところです」
ほんとは10分以上前からいたけど……そんなの言えない。
湊は自然に歩き出して、僕もその横を歩く。
美術館につくと、エントランスには人が溢れていた。
「人気の展示なんですね」
「そうだな」
中に入ると、展示室は柔らかい証明と壁一面の絵。
そのスケールと空気には圧倒された。
「じゃあ、ゆっくり見よう」
湊は、僕の歩幅に合わせて横に立ってくれる。
最初の絵の前で、思い切って聞いてみた。
「これ……どんな色なんですか?」
すると湊は、ためらいなく説明してくれた。
「青と緑が基調でね。水面の青は深くて、葉っぱは濃い緑。睡蓮の花は白とピンク」
青。緑。白。ピンク。
頭の中で、昔の記憶を掘り起こす。
「光の表現がすごいだろ? この画家は光を描く天才だったんだ」
「光……」
「そう。水面のキラキラした感じ。それを色で表現してる」
湊の説明を聞きながら絵を見ると、不思議と――色が見えるような気がした。
「すごく……綺麗なんでしょうね」
「ああ、綺麗だよ」
湊が微笑む。
「でも、ユウにもこの絵の良さは伝わると思う。構図とか、筆使いとか」
湊の声はいつもより少し柔らかくて……絵の色よりも、その声が胸に染み込んでくる感じがした。
次の絵、次の説明。
湊の言葉のひとつひとつが、僕の中に色を置いていく。
灰色しか見えないはずなのに、心の中では確かに色が生まれていた。
最初はめちゃくちゃ緊張してたのに、不思議と回を重ねるごとに慣れてきて……いや、それどころか、湊の前だと自然に呼吸できるようになってきた。
湊はいつも丁寧で、気遣いも細かい。
寒くないかとか、姿勢つらくないかとか、こっちが恐縮するくらい気を配ってくれる人だ。
で、セッションの後は決まって二人でお茶を飲みながら雑談する。
……正直、あの時間が一番好きだ。
「ユウは文学部だって言ってたけど、俺は美術書ばかり読んでるから、小説はあまり詳しくないんだ」
なんて湊は少し申し訳なさそうに笑ってて。
「じゃあ、今度おすすめの本、持ってきますね」
そう言うと、湊が嬉しそうに目を細めた。
「ユウ、今度の週末、時間ある?」
「週末……ですか?」
「ああ。美術館で面白い展示があって。よかったら、一緒に行かない?」
……美術館。
でも僕、色が見えないのに。
一瞬、返事に詰まって黙ってしまった僕を見て湊はふっと笑った。
「大丈夫。俺が色、説明するから。一緒に見よう」
そんなふうに言われたら……もう、断れない。
「行きます」
そう答えたら、湊の顔がぱっと明るくなって、それがまたすごく綺麗で。
「じゃあ、土曜日の午後。駅で」
帰り道のバスの中、僕はスマホを握りしめたまま。
胸の中がずっとうるさい。
週末に湊と美術館……って、デート?
いや、違うのかな……。わからない。
はぁ……どうしよう。
来週まで、ずっと落ち着けそうにない。
――土曜日。
アラームも鳴ってないのに早く目が覚めた。
……いや、理由はわかってる。
今日、湊と出かけるからだ。
クローゼットを開いたけど、何を着ていけばいいのかわからなくて、しばらく服の前で固まった。
色がわからないって、こういう時ほんと困る。
変な組み合わせで行って笑われたらどうしよう……。
いや、湊は笑わないけど、でも……。
結局、白シャツと黒パンツ。
無難すぎるって自分でも思うけど、失敗しない方が大事だし。
鏡の前で髪をいじってたら、ふと我に返る。
「……なにやってんだ、僕」
こんなに浮かれてるのが、正直ちょっと恥ずかしくなった。
駅には15分前に着いた。
改札付近をウロウロしてたら、ちょうどそのタイミングで湊が来た。
「待った?」
「いえ、今来たところです」
ほんとは10分以上前からいたけど……そんなの言えない。
湊は自然に歩き出して、僕もその横を歩く。
美術館につくと、エントランスには人が溢れていた。
「人気の展示なんですね」
「そうだな」
中に入ると、展示室は柔らかい証明と壁一面の絵。
そのスケールと空気には圧倒された。
「じゃあ、ゆっくり見よう」
湊は、僕の歩幅に合わせて横に立ってくれる。
最初の絵の前で、思い切って聞いてみた。
「これ……どんな色なんですか?」
すると湊は、ためらいなく説明してくれた。
「青と緑が基調でね。水面の青は深くて、葉っぱは濃い緑。睡蓮の花は白とピンク」
青。緑。白。ピンク。
頭の中で、昔の記憶を掘り起こす。
「光の表現がすごいだろ? この画家は光を描く天才だったんだ」
「光……」
「そう。水面のキラキラした感じ。それを色で表現してる」
湊の説明を聞きながら絵を見ると、不思議と――色が見えるような気がした。
「すごく……綺麗なんでしょうね」
「ああ、綺麗だよ」
湊が微笑む。
「でも、ユウにもこの絵の良さは伝わると思う。構図とか、筆使いとか」
湊の声はいつもより少し柔らかくて……絵の色よりも、その声が胸に染み込んでくる感じがした。
次の絵、次の説明。
湊の言葉のひとつひとつが、僕の中に色を置いていく。
灰色しか見えないはずなのに、心の中では確かに色が生まれていた。
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