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【第二章】秘密の関係
3.問いかけが刺さる日
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それから、僕と湊の関係は少しずつ変化していった。
週に一度のモデルの仕事は変わらず続いていたけれど、それ以外にも、休日に一緒に出かけることが増えた。
カフェに行ったり、古本屋を巡ったり、映画を見に行ったり。
湊に会える日が一番楽しみだった。
カレンダーを見ながら、にやけてしまう。
「はぁ……湊に会えるだけでこうなるとか……どうなんだ、僕」
そんなある日、大学で友人に言われた。
「ユウ、最近なんか雰囲気変わったよな」
「え? そう?」
「なんか、キラキラしてる。もしかして……彼女できたとか?」
「違う違う!」
「じゃあ彼氏?」
「それも違うって!」
顔が熱くなる。
友人はニヤニヤしながら僕を見ていた。
「絶対何かあるだろ。教えてよ」
「何もないって……」
でも、心の中では違った。
湊の前では息が自然にできるし、近くにいるだけで心臓が忙しい。
アトリエに行くと、湊はいつもみたいに迎えてくれた。
その時ふと気づいた。
アトリエは綺麗なんだけど、細かいところに埃がたまってる。
「湊さん、掃除してる?」
「え? ああ、たまにね……でも忙しくてちゃんとはできてないかな」
「じゃあ僕がやるよ」
「え? 悪いよ、そんなの」
「いい。湊さんのためなら」
言ってから、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
でも湊は驚いたように目を瞬かせて、柔らかく笑った。
「ありがとう。ほんと、助かるよ」
それから僕は、掃除機かけたり棚の埃を拭いたり、窓磨いたり。
湊の生活に触れてる感じがして嬉しかった。
「ユウ、本当にありがとう」
「ううん。これくらい」
「いや、ほんと。お前がいてくれて良かった」
「僕がやりたくてやってるだけだから」
「優しいな」
「……そんなこと」
「いや。俺には、もったいないくらい」
湊の言葉が胸に染みた。
その日の夜、スマホに着信があった。
見ると、幼馴染の葵からだった。
「もしもし」
『ユウ、久しぶり。元気か?』
「うん、元気だよ」
葵とは小学校からの付き合いだった。
裕福な家の息子で、いつも僕の側にいた。
でも――最近忙しくて、葵と話すのが少し億劫になっていた。
『なあ、ユウは今度の週末、暇? 久しぶりに会わない?』
「ごめん、バイトがあって」
『またバイト? 最近忙しいよな』
葵の声が、少し棘のあるものに変わった。
『何のバイトしてるの』
「モデルの仕事」
『……モデル? どこの?』
「個人の画家さんのところで」
電話の向こうが、一瞬沈黙した。
『個人って……男?』
「うん」
『……ユウ、お前、騙されてないよな?』
「騙されてない」
『本当か? 男の画家のとこに通うとか……そいつ変な奴じゃ――』
「湊はそんな人じゃない」
思わず強めの声になった。
電話の向こうで、葵が息を呑む音が聞こえた。
『……名前で呼んでるんだ』
「だって……」
『ユウ……まさか、そいつのこと』
「何?」
『いや、なんでもない』
葵が溜息をついた。
『気をつけろよ』
「うん……」
電話が切れたあとも、葵の反応が気になっていた。
次のセッションでその話をしたら、湊は苦笑した。
「心配するのも無理ないかもね。でも、俺は何もしないよ」
「……うん」
“何もしない”って言われて、ちょっと胸がモヤッとしてしまう。
湊はキャンバスに向かいながら、少し考え込むような表情をした。
「ユウ、その幼馴染……好きなの?」
「えっ……」
心臓が一瞬止まった。
「ないよ!」
即答したら、湊は少し驚いて、でも嬉しそうに笑った。
「そっか。変なこと聞いてごめん」
「いや……」
そして、湊はすぐにいつもの穏やかな表情に戻った。
「じゃあ、始めようか」
「うん」
その日のセッションは、いつもより少しだけ静かだった気がした。
帰り際、靴を履いている僕の背中に、湊の声が落ちる。
「ユウ」
「はい?」
「俺、ユウのこと……」
なにか言いかけて、やめた。
「……なんでもない。また来週ね」
「……うん」
僕は少し気になったけれど、それ以上は聞けなかった。
帰りのバスの中、僕はずっと考えていた。
湊は、何を言おうとしたんだろう。
そして、なぜ僕の胸はこんなに苦しいんだろう。
答えは、もうわかっていた。
僕は、湊のことが――好きなんだ。
週に一度のモデルの仕事は変わらず続いていたけれど、それ以外にも、休日に一緒に出かけることが増えた。
カフェに行ったり、古本屋を巡ったり、映画を見に行ったり。
湊に会える日が一番楽しみだった。
カレンダーを見ながら、にやけてしまう。
「はぁ……湊に会えるだけでこうなるとか……どうなんだ、僕」
そんなある日、大学で友人に言われた。
「ユウ、最近なんか雰囲気変わったよな」
「え? そう?」
「なんか、キラキラしてる。もしかして……彼女できたとか?」
「違う違う!」
「じゃあ彼氏?」
「それも違うって!」
顔が熱くなる。
友人はニヤニヤしながら僕を見ていた。
「絶対何かあるだろ。教えてよ」
「何もないって……」
でも、心の中では違った。
湊の前では息が自然にできるし、近くにいるだけで心臓が忙しい。
アトリエに行くと、湊はいつもみたいに迎えてくれた。
その時ふと気づいた。
アトリエは綺麗なんだけど、細かいところに埃がたまってる。
「湊さん、掃除してる?」
「え? ああ、たまにね……でも忙しくてちゃんとはできてないかな」
「じゃあ僕がやるよ」
「え? 悪いよ、そんなの」
「いい。湊さんのためなら」
言ってから、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
でも湊は驚いたように目を瞬かせて、柔らかく笑った。
「ありがとう。ほんと、助かるよ」
それから僕は、掃除機かけたり棚の埃を拭いたり、窓磨いたり。
湊の生活に触れてる感じがして嬉しかった。
「ユウ、本当にありがとう」
「ううん。これくらい」
「いや、ほんと。お前がいてくれて良かった」
「僕がやりたくてやってるだけだから」
「優しいな」
「……そんなこと」
「いや。俺には、もったいないくらい」
湊の言葉が胸に染みた。
その日の夜、スマホに着信があった。
見ると、幼馴染の葵からだった。
「もしもし」
『ユウ、久しぶり。元気か?』
「うん、元気だよ」
葵とは小学校からの付き合いだった。
裕福な家の息子で、いつも僕の側にいた。
でも――最近忙しくて、葵と話すのが少し億劫になっていた。
『なあ、ユウは今度の週末、暇? 久しぶりに会わない?』
「ごめん、バイトがあって」
『またバイト? 最近忙しいよな』
葵の声が、少し棘のあるものに変わった。
『何のバイトしてるの』
「モデルの仕事」
『……モデル? どこの?』
「個人の画家さんのところで」
電話の向こうが、一瞬沈黙した。
『個人って……男?』
「うん」
『……ユウ、お前、騙されてないよな?』
「騙されてない」
『本当か? 男の画家のとこに通うとか……そいつ変な奴じゃ――』
「湊はそんな人じゃない」
思わず強めの声になった。
電話の向こうで、葵が息を呑む音が聞こえた。
『……名前で呼んでるんだ』
「だって……」
『ユウ……まさか、そいつのこと』
「何?」
『いや、なんでもない』
葵が溜息をついた。
『気をつけろよ』
「うん……」
電話が切れたあとも、葵の反応が気になっていた。
次のセッションでその話をしたら、湊は苦笑した。
「心配するのも無理ないかもね。でも、俺は何もしないよ」
「……うん」
“何もしない”って言われて、ちょっと胸がモヤッとしてしまう。
湊はキャンバスに向かいながら、少し考え込むような表情をした。
「ユウ、その幼馴染……好きなの?」
「えっ……」
心臓が一瞬止まった。
「ないよ!」
即答したら、湊は少し驚いて、でも嬉しそうに笑った。
「そっか。変なこと聞いてごめん」
「いや……」
そして、湊はすぐにいつもの穏やかな表情に戻った。
「じゃあ、始めようか」
「うん」
その日のセッションは、いつもより少しだけ静かだった気がした。
帰り際、靴を履いている僕の背中に、湊の声が落ちる。
「ユウ」
「はい?」
「俺、ユウのこと……」
なにか言いかけて、やめた。
「……なんでもない。また来週ね」
「……うん」
僕は少し気になったけれど、それ以上は聞けなかった。
帰りのバスの中、僕はずっと考えていた。
湊は、何を言おうとしたんだろう。
そして、なぜ僕の胸はこんなに苦しいんだろう。
答えは、もうわかっていた。
僕は、湊のことが――好きなんだ。
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