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42 新婚夫婦の朝
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【ヘンリックside】
王太子宮の食堂には朝の光が差し込むように窓が大きく作られている。窓の外には青々とした木々の緑がほどよく生い茂り、一日の始まりを清々しい気持ちで迎えられるように工夫がされていた。
王族といっても毎日晩餐会のような食事を摂っているわけではなく、普段は一見すると質素だが手の込んだ料理を食している。一日の食事のうちで朝食はあっさりしたものが多いが、小さな頃からマナーを叩きこまれているヘンリックは多少体調が悪い時でも姿勢を崩す事なく綺麗な所作で毎日の朝食を食していた。
「ふあぁ~」
すぐ目の前で朝食を食べていた新妻が大きな口をあけて欠伸をしている。ヘンリックは食事の席で欠伸をした彼女のマナーのなってなさに注意をした事があったが、人としての自然な行為を邪魔するなと一蹴されてしまって以来、彼女のマナーの悪さを受け入れざるを得ない形になっていた。
野菜が嫌いなマリーナは食が進まないようで、子どもがするようにフォークで野菜をつんつんと突っついている。
ヘンリックは小さくため息を吐くが、そんな彼の様子にも気付いていないようで、野菜を突っつくのをやめたマリーナが今度は皿とスプーンをカチカチと音をさせながらスープを飲み始める。
ヘンリックとマリーナは今からひと月ほど前に結婚式を挙げていた。その日は実は前の婚約者だったローゼリアと結婚式を挙げる日だった。王太子の結婚式となると年単位の準備期間が必要であったが、元々ローゼリアとの結婚の準備がかなり進んでいたので、花嫁の名前と祝宴の席順を変える程度で済んだのだった。そして結婚式の準備のほとんどはローゼリアがしていたものだった。マリーナはローゼリアから結婚式も奪っていたのだった。
ところが結婚前はあんなにマリーナとの結婚を夢に見ていたのに、今のヘンリックは少しも幸せではなかった。
(そもそも王族が結婚に夢を見たのが間違いだったのだろうな。どちらも夢の無い結婚生活ならば、淑女として問題の無かったローゼリアの方がまだ良かった)
生まれてから王太子として育てられてきたヘンリックにとって食事の正しい所作は当たり前の事で、マナーのなっていない者と常に食事を共にするという事が生理的にかなり苦痛に感じるとは思っていなかったのだった。
さらに数日前、ヘンリックはたまたま化粧をしていないマリーナの素顔を見てしまったのだった。
マリーナがしっかり化粧をしていたのは知ってはいたが、瞳の縁のラインを消して白粉を取り払った彼女の素顔はメリハリの少ないのっぺりとした顔立ちだった上に、彼女の肌が少し荒れていて額と頬の一部には吹き出物が浮いていたのだった。
マリーナの素顔よりも自分の方が美しいと思えてしまった。後からマリーナの化粧の事を自分付きの侍女に聞いてみたら、マリーナは色のついた白粉を多く持っているらしい。そしてそれらを巧みに使う事で、彫りの深さや鼻梁が整って見えるように化粧をしていて、それは世の女性たちの当たり前なのだと教えられた。
そういえばローゼリアも化粧が濃かった事をヘンリックは思い出した。化粧が濃いのに美しくならないのは何故なのか分からなかったが、ローゼリアにとってはあれが限界だったのかもしれない。
そして以前街で見かけた白金色の髪の少女の肌を思い出す。白粉を塗っていない肌はシミや吹き出物がひとつも無く、健康的で瑞々しい肌そのものが輝いて見えた。本物を見てしまった後では白粉を厚く重ねた肌がヘンリックには作り物に見えてしまうようになってしまったのだ。
マリーナはマナーのなってなさを棚に上げて、人は人らしく自然に行動すべきだとよく主張しているが、彼女の濃い化粧は人としての自然な姿とはかけ離れている。
以前は素晴らしいと思っていた彼女の考えも矛盾を孕んでいたり、自分の都合に合わせてそのような考えに至ったのだと夫婦になってから気付く事が増えてしまった。
そういった事が積み重なり、ヘンリックの中でマリーナのメッキはどんどん剥がれていったのだった。
王太子宮の食堂には朝の光が差し込むように窓が大きく作られている。窓の外には青々とした木々の緑がほどよく生い茂り、一日の始まりを清々しい気持ちで迎えられるように工夫がされていた。
王族といっても毎日晩餐会のような食事を摂っているわけではなく、普段は一見すると質素だが手の込んだ料理を食している。一日の食事のうちで朝食はあっさりしたものが多いが、小さな頃からマナーを叩きこまれているヘンリックは多少体調が悪い時でも姿勢を崩す事なく綺麗な所作で毎日の朝食を食していた。
「ふあぁ~」
すぐ目の前で朝食を食べていた新妻が大きな口をあけて欠伸をしている。ヘンリックは食事の席で欠伸をした彼女のマナーのなってなさに注意をした事があったが、人としての自然な行為を邪魔するなと一蹴されてしまって以来、彼女のマナーの悪さを受け入れざるを得ない形になっていた。
野菜が嫌いなマリーナは食が進まないようで、子どもがするようにフォークで野菜をつんつんと突っついている。
ヘンリックは小さくため息を吐くが、そんな彼の様子にも気付いていないようで、野菜を突っつくのをやめたマリーナが今度は皿とスプーンをカチカチと音をさせながらスープを飲み始める。
ヘンリックとマリーナは今からひと月ほど前に結婚式を挙げていた。その日は実は前の婚約者だったローゼリアと結婚式を挙げる日だった。王太子の結婚式となると年単位の準備期間が必要であったが、元々ローゼリアとの結婚の準備がかなり進んでいたので、花嫁の名前と祝宴の席順を変える程度で済んだのだった。そして結婚式の準備のほとんどはローゼリアがしていたものだった。マリーナはローゼリアから結婚式も奪っていたのだった。
ところが結婚前はあんなにマリーナとの結婚を夢に見ていたのに、今のヘンリックは少しも幸せではなかった。
(そもそも王族が結婚に夢を見たのが間違いだったのだろうな。どちらも夢の無い結婚生活ならば、淑女として問題の無かったローゼリアの方がまだ良かった)
生まれてから王太子として育てられてきたヘンリックにとって食事の正しい所作は当たり前の事で、マナーのなっていない者と常に食事を共にするという事が生理的にかなり苦痛に感じるとは思っていなかったのだった。
さらに数日前、ヘンリックはたまたま化粧をしていないマリーナの素顔を見てしまったのだった。
マリーナがしっかり化粧をしていたのは知ってはいたが、瞳の縁のラインを消して白粉を取り払った彼女の素顔はメリハリの少ないのっぺりとした顔立ちだった上に、彼女の肌が少し荒れていて額と頬の一部には吹き出物が浮いていたのだった。
マリーナの素顔よりも自分の方が美しいと思えてしまった。後からマリーナの化粧の事を自分付きの侍女に聞いてみたら、マリーナは色のついた白粉を多く持っているらしい。そしてそれらを巧みに使う事で、彫りの深さや鼻梁が整って見えるように化粧をしていて、それは世の女性たちの当たり前なのだと教えられた。
そういえばローゼリアも化粧が濃かった事をヘンリックは思い出した。化粧が濃いのに美しくならないのは何故なのか分からなかったが、ローゼリアにとってはあれが限界だったのかもしれない。
そして以前街で見かけた白金色の髪の少女の肌を思い出す。白粉を塗っていない肌はシミや吹き出物がひとつも無く、健康的で瑞々しい肌そのものが輝いて見えた。本物を見てしまった後では白粉を厚く重ねた肌がヘンリックには作り物に見えてしまうようになってしまったのだ。
マリーナはマナーのなってなさを棚に上げて、人は人らしく自然に行動すべきだとよく主張しているが、彼女の濃い化粧は人としての自然な姿とはかけ離れている。
以前は素晴らしいと思っていた彼女の考えも矛盾を孕んでいたり、自分の都合に合わせてそのような考えに至ったのだと夫婦になってから気付く事が増えてしまった。
そういった事が積み重なり、ヘンリックの中でマリーナのメッキはどんどん剥がれていったのだった。
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