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44 新しいシーズンと新しい自分
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ランゲル王国の社交シーズンは王家主催の夜会から始まる。その夜会の半月後はデビュタント・ボールが開かれ、貴族たちは王家主催の夜会の合間に自分の家で夜会を主宰していく。
なのでシーズン最初の夜会にはほとんどの貴族が顔を揃える事となる。本日の夜会の目玉は先ごろ結婚をした王太子夫妻で、この夜会は結婚式や披露宴に招待されなかった貴族たちへの王太子妃のお披露目も兼ねており、彼らが主役になるだろうと誰もが思っていた。
夜会の入場は下位貴族から始まる。最初に入場する男爵家や子爵家には専用の控室が用意されておらず、彼らは会場の扉の前で待つ事になっている。
オルコット家は伯爵家なので控室はあるが小さめな部屋へ案内された。
ローゼリアは伯爵とイアンと共に控室で過ごした後に、王宮侍女に案内されて入場をしたのだが、いつもより視線を感じていた。
ローゼリア自身は貴族に注目される事にも慣れているし、チラチラと伺うように視線を向けられる理由も分かっていたが、王妃教育で培った揺るがない表情筋は健在だったので、澄ました表情を浮かべたまま、まるで自分の顔を見せる事をもったいぶるように扇を口元に当てていた。
「皆が義母上を見ていますね」
「きっとエルランド女がいるとでも思っていらっしゃるのよ」
ランゲル人の中で一番多い髪色は茶色で、次が赤色、黒色と続く。金髪は数は少ないが全くいないわけではない。しかしローゼリアのような白金や銀色の髪色を持つ者はランゲル国内にはほとんどいない。
茶色や赤毛の髪が多い中で白金の髪は目立つ上に、今日のローゼリアはランゲルでは見ないエルランド製のデザインのドレスを着ていた。
「これだけのドレスがよく間に合ったな」
「母には懇意にしているドレスショップがエルランドにはありますのよ。母からの手紙には結婚祝いとしては遅くなったから、その分良いものを用意したとおっしゃっていらしたとありましたの」
サロンを開くに当たってローゼリアは母のナタリーにエルランドのドレスをいくつか送って欲しいとお願いをして送ってもらったのだが、夜会直前になって次のシーズンの最初の夜会にはこれをという手紙と共にエルランド王国の公爵である伯父からドレスが贈られたのだった。
ローゼリアのドレスは深い緑色をベースに白色をポイントカラ―にしており、緑色の布地には金糸で百合の紋章がいくつも刺されていた。オルコット家の紋章が緑と白のブロックチェックに百合の組み合わせなのでこのようなドレスを作らせたのだろう。
刺繍の鮮やかさと最高級の布を使ったドレスは伯爵夫人というより公爵夫人の方が合う。このドレスを見てローゼリアは伯父の思惑を感じ取っていた。大国エルランドの筆頭公爵の姪であるローゼリアにはこれくらいのドレスが相応しいのだと主張しているようだった。
(このような挑戦的なドレスを贈られて、伯父様はランゲルの内政干渉をするおつもりなのかしら)
エルランドのドレスはランゲルのドレスとはデザインが違う。ランゲルのドレスは胸から下に切り返しがありコルセットを使わないので、体型を隠した上でゆったりと着られる形だった。それに対してエルランドのドレスはコルセットをしっかりと締めて、スカートの部分は幾重にもレースを重ねてふわりとさせているので、胸の大きさと腰の細さを強調するデザインになっているので、ひと目でランゲルのドレスとは違うと分かるのだ。
留学時代はいつもエルランドのドレスを着ていたからローゼリアは着慣れているのだが、見慣れてはいないイアンは女性らしい体型を隠さない上に鎖骨の見えるローゼリアのドレス姿に顔を赤らめていた。
サロンを開くようになってからローゼリアは前髪を上げて厚化粧も止めてしまった。
こうした方が絵皿に描かれている女性の絵に近いし、エルランドのものを広めるのならエルランド人としての良さをアピールした方が絵皿を販売するには効果的だとオルコット商会の副会頭であるクレイグにアドバイスを受けたからだった。
ローゼリアの透き通るような白い肌と大きく青い瞳はサロンを訪れた夫人や令嬢たちに憧憬の眼差しを向けられるようになった。ランゲル王国では黒髪に黒い瞳が美しいとされていて、ローゼリアには無い美しさではあったが、ローゼリアも彼女らが持ち得る事が出来ない美しさを持っていたのだ。
「義母上、俺、いや私は当主教育を頑張っているんです。義父上から爵位を譲られたら領主としてオルコットを今以上に繁栄させたいと思っています。ですからっ………」
「ええ、“ですから”?」
突然語り出したイアンにローゼリアはこてんと首を傾げている。
「……いえ、何でもないです」
突然下を向いて小さくなってしまったイアンを伯爵は鼻で嗤う。
「イアンは気が小さいのう」
三人でそんな会話をしていたら、入場のドアの前で待機している侍従が王族の入場の声を上げたのだった。
「――王族の方々のご入場です!」
掛け声と共に扉が開かれて王族の入場となったのだが、皆が想像していた人物が見当たらず、貴族の間で小さなざわめきが広がっていく。
扉の向こうから現れたのは王太子のヘンリック、王妃、第一側妃、第二側妃だけだったのだから。
「本日は国王陛下と王太妃殿下はご病気の為、御欠席となりました」
扉を開けた文官が、国王とマリーナの欠席を伝える。
国王は昨シーズンの終わりから体調不良を理由に夜会に現れなくなってしまったので、今日の夜会も欠席になるだろうと思われていたが、王太子妃まで欠席なのは誰もが想像していなかったので、貴族たちの間でざわめきが聞こえてくる。
「……もしかして?」
「御新婚ですから…ふふふ」
「まあ、おめでたい事ですわ」
正式な発表はされていなくても新婚の王太子妃が大切な夜会を欠席するにはそれなりの理由があるのだろうと一部の夫人たちが勝手に勘繰っている。
(私が婚約者だった最後の年も王太子殿下はシーズン初めの夜会を急な体調不良で欠席されていましたわね。よく似ていらっしゃるご夫婦ですこと)
王太子夫妻は結婚してまだ2カ月も過ぎていない。結婚後の妊娠としては早過ぎる。ローゼリアにはあの真面目なヘンリックが結婚直前に間違いをしでかすとは思えなかった。
大して力を持っていない伯爵家の夫人であるローゼリアは王族から離れた場所からヘンリック達を見ていた。ヘンリックがこちらを見ているような気がしたが、周りにはたくさんの貴族もいるので気のせいだと思う事にした。
なのでシーズン最初の夜会にはほとんどの貴族が顔を揃える事となる。本日の夜会の目玉は先ごろ結婚をした王太子夫妻で、この夜会は結婚式や披露宴に招待されなかった貴族たちへの王太子妃のお披露目も兼ねており、彼らが主役になるだろうと誰もが思っていた。
夜会の入場は下位貴族から始まる。最初に入場する男爵家や子爵家には専用の控室が用意されておらず、彼らは会場の扉の前で待つ事になっている。
オルコット家は伯爵家なので控室はあるが小さめな部屋へ案内された。
ローゼリアは伯爵とイアンと共に控室で過ごした後に、王宮侍女に案内されて入場をしたのだが、いつもより視線を感じていた。
ローゼリア自身は貴族に注目される事にも慣れているし、チラチラと伺うように視線を向けられる理由も分かっていたが、王妃教育で培った揺るがない表情筋は健在だったので、澄ました表情を浮かべたまま、まるで自分の顔を見せる事をもったいぶるように扇を口元に当てていた。
「皆が義母上を見ていますね」
「きっとエルランド女がいるとでも思っていらっしゃるのよ」
ランゲル人の中で一番多い髪色は茶色で、次が赤色、黒色と続く。金髪は数は少ないが全くいないわけではない。しかしローゼリアのような白金や銀色の髪色を持つ者はランゲル国内にはほとんどいない。
茶色や赤毛の髪が多い中で白金の髪は目立つ上に、今日のローゼリアはランゲルでは見ないエルランド製のデザインのドレスを着ていた。
「これだけのドレスがよく間に合ったな」
「母には懇意にしているドレスショップがエルランドにはありますのよ。母からの手紙には結婚祝いとしては遅くなったから、その分良いものを用意したとおっしゃっていらしたとありましたの」
サロンを開くに当たってローゼリアは母のナタリーにエルランドのドレスをいくつか送って欲しいとお願いをして送ってもらったのだが、夜会直前になって次のシーズンの最初の夜会にはこれをという手紙と共にエルランド王国の公爵である伯父からドレスが贈られたのだった。
ローゼリアのドレスは深い緑色をベースに白色をポイントカラ―にしており、緑色の布地には金糸で百合の紋章がいくつも刺されていた。オルコット家の紋章が緑と白のブロックチェックに百合の組み合わせなのでこのようなドレスを作らせたのだろう。
刺繍の鮮やかさと最高級の布を使ったドレスは伯爵夫人というより公爵夫人の方が合う。このドレスを見てローゼリアは伯父の思惑を感じ取っていた。大国エルランドの筆頭公爵の姪であるローゼリアにはこれくらいのドレスが相応しいのだと主張しているようだった。
(このような挑戦的なドレスを贈られて、伯父様はランゲルの内政干渉をするおつもりなのかしら)
エルランドのドレスはランゲルのドレスとはデザインが違う。ランゲルのドレスは胸から下に切り返しがありコルセットを使わないので、体型を隠した上でゆったりと着られる形だった。それに対してエルランドのドレスはコルセットをしっかりと締めて、スカートの部分は幾重にもレースを重ねてふわりとさせているので、胸の大きさと腰の細さを強調するデザインになっているので、ひと目でランゲルのドレスとは違うと分かるのだ。
留学時代はいつもエルランドのドレスを着ていたからローゼリアは着慣れているのだが、見慣れてはいないイアンは女性らしい体型を隠さない上に鎖骨の見えるローゼリアのドレス姿に顔を赤らめていた。
サロンを開くようになってからローゼリアは前髪を上げて厚化粧も止めてしまった。
こうした方が絵皿に描かれている女性の絵に近いし、エルランドのものを広めるのならエルランド人としての良さをアピールした方が絵皿を販売するには効果的だとオルコット商会の副会頭であるクレイグにアドバイスを受けたからだった。
ローゼリアの透き通るような白い肌と大きく青い瞳はサロンを訪れた夫人や令嬢たちに憧憬の眼差しを向けられるようになった。ランゲル王国では黒髪に黒い瞳が美しいとされていて、ローゼリアには無い美しさではあったが、ローゼリアも彼女らが持ち得る事が出来ない美しさを持っていたのだ。
「義母上、俺、いや私は当主教育を頑張っているんです。義父上から爵位を譲られたら領主としてオルコットを今以上に繁栄させたいと思っています。ですからっ………」
「ええ、“ですから”?」
突然語り出したイアンにローゼリアはこてんと首を傾げている。
「……いえ、何でもないです」
突然下を向いて小さくなってしまったイアンを伯爵は鼻で嗤う。
「イアンは気が小さいのう」
三人でそんな会話をしていたら、入場のドアの前で待機している侍従が王族の入場の声を上げたのだった。
「――王族の方々のご入場です!」
掛け声と共に扉が開かれて王族の入場となったのだが、皆が想像していた人物が見当たらず、貴族の間で小さなざわめきが広がっていく。
扉の向こうから現れたのは王太子のヘンリック、王妃、第一側妃、第二側妃だけだったのだから。
「本日は国王陛下と王太妃殿下はご病気の為、御欠席となりました」
扉を開けた文官が、国王とマリーナの欠席を伝える。
国王は昨シーズンの終わりから体調不良を理由に夜会に現れなくなってしまったので、今日の夜会も欠席になるだろうと思われていたが、王太子妃まで欠席なのは誰もが想像していなかったので、貴族たちの間でざわめきが聞こえてくる。
「……もしかして?」
「御新婚ですから…ふふふ」
「まあ、おめでたい事ですわ」
正式な発表はされていなくても新婚の王太子妃が大切な夜会を欠席するにはそれなりの理由があるのだろうと一部の夫人たちが勝手に勘繰っている。
(私が婚約者だった最後の年も王太子殿下はシーズン初めの夜会を急な体調不良で欠席されていましたわね。よく似ていらっしゃるご夫婦ですこと)
王太子夫妻は結婚してまだ2カ月も過ぎていない。結婚後の妊娠としては早過ぎる。ローゼリアにはあの真面目なヘンリックが結婚直前に間違いをしでかすとは思えなかった。
大して力を持っていない伯爵家の夫人であるローゼリアは王族から離れた場所からヘンリック達を見ていた。ヘンリックがこちらを見ているような気がしたが、周りにはたくさんの貴族もいるので気のせいだと思う事にした。
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