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45 イアンとのダンスは
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王太子であるヘンリックの挨拶と共に今シーズン最初の夜会の始まりが告げられ、国中の貴族が見守る中、一番最初に踊るのは王族と決まっているので、ヘンリックと王妃がホールの真ん中でダンスを始める。
ランゲル王国には王族が少なく、ヘンリックも国王も兄妹がいないので、ヘンリックと王妃の周りは二人の側妃が近衛騎士の制服を着たパートナーと踊っている。
王族のダンスが終わると次の曲で貴族たちが一斉にダンスを始める。ローゼリアは書類上の夫である伯爵とファーストダンスを踊るはずだが、伯爵が領地で腰を痛めたと言って本日は杖をついているので、義息子であるイアンがローゼリアをエスコートしており、ローゼリアはイアンとファーストダンスを踊る。
未だにイアンにはダンスの練習を乞われているので、踊り慣れたイアンとのダンスに不安は無いが、今日はあちらこちらから視線を感じる。
「これでイアン様も色々な方にお顔が知られましたわね」
ダンスをしながらローゼリアはにっこりと笑う。美しく着飾ったローゼリアの笑顔の破壊力はどれくらいなものかとイアンは考えてしまう。彼女に興味を持つ男は確実に増えると思うとイアンは焦りを感じるのだった。
「俺なんてローゼリア様の添え物程度にしか思われていませんよ。……髪型も化粧も前のままで良かったのに」
「何かおっしゃいまして?」
「いいえ、本日の義母上はお美しいと思っているだけです」
イアンは不機嫌そうに答える。
エルランドから帰ってきた頃から、イアンはローゼリアの事を時々名前で呼ぶようになった。息子が年上という奇妙な義理の親子関係なので、イアンがローゼリアの事を名前で呼ぶのはおかしな事ではないのだが、義母上呼びに慣れてしまったせいか、イアンに名前で呼ばれる事はなんとなくしっくりこないとローゼリアは感じていた。
「イアン様、社交では笑顔が大切です。表情が作れないと簡単に情報を引き出されましてよ」
微笑んだままローゼリアはイアンに注意を促す。ローゼリアの目には今日のイアンはいつもより落ち着きが無さそうに見える。
(もしかして、大きな夜会で緊張をされているのかしら?それとも結婚相手がなかなか見つからない事に焦りを感じているとか?)
「わかりました、相手に表情を読まれなければいいのですよね。本当に貴女は教師のような方ですね。………その澄ました表情を剥がしたくなります、ねっ」
そう言ってイアンは曲に合わせてはいたが、突然ローゼリアをぐいと強引に引き寄せた上で、ローゼリアの顔に自分の顔を近づけたのだった。
不意を突かれたローゼリアは眼を見開いて、すぐ目の前にあるイアンの顔を見つめる。何の感情も乗せてない表情のイアンがじっとローゼリアを見つめている。
「表情、ちゃんと作って下さい。顔が赤くなっていますよ」
口づけをされるのではないかというくらい顔が近づいたのは僅かな時間で、彼の顔はすぐに離れたが、驚きで胸の鼓動が速くなったローゼリアのステップが乱れる。しかし安定したイアンのリードで何とか態勢を崩さずに済んだ。
「ほら、貴女もかわいらしいところがあるじゃないですか。男なんて適当に褒めておけば言う事をきくのに、貴女は真面目過ぎなんですよ」
「まあ、私をからかいましたのねっ。仕返しをするなんてひどいですわっ」
「ああ、いつもの義母上らしくなってきましたね。貴女が注目されて気分が悪いですが、ダンスくらいは楽しく踊りましょう」
そう言ってイアンはクスリと笑う。今度はローゼリアが不機嫌になっていた。
「……やっぱりイアン様は意地が悪いですわ」
ローゼリアは本当に怒っているようで、イアンと目を合わそうともしなかった。
「わかりました、俺が悪かったです。謝りますから機嫌を直して下さい。……そうだ、今度街へ出たら何か土産を買ってきますから」
イアンは慌ててローゼリアの機嫌を取ろうと、彼女が好きな屋台の話題を出す。
「それなら、焼き栗が良いですわ」
「今は焼き栗の季節にはまだ早いですから、フィッシュ&チップスを買ってきます」
「それはどういうものですの?」
「魚と芋をフライにしたものです。子供はおやつに食べますし、大人は酒のツマミにします」
「まあ、皆が食べるものですのね。ぜひよろしくお願いしますわ」
高価なドレスや宝飾品に慣れているローゼリアには、下手に安物を贈ってしまうとすぐに分かってしまうし、そんな貧相なものをイアンはローゼリアには贈りたくなかった。そもそも、婚約者でも妻でもないローゼリアに高価なものは贈れないし、贈ったとしてもつき返されてしまうだろう。
ローゼリアの趣味である読書も、今では気に入った作家の小説をエルランドから取り寄せる事が出来るので恋愛小説には不自由をしていないし、イアンは恋愛小説を読まないのでどんな小説が彼女の好みなのかまでは分からない。
そんな彼女が他に喜んでくれるものといったら意外な事に屋台メシといった庶民的なもので、これは今のところイアンだけが知っている事だった。
ランゲル王国には王族が少なく、ヘンリックも国王も兄妹がいないので、ヘンリックと王妃の周りは二人の側妃が近衛騎士の制服を着たパートナーと踊っている。
王族のダンスが終わると次の曲で貴族たちが一斉にダンスを始める。ローゼリアは書類上の夫である伯爵とファーストダンスを踊るはずだが、伯爵が領地で腰を痛めたと言って本日は杖をついているので、義息子であるイアンがローゼリアをエスコートしており、ローゼリアはイアンとファーストダンスを踊る。
未だにイアンにはダンスの練習を乞われているので、踊り慣れたイアンとのダンスに不安は無いが、今日はあちらこちらから視線を感じる。
「これでイアン様も色々な方にお顔が知られましたわね」
ダンスをしながらローゼリアはにっこりと笑う。美しく着飾ったローゼリアの笑顔の破壊力はどれくらいなものかとイアンは考えてしまう。彼女に興味を持つ男は確実に増えると思うとイアンは焦りを感じるのだった。
「俺なんてローゼリア様の添え物程度にしか思われていませんよ。……髪型も化粧も前のままで良かったのに」
「何かおっしゃいまして?」
「いいえ、本日の義母上はお美しいと思っているだけです」
イアンは不機嫌そうに答える。
エルランドから帰ってきた頃から、イアンはローゼリアの事を時々名前で呼ぶようになった。息子が年上という奇妙な義理の親子関係なので、イアンがローゼリアの事を名前で呼ぶのはおかしな事ではないのだが、義母上呼びに慣れてしまったせいか、イアンに名前で呼ばれる事はなんとなくしっくりこないとローゼリアは感じていた。
「イアン様、社交では笑顔が大切です。表情が作れないと簡単に情報を引き出されましてよ」
微笑んだままローゼリアはイアンに注意を促す。ローゼリアの目には今日のイアンはいつもより落ち着きが無さそうに見える。
(もしかして、大きな夜会で緊張をされているのかしら?それとも結婚相手がなかなか見つからない事に焦りを感じているとか?)
「わかりました、相手に表情を読まれなければいいのですよね。本当に貴女は教師のような方ですね。………その澄ました表情を剥がしたくなります、ねっ」
そう言ってイアンは曲に合わせてはいたが、突然ローゼリアをぐいと強引に引き寄せた上で、ローゼリアの顔に自分の顔を近づけたのだった。
不意を突かれたローゼリアは眼を見開いて、すぐ目の前にあるイアンの顔を見つめる。何の感情も乗せてない表情のイアンがじっとローゼリアを見つめている。
「表情、ちゃんと作って下さい。顔が赤くなっていますよ」
口づけをされるのではないかというくらい顔が近づいたのは僅かな時間で、彼の顔はすぐに離れたが、驚きで胸の鼓動が速くなったローゼリアのステップが乱れる。しかし安定したイアンのリードで何とか態勢を崩さずに済んだ。
「ほら、貴女もかわいらしいところがあるじゃないですか。男なんて適当に褒めておけば言う事をきくのに、貴女は真面目過ぎなんですよ」
「まあ、私をからかいましたのねっ。仕返しをするなんてひどいですわっ」
「ああ、いつもの義母上らしくなってきましたね。貴女が注目されて気分が悪いですが、ダンスくらいは楽しく踊りましょう」
そう言ってイアンはクスリと笑う。今度はローゼリアが不機嫌になっていた。
「……やっぱりイアン様は意地が悪いですわ」
ローゼリアは本当に怒っているようで、イアンと目を合わそうともしなかった。
「わかりました、俺が悪かったです。謝りますから機嫌を直して下さい。……そうだ、今度街へ出たら何か土産を買ってきますから」
イアンは慌ててローゼリアの機嫌を取ろうと、彼女が好きな屋台の話題を出す。
「それなら、焼き栗が良いですわ」
「今は焼き栗の季節にはまだ早いですから、フィッシュ&チップスを買ってきます」
「それはどういうものですの?」
「魚と芋をフライにしたものです。子供はおやつに食べますし、大人は酒のツマミにします」
「まあ、皆が食べるものですのね。ぜひよろしくお願いしますわ」
高価なドレスや宝飾品に慣れているローゼリアには、下手に安物を贈ってしまうとすぐに分かってしまうし、そんな貧相なものをイアンはローゼリアには贈りたくなかった。そもそも、婚約者でも妻でもないローゼリアに高価なものは贈れないし、贈ったとしてもつき返されてしまうだろう。
ローゼリアの趣味である読書も、今では気に入った作家の小説をエルランドから取り寄せる事が出来るので恋愛小説には不自由をしていないし、イアンは恋愛小説を読まないのでどんな小説が彼女の好みなのかまでは分からない。
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