転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ

文字の大きさ
1 / 57

しおりを挟む
「うーん、やっとできた……」

 私––––––クラリッサ・フューゲルは椅子に座ったままぐっと背伸びをした。
 ずっと同じ姿勢のまま机に向かっていたので、すっかり肩のあたりが強張ってしまっている。

「お疲れさまでした、お姉様」

 ふわふわのストロベリーブロンドを揺らしながら、私の異母妹であるマリアンネが労ってくれた。
 そのアメジストのような澄んだ紫の瞳は、期待にキラキラと輝いている。

「本当に疲れたわ……じゃあマリー、最終章の誤字脱字チェックお願いね」

「はい!お任せください!」

 マリアンネはたった今書きあがったばかりの小説の原稿を受け取ると、真剣な顔で読み始めた。

「お嬢、茶を淹れようか」

「ええ、お願い」

「眼精疲労に効くハーブティーにするよ」

「助かるわ」

 テキパキとお茶を淹れる準備を始めた癖のある黒髪に青い瞳の青年は、私専属の侍従エルヴィンだ。
 彼はマリアンネの異父兄でもあるのだが、侍従にしては立派すぎる体格と精悍な顔立ちをしており、華奢で可愛らしいマリアンネとはほとんど似ていない。
 
 一方、私とマリアンネも、瞳の色が同じなだけで、他はあまり似ていない。
 私はややきつめな顔立ちと銀色の髪をしているので、『冷たそう』もしくは『気が強そう』という印象を持たれることが多いが、マリアンネは花の妖精のように可愛らしいのだ。

 マリアンネは私の異母妹で、エルヴィンとマリアンネは異父兄妹にあたる。
 つまり、私とエルヴィンは赤の他人だが、マリアンネは私たち両方と血がつながっているということになる。

 エルヴィンが私の前にティーカップと、クッキーをいくつか乗せた小皿を置いた。

 カップを手に取ると、ハーブの爽やかな香りがする。

 一口飲んで、ほっと息をついた。

「ありがとう、エル。
 あなたのお茶はいつも美味しいわ」

「当然だ。お嬢のための特別ブレンドなんだから」

 エルヴィンは味覚と嗅覚が鋭く、いつも私の体調にあわせてブレンドしたハーブティーを淹れてくれる。
 本当に得難い侍従だ。

「おかげで、余裕で締め切りに間に合ったわ」

「そうだな。今回は早めに書きあがったな」

「ちゃんとプロットを練ってから書き始めたから。
 やっぱり事前準備って大事ね。
 でも、勢いでがーって書いた方が、いい出来だったりすることもあるのが悩ましいところよねぇ」

 コキコキと首を動かしながらそんな話をしていると、

「お姉様! これ、すごく面白いです! 最後の最後で伏線回収バッチリです!」

 キラキラを通り越してギラギラと瞳を輝かせながらマリアンネが原稿からガバッと音がしそうなくらいの勢いで顔を上げた。

「傑作です! これならミリオンセラー狙えますわ!」
 
 マリアンネは私の小説の大ファンで、いつも全力で褒めてくれる。
 多少照れくさくはあるが、私も作品を褒められるのは嬉しい。

「マリーったら、大袈裟なんだから」

「大袈裟なんかじゃありません! 本当に面白いんですから! 
 あ、でも、いくつか誤字脱字があったので、印をつけておきました」

「ありがとう、マリー。後で確認してみるわね」

 あれだけ興奮しながらも、きっちり仕事をこなしてくれる。
 マリアンネは可愛いだけでなく、とても頼りになる妹なのだ。

「はい、次はお兄様の番ですよ」

 原稿を受け取ると、エルヴィンもまた真剣な顔で読み始めた。
 私が書く小説は基本的に女性向けなのだが、エルヴィンは毎回きっちり読んで説明不足な点や矛盾点があれば鋭く指摘してくれる。

 マリアンネもエルヴィンも、私にとっては大切な家族であり、頼りになる助手でもあるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...