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「うーん、やっとできた……」
私––––––クラリッサ・フューゲルは椅子に座ったままぐっと背伸びをした。
ずっと同じ姿勢のまま机に向かっていたので、すっかり肩のあたりが強張ってしまっている。
「お疲れさまでした、お姉様」
ふわふわのストロベリーブロンドを揺らしながら、私の異母妹であるマリアンネが労ってくれた。
そのアメジストのような澄んだ紫の瞳は、期待にキラキラと輝いている。
「本当に疲れたわ……じゃあマリー、最終章の誤字脱字チェックお願いね」
「はい!お任せください!」
マリアンネはたった今書きあがったばかりの小説の原稿を受け取ると、真剣な顔で読み始めた。
「お嬢、茶を淹れようか」
「ええ、お願い」
「眼精疲労に効くハーブティーにするよ」
「助かるわ」
テキパキとお茶を淹れる準備を始めた癖のある黒髪に青い瞳の青年は、私専属の侍従エルヴィンだ。
彼はマリアンネの異父兄でもあるのだが、侍従にしては立派すぎる体格と精悍な顔立ちをしており、華奢で可愛らしいマリアンネとはほとんど似ていない。
一方、私とマリアンネも、瞳の色が同じなだけで、他はあまり似ていない。
私はややきつめな顔立ちと銀色の髪をしているので、『冷たそう』もしくは『気が強そう』という印象を持たれることが多いが、マリアンネは花の妖精のように可愛らしいのだ。
マリアンネは私の異母妹で、エルヴィンとマリアンネは異父兄妹にあたる。
つまり、私とエルヴィンは赤の他人だが、マリアンネは私たち両方と血がつながっているということになる。
エルヴィンが私の前にティーカップと、クッキーをいくつか乗せた小皿を置いた。
カップを手に取ると、ハーブの爽やかな香りがする。
一口飲んで、ほっと息をついた。
「ありがとう、エル。
あなたのお茶はいつも美味しいわ」
「当然だ。お嬢のための特別ブレンドなんだから」
エルヴィンは味覚と嗅覚が鋭く、いつも私の体調にあわせてブレンドしたハーブティーを淹れてくれる。
本当に得難い侍従だ。
「おかげで、余裕で締め切りに間に合ったわ」
「そうだな。今回は早めに書きあがったな」
「ちゃんとプロットを練ってから書き始めたから。
やっぱり事前準備って大事ね。
でも、勢いでがーって書いた方が、いい出来だったりすることもあるのが悩ましいところよねぇ」
コキコキと首を動かしながらそんな話をしていると、
「お姉様! これ、すごく面白いです! 最後の最後で伏線回収バッチリです!」
キラキラを通り越してギラギラと瞳を輝かせながらマリアンネが原稿からガバッと音がしそうなくらいの勢いで顔を上げた。
「傑作です! これならミリオンセラー狙えますわ!」
マリアンネは私の小説の大ファンで、いつも全力で褒めてくれる。
多少照れくさくはあるが、私も作品を褒められるのは嬉しい。
「マリーったら、大袈裟なんだから」
「大袈裟なんかじゃありません! 本当に面白いんですから!
あ、でも、いくつか誤字脱字があったので、印をつけておきました」
「ありがとう、マリー。後で確認してみるわね」
あれだけ興奮しながらも、きっちり仕事をこなしてくれる。
マリアンネは可愛いだけでなく、とても頼りになる妹なのだ。
「はい、次はお兄様の番ですよ」
原稿を受け取ると、エルヴィンもまた真剣な顔で読み始めた。
私が書く小説は基本的に女性向けなのだが、エルヴィンは毎回きっちり読んで説明不足な点や矛盾点があれば鋭く指摘してくれる。
マリアンネもエルヴィンも、私にとっては大切な家族であり、頼りになる助手でもあるのだ。
私––––––クラリッサ・フューゲルは椅子に座ったままぐっと背伸びをした。
ずっと同じ姿勢のまま机に向かっていたので、すっかり肩のあたりが強張ってしまっている。
「お疲れさまでした、お姉様」
ふわふわのストロベリーブロンドを揺らしながら、私の異母妹であるマリアンネが労ってくれた。
そのアメジストのような澄んだ紫の瞳は、期待にキラキラと輝いている。
「本当に疲れたわ……じゃあマリー、最終章の誤字脱字チェックお願いね」
「はい!お任せください!」
マリアンネはたった今書きあがったばかりの小説の原稿を受け取ると、真剣な顔で読み始めた。
「お嬢、茶を淹れようか」
「ええ、お願い」
「眼精疲労に効くハーブティーにするよ」
「助かるわ」
テキパキとお茶を淹れる準備を始めた癖のある黒髪に青い瞳の青年は、私専属の侍従エルヴィンだ。
彼はマリアンネの異父兄でもあるのだが、侍従にしては立派すぎる体格と精悍な顔立ちをしており、華奢で可愛らしいマリアンネとはほとんど似ていない。
一方、私とマリアンネも、瞳の色が同じなだけで、他はあまり似ていない。
私はややきつめな顔立ちと銀色の髪をしているので、『冷たそう』もしくは『気が強そう』という印象を持たれることが多いが、マリアンネは花の妖精のように可愛らしいのだ。
マリアンネは私の異母妹で、エルヴィンとマリアンネは異父兄妹にあたる。
つまり、私とエルヴィンは赤の他人だが、マリアンネは私たち両方と血がつながっているということになる。
エルヴィンが私の前にティーカップと、クッキーをいくつか乗せた小皿を置いた。
カップを手に取ると、ハーブの爽やかな香りがする。
一口飲んで、ほっと息をついた。
「ありがとう、エル。
あなたのお茶はいつも美味しいわ」
「当然だ。お嬢のための特別ブレンドなんだから」
エルヴィンは味覚と嗅覚が鋭く、いつも私の体調にあわせてブレンドしたハーブティーを淹れてくれる。
本当に得難い侍従だ。
「おかげで、余裕で締め切りに間に合ったわ」
「そうだな。今回は早めに書きあがったな」
「ちゃんとプロットを練ってから書き始めたから。
やっぱり事前準備って大事ね。
でも、勢いでがーって書いた方が、いい出来だったりすることもあるのが悩ましいところよねぇ」
コキコキと首を動かしながらそんな話をしていると、
「お姉様! これ、すごく面白いです! 最後の最後で伏線回収バッチリです!」
キラキラを通り越してギラギラと瞳を輝かせながらマリアンネが原稿からガバッと音がしそうなくらいの勢いで顔を上げた。
「傑作です! これならミリオンセラー狙えますわ!」
マリアンネは私の小説の大ファンで、いつも全力で褒めてくれる。
多少照れくさくはあるが、私も作品を褒められるのは嬉しい。
「マリーったら、大袈裟なんだから」
「大袈裟なんかじゃありません! 本当に面白いんですから!
あ、でも、いくつか誤字脱字があったので、印をつけておきました」
「ありがとう、マリー。後で確認してみるわね」
あれだけ興奮しながらも、きっちり仕事をこなしてくれる。
マリアンネは可愛いだけでなく、とても頼りになる妹なのだ。
「はい、次はお兄様の番ですよ」
原稿を受け取ると、エルヴィンもまた真剣な顔で読み始めた。
私が書く小説は基本的に女性向けなのだが、エルヴィンは毎回きっちり読んで説明不足な点や矛盾点があれば鋭く指摘してくれる。
マリアンネもエルヴィンも、私にとっては大切な家族であり、頼りになる助手でもあるのだ。
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