転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ

文字の大きさ
29 / 57

しおりを挟む
「ねぇあなた、侍従なのよね? 私に仕える気はない?」

「ない」

 にべもなく突き放すエルヴィン。
 
「彼は私の忠実な侍従なの。手放す気はないわ」

 ヘンリックに肩を抱き寄せられ、エルヴィンに背中で庇われながら、私はふふんと笑って見せた。

「な……そんな……あんたばっかりズルいぃぃ!」

 カリナは簡単に挑発に乗ってきた。

「あんたにはヘンリック様がいるんだから十分でしょ!
 侍従の一人くらい、ケチケチしないで私によこしなさいよ!」

 エルヴィンを指さすカリナに、私はむっとした。

「お断りするわ。彼は物じゃないのよ。
 そんな簡単にやりとりできるわけがないでしょう」

 私が断ると、カリナはエルヴィンにまた上目遣いをした。

「私、回復魔法が使える聖女なの。
 私の侍従になったら、きっといいことがあるわよ?」

「断る」

「ええぇ、なんでぇ? 私、聖女なのにぃ」

「きみは聖女ではない。
 回復魔法が使えるというだけの、異邦人だ」

 涙目になるカリナを、同じくむっとしたらしいヘンリックが硬い声でバッサリと切り捨てた。

「違います! 私は、本当に本物の聖女なんですぅ!
 だって、この国を救えるのは私だけなんですからぁ!」

「この国を救う、だと……?」

 ヘンリックだけでなく、それを聞いていた全員が眉を顰めた。

「どういう意味だ? なにから救うというんだ」

 どうやらうっかり口を滑らせてしまたらしいカリナは、一瞬で空気が変わったことに気が付きオロオロし始めた。

「まさか、災害かなにか起こるというのか⁉」

「あ、ええっとぉ……」

「答えろ!」

 ヘンリックに怒鳴られ、カリナがびくっと肩を震わせた。

「ヘンリック、落ち着け」

 殿下が、そんな彼の肩をポンと叩いた。

「ここでするような話じゃない。
 場所を変えよう」

「……わかりました」

 今のヘンリックには、マリアンネを始めとした大切な人がたくさんいる。
 例えばこの国が大きな災害にみまわれたとしたら、誰かが死んでしまうかもしれない。

 怒りや苛立ち、焦燥などが入り混じった感情を隠そうともしない彼は、美しいからこそ凄絶な迫力を放っていて、私ですら寒気がするようだった。

「答えないというなら、私が手ずから拷問にかけてやろう。
 慈悲などかけず、最初からこうすればよかったんだ。
 おまえの望み通り、仲良くなろうじゃないか。牢獄でな」

 ヘンリックは、涙目になっているカリナの腕を掴んで私たちを振り返った。

「このことはまだ他言無用だ。
 それから、すまないがこれはもう食べる時間はなさそうだ」

「わかってるわ。お仕事頑張ってね」

 私は彼からバスケットを受け取った。
 せっかくの差し入れだが、こんな状況になってはしかたがない。

「エル、頼んだぞ」

 大切な宝物を守ってくれと言外に伝えるヘンリックに、エルヴィンは力強く頷いた。

 カリナを引きずるように連行するヘンリックたちを見送り、私たちも帰途についた。

 なんだか別の問題が出てきてしまったが、とりあえず私の目的は達することができた。

 自称聖女カリナは、やはり私が知っているカリナだった。

 三沢カリナ。

 前世の私の婚約者だけでなく、命まで奪った女だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...