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回復魔法と癒やされる心
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許可を得て訪れたミューズは、リオンの体に少しだけ触れた。
ミューズの手から柔らかな光が生まれ、それらはリオンの体を包んでいく。
「これは、凄いですね」
体を巡る温かい感覚はとても心地よい、疲れや緊張が解けていく。
今の治癒師でここまで出来るものは少ない。
回復の巫女がいるシェスタ国ならいるかもしれないが、普通の国ではなかなかいない。
リオンだってここまでの回復魔法は使えなかった。
「ミューズ義姉様、ありがとうございます」
すっかり軽くなった体を動かして見る。
頭の重さも体のだるさもない。
「ね、義姉様だなんて」
ミューズの顔は赤くなる。
まだ婚約しかしていないのにそんな風に呼ばれては照れてしまう。
心の準備が出来ていない。
リオンとしては兄の婚約が決まったら、ミューズの事をこう呼ぼうとずっと決めていた。
心の準備など、とうに出来ている。
「これなら計画に支障が出ませんね。軍議も出れます」
リオンはベッドから下りて、伸びをする。
「リオンの場所は一番危ないところだ。無理するなよ」
ティタンはリオンを心配していた。
リオンの役目は、カレンとの婚約を取り交わすという名目で、城内に潜り込むこと。
ロキに教えてもらった結界も解除しなければいけない。
弟への負担ばかり大きい事を、前々から気にしていた。
「僕が望んでエリック兄様に頼んでいるので、心配無用です。でもティタン兄様の優しい心遣いはとても嬉しい。もしも何か危ない事があれば、カミュと逃げますので、安心していてください」
「俺にお任せ下さい。リオン様だけは、何があっても必ずアドガルムへとお返しします」
カミュは命に替えても守ると誓う。
「ティタン様のもとへはルドとライカがいるです。僕はリオン様を支えますか?」
マオは助力を申し出るが、リオンがそれを拒否した。
「それは絶対駄目だ。とても危険なのもあるけど、多分マオは僕を軽蔑する。その、婚約するふりをするし、口説いたり、弄ぶような言動も、するだろうから……」
リオンは好きな人の前で、嘘とはいえ他の女性に愛を囁くような場面なんぞ、見せたくない。
そこまで人間出来ていない。
「マオはミューズ様を守る役目があるだろう。そちらの本軍は女性が圧倒的に少ない。ティタン様に別な心配をさせるな」
ティタンはその可能性を全く考えていなかった。
「ミューズに手を出すものがいるということか?!」
考えるだけで怒りがこみ上げる。
「言葉のあやです。ですがその可能性も0ではないかと。だからマオは常にミューズ様の傍にいろ、こちらは大丈夫だ」
カミュは淡々と言う。
マオは納得し、頷いた。
「確かにこちらの方が心配です。ティタン様に安心して貰うためにも、僕が一緒の方がいいですね」
マオは猪突猛進な主にため息をついた。
「そうそう、マオはミューズ義姉様と一緒の方がいい」
リオンもほっとする。
「ティタン兄様もお気をつけくださいね。転移魔法でリンドール国のガードナー領へ直接向かうと聞きました。しかし、すでにガードナー領には張られている結界を破ろうと大勢の兵が集まっていると聞きます。そこを押さえ込んでも王城へ行く間に、王妃の味方がいる領地を通ることになります。激しい交戦となる事は確実でしょうから」
現在送られている兵が増えているようだが、ティタンが行く間にどれくらいになるかは不明だ。
「問題ない。戦場で安寧の場所などどこにもないのだから、剣を交えに来た者をねじ伏せていくだけだ」
戦う意志を見せた者にはティタンは容赦をしないつもりだ。
「ミューズはけして俺から離れないように。安心して後ろにいてくれ」
力こぶを作り、アピールする。
「頼もしい言葉です」
ティタンに体力があるのは、ミューズを軽々と抱えた事があるのでわかる。
戦いについては実践を見た事がないのでわからないが、ここまで自信を持って話しているので強いのだろう。
死人を出すことは、本音を言えば避けてもらいたい。
それに戦いに巻き込まれる人が心配だ。
「虫のいい話なのですが、あまり人を殺さないで欲しいです」
甘い話ではあるが、ミューズはそう祈る。
死にかけた経験をもつので、あの痛みも苦しみも容易く想像できた。
あの苦痛を誰かが味わうのはやはり心が痛む。
「戦ゆえ、必ずとは言えないが善処する。ミューズの大事な民だもんな」
ティタンとて無闇矢鱈に人の命を奪いたいわけではない。
「軍議では、その点も話しましょう。少しでもミューズ様の不安が振り払えればいいのですが」
リオンも思うところはある。
「申し訳ございません」
我儘で発した言葉だけれど、ティタンとリオンの優しさにホッとした。
「ただ、戦いを望む者はその限りではない。掛かってくるものには、俺は容赦も手加減も出来ない。俺の、そして兵達の命が危ぶまれる可能性が高いからだ。それは了承してくれ」
少しだけティタンは苦い顔をする。
命を奪うことに躊躇い、こちらが命を奪われるような事になってはいけない。
アドガルム国の兵を守る義務のほうが、当然だが強い。
「勿論です。ティタン様の判断に委ねますわ」
戦の駆け引きなどわからないし、足を引っ張ってはいけない。
意見を聞いてもらえただけでもありがたい。
「他にも気になることがあれば、後程でもぜひ意見を言ってくれ。俺の妻になる人の言葉だ、皆耳を傾けてくれる」
ミューズの話を無下にはしないということのようだ。
こちらに来てから、どれくらいこの嬉しさを噛み締めただろうか。
話を聞いてくれるというのは、自分を認めてくれているという事。
「ありがとうございます…」
ティタンの優しさはいつでもミューズの心を救ってくれていた。
ミューズの手から柔らかな光が生まれ、それらはリオンの体を包んでいく。
「これは、凄いですね」
体を巡る温かい感覚はとても心地よい、疲れや緊張が解けていく。
今の治癒師でここまで出来るものは少ない。
回復の巫女がいるシェスタ国ならいるかもしれないが、普通の国ではなかなかいない。
リオンだってここまでの回復魔法は使えなかった。
「ミューズ義姉様、ありがとうございます」
すっかり軽くなった体を動かして見る。
頭の重さも体のだるさもない。
「ね、義姉様だなんて」
ミューズの顔は赤くなる。
まだ婚約しかしていないのにそんな風に呼ばれては照れてしまう。
心の準備が出来ていない。
リオンとしては兄の婚約が決まったら、ミューズの事をこう呼ぼうとずっと決めていた。
心の準備など、とうに出来ている。
「これなら計画に支障が出ませんね。軍議も出れます」
リオンはベッドから下りて、伸びをする。
「リオンの場所は一番危ないところだ。無理するなよ」
ティタンはリオンを心配していた。
リオンの役目は、カレンとの婚約を取り交わすという名目で、城内に潜り込むこと。
ロキに教えてもらった結界も解除しなければいけない。
弟への負担ばかり大きい事を、前々から気にしていた。
「僕が望んでエリック兄様に頼んでいるので、心配無用です。でもティタン兄様の優しい心遣いはとても嬉しい。もしも何か危ない事があれば、カミュと逃げますので、安心していてください」
「俺にお任せ下さい。リオン様だけは、何があっても必ずアドガルムへとお返しします」
カミュは命に替えても守ると誓う。
「ティタン様のもとへはルドとライカがいるです。僕はリオン様を支えますか?」
マオは助力を申し出るが、リオンがそれを拒否した。
「それは絶対駄目だ。とても危険なのもあるけど、多分マオは僕を軽蔑する。その、婚約するふりをするし、口説いたり、弄ぶような言動も、するだろうから……」
リオンは好きな人の前で、嘘とはいえ他の女性に愛を囁くような場面なんぞ、見せたくない。
そこまで人間出来ていない。
「マオはミューズ様を守る役目があるだろう。そちらの本軍は女性が圧倒的に少ない。ティタン様に別な心配をさせるな」
ティタンはその可能性を全く考えていなかった。
「ミューズに手を出すものがいるということか?!」
考えるだけで怒りがこみ上げる。
「言葉のあやです。ですがその可能性も0ではないかと。だからマオは常にミューズ様の傍にいろ、こちらは大丈夫だ」
カミュは淡々と言う。
マオは納得し、頷いた。
「確かにこちらの方が心配です。ティタン様に安心して貰うためにも、僕が一緒の方がいいですね」
マオは猪突猛進な主にため息をついた。
「そうそう、マオはミューズ義姉様と一緒の方がいい」
リオンもほっとする。
「ティタン兄様もお気をつけくださいね。転移魔法でリンドール国のガードナー領へ直接向かうと聞きました。しかし、すでにガードナー領には張られている結界を破ろうと大勢の兵が集まっていると聞きます。そこを押さえ込んでも王城へ行く間に、王妃の味方がいる領地を通ることになります。激しい交戦となる事は確実でしょうから」
現在送られている兵が増えているようだが、ティタンが行く間にどれくらいになるかは不明だ。
「問題ない。戦場で安寧の場所などどこにもないのだから、剣を交えに来た者をねじ伏せていくだけだ」
戦う意志を見せた者にはティタンは容赦をしないつもりだ。
「ミューズはけして俺から離れないように。安心して後ろにいてくれ」
力こぶを作り、アピールする。
「頼もしい言葉です」
ティタンに体力があるのは、ミューズを軽々と抱えた事があるのでわかる。
戦いについては実践を見た事がないのでわからないが、ここまで自信を持って話しているので強いのだろう。
死人を出すことは、本音を言えば避けてもらいたい。
それに戦いに巻き込まれる人が心配だ。
「虫のいい話なのですが、あまり人を殺さないで欲しいです」
甘い話ではあるが、ミューズはそう祈る。
死にかけた経験をもつので、あの痛みも苦しみも容易く想像できた。
あの苦痛を誰かが味わうのはやはり心が痛む。
「戦ゆえ、必ずとは言えないが善処する。ミューズの大事な民だもんな」
ティタンとて無闇矢鱈に人の命を奪いたいわけではない。
「軍議では、その点も話しましょう。少しでもミューズ様の不安が振り払えればいいのですが」
リオンも思うところはある。
「申し訳ございません」
我儘で発した言葉だけれど、ティタンとリオンの優しさにホッとした。
「ただ、戦いを望む者はその限りではない。掛かってくるものには、俺は容赦も手加減も出来ない。俺の、そして兵達の命が危ぶまれる可能性が高いからだ。それは了承してくれ」
少しだけティタンは苦い顔をする。
命を奪うことに躊躇い、こちらが命を奪われるような事になってはいけない。
アドガルム国の兵を守る義務のほうが、当然だが強い。
「勿論です。ティタン様の判断に委ねますわ」
戦の駆け引きなどわからないし、足を引っ張ってはいけない。
意見を聞いてもらえただけでもありがたい。
「他にも気になることがあれば、後程でもぜひ意見を言ってくれ。俺の妻になる人の言葉だ、皆耳を傾けてくれる」
ミューズの話を無下にはしないということのようだ。
こちらに来てから、どれくらいこの嬉しさを噛み締めただろうか。
話を聞いてくれるというのは、自分を認めてくれているという事。
「ありがとうございます…」
ティタンの優しさはいつでもミューズの心を救ってくれていた。
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