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最期
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「企みは終わりだ」
ジュリアに突きつけられた剣からは血が垂れている。
死がすぐそこにあるのだ。
ジュリアはただ、ガタガタと揺れるだけ。
「何か言うことはあるか?」
兵力にここまでの差があるとは。
シグルドも寝返った。
国境はすぐ崩された。
そして、ガードナー領。
リリュシーヌが生まれ育ったあの土地から、アドガルムの兵は大量に現れ、リンドール城内へと流れ込んできた。
リリュシーヌの弟を早く押さえ込もうとはしていたが、領内は結界に阻まれて入れなかった。
リオンはカレンとの婚約を餌に入り込み、事前に王城内の兵士達のほとんどを使い物にならないようにしていた。
魔法に耐性のあるものが捕らえようとしたが、カミュという従者がそれを阻む。
影から影を渡り、軌跡すら追えぬ速さで剣を振るっていた。
ジュリアは崩れ落ち、何もかも終わったことを悟る。
せめて最期は苦しまぬ毒を……。
ジュリアが動くより早くティタンの拳がその腹に食い込み、痛みと衝撃にジュリアは動けなくなった。
「自害はさせるな。犯した罪を償わせねばならぬ」
直様アドガルムの兵士が猿轡をし、両手足を縛った。
「王城を隈なく探し、毒の証拠を集めろ。数々の毒物があると聞いた、ミューズに使用したものもあるはずだ」
「場所は僕がわかります、案内をしましょう」
リオンの蝶が先導するように動く。
「ミューズとサミュエルは国王ディエス殿の元へ、マオは二人について行ってくれ」
現在どのような容態かはわからないが、今いる中で回復に長けているのはこの二人だ。
後で、ロキに頼んでシュナイ医師もアドガルムから連れてきたい。
「ルドとライカは手分けして通信石で各方面に連絡してくれ。あとの者は、投降した者たちをどこかに軟禁しておいてくれ。どいつが味方かわからないからな」
ティタンは壁の方に寄り、腰掛けた。
身体強化の魔法も解け、さすがに疲れが出たのだ。
ミューズの前でみっともなく座り込む姿を晒さなくて良かったと、ホッとする。
ディエスは予断を許さない状態ではあったが、ミューズとサミュエル、そして遅れて来たシュナイのおかげで順調に回復していった。
リンドール国内も整えられていく。
国王派の貴族達がミューズ達に協力して、王妃に味方した貴族を次々と捕らえていった。
ティタンが暴れ壊したところはアドガルムが賠償金を払い、補修した。
安全になった王城には、王弟で太閤でもあるクラナッハが来て手助けをしてくれた。
アドガルムを宗主国とし、リンドールは属国となって従った。
シグルドのいるパルシファル領は、アドガルムの領土となった。
ガードナー領はそのままリンドールに与することになったが、
「今後何かあれば、反逆するからな」
とロキは公言していた。
牢獄の中、ティタンは一人の女性を見下ろしていた。
「毒杯は俺が授けよう。苦しんで逝け」
隠し部屋から発見された数多の毒は、シュナイとサミュエルに解析を頼んだ。
どれがミューズに使われたものかを調べさせ、調合してもらった。
試せる者は数多くいたので、円滑に調べることができた。
捕虜の名目で捕らえた者の中で、国王ディエスを謀った者、今後もリンドールへ害なすとされる者で試したのだ。
表向きは病で亡くなったことにしている。
「ミューズに飲ませた物と同じだ。用意させてもらった」
恐怖と絶望で変わり果てた姿になったジュリアの両脇に、ルドとライカが立つ。
体は震えており、怯えた目でティタンを見上げていた。
ティタンは抜き身の剣を携えたまま、跪くジュリアをただ見つめていた。
「飲めないのか?ミューズには差し出した癖に」
この毒薬がどれ程酷いものか、ジュリアは知っていた。
事前に解毒薬を飲んでいたミューズでさえも、数日苦しみ、死の恐怖を味わったくらい強力なものだ。
もちろんジュリアに解毒薬などない。
「さぁ、どうした。飲めないなら、飲ませてやるぞ」
ティタンから放たれる威圧感に、牢内は緊迫した空気に包まれる。
「お赦しを…」
一言。
叶わなくとも口からつい出てしまった。
ティタンは溜め息を吐く。
「お前に毒を盛られた者は、皆そういう思いだったのだろうな……順番が来ただけだ。報いを受けよ」
ルドとライカが後ろからジュリアの両腕を押さえる。
ぐっと顔を押さえられ、毒杯への距離が近づく。
「お慈悲を、どうかっ、どうかっ!!」
作ったのだから、わかる。
どれだけ苦しいのか。
「やれ」
顔を押し付けられ、必死の抵抗をする。
息が出来ず、苦しい。
男の二人の力に、抵抗はそう長くは出来なかった。
鼻から口から体内に侵入したそれに、ジュリアの体は蝕まれた。
「あっ、がっ…!」
触れた皮膚がまず、崩れた。
鼻腔も、口腔内も、血が溢れる。
飲み込まされた毒のせいで、喉も内臓も灼けるように熱い。
ルドとライカは離れ、ティタンは淡々と見下ろした。
「これが自分に使われるとは、思っていなかったのだろうな」
涙と涎まみれになった元王妃に対し、ただ思うのは憎悪。
「苦しませて命を奪いたい程、ミューズやリリュシーヌ様が憎かったのか?」
ジュリアの隠し部屋で知ったことだ。
リリュシーヌの死の真相。
「知れば、ミューズは貴様への復讐を考えてしまうかもしれない。彼女にそのような考えを持たせたくない」
自分の血溜まりでのたうつジュリアに、ただただ告げていく。
「シグルド殿とロキ殿からも了承を得、俺が決行することになった。二人が復讐をすればリリュシーヌ様も哀しむからな。この戦の将として責任を果たさせてもらう」
ハクハクと口を動かし、息を吸うのも最早出来ないようだ。
「凄い才能を持っていたのに、蹴落とす事しか考えられなかったとは、憐れだな……」
間違った方向にさえ行かなければ、このような最期になるはずもなかった。
毒と薬は紙一重。
ジュリアのこの知識と探究心が良き道に進めば、たくさんの人の命を救う優れた薬師となっただろう。
こと切れたジュリアはもう動かない。
「心が晴れる事はないものだな……」
本来なら皆の前で斬首するべき人物だった。
それをしなかったのは、ミューズの前でリリュシーヌを殺したことを明言させたくなかったからだ。
可能性が少しでもあるならば、ここで引導を渡した方が安心だ。
ミューズをこれ以上悲しませるわけにはいかない。
ジュリアに突きつけられた剣からは血が垂れている。
死がすぐそこにあるのだ。
ジュリアはただ、ガタガタと揺れるだけ。
「何か言うことはあるか?」
兵力にここまでの差があるとは。
シグルドも寝返った。
国境はすぐ崩された。
そして、ガードナー領。
リリュシーヌが生まれ育ったあの土地から、アドガルムの兵は大量に現れ、リンドール城内へと流れ込んできた。
リリュシーヌの弟を早く押さえ込もうとはしていたが、領内は結界に阻まれて入れなかった。
リオンはカレンとの婚約を餌に入り込み、事前に王城内の兵士達のほとんどを使い物にならないようにしていた。
魔法に耐性のあるものが捕らえようとしたが、カミュという従者がそれを阻む。
影から影を渡り、軌跡すら追えぬ速さで剣を振るっていた。
ジュリアは崩れ落ち、何もかも終わったことを悟る。
せめて最期は苦しまぬ毒を……。
ジュリアが動くより早くティタンの拳がその腹に食い込み、痛みと衝撃にジュリアは動けなくなった。
「自害はさせるな。犯した罪を償わせねばならぬ」
直様アドガルムの兵士が猿轡をし、両手足を縛った。
「王城を隈なく探し、毒の証拠を集めろ。数々の毒物があると聞いた、ミューズに使用したものもあるはずだ」
「場所は僕がわかります、案内をしましょう」
リオンの蝶が先導するように動く。
「ミューズとサミュエルは国王ディエス殿の元へ、マオは二人について行ってくれ」
現在どのような容態かはわからないが、今いる中で回復に長けているのはこの二人だ。
後で、ロキに頼んでシュナイ医師もアドガルムから連れてきたい。
「ルドとライカは手分けして通信石で各方面に連絡してくれ。あとの者は、投降した者たちをどこかに軟禁しておいてくれ。どいつが味方かわからないからな」
ティタンは壁の方に寄り、腰掛けた。
身体強化の魔法も解け、さすがに疲れが出たのだ。
ミューズの前でみっともなく座り込む姿を晒さなくて良かったと、ホッとする。
ディエスは予断を許さない状態ではあったが、ミューズとサミュエル、そして遅れて来たシュナイのおかげで順調に回復していった。
リンドール国内も整えられていく。
国王派の貴族達がミューズ達に協力して、王妃に味方した貴族を次々と捕らえていった。
ティタンが暴れ壊したところはアドガルムが賠償金を払い、補修した。
安全になった王城には、王弟で太閤でもあるクラナッハが来て手助けをしてくれた。
アドガルムを宗主国とし、リンドールは属国となって従った。
シグルドのいるパルシファル領は、アドガルムの領土となった。
ガードナー領はそのままリンドールに与することになったが、
「今後何かあれば、反逆するからな」
とロキは公言していた。
牢獄の中、ティタンは一人の女性を見下ろしていた。
「毒杯は俺が授けよう。苦しんで逝け」
隠し部屋から発見された数多の毒は、シュナイとサミュエルに解析を頼んだ。
どれがミューズに使われたものかを調べさせ、調合してもらった。
試せる者は数多くいたので、円滑に調べることができた。
捕虜の名目で捕らえた者の中で、国王ディエスを謀った者、今後もリンドールへ害なすとされる者で試したのだ。
表向きは病で亡くなったことにしている。
「ミューズに飲ませた物と同じだ。用意させてもらった」
恐怖と絶望で変わり果てた姿になったジュリアの両脇に、ルドとライカが立つ。
体は震えており、怯えた目でティタンを見上げていた。
ティタンは抜き身の剣を携えたまま、跪くジュリアをただ見つめていた。
「飲めないのか?ミューズには差し出した癖に」
この毒薬がどれ程酷いものか、ジュリアは知っていた。
事前に解毒薬を飲んでいたミューズでさえも、数日苦しみ、死の恐怖を味わったくらい強力なものだ。
もちろんジュリアに解毒薬などない。
「さぁ、どうした。飲めないなら、飲ませてやるぞ」
ティタンから放たれる威圧感に、牢内は緊迫した空気に包まれる。
「お赦しを…」
一言。
叶わなくとも口からつい出てしまった。
ティタンは溜め息を吐く。
「お前に毒を盛られた者は、皆そういう思いだったのだろうな……順番が来ただけだ。報いを受けよ」
ルドとライカが後ろからジュリアの両腕を押さえる。
ぐっと顔を押さえられ、毒杯への距離が近づく。
「お慈悲を、どうかっ、どうかっ!!」
作ったのだから、わかる。
どれだけ苦しいのか。
「やれ」
顔を押し付けられ、必死の抵抗をする。
息が出来ず、苦しい。
男の二人の力に、抵抗はそう長くは出来なかった。
鼻から口から体内に侵入したそれに、ジュリアの体は蝕まれた。
「あっ、がっ…!」
触れた皮膚がまず、崩れた。
鼻腔も、口腔内も、血が溢れる。
飲み込まされた毒のせいで、喉も内臓も灼けるように熱い。
ルドとライカは離れ、ティタンは淡々と見下ろした。
「これが自分に使われるとは、思っていなかったのだろうな」
涙と涎まみれになった元王妃に対し、ただ思うのは憎悪。
「苦しませて命を奪いたい程、ミューズやリリュシーヌ様が憎かったのか?」
ジュリアの隠し部屋で知ったことだ。
リリュシーヌの死の真相。
「知れば、ミューズは貴様への復讐を考えてしまうかもしれない。彼女にそのような考えを持たせたくない」
自分の血溜まりでのたうつジュリアに、ただただ告げていく。
「シグルド殿とロキ殿からも了承を得、俺が決行することになった。二人が復讐をすればリリュシーヌ様も哀しむからな。この戦の将として責任を果たさせてもらう」
ハクハクと口を動かし、息を吸うのも最早出来ないようだ。
「凄い才能を持っていたのに、蹴落とす事しか考えられなかったとは、憐れだな……」
間違った方向にさえ行かなければ、このような最期になるはずもなかった。
毒と薬は紙一重。
ジュリアのこの知識と探究心が良き道に進めば、たくさんの人の命を救う優れた薬師となっただろう。
こと切れたジュリアはもう動かない。
「心が晴れる事はないものだな……」
本来なら皆の前で斬首するべき人物だった。
それをしなかったのは、ミューズの前でリリュシーヌを殺したことを明言させたくなかったからだ。
可能性が少しでもあるならば、ここで引導を渡した方が安心だ。
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