隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
90 / 202

第90話 戦の前に(エリック)

しおりを挟む
「どうしてあのような場でわたくしを置いていくと言ったのですか」
部屋に戻るとレナンは怒りをエリックにぶつけた。

王太子があのような場でそう言えば、誰も反対など出来ない。

いくらレナンが嫌だと言ってもそもも戦いの経験もない、魔法も最近習い始めた王女など、連れて行きたいという方があり得ないから妥当なものだ。

寧ろ他の王女も本当ならば待たせておきたいものだが。

「あそこで明言すれば皆も止めると思ったからな。それにレナンは王子妃じゃなく王太子妃だ。その違いもあるから、余計に引き止めたいだろう」
他の王女よりもレナンは重要度が高い。

戦力としての期待値か低いのもあるので、危険な所にいつまでも残しておきたくないというのは皆の総意だ。

ミューズの回復魔法はロキの特訓という名の実戦にて飛躍的に向上しているし、マオは兄仕込みの戦闘技術で人を傷つけるのにためらいもなく動ける。

エリックがわざわざ言わなくても、誰かから止められる可能性は充分あった。

「それならば、エリック様たちだって王族ですし、何も第一線に殿下達皆が行かなくてもいいのではないですか」
いくら大国相手とはいえ、王子達皆が戦に出るのはどうかとと、不貞腐れた顔で言う。

自分ばかり国で待つとは除け者のようで嫌だ。

「国王である父がここに残るからな。それに俺達が行ったほうが早く終わらせられるだろうし、国の為に力を尽くすのだと幼い頃から兄弟の中でも約束している」
父の国を守りたい思いと、母の国を豊かにしたい思いに共感していた。

エリックを筆頭に三兄弟はそれぞれの特性を生かし、国を守り抜くと誓う。

心に根強くあるのは、家族が大事だという思いだ。

「今はまた新たに守るべき存在が増えた、だからより早く終わらせねばな」
妻が出来た事で、それぞれの心持ちもこの短期間で変化している。

「今は死ぬのが怖いし、生きて帰ってきたいという強い思いがある。ずっと側に居たいという気持ちもあるが、それよりも予測のつかない事態が起きて、レナンを失うほうが恐ろしい。ならば刺し違えてもいいから、敵のせん滅をしてくる」

「そのような事言わないでください」
エリックが死ぬことなど考えたくはない。

「すまない、充分に気を付けるから」
レナンを抱きしめ、温もりを感じる。

「絶対にダメです。そんな事になりそうならば、わたくしは絶対に一人でアドガルムに帰ってきません」
どんなに足手まといになったとしても、一人になるのは嫌。

「随分と我儘を言うようになったな」
来た時から感情豊かではあったが、日が経つに連れて、どんどん言いたいことを伝えてくれるようになった。

この国に、そして自分への信頼感が増している事が感じられてとても喜ばしい。

「あなたが甘やかすからですよ」
レナンは不機嫌そうに言う。

その表情すら愛おしい。

負の感情も隠さず表してくれるとは、心の距離が縮まっているという事だ

「甘やかすから、勘違いしてしまうのです。こうして我が儘を言っても許されてしまうって錯覚しちゃう。本当に従わせたいならば、もっと強気に命じてください」
すっかりアドガルムの生活に慣れてしまった。

怒られることも、冷たく扱われる事もここではない。

エリックも最初は脅すような事を言っていたが、今ではそのような事もない。

言動には多少気をつけ他の男性の事とか側室についてさえ言わなければ、何でも相談した方が寧ろ機嫌が良くなっている。

今だって困った様子はあるものの、戦場で側に居たいと言っても怒りはしない。

「これ以上強引に言ったら、嫌われてしまいそうだからどうしたらいいか」
困ったという口ぶりで言われてしまう。

「俺の代わりはいるが、君の代わりはいない。自分を大事にしておくれ」

「いえ、逆ですよね?」
どう考えても王太子の身分のエリックの方が大事だ。

「わたくしなんて力はないし泣き虫だし、我が儘ですよ?」

「どれも可愛いものじゃないか。我儘どころか素直過ぎて、俺よりもよほど城内の者達に大事にされているし」

「でもエリック様がいないとこれからのアドガルムは立ちいかなくなります、次の王になるのはあなたでしょう?」

「弟もいるし、王弟殿下もいる。それに君のお腹に跡継ぎがいるかもしれないし」
顔を真っ赤にし、レナンは硬直する。

求められる回数は確かに増えていて、医師による体調の確認も以前より細かくなっている。

世継ぎへの期待が高まっていて、周囲もソワソワしているのは薄々わかっていた。

「レナンは国のためにも大事な女性だ、次代へ繋ぐ為にもな」
いつか会えるだろう我が子を思い、レナンのお腹を撫でる。

「もしも、授からなかったら?」
レナンはそれが不安で仕方なかった。

寵愛をひとり占め出来るのは嬉しいが側室がいないのはやはり心配であった。

自分一人で背負うにはあまりにも重い役割。

仕事は頑張れば何とかなるが、子は授かりものだから、必ず産める、とはどうしても言えない。

「その時はその時でいい。俺はレナンとの子どもしか欲しくない」

「ですが、それでは皆が納得しないでしょう」
他国から来た自分が王太子妃になると言う事で、貴族の令嬢達からの風当たりの強さがあった。

今は落ち着いているが、戦も終わり、懐妊もしなかったら、再びその問題は浮上するだろう。

「レナンは心配性だな。まだここに来て一年も経ってないし、この情勢だ。気持ちの負荷も大きくて出来にくいのもあるだろう。それにどんな事があろうと俺は君を手放さない」
養子をとるという手もあるし、弟達も結婚してるから、二人のどちらかに子が出来れば次の王太子になってもらうという手もある。

自分の子でなければ嫌だ、という拘りはない。

「レナンとでなければ俺は子どもを持ちたいとは思わなかったよ。そんな愛しい人だから、安全な場所で待っていて欲しいんだ」
あくまでも優しい口調だからこそ、涙が出そうになる。

エリックが何でここまで言ってくれるのかはわからない。

子どもがいらないとは、王太子としての仕事の放棄につながるのではないか。

レナンの身の安全や気持ちに拘り続けては、彼の立場を危うくさせてしまうだろうに。

この人に比べたら、自分は価値のない女だ。

(この力を利用したいとも思わないのかしら)
どう使うかはわからないが、人を生き返らせる力を持つとロキに言われた。

エリックもそれを聞いていて尚、死地に赴くのは自分だけと言い、対死霊術師戦後はレナンの同行を反対している。

本来であれば側に置き、死にそうになったらレナンの寿命を使ってでも、生きたいと願っていいはずなのに。

聡いこの人がその事に気づいていないわけがない。

「わかりました、でも無事に帰ってきてくださいね。そうじゃなければわたくしもエリック様の後を追いかけますからね」
もうレナンの目からは涙が出てしまっている。

最悪の結果まで考えが先走ってしまったからだ。

「そんな事にならないように善処するよ」
鼻を啜り、泣きじゃくってしまうレナンは本当に感情豊かだ。

涙を拭ってあげ、落ち着くまで体を摩ってあげる。

(このように素直に表現できるようになってみたいものだ)
レナンの素直さが羨ましくて、眩しくて、見てると温かな気持ちになる。

死ぬことが怖くなったのも人への執着が強くなったのも、レナンと出会ってからだ。

人として歩み出せた気すらしてくる。

だから、ヴァルファル帝国に負けるわけにはいかないのだ。

ようやく手にしたこの幸福はいかなる手を用いてでも、守っていかなければならない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります!

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...