冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。

文字の大きさ
3 / 31

心を開くのは

しおりを挟む
「レナン嬢、ミューズ嬢、この国はいかがでしょうか」
エリックの問いかけにレナンが応じる。

「皆さんとてもお優しいです。わたくし達のような者を受け入れて下さり、感謝していますわ」

「私もこのような待遇嬉しく思います、ありがとうございます」
ミューズも頷く。

今はティータイム。
エリックとティタンと一緒に紅茶を嗜みながら、淡々と二人の淑女は応じている。



アドガルムの皆は優しい。
だからと言って二人の不安が尽きるわけではなく、若干の警戒心もある。



異性と過ごすわけで警戒をされて当たり前ではあるが…エリックは思考を巡らす。
どうしたら令嬢方と近づけるか。

レナンもミューズもとても美しい令嬢だ。
公爵令嬢として厳しく学んでいたのだろう、気品溢れる仕草は王族であるエリックの目から見ても、とても綺麗であった。

レナンはやや背中を丸めているが、女性にしては長身だからだろうか。
真っ直ぐな銀髪と青い目は涼やかな印象を見せるが、時折見せる感情豊かな表情が可愛らしさを演出している。


ミューズは軽くウェーブのかかった金髪で金と青のオッドアイをしている。
小柄な体躯ながらも豊かな胸をしている。
姉妹でありつつ、レナンとはタイプの違う可愛らしさだ。


「不自由があれば、すぐにでも伝えて下さい。できる限りの事は致しますので」
エリックはあくまでにこやかに、優しく語りかける。

「こうして匿ってもらえただけで充分です、それ以上の事をして頂くわけにはいきませんわ。わたくし達は…罪人の娘ですから」

冤罪だとは信じている。
しかし現状ではレナンとミューズは、そのような立場だ。
喩え裁判中であっても、大々的に勾留されているのでは周囲から罪人としか扱われない。
世間は容疑者に厳しい。

「…リンドールではわかりませんが、ここでは大事な賓客です。ぜひ沢山ののおもてなしをさせて頂きたい」

エリックは、侍女にあるものを持ってくるよう命じた。

「こちらは私達兄弟から、お二人へのプレゼントです」
持ってきてもらったものを見てもらう。

「本やお菓子、ですか?」
「えぇ、私とティタンが選びました。今日の紅茶の茶葉はリオンが。今はリオンは勉強のため席をはずしていますが…どれもあなた方のお気に召せばと、用意してみたものです」

エリックは本を一つ、手に取る。

「これらは最近発売されたものなのですが、気に入るものがあれば、後で部屋に運び入れますよ。全てでも勿論構いません」
「ありがとうございます」

本好きのレナンには、とても嬉しい贈り物だ。

十冊近くあるそれをタイトルだけ確認していくが、その中に発売を楽しみにしていた恋愛小説を見つけ、思わず声が出てしまった。

「気に入ったものがあったようですね」

「はい。こちらずっと楽しみにしてまして、まさか読めるなんて思いませんでしたわ」

思わず弾んだ声が出てしまい、ハッとする。
こんな大変な時に、悠長な事を言ってはいけないと。

「好きな事を楽しみましょう」
こういう状況だから、張り詰めすぎては心が疲弊してしまう。
エリックはレナン達にもっと笑顔になって欲しかった。



エリックは隣に座るティタンを肘で小突く。
ティタンは慌てて口を開いた。

「こちらは巷で人気のお店から取り寄せて見ました。甘いのがお好きと聞きましたので」
箱を開けると一口サイズの、色とりどりのチョコレートが入っていた。

「とても綺麗ですね」
ミューズの顔がパァーッと輝く。

ティタンはホッとした。

「良かった…ぜひお召し上がりください。味もそれぞれ違いますよ。ミューズ様は他にもどのようなスイーツが好きですか?」
「チョコレートが一番好きですが、アイスなども好きです。こうして、このように甘いのを食べれるのは、嬉しいです」

恥ずかしそうにする姿も可愛らしい。
会話の糸口を見つけられ、ティタンも嬉しそうだ。

「これらを購入したお店はカフェがあります、ケーキやアイス、ワッフルなどもあります。ぜひ今度ご一緒してください」
「機会があれば、その時はお願いしまうわ」

さりげなくデートのお誘いをしたが、ミューズは気づかず社交辞令で交わす。




アドガルムに来てから、レナンとミューズはほぼ寄り添うように過ごしていた。

ティータイムが終わり、ティタンとエリックの従者のニコラが、エリックの執務室に集まる。

「そう簡単に、この状況で心を開け、とは言えないな」
エリックは深いため息をつく。

「普通は自分の身内が投獄されてたら、生きた心地もしないでしょうし、無理もない事です。でも好きなものにはやはり反応がありました、良かったのではないですか?」
控えていたニコラからはそう見えた。

「顔見知りから知り合いになった、くらいじゃないか?反応的にはまだまだだな」
ティタンは少し落ち込んでいた。

鼻にもかけられてないのは、目に見えて明らかだったから。

「あんなふわふわで可愛らしい令嬢、初めて見た。俺を怖がりもせず、無視もせず…兄上が隣にいるのに、俺にも反応を返してくれる、女神か?!」

ティタンは兄に比べられ過ぎて、第二王子なのだが、令嬢達からはあまり好意を持たれた事がなかった。

ミューズの反応はそんなティタンにとって新鮮で、恋に落ちるのは一瞬だった。

年の割には体格も良いティタンと並ぶと、ミューズは本当に小柄で、尚且このような状況だ。
守ってあげたいという庇護欲も凄まじい。



「良い子そうだし、何より魔力も高い。近くにいてもらえたら頼もしいな」

弟の恋を勿論応援する。

そして、ミューズは一人で転移術を使えるほどの多量の魔力を保持していると聞いた。

王家にとっても有益な令嬢だ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり
恋愛
拝啓 お父様 王子との婚約が破棄されました。わたくしは執事と共に家出いたします。 悪女と呼ばれた令嬢は、親、婚約者、友人に捨てられた。 彼女の危機を察した執事は、令嬢に気持ちを伝え、2人は幸せになる為に家を出る決意をする。 準備万端で家出した2人はどこへ行くのか?! 残された身勝手な者達はどうなるのか! ※時間軸が過去に戻ったり現在に飛んだりします。 ※☆の付いた話は、残酷な描写あり

【完結】貶められた緑の聖女の妹~姉はクズ王子に捨てられたので王族はお断りです~

魯恒凛
恋愛
薬師である『緑の聖女』と呼ばれたエリスは、王子に見初められ強引に連れていかれたものの、学園でも王宮でもつらく当たられていた。それなのに聖魔法を持つ侯爵令嬢が現れた途端、都合よく冤罪を着せられた上、クズ王子に純潔まで奪われてしまう。 辺境に戻されたものの、心が壊れてしまったエリス。そこへ、聖女の侍女にしたいと連絡してきたクズ王子。 後見人である領主一家に相談しようとした妹のカルナだったが…… 「エリスもカルナと一緒なら大丈夫ではないでしょうか……。カルナは14歳になったばかりであの美貌だし、コンラッド殿下はきっと気に入るはずです。ケアードのためだと言えば、あの子もエリスのようにその身を捧げてくれるでしょう」 偶然耳にした領主一家の本音。幼い頃から育ててもらったけど、もう頼れない。 カルナは姉を連れ、国を出ることを決意する。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。 ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。 対して領民の娘イルアは、本気だった。 もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。 けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。 誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。 弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

処理中です...