29 / 31
妄執の先は
しおりを挟む
挨拶が終わりミネルヴァと別れると、エリックはすぐにレナンの手を引いてその場から離れる。
「では帰ろう」
「えっ?」
唐突な言葉だった。
まだパーティは続いているし、本当に挨拶を交わしただけ。
ダンスも何もしないとは失礼にあたるのではないかと心配になったが、エリックは毎年こうなのだと話す
グウィエンを見つけると足早に近づき、挨拶をした。
「俺は帰る。お前もまだ残るならば、気をつけろ」
「相変わらずナ=バークに留まらないよな、お前って。毎回何もないぞ」
「何もないならばいい」
ツカツカと靴音を立てつつ、エリックは即馬車へと向かう。
既にニコラが用立てていたので、馬車の用意はされていた、早い。
「エリック様」
馬車の中に入るなりぎゅうぎゅうに抱きしめられる。
「俺はナ=バークが嫌いだが、王城はもっと嫌いだ。あそこには【人】がいない」
完璧なる女王制度で、特に王城内など女王に従うモノしかいない。
死ねと言われれば死んでしまうような忠義心を持つものばかりだ。
「ナ=バークは寒い、今の俺には耐えられない」
雪や氷の世界だからではない。
凍るような無表情、笑ってるのに心が籠もっていない、無機質者ばかり。
あそこにいると、エリックは錯覚してしまう。
お前も同じだ、と言われているようで留まりたくなかった。
「一緒に帰ろう」
レナンの手を取った。
涼やかな表情とは裏腹に手には力が入っている。
「俺がいるのはここではない、アドガルムだ。そこに君と共に帰るんだ」
エリックがナ=バークに対して不安があるのは確かだ。
普段の様子とはまるで違う。
「えぇ、わたくしはあなたと共に」
レナンは握り返す手に力を込める。
共に在ろうと心の中で再び誓った。
「エリック様…」
パーティが終わり、自室へ戻るとドレスも脱がずに、目につくもの全てを破壊した。
ミネルヴァは荒れに荒れ、髪は振り乱している。
怯える侍女達は、身を寄せ、恐ろしい女王を見つめている。
しかし、部屋から逃げることはできない。
女王に仕えるものとしてそんなことは許されない。
「なぜ、何故?!」
エリックがレナンを見る顔は、人であった。
生気の通った顔で、光の灯った目で、情熱的に言葉を交わしていた。
違う、あの人は人になってはいけない。
自分と同じ人形であるはずだった。
でなければ、自分は一人だ。
充てがわれた婚約者と結ばれ、国のために子を為し、この身が果てるまでナ=バークを支える人形。
そんなミネルヴァを理解ってくれるのは、理解ってくれたのはエリックなのに!
あの女は隣りに立つべき者ではない。
自分こそが、エリックに相応しい。
「レナンがいなければ、ハインツが失敗さえしなければ……」
ブツブツと呟く狂気の女王は、その場へと立ち尽くす。
「いなくなればいい、妾を邪魔するものは全て……」
ハインツも要らない。
彼に似ていたが、あれも人だ。
ラーラを捨てきれなかった。
「いつか、必ず奪うのだ。いつか必ず…!」
「では帰ろう」
「えっ?」
唐突な言葉だった。
まだパーティは続いているし、本当に挨拶を交わしただけ。
ダンスも何もしないとは失礼にあたるのではないかと心配になったが、エリックは毎年こうなのだと話す
グウィエンを見つけると足早に近づき、挨拶をした。
「俺は帰る。お前もまだ残るならば、気をつけろ」
「相変わらずナ=バークに留まらないよな、お前って。毎回何もないぞ」
「何もないならばいい」
ツカツカと靴音を立てつつ、エリックは即馬車へと向かう。
既にニコラが用立てていたので、馬車の用意はされていた、早い。
「エリック様」
馬車の中に入るなりぎゅうぎゅうに抱きしめられる。
「俺はナ=バークが嫌いだが、王城はもっと嫌いだ。あそこには【人】がいない」
完璧なる女王制度で、特に王城内など女王に従うモノしかいない。
死ねと言われれば死んでしまうような忠義心を持つものばかりだ。
「ナ=バークは寒い、今の俺には耐えられない」
雪や氷の世界だからではない。
凍るような無表情、笑ってるのに心が籠もっていない、無機質者ばかり。
あそこにいると、エリックは錯覚してしまう。
お前も同じだ、と言われているようで留まりたくなかった。
「一緒に帰ろう」
レナンの手を取った。
涼やかな表情とは裏腹に手には力が入っている。
「俺がいるのはここではない、アドガルムだ。そこに君と共に帰るんだ」
エリックがナ=バークに対して不安があるのは確かだ。
普段の様子とはまるで違う。
「えぇ、わたくしはあなたと共に」
レナンは握り返す手に力を込める。
共に在ろうと心の中で再び誓った。
「エリック様…」
パーティが終わり、自室へ戻るとドレスも脱がずに、目につくもの全てを破壊した。
ミネルヴァは荒れに荒れ、髪は振り乱している。
怯える侍女達は、身を寄せ、恐ろしい女王を見つめている。
しかし、部屋から逃げることはできない。
女王に仕えるものとしてそんなことは許されない。
「なぜ、何故?!」
エリックがレナンを見る顔は、人であった。
生気の通った顔で、光の灯った目で、情熱的に言葉を交わしていた。
違う、あの人は人になってはいけない。
自分と同じ人形であるはずだった。
でなければ、自分は一人だ。
充てがわれた婚約者と結ばれ、国のために子を為し、この身が果てるまでナ=バークを支える人形。
そんなミネルヴァを理解ってくれるのは、理解ってくれたのはエリックなのに!
あの女は隣りに立つべき者ではない。
自分こそが、エリックに相応しい。
「レナンがいなければ、ハインツが失敗さえしなければ……」
ブツブツと呟く狂気の女王は、その場へと立ち尽くす。
「いなくなればいい、妾を邪魔するものは全て……」
ハインツも要らない。
彼に似ていたが、あれも人だ。
ラーラを捨てきれなかった。
「いつか、必ず奪うのだ。いつか必ず…!」
37
あなたにおすすめの小説
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
婚約破棄されたから、執事と家出いたします
編端みどり
恋愛
拝啓 お父様
王子との婚約が破棄されました。わたくしは執事と共に家出いたします。
悪女と呼ばれた令嬢は、親、婚約者、友人に捨てられた。
彼女の危機を察した執事は、令嬢に気持ちを伝え、2人は幸せになる為に家を出る決意をする。
準備万端で家出した2人はどこへ行くのか?!
残された身勝手な者達はどうなるのか!
※時間軸が過去に戻ったり現在に飛んだりします。
※☆の付いた話は、残酷な描写あり
【完結】貶められた緑の聖女の妹~姉はクズ王子に捨てられたので王族はお断りです~
魯恒凛
恋愛
薬師である『緑の聖女』と呼ばれたエリスは、王子に見初められ強引に連れていかれたものの、学園でも王宮でもつらく当たられていた。それなのに聖魔法を持つ侯爵令嬢が現れた途端、都合よく冤罪を着せられた上、クズ王子に純潔まで奪われてしまう。
辺境に戻されたものの、心が壊れてしまったエリス。そこへ、聖女の侍女にしたいと連絡してきたクズ王子。
後見人である領主一家に相談しようとした妹のカルナだったが……
「エリスもカルナと一緒なら大丈夫ではないでしょうか……。カルナは14歳になったばかりであの美貌だし、コンラッド殿下はきっと気に入るはずです。ケアードのためだと言えば、あの子もエリスのようにその身を捧げてくれるでしょう」
偶然耳にした領主一家の本音。幼い頃から育ててもらったけど、もう頼れない。
カルナは姉を連れ、国を出ることを決意する。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。
秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」
「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」
「……え?」
あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。
「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」
「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」
そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる