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第7話 色々な恋愛事情
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「あなたはあの時の!」
声高らかに言うは、本日から通うようになった留学生の女性だ。
ファルクは露骨に嫌な顔をし、隣にいるリアムは興味津々でファルクを見る。
「どこで知り合ったんだい? 君は本当に女性がほっとかないね」
「何を言います、リアム様の方が引く手数多ですよ。それに俺はモテたくないんですけど」
「それは一部の男子生徒から恨みを買うセリフですよ、ファルク」
リアムの従者ストレイドはそう言いつつも迷惑そうに女性を見る。
「淑女たるもの、もう少し慎ましやかであればいいのですが。というか編入初日、何故あのような態度を取れるのでしょう」
ぼそりとストレイドがそう言う。小声の為に二人しか聞いていないが、なかなかの辛口だ。
「知り合いの様ですが、今は自己紹介の時です。お話は後の休み時間にお願いしますね」
教師の促しで女性も冷静さを取り戻す。
「失礼いたしました。命の恩人に出会えたものでつい」
その言葉にざわっと一瞬空気が変わるがすぐに落ち着く。さすがに上位貴族の集まるクラス。表面上は落ち着いた。
(中身は下衆い者もいるからな。餌を与えてしまったか)
面白おかしく捏造する者もいるだろう。
ファルクはまた面倒な事になりそうだと溜め息をついた。
◇◇◇
留学生は休み時間の度に他の女子生徒に囲まれていて、ファルクの所に来ることはなかった。
森で出会った留学生、オリビア=フィードは何やらファルクとの出会いを皆に楽しそうに話をしている。
英雄視するのは勝手だが、捏造はしないで欲しい。
運命の相手、とか不穏な単語に鳥肌が立つ。
「不思議なものですね。あれだけ話しているのなら、誰かがラズリー嬢の話をしてもいいと思うのですが」
「聞かれないから言わないんじゃない? だってさすがに助けられて感謝しているって話から、婚約者の話にはならないだろうし」
ストレイドの疑問をのほほんとリアムは返している。
「まぁそこで終わるならばいいのですが」
自分から言うのも好かれていると自惚れてるように思えて、なかなか言いづらい。
「そもそも何故俺が注目されるのでしょうか? 第二王子であるリアム様がフリーなのだから、リアム様に言い寄るものがもっと出てきてもいいのに」
ファルクはため息交じりの愚痴を零す。
自分の周囲にいるのが凄い人だから、ファルクは自分が大した男ではないと思っている。
だからこそ日頃から皆のようになれるように頑張らねばと、気を引き締めて生きているのだ。
「リアム様に言い寄るなど、普通の者に出来るはずがありませんよ。王族の一員となる王子妃なんて華やかさよりも苦労が多い。公務もありますし、人前に出る機会も多いです。身分も大事ですから、余程自分に自信がある者しか来れないはずです。だからリアム様は振られたわけですが」
「まだ振られてない、友達なら良いって言われている」
ストレイドの言葉を途中で遮ってまで否定した。
「それは世間では振られたと言うのですよ。体よく断られたというか」
「違う」
あくまで認めないという感じでリアムは耳を塞いで机に顔を突っ伏した。
美貌と優しさが評判のリアムだが、愛しい人には振り向いてもらえてない。
「まぁリアム様は一般の人からしたら手の届かない存在なのですよ。それに比べファルクは成り上がり、手が届きそうなところにいる優良物件と言いますか」
「ストレイド、なかなか失礼だぞ」
ファルクは眉間に皺を寄せる。
「それを言うならお前だって同じようなものではないか」
「僕は結婚に興味はないので。あくまでリアム様を守る為の存在ですから」
澄ました顔で言うストレイドをリアムはジト目で見上げる。
「俺の従姉妹に言い寄られて戦々恐々しているくせに何言ってんだ」
「そちらははっきり断っています。そもそも皇女様と僕が結ばれるなんて、あり得ない」
「彼女がそんなんで諦めるわけないじゃないか。だからお前に言い寄る女性はいないんだよ」
「そうだったんですか?」
衝撃の事実に驚いた。
「そうだよ。その為にフレイアは従姉妹だからと言って、俺と昼食をとる振りしてストレイドに会いに来るんだ。まぁ俺は彼女に会えるからいいんだけれど」
リアムの想い人は彼の従姉妹の侍女だ。
帝国貴族だが身分はそこまで高くないし、何より本人が頷かなくて進展はしない。
(フレイア様もリアム様とサーシェ嬢を推していたが、側に居させてあげるという名目で自分もストレイドの側にいられる為か)
ファルクから見れば、皆良い仲になれそうだと思っている。
だが人間の気持ちとは、立場とは複雑なものだ。色々なものに縛られて心のままに動くことは出来ない。
(リアム様は立場が高すぎるし、ヒノモトの国の姫様との婚約の話も出ている。ストレイドもリアム様の従者だが、貴族の養子で元は孤児だ。なかなか気持ちのままに、とは言えないだろう)
そう考えると好きな人と婚約出来た自分は何と幸せな事か。
(だからこそ離れたくはない)
条件とかそんなものではなく、心から好きな相手と共にいられるのだから、その縁を切りたくはない。
だからこそ平穏な日々が早く来ますようにと願いばかりだ。
声高らかに言うは、本日から通うようになった留学生の女性だ。
ファルクは露骨に嫌な顔をし、隣にいるリアムは興味津々でファルクを見る。
「どこで知り合ったんだい? 君は本当に女性がほっとかないね」
「何を言います、リアム様の方が引く手数多ですよ。それに俺はモテたくないんですけど」
「それは一部の男子生徒から恨みを買うセリフですよ、ファルク」
リアムの従者ストレイドはそう言いつつも迷惑そうに女性を見る。
「淑女たるもの、もう少し慎ましやかであればいいのですが。というか編入初日、何故あのような態度を取れるのでしょう」
ぼそりとストレイドがそう言う。小声の為に二人しか聞いていないが、なかなかの辛口だ。
「知り合いの様ですが、今は自己紹介の時です。お話は後の休み時間にお願いしますね」
教師の促しで女性も冷静さを取り戻す。
「失礼いたしました。命の恩人に出会えたものでつい」
その言葉にざわっと一瞬空気が変わるがすぐに落ち着く。さすがに上位貴族の集まるクラス。表面上は落ち着いた。
(中身は下衆い者もいるからな。餌を与えてしまったか)
面白おかしく捏造する者もいるだろう。
ファルクはまた面倒な事になりそうだと溜め息をついた。
◇◇◇
留学生は休み時間の度に他の女子生徒に囲まれていて、ファルクの所に来ることはなかった。
森で出会った留学生、オリビア=フィードは何やらファルクとの出会いを皆に楽しそうに話をしている。
英雄視するのは勝手だが、捏造はしないで欲しい。
運命の相手、とか不穏な単語に鳥肌が立つ。
「不思議なものですね。あれだけ話しているのなら、誰かがラズリー嬢の話をしてもいいと思うのですが」
「聞かれないから言わないんじゃない? だってさすがに助けられて感謝しているって話から、婚約者の話にはならないだろうし」
ストレイドの疑問をのほほんとリアムは返している。
「まぁそこで終わるならばいいのですが」
自分から言うのも好かれていると自惚れてるように思えて、なかなか言いづらい。
「そもそも何故俺が注目されるのでしょうか? 第二王子であるリアム様がフリーなのだから、リアム様に言い寄るものがもっと出てきてもいいのに」
ファルクはため息交じりの愚痴を零す。
自分の周囲にいるのが凄い人だから、ファルクは自分が大した男ではないと思っている。
だからこそ日頃から皆のようになれるように頑張らねばと、気を引き締めて生きているのだ。
「リアム様に言い寄るなど、普通の者に出来るはずがありませんよ。王族の一員となる王子妃なんて華やかさよりも苦労が多い。公務もありますし、人前に出る機会も多いです。身分も大事ですから、余程自分に自信がある者しか来れないはずです。だからリアム様は振られたわけですが」
「まだ振られてない、友達なら良いって言われている」
ストレイドの言葉を途中で遮ってまで否定した。
「それは世間では振られたと言うのですよ。体よく断られたというか」
「違う」
あくまで認めないという感じでリアムは耳を塞いで机に顔を突っ伏した。
美貌と優しさが評判のリアムだが、愛しい人には振り向いてもらえてない。
「まぁリアム様は一般の人からしたら手の届かない存在なのですよ。それに比べファルクは成り上がり、手が届きそうなところにいる優良物件と言いますか」
「ストレイド、なかなか失礼だぞ」
ファルクは眉間に皺を寄せる。
「それを言うならお前だって同じようなものではないか」
「僕は結婚に興味はないので。あくまでリアム様を守る為の存在ですから」
澄ました顔で言うストレイドをリアムはジト目で見上げる。
「俺の従姉妹に言い寄られて戦々恐々しているくせに何言ってんだ」
「そちらははっきり断っています。そもそも皇女様と僕が結ばれるなんて、あり得ない」
「彼女がそんなんで諦めるわけないじゃないか。だからお前に言い寄る女性はいないんだよ」
「そうだったんですか?」
衝撃の事実に驚いた。
「そうだよ。その為にフレイアは従姉妹だからと言って、俺と昼食をとる振りしてストレイドに会いに来るんだ。まぁ俺は彼女に会えるからいいんだけれど」
リアムの想い人は彼の従姉妹の侍女だ。
帝国貴族だが身分はそこまで高くないし、何より本人が頷かなくて進展はしない。
(フレイア様もリアム様とサーシェ嬢を推していたが、側に居させてあげるという名目で自分もストレイドの側にいられる為か)
ファルクから見れば、皆良い仲になれそうだと思っている。
だが人間の気持ちとは、立場とは複雑なものだ。色々なものに縛られて心のままに動くことは出来ない。
(リアム様は立場が高すぎるし、ヒノモトの国の姫様との婚約の話も出ている。ストレイドもリアム様の従者だが、貴族の養子で元は孤児だ。なかなか気持ちのままに、とは言えないだろう)
そう考えると好きな人と婚約出来た自分は何と幸せな事か。
(だからこそ離れたくはない)
条件とかそんなものではなく、心から好きな相手と共にいられるのだから、その縁を切りたくはない。
だからこそ平穏な日々が早く来ますようにと願いばかりだ。
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