釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。

文字の大きさ
9 / 21

第9話 それぞれの心内

しおりを挟む
「もう、なんなのあの女は」

 ラズリーがファルクとイチャイチャしている裏でアリーナはイライラした様子でルールーと話し込む。

「他国の人とはいえ、あれだけ敵対心出してくるとは。また潰す?」

 ルールーも物騒な事を言う。

「他国の人だと勝手が違うし、留学となればある程度したら戻るんだろうから、これ以上変な事しなければ見逃してもいいんじゃない? 初犯だし」

「まぁ知らなかったのは仕方ないわね。次はないって事で」

 アリーナもルールーもそこに落ち着いた。

「にしてもファルクってなんでモテるのかしら? 背が高いから? それとも言い寄れば落ちそうとか、軽い男とでも思われてる?」

「それはありそう、そうじゃないと普通寄り付かないわよね。中身はめっちゃ肝が小さいし凄い重いのにね」

 絶妙な言い回しをしながら二人はキャッキャッしながら皆の後をついていく。

 女性は三人ではなくても姦しい。

「あぁでもあんな風に想ってくれる相手がいるのっていいなぁ。何でもしてくれる味方がいるって、心強いわよね。まっ、私にはラズリーとルールーがいるからいいけど」

「あら、そんな事を言っていたら駄目よ。あなたにもファルク程重たい男でなくていいから、良い人が見つかってくれないと。あたしの今の夢はあなた達に最高のドレスを贈る事なんだからね」

 初めて聞くルールーの夢にアリーナは驚いた。

「そんな事を思っていたの? ラズリーを可愛くするならばわかるけれど、私にドレスは似合わないわ」

 ファルク程ではないけれど、アリーナも剣を握るもの、それ故やや女性らしいとは言えない体つきと、そしてこの気の強さ。お見合いで顔合わせはしたことがあるものの、婚約までには至れなかった。

 ルールーも似たようなもので、白い髪と白い肌で神秘的な美しさを湛えているのだが、いかんせん気は強いし口調も強い。

 親しいもの以外は寄せ付けない為に敬遠されている。

「そんな事はないわ。あなたのこの赤い髪が映えるようなドレスをいつか準備してあげるからね」

 ルールーはアリーナの結わえている髪の端に優しく触れる。

「そうね、その時はもっとしっかりと手入れしてあげるわ」

「逆にどうしたらこんなサラサラになるのよ」

 負けじとルールーの下ろしてある髪に触れる。滑らかで指通りがいい。

「そりゃあ努力じゃない? 頭皮のケアしているからね」

 ふっと自慢げに笑うルールーに、アリーナはぷくっと頬を膨らませた。

「そんな暇はないし、そんな事をしても誰も寄ってこないわよ」

「じゃああたしが貰うわよ。アリーナは可愛いもの」

 突然の告白にアリーナが目を見開く。

「冗談。でも今度またラズリーと泊りにいらっしゃい。二人にもあたしがしている頭皮マッサージと、髪のケアを受けてもらうから。そうしたらすぐにサラサラになるわよ」

 冗談か本気かは微妙ではあったが、アリーナはとりあえず頷いた。

(冗談、よね?)

 親友でもわからない事はある、そう感じたアリーナであった。


 ◇◇◇


「何だかおかしな雰囲気になっていたわね、修羅場?」

 リアムの従姉妹のフレイアがクスクスと笑いながら尋ねて来る。

「またファルクに言い寄るような令嬢が来ただけだよ。他国のものとは言え、もう少し情報を調べてから声を掛けて欲しいよね。俺の胃に穴が開きそう」

 リアムは苦笑しお腹を擦る。

「リアム様は平和主義ですものね。あのようないざこざを間近で見るのは、心穏やかではないですよね」

 フレイアの侍女、サーシェが心配そうな顔をする。

「あら、王族たるものもう少し強くならないと。一応第二王子でしょ? 何かあったらあなたが王太子になるんだろうから」

「姉上もいるし、俺に順番は回ってこないよ。それを言うなら君だってノワール様に何かあれば、女帝にならなきゃいけないだろう?」

「あたしはならないわ。向いてないし、夢があるもの。お父様にもお母様にも許可は得ているから」

「あの、寒気がするのですが」

 フレイアに見つめられ、ストレイドは悪寒が走っていた。

「これだけアピールしても全然受け止めてもらえないのよね。まぁいいわ。いつか必ず虜にしてあげるから」

「フレイア様、さすがに皇女様がそのような言葉遣いはちょっと」

 サーシェに窘められるが、フレイアは涼しい顔だ。

「いいのよ。こんな学園のプライベートな会話だもの、別に誰が咎めるわけでもないでしょ」

「私が気にします」

 サーシェは侍女としてだけではなく、身の回りのこと全てにおいてフレイアを支えるように任されている。

 徒に評判を下げる様な事はさせたくない。

「フレイア、あまりサーシェを困らせないようにな」

「そうですよフレイア様。サーシェが困るとリアム様の胃に多大な負担がかかるのですから」

 従兄弟と想い人にそう言われ、フレイアは拗ねて口を尖らす。

「サーシェばっかりすぐに可愛がられる。男性ってやっぱり大人しくて従順そうで胸が大きい子が好きよね」

「そ、そういうわけではないが」

 最初はともかく後半の言葉にリアムは顔を赤くしてしまう。

「フレイア様、胸の大小は関係ないですよ」

「サーシェ、今あたしの胸を見て言ったわよね? どうせ小さいですよーだ」

 ますます不貞腐れるフレイアと慌てるサーシェ、頬を赤くしているリアムと、もはや余計なことは何も言わないと口を閉ざすストレイド。

 何だかんだでこちらも賑やかだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。  ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。  ……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?  やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。  しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。  そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。    自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

処理中です...