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第14話 平行線
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「君も色々と思う所はあるのだろうけど、その態度を見るに反省はしていないようだね」
リアムは困ったように笑った。
「周囲に何を吹き込まれたのか知らないけれど……ファルクの事は諦めてね、オリビア嬢」
リアムがあくまでも優しい声でそう告げる。
「俺の側近は気性が激しいんだ。こうして主人の手を振りほどいてしまうくらいに、一直線な奴でね」
「……すみません」
リアムの言葉やストレイドの鋭い視線に、ファルクはやや罰の悪そうな顔をする。けれどラズリーの側を離れることはしない。
「怒っているわけではないよ、彼女も大事な人だから。こういう輩が出なければ、全然問題ないのだけれど」
ちらりとオリビアに目を移す。
最初の威勢はどこへやら。今のところは静かにリアムの言葉に耳を傾けでいた。
「君は初手を間違えた。他国の令嬢が婚約者のいる令嬢を罵倒し、婚約解消をさせようとするなんて、普通あり得ない。自分の才覚や地位に自信があるようだけれど、残念ながらその魅力は人柄と思想でマイナスだね。少なくともこの国には要らないかな」
「待ってくださいリアム様!」
その言葉にオリビアはさすがに黙ってはいられなかった。
リアムはこの国の王子だ。
王太子ではないにしろ、将来国の重要な立ち位置に収まるだろうとは容易に予想出来る。
そんなリアムに拒否をされたなんて周囲が知れば、誰もオリビアを認めてくれなくなる。
その状態で祖国に戻ってもオリビアの居場所はないだろう。
必死に弁明を叫んだ。
「リアム様、何故その女性を庇うのですか。わたくしの方が薬師として腕前は上ですよ」
「薬師としての腕前、ね。生憎俺は調合とかそう言うのはよくわからない。だからそう言われても困るよ」
「特待クラスに入れた事で証明されているはずです。わたくしの方が優れています」
オリビアはいかに自分が優秀か、この状況で自分を売り込もうとする。
「確かにラズリーは一般クラスだね」
それはどう足掻いても覆せない事実ではある。成績としてはオリビアの方が上だ。
(ラズリーは座学はともかく、体力系がまるで駄目だからな)
全てを万遍なく良い成績を修めるというのは難しいものだ。
ラズリーが申し訳なさそうに肩をすくめたのを見て、そっとファルクは肩に手を置き、ラズリーを包み込む。
大きな手からは温かさが伝わってきて、気持ちが軽くなった。
「それが何よりの証明とは思いますが、他にも森で彼女から頂いた薬も不適切でした」
「オリビア嬢が足に怪我をしたから、ラズリーが自作の薬を渡した件だね」
この辺りはファルクに聞いて知っている、さして問題あるような行動には思えなかったが。
「薬師と名乗るには不十分なものでした。効能は弱く、誰でも手に入れる事の出来る薬草を使用した安物の薬。こんなもの子どもでも作れます」
「ふーん。そうなんだね」
リアムはめんどくささを隠しつつ相槌を打つ。
(初めての人に強い薬を使わない理由なんて、何となくわかるけど)
自分とて医師にお世話になっていて、色々と聞いている。彼らはただ強い薬で治せばいいとは言わない。
(ファルクがまたイライラして来たなぁ)
ラズリーの優しさを踏みにじるような事を言ったから怒っているのだろう。
しかしオリビアは自分を売り込むのに必死で気づいていない。
「そうなんです。そしてわたくしはそれよりももっと効果の高い薬を作れます。絶対に彼女よりも役立つ存在なのです」
(そこでラズリーを下げる必要はないんだけれど)
優位に立ちたいのはわかるが、人を下げて評価を上げようとするのはいかがなものか。
それだけで品性と人間性が疑われる。
(余程でない限り、それは殆どの者には不利なんだよ)
ずば抜けて優れているものではない限り、特別扱いなどされず疎まれ、去る事になるものだ。
リアムはもはや頭痛がしている。
「例えばラズリーと協力しようとは思わないのかい? 同じ薬師なのだから、お互いに知恵を出したり、助言を受けたり」
「? 自分より劣るのだから、協力なんていりませんけど」
最後の慈悲すらも駄目であった、根本的に合わないと確定する。
(こんな考えでどうやって生きてきたのかなぁ。さすがにこれは酷くない?)
表情には出さないけれどリアムは諦めた。後のことは任せよう。
自分が言わずとも我慢の限界を突破したものがいるのだから。
止めても無駄だ。
「……あんたには一生わからないだろうなぁ」
ファルクが怒りを湛えた目でオリビアを見る。
「無駄に強い薬や回復魔法を使えばいいというものではない、人間には備わった自己回復機能があるだろう。それを無視して強い薬を使い続ければ体は弱り、耐性がなくなるとラズリーから聞いている。それらを無視して推奨するあんたの方が余程劣っているな」
昔ラズリーに教えてもらった。
強い薬を使えば早く良くはなるが、副作用も強くなると。
それも人によって違う為に、無闇矢鱈に強い薬を使うものではない。弱い薬で様子を見た方がいい場合もあると。
怪我をしたと言ったオリビアだが、明らかに軽症、寧ろ無傷に近く、その為使用する薬も弱い作用の物としたのだ。
確かに初歩的な薬ではあるが、広く知られていて使用しているものが多いために、万が一の時でも副作用が少ないだろうからとそれにしたのだ。
ラズリーの気遣いであったのだが、オリビアには全く伝わっていなかった。
リアムは困ったように笑った。
「周囲に何を吹き込まれたのか知らないけれど……ファルクの事は諦めてね、オリビア嬢」
リアムがあくまでも優しい声でそう告げる。
「俺の側近は気性が激しいんだ。こうして主人の手を振りほどいてしまうくらいに、一直線な奴でね」
「……すみません」
リアムの言葉やストレイドの鋭い視線に、ファルクはやや罰の悪そうな顔をする。けれどラズリーの側を離れることはしない。
「怒っているわけではないよ、彼女も大事な人だから。こういう輩が出なければ、全然問題ないのだけれど」
ちらりとオリビアに目を移す。
最初の威勢はどこへやら。今のところは静かにリアムの言葉に耳を傾けでいた。
「君は初手を間違えた。他国の令嬢が婚約者のいる令嬢を罵倒し、婚約解消をさせようとするなんて、普通あり得ない。自分の才覚や地位に自信があるようだけれど、残念ながらその魅力は人柄と思想でマイナスだね。少なくともこの国には要らないかな」
「待ってくださいリアム様!」
その言葉にオリビアはさすがに黙ってはいられなかった。
リアムはこの国の王子だ。
王太子ではないにしろ、将来国の重要な立ち位置に収まるだろうとは容易に予想出来る。
そんなリアムに拒否をされたなんて周囲が知れば、誰もオリビアを認めてくれなくなる。
その状態で祖国に戻ってもオリビアの居場所はないだろう。
必死に弁明を叫んだ。
「リアム様、何故その女性を庇うのですか。わたくしの方が薬師として腕前は上ですよ」
「薬師としての腕前、ね。生憎俺は調合とかそう言うのはよくわからない。だからそう言われても困るよ」
「特待クラスに入れた事で証明されているはずです。わたくしの方が優れています」
オリビアはいかに自分が優秀か、この状況で自分を売り込もうとする。
「確かにラズリーは一般クラスだね」
それはどう足掻いても覆せない事実ではある。成績としてはオリビアの方が上だ。
(ラズリーは座学はともかく、体力系がまるで駄目だからな)
全てを万遍なく良い成績を修めるというのは難しいものだ。
ラズリーが申し訳なさそうに肩をすくめたのを見て、そっとファルクは肩に手を置き、ラズリーを包み込む。
大きな手からは温かさが伝わってきて、気持ちが軽くなった。
「それが何よりの証明とは思いますが、他にも森で彼女から頂いた薬も不適切でした」
「オリビア嬢が足に怪我をしたから、ラズリーが自作の薬を渡した件だね」
この辺りはファルクに聞いて知っている、さして問題あるような行動には思えなかったが。
「薬師と名乗るには不十分なものでした。効能は弱く、誰でも手に入れる事の出来る薬草を使用した安物の薬。こんなもの子どもでも作れます」
「ふーん。そうなんだね」
リアムはめんどくささを隠しつつ相槌を打つ。
(初めての人に強い薬を使わない理由なんて、何となくわかるけど)
自分とて医師にお世話になっていて、色々と聞いている。彼らはただ強い薬で治せばいいとは言わない。
(ファルクがまたイライラして来たなぁ)
ラズリーの優しさを踏みにじるような事を言ったから怒っているのだろう。
しかしオリビアは自分を売り込むのに必死で気づいていない。
「そうなんです。そしてわたくしはそれよりももっと効果の高い薬を作れます。絶対に彼女よりも役立つ存在なのです」
(そこでラズリーを下げる必要はないんだけれど)
優位に立ちたいのはわかるが、人を下げて評価を上げようとするのはいかがなものか。
それだけで品性と人間性が疑われる。
(余程でない限り、それは殆どの者には不利なんだよ)
ずば抜けて優れているものではない限り、特別扱いなどされず疎まれ、去る事になるものだ。
リアムはもはや頭痛がしている。
「例えばラズリーと協力しようとは思わないのかい? 同じ薬師なのだから、お互いに知恵を出したり、助言を受けたり」
「? 自分より劣るのだから、協力なんていりませんけど」
最後の慈悲すらも駄目であった、根本的に合わないと確定する。
(こんな考えでどうやって生きてきたのかなぁ。さすがにこれは酷くない?)
表情には出さないけれどリアムは諦めた。後のことは任せよう。
自分が言わずとも我慢の限界を突破したものがいるのだから。
止めても無駄だ。
「……あんたには一生わからないだろうなぁ」
ファルクが怒りを湛えた目でオリビアを見る。
「無駄に強い薬や回復魔法を使えばいいというものではない、人間には備わった自己回復機能があるだろう。それを無視して強い薬を使い続ければ体は弱り、耐性がなくなるとラズリーから聞いている。それらを無視して推奨するあんたの方が余程劣っているな」
昔ラズリーに教えてもらった。
強い薬を使えば早く良くはなるが、副作用も強くなると。
それも人によって違う為に、無闇矢鱈に強い薬を使うものではない。弱い薬で様子を見た方がいい場合もあると。
怪我をしたと言ったオリビアだが、明らかに軽症、寧ろ無傷に近く、その為使用する薬も弱い作用の物としたのだ。
確かに初歩的な薬ではあるが、広く知られていて使用しているものが多いために、万が一の時でも副作用が少ないだろうからとそれにしたのだ。
ラズリーの気遣いであったのだが、オリビアには全く伝わっていなかった。
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