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第3話 転機
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学園生活が始まり、増えるかと思ったエカテリーナとローシュの交流は減っていた。
顔を合わせる事や話すこと自体は増えている。しかし二人きりで話をすることは格段に減ってしまった。
お茶会を二週に一度は開いていたのに、ひと月、ふた月と期間が伸びていく。
それすらも「急用が入った」や「今日は体調が優れなくて」と、短時間で切り上げられた。
出されたお菓子を頬張り、冷めた紅茶に口をつけて、思わず嘆息してしまう。
「なぜこうなったのかしら」
学園に入り一緒に居られる時間は増えたのに、私との時間を作ってくれないローシュ殿下に呆れと嫌悪がにじみ出てしまう。
「殿下はとてもお忙しく、また新生活に体が慣れていないようで……申し訳ございません」
ローシュ殿下に代わって謝るのは護衛の騎士リヴィオだ。
青い髪に黒い目をした彼はローシュ殿下の乳兄弟で幼い頃から一緒にいる。
なので婚約を交わしてからは私と顔を合わせることも多く、こうして会話も少しはしてくれるようになった。
「あなたが謝る事ではないし、ローシュ殿下の代わりの謝罪と思うならば不遜な事よ」
「申し訳ございません、エカテリーナ様」
生真面目な性格だから、私が落胆しているのを見て何も言わずにはいられないのだろう。
「……いいわ、許します」
自分の狭量から来る八つ当たりだってはわかっている。けれど言わずにはいられない。
だって彼はローシュ殿下が自分でプレゼントを選んでない事も知っているし、側近だから早く茶会から帰った彼がどこに行くのかを知っているはずだわ。
私はため息をついた。
学園で知り合った下位貴族たちに持ち上げられているのは知っている。
その交流自体が悪いのではない。
視野を広げることは大事だし、人脈を作ることは大事だけど。
(一番大事な味方を放置は悪手じゃない?)
私は紅茶のお代わりをポエットに頼む。
こうなれば茶会の終了時間まで居座ろう。
今帰っても早過ぎる帰宅に家の者も訝しむだろうし、こんな気持ちで家に帰りたくない。
それならば居座ってポエットとリヴィオを私のもとで引き止めておいて、ローシュ殿下にはあまり慣れていない侍従で我慢させてやろうと思ったのだ。
二人は幼い頃よりローシュ殿下に仕えているので、彼の気持ちを汲むのが上手く、手足のように働いてくれる有能な存在だ。
それが慣れていない侍従とだと、思うようには動いてくれないから彼はプチストレスを抱えるはず。
(これくらい小さい嫌がらせだわ)
幼い頃に婚約を決められた為にポエットもリヴィオも私とは旧知の中だ。
そこまで気安い関係ではないけれど、私は二人を信頼している。
(二人とも真面目で優しいし、うちで雇いたいくらい)
それくらい私は二人の仕事っぷりに惚れ込んでいた。
例え彼らがローシュ殿下の婚約者だから私に優しくしてるんだと頭では理解していても、だ。
「昔に戻れたらなぁ」
ローシュ殿下が大人になったと喜ばしいのにこの置いて行かれたような、見捨てられたような気持ちは何だろう。
今、彼は自分で決め自分で動いている。その自主性は尊重したいのだけど、これではいけない。
私情もあるが、このままでは第二王子としても危うい。
「今度お父様に話をしようと思うの」
ポエットとリヴィオには今日の件、そしてここ最近の彼の行動に思うことがある事を話した。
「あたしからは何も言えません」
ミルクティー色の髪をした小柄な侍女ポエットはそう言って隣のリヴィオを見る。
「俺としましても何も。今のローシュ様はあまりにもエカテリーナ様を、その、軽視してると思うので……」
ぼそぼそと呟くのは不敬の可能性があるからか。
「聞いてくれてありがとう、これで決心もついたわ」
顔を合わせる事や話すこと自体は増えている。しかし二人きりで話をすることは格段に減ってしまった。
お茶会を二週に一度は開いていたのに、ひと月、ふた月と期間が伸びていく。
それすらも「急用が入った」や「今日は体調が優れなくて」と、短時間で切り上げられた。
出されたお菓子を頬張り、冷めた紅茶に口をつけて、思わず嘆息してしまう。
「なぜこうなったのかしら」
学園に入り一緒に居られる時間は増えたのに、私との時間を作ってくれないローシュ殿下に呆れと嫌悪がにじみ出てしまう。
「殿下はとてもお忙しく、また新生活に体が慣れていないようで……申し訳ございません」
ローシュ殿下に代わって謝るのは護衛の騎士リヴィオだ。
青い髪に黒い目をした彼はローシュ殿下の乳兄弟で幼い頃から一緒にいる。
なので婚約を交わしてからは私と顔を合わせることも多く、こうして会話も少しはしてくれるようになった。
「あなたが謝る事ではないし、ローシュ殿下の代わりの謝罪と思うならば不遜な事よ」
「申し訳ございません、エカテリーナ様」
生真面目な性格だから、私が落胆しているのを見て何も言わずにはいられないのだろう。
「……いいわ、許します」
自分の狭量から来る八つ当たりだってはわかっている。けれど言わずにはいられない。
だって彼はローシュ殿下が自分でプレゼントを選んでない事も知っているし、側近だから早く茶会から帰った彼がどこに行くのかを知っているはずだわ。
私はため息をついた。
学園で知り合った下位貴族たちに持ち上げられているのは知っている。
その交流自体が悪いのではない。
視野を広げることは大事だし、人脈を作ることは大事だけど。
(一番大事な味方を放置は悪手じゃない?)
私は紅茶のお代わりをポエットに頼む。
こうなれば茶会の終了時間まで居座ろう。
今帰っても早過ぎる帰宅に家の者も訝しむだろうし、こんな気持ちで家に帰りたくない。
それならば居座ってポエットとリヴィオを私のもとで引き止めておいて、ローシュ殿下にはあまり慣れていない侍従で我慢させてやろうと思ったのだ。
二人は幼い頃よりローシュ殿下に仕えているので、彼の気持ちを汲むのが上手く、手足のように働いてくれる有能な存在だ。
それが慣れていない侍従とだと、思うようには動いてくれないから彼はプチストレスを抱えるはず。
(これくらい小さい嫌がらせだわ)
幼い頃に婚約を決められた為にポエットもリヴィオも私とは旧知の中だ。
そこまで気安い関係ではないけれど、私は二人を信頼している。
(二人とも真面目で優しいし、うちで雇いたいくらい)
それくらい私は二人の仕事っぷりに惚れ込んでいた。
例え彼らがローシュ殿下の婚約者だから私に優しくしてるんだと頭では理解していても、だ。
「昔に戻れたらなぁ」
ローシュ殿下が大人になったと喜ばしいのにこの置いて行かれたような、見捨てられたような気持ちは何だろう。
今、彼は自分で決め自分で動いている。その自主性は尊重したいのだけど、これではいけない。
私情もあるが、このままでは第二王子としても危うい。
「今度お父様に話をしようと思うの」
ポエットとリヴィオには今日の件、そしてここ最近の彼の行動に思うことがある事を話した。
「あたしからは何も言えません」
ミルクティー色の髪をした小柄な侍女ポエットはそう言って隣のリヴィオを見る。
「俺としましても何も。今のローシュ様はあまりにもエカテリーナ様を、その、軽視してると思うので……」
ぼそぼそと呟くのは不敬の可能性があるからか。
「聞いてくれてありがとう、これで決心もついたわ」
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