【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第52話 推測と確信(カルロス視点)

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「リヴィオ。俺は取引だと言ったはずだ。申し訳ないが条件を飲めないのであれば、教える事は出来ない。安心してくれ、エカテリーナ嬢を見捨てる、というわけではないから」

 リヴィオの顔に焦りが生まれている。

(リヴィオを連れて行かなくても解決はするが、これからの為ならば一緒に行ってもらいたいところだ。恐らくもうエカテリーナ嬢が全てを知った頃かもしれないからな)

 それ故にローシュとそしてエカテリーナ嬢の動向を監視し、警戒していたのだが。

(残念ながら弟は取り返しのつかない事をした。報いを受ける時が来たんだ)

 言いつけをまたも破った為に起きた事だ。そうでなければ、もっと……。

(いや、今はそのことではないな)

 あとはエカテリーナ嬢の判断だ。

「どうするリヴィオ。俺はどちらでもいい」

 そうは言いながらも一択しか与えられず、申し訳ない。無理矢理にリヴィオに決断を迫った。

「エカテリーナ様に危害を加えない限りは、あなたの力になりましょう」
 苦々しい顔と声だが、それでもこの騎士の口から出た言葉だ。反古される事はないだろう。

「ありがとうリヴィオ。ただ、自分とエカテリーナ嬢を一番に優先してくれ。俺はその次、くらいにと考えてくれればいいから」

「本当に?」

「あぁ、それでいい」

 俺は頷き、手招きをした。

「では助けに行こう。二人と、そして生きていたらタリフィル子爵家の次男もな」

「次男? タリフィル家とは一体何なんですか? いったい何が目的でこのような事を」

「道中で話す。まずはエカテリーナ嬢の元へ急がねば」

 馬車に乗るように促すと、リヴィオの対面に座る。

 そうして控えさせていた二人の護衛も共に乗り込ませた。

 リヴィオも何回か顔を合わせた事はあるだろうが、名前などは知っていただろうか。

「自己紹介は必要か?」

「いえ、大丈夫です。二人の事は何度か耳にした事がありますから。特にこちらの女性は、モルジフト国との戦いで活躍された魔法使いという事で、有名ですから」

「知っていたなら良かった」

 白髪の魔女エイシャスはリヴィオの隣に座り、俺の隣には黒髪の騎士ヴェイツが座った。

 女性の隣で居心地が悪いのかリヴィオがそわそわしている

「緊張する事ないよ、彼女は既婚者だし、夫一筋だ」

「そういう事ではありませんが」

「危害を加えなければ何もしないよ」

「……」

「さぁリヴィオ、諸々の話をしよう。俺が何故エカテリーナ嬢たちの行先を知っていて、そしてお前の力を欲しがったか。これまで名が上がっているタリフィル子爵家とは、一体どういう者達なのかを全て。まず聞いて欲しいのは、エカテリーナ嬢に関することなのだが……」

 馬車に揺られながら、推測ではあるが、と前置きをして話す。

 推測とはいえ、だいぶ確信に近い事である。間違っているという懸念よりも、合っていた時のリスクの方が重要度が高いため、推測ながらリヴィオに話すのだ。

 リヴィオが味方となってくれたというのは、とても大事な事で、これからの為にも必要である。

 そうならなければ話せなかった事があった。

 俺の話を、リヴィオは気持ちを抑えるように拳を握りながら聞いている。

 俺の言うその内容に驚きと、そして怒りの感情がない交ぜになっているのが目に見えてわかるが、口を挟めたりはして来なかった。

 最後まで話しを聞いてくれたリヴィオは、一言だけ呟く。

「何故エカテリーナ様は、今まで秘密にしていたのでしょうか」

「後は着いたら本人に直接聞けばいいさ」

 推測として話したが、リヴィオから異論が出ないというならば、存外真実に近いのではないだろうか。






「エカテリーナ嬢は恐らく記憶を取り戻している」
 そう言った時のリヴィオの顔は呆気に取られていた。

 考えればわかると思うが、軽々しく怪しい男についていくなんて、普通の令嬢がするわけがない。

(ついていった大きな理由、それは自分が酷い目に合わないと確信しているからだ)

 そうでなければ自ら窮地に飛び込む事などするはずがない。

「ポエットを信頼しているからでは?」

 といったが、そこもおかしい。

 ポエットが護衛も兼ねていると知っていても、ここ最近は戦うような事柄も起きておらず、見た目では普通の侍女だ。

 その割に最初から信頼している素振りであった。
 それを見て、実はかなり前から……果ては最初から記憶を失ってはいないのでは? とまで感じられたのである。

 記憶を失ったにしては、エカテリーナ嬢は堂々とし過ぎていた。
 だが確信まではない。

 その為タリフィル子爵家の者が話しかけている時はすぐに助けに行かず、陰から見守るに留めた。

 普通ならリヴィオを置いて、見知らぬ者の屋敷に行くなんてあり得ない。なのに伝言だけを残し、ついていくなんて。

(エカテリーナ嬢は戦えると考えた方が自然だな)

 だからあんな罠に飛び込んだ。

(リヴィオは真面目だ。一度誓ってくれれば、俺を裏切る事はしない。そしてリヴィオが味方になれば、エカテリーナ嬢も俺の味方をしてくれるはずだ)

 魔女の力はとても強力だ。味方であれば頼もしいが、敵となれば脅威となる。

(彼女は頭がいい。簡単に敵に回るとは思えないが、万が一にでもそんな事になったら……)

 そうならない為にも確約が欲しかった。だから取引という卑怯な言葉を持ち出したのだ。

 リヴィオの価値は剣の腕もなのだが、何よりエカテリーナ嬢が惚れ込んでいるというのが大きい。

(エカテリーナ嬢は、魔女は好きな者の為に何でもする。他者に対しての躊躇いがないからな)

 歴代の魔女についての記録を見ても、そのような傾向が強いというのが確認されている。

 今一緒に居るエイシャスもそうだ。

 リヴィオがこちらに付けば、少なくともエカテリーナ嬢対立する事はない。協力をしたいのも本当だから、偽りとはいえ誓いを受けられてよかったと考える。

 そうでなければ、エカテリーナ嬢に消される可能性があった。

(もしかしたら、リヴィオにずっと記憶喪失の事を、隠しておきたかったかもしれないからな)

 リヴィオの前でのエカテリーナ嬢は、恋する乙女に他ならず、彼に守られるという状況に嬉しそうであった。

 だから勝手に記憶を取りもどしている事を話して、本当は守る必要がないと暴露したら、怒られるのではないかと考えたのだ。

 そうならない為に仮でもいいからリヴィオの主となって、エカテリーナ嬢の攻撃対象から外れる必要があった。

(ブルックリン侯爵家で見たエカテリーナ嬢の様子から、か弱い女性でありたそであった)

 婚約者からの金言が心の中で思い出される。女性は好きな人の前ではとかく可愛くありたいという事を。
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