利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

294 舞姫降臨

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294

〝ヌノビキヒメ〟を決めるための最終審査は、本戦出場者による舞の披露と決まっているそうだ。

ヌノビキ神社の敷地にこの時期だけ設えられる大きな舞台のある会場を使い、本戦出場者10名が一人づつ登場し、踊りの技術と着こなしを見せていくのだ。
演目は自由。踊りのスタイルも特に制限はない。演奏については〝ヌノビキ大社〟の舞楽部が基本的に受け持つが、外部の演奏者や特別な楽器を使っても良いし、両方を併用しても良い。

〝ヌノビキヒメ〟に選ばれれば、奉納舞の踊り手となる。その技量を問われるのも当然ということで、毎年本戦はこの形式で、舞い踊る姿での衣装の美しさとその着こなしが審査されるのだそうだ。

舞楽部による場を清めるための奉納演奏と宮司による払いの儀式が終わるといよいよ最終審査が始まる。
聴衆の興奮も凄まじく、贔屓の舞姫への歓声が常に飛び交い、彼女たちの一挙手一投足に、歓声と溜息が起こる。

舞台に登場した最初の舞姫は、若さを前面に押し出した溌剌とした踊りで観衆を魅了した。その明るく弾けるような俊敏な動きは妖精のようで、身につけている明るい色の着物をとても引き立て、最後は満場の手拍子を受けるほどだった。

次の舞姫は、前者と対照的な優雅でゆっくりとした動作をメインに感情表現豊かな繊細な踊りを見せた。指の先までおろそかにしない素晴らしい表現力で、大きく広がった服の袂の動きまで計算した素晴らしい振り付けを見せつけ、聴衆を感心させていた。

こうして最初の5名の素晴らしい踊りが終わったところで休憩となった。
人々はそこら中で着物と踊り子の批評をしている。ハーラーの人たちはこういう話をしていると本当にイキイキして、飽きることがない。

少し日が傾き始めた頃、後半の最初である6番目の舞姫が登場。彼女は3度の早変わりという技を見せ、その度に踊りと音楽を変えるという凝った演出で、聴衆を大いに沸かせていた。

8番目に登場した舞姫は正統派の伝統的な舞の継承者で、その衣も巫女の舞姿をベースに作られていた。だが、その衣装に施された刺繍の見事さと使われている糸の量は凄まじく、踊るにはあまり向いていないようだった。だが、それを感じさせない、その凛とした舞姿はどこまでも美しく、観衆を魅了した。

どの舞姫の衣装も、彼女たちの個性に合わせた素晴らしいものばかりで、さすがはハーラーの祭りだと、私も素直に感心しながら見入っていた。

(でも、この素晴らしい舞姫たちに勝たなきゃいけないのがツライなぁ。

この日のために頑張ってきたに違いない彼女たちには申し訳ないけれど、ハーラーそして彼女たちの未来にも関わってくることだから、負けるわけにはいかないんだよね……)

そして10番目の踊り子〝セイ〟が登場すると、一気に空気が変わり、その立ち姿に聴衆はどよめいた。

キッチリと結い上げられた光り輝く青色の髪は、控えめながら素晴らしい細工(セーヤ作)の施された銀色のリボンでまとめられて、背中に滝のようにサラサラと流れ落ち、耳には繊細な細工の小さな鳥籠型の耳飾り。籠中には、白い鳥が見える。

首元には、様々な色石と鳥の意匠の入った眩いチョーカー、手首にもたくさんのキラキラと光を反射する美しく細いバングル、足は素足でその足首にも鈴のついたアンクレットを着けている。
彼女が動くたび、足の鈴は美しい音を響かせ、手首のバングルはシャラシャラと涼しげな音を立てる。

極上の美女と化している背の高いセイリュウは、その立ち姿だけで、圧倒的な迫力と場の支配力を持っていた。
ここにいる全て人が、なにひとつ見逃すまいと〝聖なる舞姫〟の動きを凝視している。

衣装は、ごくシンプルに見えるが、その素材は不思議な光沢と輝きのあるもので、当然だが、さすがのランテルの目利き達にも何かは分からない。長い裾がサラサラと地を滑り、舞姫は舞台の中央でその美しいカンバセを聴衆に向けた。

〔頼んだよ、セイリュウ!〕
〔ま・か・せ・て〕

私の念話に一瞬セイリュウが微笑む。

そして、皆が〝セイ〟のこの極上の微笑みアルカイック・スマイルに息を飲んだ刹那、大音響ダイオンジョウが響き渡った。

雅楽部の演奏を背景に、この地の伝統舞踊の音楽が、誰も聞いたことのない竪琴アレンジで、会場を満たしていく。

それに呼応して〝セイ〟の舞が始まる。

それは貧しい娘が、一羽の鳥を助ける〝ヌノビキヒメ〟の物語だった。

ありえない高さを飛び、ありえない速さで緩急をつけながら〝セイ〟が動くたび、鈴が響き、腕のバングルが鳴り、そして幻想的な香りが漂う。

香りは、イヤリングの籠の鳥と、チョーカーから漂うよう、私が細工した。
百合をベースにハーラー近辺でよく冠婚葬祭などに使われるハーブを調合し、幽玄な雰囲気を漂わせるよう調整したハーブボールを今日に合わせて作っておいた。それを〝風の魔石〟に乗せて広い会場中に拡散しているのだ。

演出は効果絶大。この幻想的な香りと音に導かれ、聴衆は〝セイ〟が踊りで紡ぐ物語に引き込まれていった。

そして、その見事な踊りが佳境に差し掛かると、聴衆から少しずつざわめきが広がる。

「あれ、なんだか、あの着物段々光ってきてない?」
「本当だ。辺りが暗くなってきているのに〝セイ〟のいる場所だけが明るくないか?」

不思議そうな多くの視線が注がれる先で最高潮となった音楽が一瞬止んだ。
その一瞬の静寂の中〝セイ〟がひらりと踵を返し聴衆に背を向ける。

その背中には、まばゆい光に包まれた大きな〝神宣鳳〟が今にも飛び立ちそうな躍動感で浮かび上がっていた。

それは、黄金の光を放ち〝セイ〟の踊りに合わせてはばたくようなシルエットを見せながら、舞台を舞った。

これが私の秘策〝雷の魔石〟の微細粉末と〝パーフェクト・バニッシュ〟の応用で作り出した光る布を使った色抜き加工だ。
〝雷の魔石〟の微細粉末を更に細かい粒子にして、染め粉に練り込み布に定着させた後〝神宣鳳〟の図案を最高の絵師に描いてもらい、その図案通りに位置を指定する魔法を使って、精密に色抜きした。

これは、魔法を使った洗濯実験を重ねている中で、獲得した技法。

私は全部を綺麗にするだけでなく、どんな細かな図案でも、指定したところだけの色を抜くことができる。
こんな技法は、この世界にないだろうし、洗濯のための研究に、ここまで魔力を使いまくって実験する人がそもそもいないと思う。

増して、魔法についての理解が浅い沿海州では、何層にも染め重ねられた色抜きなど不可能なはずの布に施された、究極にエッジの立った細密な染め抜きも、大量の魔力を流し込んで発光させる技術も、到底理解不能だろう。

ラーヤさんは、皆新しく発見された魔獣か植物から得られた繊維だと思うのではないか、と言っている。

「きっとものすごい数の問い合わせが来ますよ。困りましたね」

ある程度事情を察しているラーヤさんでも、この布の製法はなかなか諦めきれないほど魅力的なようだ。

(気持ちは分かるけど、沿海州でも、それにおそらく帝都でも再現は無理です。ごめんなさい)

そうやって出来上がった、魔法満載の衣装は、聖獣で魔力十分なセイリュウだからコントロールできる特注品。
まさに〝魔法の衣〟だ。

聴衆のどよめきは凄まじく、手を合わせ舞台上の〝セイ〟を拝み始める人たちも多くいた。
聴衆は〝尊い〟なにかを見ていることを無意識に感じ取り始めているようだった。

やがて物語の終わり〝ヌノビキヒメ〟が〝神座〟へ登っていく最後のシーン。その瞬間、フッと姿を消したのは、私の魔法を使った演出。

舞台にはまだ輝きを留めた衣だけが残された……

一瞬の静寂の後、地響きのような聴衆からの大歓声と拍手は鳴り止まず全く収まる気配を見せなかった。
袖でセーヤが髪を直している間も、全くそれは収まらず、仕方なく〝セイ〟は、コンテストにもかかわらず3度もカーテンコールをさせられた。

舞台が遠くて見えなかった者たちは、なんとかもう一度見せてくれないかと大会関係者に詰め寄り、見た者はいかに凄かったかを語り続け、会場は騒然。

どうやら結果は見るまでもないようだ。

「なんとかなってよかった。さて、でもここからが本番なのよね」

私は、演奏中に怪しまれないための弾くを頼んでいたセーヤから預かった竪琴のミゼルに話しかけた。

〔ええ、メイロードさま。
これまでの修行の成果を見せて下さいませね〕

(……スパルタ教師の合格点が貰える歌が歌えるよう、頑張ろう!)
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